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大正時代のアグリゲーター

カテゴリ : 
青年の蔵 (『英語青年』の過去記事)
執筆 : 
Tom Gally  投稿日 2009-4-29 17:40
インターネットで配信されるニュースやブログ記事をまとめて読むためのソフトはアグリゲーター(aggregator)という。私はそのために Google Reader を使うが、他にいろいろある

似たような機能はすでに大正時代の『英語青年』にあった。毎号に、 The Japan ChronicleThe Osaka MainichiThe Japan AdvertiserThe Japan Times など、国内の英字新聞からの記事が転載されていた。例えば、1925年12月15日の『英語青年』には、次のような国内ニュース(「HOME NEWS」)があった。
VOLCANIC OUTBREAK.
NEW CRATER IN A FOREST.
  An eruption suddenly took place at three places in a forest in Kagi-takara-mura, which is [in] the range of Mount Yowogadake, on the 4th instant at 5 a.m., says a Gifu dispatch. Columns of dense smoke were being emitted vehemently from the new craters when the message was dispatched. -- J. C.

FAKE CONCERNS ORDERED TO CLOSE UP SHOP.
  Fifty-four financial firms in Tokyo were ordered by the Metropolitan Police Board yesterday morning to close their doors. The order was the outcome of revelations during the investigation of financial institutions of questionable character in Tokyo, following the discovery of a scandal in the Shokin Trading Company. --The Japan Advertiser

POLICE FIND 137 DOORS UNLOCKED IN OSAKA CITY.
  One hundred and thirty-seven doors were found unlocked in the City of Osaka, when the police conducted a vigilant beat throughout the city in the small hours on November 7 before 5 o'clock.
  During these hours, 17,167 persons were accosted, 1,567 charged, 172 taken to police stations for protection, 177 seized for misdemeanour, and 27 put into custody on suspicion.
  Police visits were made to 120 inns and cafes. --O. M.

火山の噴火は時代の世相を物語るわけではないが、一日にインチキ金融業54社の閉店が命じられ、一夜に17,167人が警察に職質されるなど、現在ではちょっと考えにくい。大正時代は面白かったな。

「恋活・婚活・離活」は英語で?

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くもの上 (読者からの投稿)
執筆 : 
Tom Gally  投稿日 2009-4-27 19:50
読者からの質問:
今流行りの、恋活(こいかつ)・婚活(こんかつ)・離活(りかつ)って英語で何て言えばいいんでしょうね?
KOD に曰く。
こんかつ【婚活】
spouse-[husband-, wife-]hunting (activities).
〜する look for a 「spouse [husband, wife].
彼女は今婚活中らしい. She seems to be 「looking for a husband [on the lookout for a husband, husband-hunting] now.
「活動」の略である「活」を必ずしも英語に訳す必要はないので activities がパレンに入っている。

「恋活」と「離活」は KOD に未収録だが、次のように訳せる。
こいかつ【恋活】
looking for 「love [a lover].

りかつ【離活】
preparing [planning] for a divorce [to get divorced].
それぞれは「恋カツ」「婚カツ」「離カツ」とも表記する。しかし、「豚カツ」は「豚活」としない(フツーは)。

「リアル書店」

カテゴリ : 
ことばの網 (英語と日本語の新語珍語の紹介)
執筆 : 
Tom Gally  投稿日 2009-4-25 15:10
先日、ある出版社の編集者からのメールで「リアル書店」という言葉を初めて見た。これは「(空想の世界の書店に対して)現実に存在している書店」ではなく、「(オンライン書店に対して)実店舗の書店」だ。

「リアル書店」は「固定電話」と同様に、以前から存在している物事を指すために新しく造られた言葉だ。このような言葉をレトロニム(retronym)という。昔はすべてのギターがアコースティックだったので、エレキ・ギターの出現で初めて「アコースティック・ギター」というレトロニムが生まれた、などのように。

英語では「リアル書店」の意味で a real bookstore と言わなくもないが、 a brick-and-mortar bookstore (煉瓦とモルタルで作られた書店)や a physical bookstore のほうが広く使われているようだ。

路上にて

カテゴリ : 
くもの脚(著者が散歩などで発見したこと)
執筆 : 
Tom Gally  投稿日 2009-4-23 9:30
私は今年3月、『英語青年』最後の紙版で次のことを書いた。昨年12月、東京のある駅の前で見かけた中年女性についての話だ。
彼女は、慌ただしい人混みの中、歩道橋下の柱の前に静かに立っていて、汚れた広告板を手に持って『私の志集』と題された詩集を1冊300円で売っていた。彼女を見てびっくりしたのは、東京でも路上で詩集を売る人が珍しいからではない。四半世紀前に、私がその駅を使って日本語学校に通っていた時に、同じ女性が同じ広告板を持って同じ落ち着いた顔つきで詩集を売っていたからである。そのとき、彼女の詩集を何回も買おうと思ったが、勇気はなかった。しかし、歳を取るメリットの一つは、知らない人に話しかけようとすると怖じ気づく気持ちが減ることである。今回は躊躇なく彼女の『志集』を買った。謄写版のような簡易印刷で刷られ、手作業によりホッチキスで止めたようなその小冊子は、もう第40号に達している。その晩は帰りの電車で、また次の日以降は大学の研究室で何回も詩集を読み返して、詩人のことを思い返した。この25年間、その駅の周辺は再開発と再々開発ですっかり様子が変わったが、彼女がそこで自分の言葉を都会人に提供しつづけていることは感慨無量である。
昨夜、久しぶりにその駅前を通りかかると、この女性は同じ場所に立っていた。「第41号は?」と訊いたら、彼女は「6月以降に出る」と答えた。私は代わりに、まだ持っていなかったバックナンバー1冊を購入した。6月以降、また詩人を探してみる。

(上記引用文が活字になってから、彼女の詩集の題名は『私の志集』ではないことに気が付いた。副題は「志集」だが、題名は各号違う。『英語青年』紙面上では不可能になったので、こちらで訂正する。)

分綴について

カテゴリ : 
くもの舌 (言葉について気が付いたこと、考えたこと)
執筆 : 
Tom Gally  投稿日 2009-4-21 15:00
「分綴」(ぶんてつ)は、『広辞苑』と『大辞林』のそれぞれの最新版に新しく追加された言葉だ。『デジタル大辞泉』にはあるが、『日本国語大辞典』のオンライン版には載っていない。

『大辞林』は次のように定義する。
欧文で,単語のつづりの途中で改行する際,つづりを行末で分けること。また,その分け方。ハイフネーション。
(「ハイフネーション」は『広辞苑』にあるが『大辞林』にはない。『広辞苑』でも、2008年の第6版から立項された。)

「分綴」は新しい言葉ではなかろうから、最近までは辞書編集などの専門的すぎる用語と見なされたか、単に見落とされたのだろう。

先日から英文の分綴法について久しぶりに考えている。理由は、知り合いから syllable(音節)の定義を聞かれたからだ。 sudden のような単語はふつう、/sudn/ のように、 /d/ と /n/ の間に母音がないので、この単語には一つの syllable しかないのではないかという質問だった。いろいろ調べたら、音韻学者の間でも syllable の定義について意見が必ずしも一致しないと分かった。私は音韻学者ではないので、勝手に次の定義を作ってみた。
A syllable is a segment of a spoken word that a native speaker of a language perceives as representing one rhythmic beat.
rhythmic beat とは、cat に一つ、happy に二つ、computer に三つ付けるような「拍子」のこと。 sudden の発音には一つの母音しかないが、英語のネイティブなら必ず二拍子を付けると思う。母語話者の直観に頼る定義は母語話者以外の人にとっては役に立たないが、私はもっと適切な定義を思い付かない。

syllable の区切りで改行することが英文の分綴法の基本だが、英語の綴りが複雑なのと同様に、その分綴法もかなり複雑だ。詳細はここで割愛するが、興味のある読者は次の「くも本」をご覧下さい。
The Practice of Typography (1910)
Dictionary of Typography and Its Accessory Arts (1875)
Proofreading and Punctuation (1907)
figurine(小立像)という単語を行末で分ける必要があったら、一部の辞書では figu-rine または fig-urine と分綴してもいいと書いてあるが、 g と u の間で分綴すると、urine が文頭になってしまうから必ず figu-rine で分けるようにと、大学院生のときに読んだ本に書いてあったと覚えている。その後、校正しているゲラで figurine が行末で分けられているケースをずっと探してきたが、まだこのルールを適用する機会には恵まれない。現在、言葉を分綴しないウェブのために書くことも多くなって、一生そのチャンスに巡り会わないかも知れない。

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