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外国語学習の害

外国語学習の害

カテゴリ : 
くもの舌 (言葉について気が付いたこと、考えたこと)
執筆 : 
Tom Gally  投稿日 2010-1-12 20:40
昔の外国語教授法の本を開くたびに、現在まで続いている論争が目に付く。先日は、教室内で使う言語について1812年の見解を紹介したが、今回は小学校における母語と外国語の学習の優先順位について取り上げる。外国語を母語と同時に勉強してもいいのか、それとも母語を習得してからにすべきなのか、という問題だ。

次の引用の出典は、1901年に出版されたL.A. Loweの論文だ。
It has often been uttered as a reproach — Surely children should learn their own language properly before learning another. True, they certainly should learn their own language, but while learning another. (p. 108)
(「子供はちゃんと母語を学んでから外国語の勉強に取り組むべきだ」という批判をよく聞く。母語を学ぶ必要があるのは確かだが、それは外国語を学習しながらすべきだ。)
この意見は、日本の小学校での英語必修化についてもよく聞く。その必修化を指導している文部科学省の外国語専門部会においても反対の意見が認められている。
小学校の段階で英語教育を実施することについては、国語力の育成との関係を懸念する指摘が見られる。例えば、先述の英語教育意識調査によれば、小学校で必修とすることに消極的な回答をした教員や保護者の中で、「正しい日本語を身に付けることがおろそかになると思うから」と回答する者が約4割となっている。
ただし、この外国語専門部会によると、必修化を支持する人の中では、小学校英語が「国語力の向上」にも資すると言う人もいるそうだ。L.A. Loweも1901年にほぼ同じことを書いた。
There can be no greater test of the knowledge of our language than that of a good translation from French, German or Latin into the mother-tongue. It is incomparably harder than an essay, or composition as it is called.
(フランス語、ドイツ語、ラテン語などから母語への翻訳ほど、母語の力を正確に試すものはあるまい。翻訳は、エッセー(作文)の執筆よりも、比較できないほど難しいからだ。)
私は、自分の経験から Lowe の意見に賛成したくなる。15歳ごろ、ロシア語の文法を勉強しはじめたらば、初めて英語の品詞や動詞の活用などを意識するようになった。しかし、私の経験と違って、実際に外国語の勉強で害を蒙った子供がいるかも知れない。ここでは、小学校の英語必修化の良し悪しを論じるのではなく、ただ100年以上経っても同じ論争が繰り返されていることを指摘したい。

今度はまた、昔から決着が見えない論争をいくつか紹介したい。

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