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くも本 (面白い絶版書の紹介)カテゴリのエントリ

ワイルドとBizarre

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くも本 (面白い絶版書の紹介)
執筆 : 
Tom Gally  投稿日 2009-9-9 19:50
遅くなったが、『Web 英語青年』9月号関連のくも本を探してみた。

堀江珠喜氏の「ワイルド改葬百周年」にはワイルドの『サロメ』がフランス語で執筆されたことが書かれているので『サロメ』の仏語版を探すべきだったが、Aubrey Beardsley のイラストが素晴らしいので、ここでは1907年の英語版を紹介する。

Robert Rossのイントロでは
"SALOME" has made the author's name a household word wherever the English language is not spoken.
の not が面白い。

そして渡辺利雄氏の「The New York Times Book Review の100年 ——書評と文学史」は、子どものころから NYTBR を読んできた私には特に興味深い。渡辺氏のエッセーで思い出したのは、この間 Internet Archive で見つけた、19世紀半ばごろフィラデルフィアで出版された Bizarre, For Fireside and Wayside だ。この忘れられた雑誌にも書評が載っていたから思い出したが、Bizarre というタイトルからわかるように、ホラーなど、奇妙な内容もある。例えば、1852年10月22日号に載っている "An Adventure" という短編には、次の一節がある。
I knew it would be better, if possible, to avoid letting my tormentor observe my extreme terror, and endeavoured to govern the movements of my trembling fingers, but the moment I tried to fix my gaze upon the rocks before me, a pair of glowing eyes seemed to glare from between them into mine, while I distinctly heard a low, wild, chuckling laugh, as if the terrible creature were enjoying the horror I vainly endeavored to conceal.
同じセンテンスの中で endeavoured と endeavored の両スペルが使われていて、この号の日付が「OCOBER 22, 1853」となり、その他にも誤植が多く見られることから充分に校正された出版物とは言えないが、当時の米国地方都市の文化を知るためにも読み応えのある雑誌だ。研究テーマを探している米文学者には価値があるかも知れない。

Internet Archive には第1巻第2巻第3巻第4巻第5巻がある。

くもの古書展

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くも本 (面白い絶版書の紹介)
執筆 : 
Tom Gally  投稿日 2009-8-18 18:20
先日、通勤の途中で東京・渋谷のデパートで開かれている「大古本市」に立ち寄った。「くも本」の出現のせいか、数年前から大学の図書館を利用できるようになったからか、私自身は以前より古本を買うことが少なくなったが、この古書展は大繁盛だった。私は一応、一冊ぐらいは買おうと思ったが、レジの前に中年の男たちが長い行列をなしていたから、やめた。たぶん催物の初日だったので、その男たちの多くは一般の読者や古本収集家ではなく、古本で商売をしている業者たちだったようだ。相場より安く貴重な本を見つけて、自分の店またはウェブで転売するつもりだったのだろう。(「男たち」と書いたのは、その長い行列には女性がいなかったからだ。そのような業界なのだ。)

棚やテーブルに並べられたいくつかの辞書が目に入ったが、数年前まで集めていた古い和英辞書は見つからなかった。それでふと思いついて、大学の研究室に着いてから、早速 Internet Archive で日本語の古辞書を探してみた。いろいろあった。

ヘボンの『和英英和語林集成』はいくつかのバージョンが採録されている。下記はその第4版(1888年)。

次を見て愕然とした。ヘボンの辞書のための漢字と熟語の索引、Index of Chinese Characters in Hepburn's Dictionary(1888年)だ。

昨年の5月に、私が紙の『英語青年』で書いたように、現在の和英辞典にはこのような索引はないので、日本語の学習者はたいへん困っている。でも121年も前にすでに存在していたのだ。

仏教の研究家にとっては、Hand-book of Chinese Buddhism, being a Sanskrit-Chinese Dictionary with Vocabularies of Buddhist Terms in Pali, Singhalese, Siamese, Burmese, Tibetan, Mongolian and Japanese(1884年)は今でも役に立つだろう。

John Batchelorの An Ainu-English-Japanese Dictionary(1905年)も興味深い。

Eclectic Chinese-Japanese-English Dictionary(1884年)も。

古本の業者たちには申し訳ないが、ただの「くも本」は素晴らしい。

有名な女性作家たち

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くも本 (面白い絶版書の紹介)
執筆 : 
Tom Gally  投稿日 2009-8-10 19:30
『Web 英語青年』8月号には、鈴江璋子氏の、エリザベス・ギャスケルに関する興味深いエッセーが載っている。私は早速、その関連の「くも本」を探したが、少し難航した。

いつもの Internet Archive で短編「失踪」("Disappearances")を検索したら、そのタイトルでは出てこなかった。ギャスケル著の他の本をいろいろ見たら、ようやくその短編が見つかったが、下記のようにページの一部が欠けていた。



別の版を当たってみたら、やっと読めるバージョンを見つけた。


検索のついでに、次の本も浮かび上がった。左の絵はエリザベス・ギャスケル。



ギャスケルに関する章の末尾に、次のような評価がある。
For purity of tone, earnestness of spirit, depth of pathos, and lightness of touch, Mrs. Gaskell has not left her superior in fiction.
ギャスケルはもちろん載っていないが、1827年の Memoirs of Eminent Female Writers, of All Ages and Countries という本も面白そうだ。落書きなどがあって、いかにも「公立図書館の本」だ。



Internet Archive や Google Books は目録がじゅうぶんではないし、上のように本のスキャンに欠落があることも少なくないが、たいへん貴重な資源である。Internet Archiveのほうは非営利的な団体なので、お金の寄付を受け付けている。私もこの間、少し寄付した。

7月号のくも本

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くも本 (面白い絶版書の紹介)
執筆 : 
Tom Gally  投稿日 2009-7-3 17:20
月が変わり、『Web 英語青年』の最新号が出た。今回のくも本探求は、福原俊平氏の「トマス・ハーディの地層的小説空間」からヒントを得る。

まず、A Pair of Blue Eyes に出てくる Castle Boterel は、1895年版のエッチングで描かれている。



次に、英国に残るローマ帝国の道の「多層性」は Our Roman Highways (1904年) に詳しく説明されている。



ハーディの作品はもちろん、 Internet ArchiveProject Gutenberg などで読める。無料なので、どうぞ満喫してください。



6月号のくも本

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くも本 (面白い絶版書の紹介)
執筆 : 
Tom Gally  投稿日 2009-6-3 17:10
『Web英語青年』の6月号がアップされた。私にとっては、その記事に関連する「くも本」を探してみることが毎月の楽しみになった。

まず、三原芳秋氏の「世俗批評とオカルト宗教」で言及される、William James の The Varieties of Religious Experience: A Study in Human Nature.子供の時、これは親の本棚にあったが、まだ読んだことはない。

阿部公彦氏が解説する、ウィリアム・フォークナーの『アブサロム、アブサロム!』はまだウェブ上で全文が読めないようだが、なぜかフォークナーの Collected Stories があった。何編か、高校の時に読んだ記憶がある。

諏訪部浩一氏の『マルタの鷹』講義を楽しんでいる読者は、1910年の Celebrated Criminal Cases of America は見逃せないのであろう。

最後に、新田啓子氏のエッセーで紹介されている、Edith Wharton と Odgen Codman, Jr. の The Decoration of Houses が見事な形で Internet Archive に保存されている。下記はその扉。



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