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「現存している知識のすべて」

「現存している知識のすべて」

カテゴリ : 
くも本 (面白い絶版書の紹介)
執筆 : 
Tom Gally  投稿日 2009-5-1 14:50
先日、Internet Archiveの「最もダウンロードされているテキスト」のリストを見たら、かなり下のほうに『ブリタニカ大百科事典』(Encyclopaedia Britannica)の11版(1911年)があった。この本の紙版は自宅の本棚にはある。1981年ごろ、シカゴの古本屋で150ドルで買った。1983年の来日の際に持って来られなかったが、10年前、東京から横浜へ引っ越したときに本を置く場所が確保できたので、他の本と一緒にカリフォルニアの倉庫から出して日本に送った。スペースもとるし手に持つと重くて黴臭いが、久しぶりにこの雑学の宝蔵を乱読できるようになって嬉しかった。今度は、その29巻にも及ぶ百科事典をいつも持ち歩いているラップトップに入れたくて、早速、全ファイルをダウンロードした。容量は計1ギガバイトだが、重量はゼロ。DjViewという無料ソフトで快適に読める。

子供のときにも、『ブリタニカ大百科事典』の11版は自宅にあったが、両親の寝室の本棚にしまってあり、私はあまり開かなかった。両親は空き巣を恐れて、数十ドル以上の現金なら財布や引き出しではなく、この百科事典の第1巻に挟んでいた。現金が必要なたびにその巻を取り出したから、第1巻の背表紙のみがぼろぼろになっていた。本好きな空き巣ならそれに気がついて現金を見つけたかも知れないが、幸いに被害に遭わなかった。

20代の半ばで『ブリタニカ』の11版を読み物として考えるようになった切っ掛けは、『ニューヨーカー』1981年3月2日号に Hans Koning というオランダ生まれの作家が書いた "The Eleventh Edition" というエッセーだった。Koning氏は、20世紀を汚す大戦や大虐殺をまだ知らない11版の著者1500人の楽観主義や白人以外の人種への蔑視、そして29巻だけで現存している知識のすべてを各層の読者に提供しようとしていた編者の過信("the high ambition of bringing all extant knowledge within the reach of every class of readers";  第1巻の序文)を鋭く批判した。しかしその一方、extant knowledgeの網羅が不可能といえども、11版の4000万語ではそれに近づいたようにも見えると論じた。特に歴史や伝記、自然科学や工学の記事が充実していると指摘した。現在、『ニューヨーカー』の購読者が雑誌の全バックナンバーを無料で読めるので、私は11版の電子ファイルを全部ダウンロードしてから、Koning氏のエッセーをプリントアウトして翌朝の通勤電車内で28年ぶりに再読した。それで、また時間をかけて『ブリタニカ』の11版を乱読したくなった。

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