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母語のど忘れ

母語のど忘れ

カテゴリ : 
くもの舌 (言葉について気が付いたこと、考えたこと)
執筆 : 
Tom Gally  投稿日 2010-11-29 21:10

「あやとりは、アメリカにもありますか」と、先日の朝、山手線の下でオゼキさんに聞かれた。突然の質問だった。オゼキさんは時々突然の質問を発する人である。後になってわかったが、私が到着する前にテンさんとあやとりについて話していたようだ。

 

私が子供のころ、姉たちがよくあやとりをしていた時期があったので、躊躇なく「はい、あります」と答えられたが、どうしてもあやとりの英語名を思い出せなかった。職場まで歩いていた間もずっと考えたが、やはりその言葉が出てこない。

 

職場に着くと、辞書を引く前にウェブで調べてみた。日本語のウィキペディアで「あやとり」を検索して、そこからリンクされている英語ページは “String figure” と題されているが、私にはその名前がピンとこなかった。“A string figure is a design formed by manipulating string on, around, and using one's fingers or sometimes between the fingers of multiple people.” と定義されているので、姉たちの昔の遊びと同じものを指しているが、string figure という名称は知らなかった。やっと KOD で調べたら、 cat's cradle という英訳が出ていた。それは間違いなく、私が子供のときに聞いていた呼び名である。

 

それでも、 string figure は間違いというわけではなく、むしろ cat's cradle より相応しい英語と言えるかも知れない。String Figures: A Study of Cat's-Cradle in Many Lands という「くも本」は1906年に出版されているし、国際あやとり協会が英語で International String Figure Association と呼ばれるように、string figure という名称が昔から定着している。「あや」の一つを指す cat's cradle(「猫の揺りかご」)はむしろ可愛い俗称にすぎないのだ。

 

いずれにしても、くも本たちのページを捲ったら、あやとりの奥深さを知った。さまざまな民族があやとりをやっているようで、文化人類学の研究対象にもなっている。私が string figure という名称を知らなかったのは、単なる無知なのだ。

 

次の日、調べ物の結果をオゼキさんに報告したら、これからは若者の間であやとりが流行ってくれるといいなと、面白いことを言った。オゼキさんは面白いことをよく言う人でもある。私は子供のときにあやとりをやってみたがうまくできなかったし、これからもあやを取らないと思う。ただ、言葉のあやには強い興味を持ち、この間は『英語のあや』と題する本すら世に送ってみた。読者の皆さんも、糸のあやはともかく、『英語のあや』を手に取っていただいたら嬉しく思う。


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