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革命の不発

革命の不発

カテゴリ : 
くもの舌 (言葉について気が付いたこと、考えたこと)
執筆 : 
Tom Gally  投稿日 2009-10-26 22:10
この間、Child's First Reader という20世紀初頭の読本を紹介したが、イラストに惹かれるあまり、その特徴を見逃してしまった。

画像で示した見開きのページでは、 oo という文字列の母音を含む単語を示している。

これは確かに、フォニックスという、初心者向けの読み書き教育法を採用した教科書に見える。しかし、このページでは moon, noon, soon などの一般的な単語のほか、soopという存在しないスペルもあった。普通のフォニックスではないのだ。

同じ本の別のところを開いてみたら、一見、不可解なページもあった。

時間がかかったが、やっと読み解けた。次の意味だ。
Tom can spin the top.
Puss may eat some meat.
Two cats on the mat.
Take some nuts to Sam.
Put some meat to cook.
Ma may set the tea.
The cat took the meat.
Take two nuts to Sam.
They saw the sun set.
この本は子ども向けの読本でいながら spelling reform (綴り字改革)のマニフェストでもあったのだ。

最近はあまり論じられていないが、過去には英語のスペルを発音と一致させるさまざまな改革案があった。フランクリンショーの提案は有名だが、その他にも多数があった。

次のように、一部に実際に採用されている小規模な改革案もあれば、

音声学に基づいた「科学的」案もあった。

次の案(左)は英語とは見えないが、右の標準スペルと比較すると読めるようになる。

綴り字改革は、The Problem of Spelling Reform (1906) や English Spelling and Spelling Reform (1909) のような論文や学術書にも取り上げられた。

究極的な改革案は、Alexander Melville Bell の Visible Speech (1867年) だった。これは、英語だけではなくすべての言語を同じ記号体系で示す試みだった。それぞれの記号は、対応する音を発声するときに使う口の部分を反映している。

英語に当てはめると、次のようになる。

She is a leering little charmer. (彼女は色目を使うコケットだ)や The man is a poor, pitiful, drunken wretch. (あの男はみすぼらしい酔っぱらいだ)などの用例が子供向けの教科書に使われていたことからわかるように、これらの改革案は形式に拘りすぎて言葉の意味や社会的な役割を無視していたのだ。

「イギリス史上最大の出来事は19世紀に社会主義革命が起こらなかったことだ」という指摘をどこかで読んだ覚えがある。すなわち、産業革命などによる社会の大幅な変化などで共産主義や無政府主義の運動が活発になったが、イギリスでは結局、王室や憲法が大きく改革されることなく、無事に20世紀を迎えたのである。同時期に、英語の非論理的なスペルに革命を提唱する人が多かったし、20世紀にはロシア語、日本語、中国語などで大小の表記改革が実施されたにも関わらず、英語のスペルには、この数百年間、ほとんど変化がない。綴り字改革の不発は、英語の歴史では最大の出来事かも知れない。

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