過去の連載

私の語学スタイル

第1回
「最初は“ただ日本人であるだけ”の先生だった」

001

Style1
「自分だけの方言」で話そう!

 では、先生が外国語でコミュニケーションをするにあたって気をつけていることは何なのだろうか。「外国語を話すときに思っているのは、たとえすべての相手に通じなくても“自分だけの方言”を話せばいいということ。例えば私の話す英語を50人中49人がわかってくれればそれでよくて、わからなかったやつは耳が悪いんだと思えばいい(笑)。学生たちにも『自分だけの日本語を話しなさい』と教えています。もちろん今後もその外国語を向上させていく姿勢は必要だけど、一定のレベルまで達したら“自分の英語”“自分の中国語”というのを確立してしまって、自信をつけた方がいいと思う」
 母語であれ外国語であれ、話す言葉は一人ひとり違うのだからそれぞれが自信を持とう、というのが泉原先生のメッセージだ。

Style2
大切なのはことばだけじゃない

 外国の人と交流する上で大切なのは、言葉の面だけではない。「インドを旅行していたときに、初めて実感できたことがあります。それは異文化と接する際、自分の価値観を相手に押し付けてはいけないということです。旅行中お世話になったリクシャ(=人力車)のおじさんの家に招かれたことがあったんだけど、カーストの中でもかなり低い身分の家庭だったのね。そこの一家と食事を楽しんでいる最中、おじさんが一番上の女の子を指して『この子を明日お金持ちの家に売るから、お祝いしてあげてほしい』と言うので、とても驚いて。当の女の子もにこにこしていて『この貧乏な家を出てお金持ちの家で女中ができるのは嬉しい』と言っているので、私は非常に困ってしまった。でも、そのとき初めて自分の考えが変わりました。いくら私自身がカースト制はいけない、と思っていたとしても、この人たちはこれで幸せなんだ、ということがわかったんです。それは自分の価値観からの幸せとは違うかもしれないけど、こういう幸せの形もあるんだ、と思ったのね。人間が生きているということは、私がどう生きているかとは関係ないし、彼らは彼らの生き方で生きているんだから。それをお互いに認めなくちゃいけない。彼らは彼らの社会で納まっているわけだし、私は私で日本人として納まっているわけだからね」
 こういった旅を通じて得られた発見も、先生の大きな財産となっている。

  • 前へ
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 次へ
 

▲ページトップに戻る