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紙上旅行

紙上旅行

カテゴリ : 
くも本 (面白い絶版書の紹介)
執筆 : 
Tom Gally  投稿日 2010-5-31 21:30

7月末、約4年ぶりに米国へちょっと帰省しようと思っている。4年ぶりの日本国外への旅行にもなる。私のまわりには、一年に何回も外国に行く人が多いので、私の旅行嫌いがエキセントリックに見られるようだ。でも、旅行そのものはそれほど嫌いではない。大嫌いなのは長時間の飛行機搭乗だ。長身の私にとっては、近年ますます間隔が狭くなってきたシートに座りつづけることは拷問に等しいのだ。

それでも、船などでカリフォルニアへ行きたいわけでもない。昔、海洋の航行に少し憧れがあったが、約10年前に、Richard Henry Data, Jr. の旅行記 Two Years Before the Mast (『水夫としての二年間』)でホーン岬回りなどの恐ろしい記述を読んだら、死んでも船で海を渡りたくない気持ちになった。快適な海外旅行しかしたくない。

この間、 Internet Archive で不思議な出版物に出会った。派手な表紙に Chas. W. Poole's New Myriorama and Trips Abroad Illustrated Vocally, Musically & Pictorially と書いているが、 Myriorama という言葉は初耳だったし、最初はどういうものかわからなかった。それで、ページを捲って様々なフォントで綴った文を読んだら、19世紀の終わりごろ、イギリスで興業された見世物のガイドブックだとわかった。ロンドンから出発して、ナイアガラの滝や建設中のパナマ運河を経て、アフリカの奴隷売買やアルプスの雪崩を見てからロンドンに戻るという、絵と歌と解説による「旅」だったようだ。当時の新聞は、次のように書いていた。

The wonderful popularity of Poole's Myriorama has been vividly demonstrated by overflowing audiences, who have been warm in their approbation of the beautiful pictures exhibited to their delighted gaze. The variety entertainment is liberally supplied. Altogether Poole's Myriorama is an artistic, beautiful, and varied entertainment, which combines amusement with instruction, and which, while it delights the eye, improves the artistic faculty, informs the mind, and in some sort places the untravelled on a level with the travelled citizen. It can hardly fail to thoroughly satisfy and please all who visit it.

現在、少しは快適になった海外旅行などしなくても、映画、テレビ、インターネット等で全世界が手のひらに入ったようではあるが、1889年に戻ってロンドン子たちと一緒に Poole's Myriorama を見る方法はない。


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