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インド英語に関する記事などでは prepone という動詞がよく取り上げられる。国際的に使用される英語には postpone(延期する)という言葉が昔からあるが、その反対の意味、すなわち「早める」を表すために  prepone がインドで造語されたということである。

先日、大学のスタッフと話していたときに、彼は They have preponed the conference from November to October. と言った。11月に予定されていた国際会議が10月に変更された、という意味だ。南アジア以外では使用されないが、初めて会話で聞くとなかなか便利な言葉だと思った。

次の日、私の帰国スケジュールに関するメールを同じ人に出すことになった。以前、私が乗るゴアからムンバイのフライトが16:40から15:00に変更されたとその人から聞いていたので、メールでは You mentioned that my flight from Goa to Mumbai has been preponed to 15:00 ... と書いた。

私はインド英語の発音がまだ全然できないが、とりあえず、一つの単語を習得した。

 インド滞在期間の折り返し地点を過ぎた。ゴア州南部のマルガオ市とその周辺にしか行っていないが、そこの状況に少し慣れてきた。インド人との会話では私の聞き取り理解度が少し上がった。すなわち、私が「エッ?」と聞き返す頻度が少し減った、と考えたい。

 
自分の英語の発音とイントネーションは相変わらずアメリカ英語のままだが、語彙では一応、相手に合わせるようにしている。例えば、大学のスタッフと話すときに「寮」のことを dormitory ではなく hostel と言い、「大学院」のことを graduate school ではなく postgraduate と言う。
 
ホテルのスタッフに何かを頼むときに、「Would it be possible to get some 何々」や「I was wondering if you could bring me some 何々」など、英語として丁寧な表現だがここでは理解されない表現をやめている。その代わりに、簡潔でわかりやすい「I need some 何々, please」などを使うことにしている。
 
コミュニケーションはもちろん言葉だけではない。身振り手振りも重要だ。私は最初、多くの外国人も珍しく感じるインド人のジェスチャーを誤解した。それは、頭を数回、両側に傾ける動きだ。大学のスタッフ、レストランのウェーター、キオスクの従業員などが私と話すときによく使う。この動きは
のように、日本やアメリカで「いいえ」を意味するジェスチャーではなく
のような動きだ。「いいえ」のジェスチャーに似ているので、最初は否定的な意味だと思った。しかし、数十回見てから逆に好意的な意味だろうと思うようになった。インターネットで検索したら Indian head bobble などの名称で説明が見つかった。例えば、英語ウィキペディアの不完全な記事には、特にインドの南部では「はい」などの意味を伝えるために使われると書いてある。
 
私の喋り言葉が理解されないことが多いが、私が無意識的に使うジェスチャーも通じていないようだ。例えば、日本では「Excuse me」や「Thanks」の意味で少し頭を下げることが多いが、ここでは相手にはその意味が通じていないようだ。また、東京や横浜の繁華街で客引きにアプローチされるときに、顔の前で手を振って断りの意思を伝えるが、そのジェスチャーはマルガオの市場やホテル前のバス停で出会う乞食たちに通じていないようだ。
 
二週間後に日本に帰るが、もし何ヶ月、または何年間もここで住むようになったらどちらが先に抜けてしまうだろう。私のアメリカ英語的な発音とイントネーション? それとも私の日本的なジェスチャー?
 

 インド・ゴア州マルガオ市に来てから約2週間となった。平日はC大学で過ごし、授業、ワークショップ、会議などに参加している。(明日、秋に日本へホームステイに行く学生たちにお箸の使い方を教えることにもなった。思いがけない依頼だったが、喜んで引き受けた。)用事が入っていないときに、学生支援課内のライティング・センターで机に向かって、パソコンで仕事をしている。

 
学生支援課には8人のスタッフが常勤している。男女半々で、各人の宗教はヒンズー教、イスラム教、カトリック教、プロテスタント教といろいろ違うようだ。授業の課題について相談するために学生たちがライティング・センターによく来るので、日中、活気に溢れている場所だ。私は周りの会話に耳を傾けることが好きだ。その会話の特徴の一つは、英語からコンカニ語へ、またコンカニ語から英語へ絶えずシフトしていることだ。C大学は English-medium college, すなわち教育を英語で行う大学だが、教職員と学生たちのほとんどは地元出身なので、皆コンカニ語もできる。オフィスでは英語とコンカニ語の割合は半々ぐらいらしいが、食堂や大学のバスで学生同士の会話を聞くと、8割以上がコンカニ語のようだ。
 
親しくなった学生支援課のスタッフたちに両言語の使い分けについて尋ねてみた。答えは意外ではなかった。コンカニ語は子供のころから親や友達と話すために使ってきた言語なので、感情や気持ちを表したいときに使いやすく、話の内容が仕事や時事問題などに変わると英語のほうが便利だ、ということだった。
 
日本のインターナショナル・スクールなどに通っている若者たちの「インター語」や「ちゃんぽん」と呼ばれる混合会話はこのオフィスでは耳にしていないが、私はインド人の英語発音を聞き取れないことがまだ多いので、コンカニ語の会話に英単語が混ざっていても気が付かなかったろうと思う。
 
先週、大学で翻訳に関するワークショップに参加した。対象者は翻訳業というキャリアを検討している大学生たちだった。講演者には、私や初老のポルトガル語翻訳者のほかに、もう一人、インド最大の翻訳会社の社長が名を連ねた。彼は様々な面白いエピソードを紹介したが、私に特に印象深かったコメントは We Indians don't have a mother tongue like French people or Japanese people do. だった。すなわち、多くのインド人は子供のときから複数の言語を日常的に使うが、いずれも不完全なところが残る。例えば、ゴア人はコンカニ語を友人とのおしゃべりや市場での買い物に使えるが、内容が硬くなると語彙が足りなくなる。また、英語なら読み書きがよくできるが、会話は片言しかできない。ゴアには、ヒンディー語を理解できるが日常的に使う必要がないという人も多いようだ。
 
この社長のコメントに他のインド人が同意するかどうかわからないが、私がこの短い滞在で探求しようとしている「インド英語」への鍵の一つになるのではないかと思う。
 

インドの英字新聞を読み始めると意味がわからない記事が少なくない。例えば、8月9日の The Times of India(ゴア版)には次のようなセンテンスがあった。

Margao: Pulling up eight panchayats in Salcete for failing to hold a gram sabha meeting in violation of the Goa Panchaya Raj Act 1994, Salcete the block development officer, Uday Prabhudesai, issued notices to the panchayats on Wednesday and ordered them to hold a gram sabha on Sunday (August 12).

私に主に分からなかったのは panchayat と gram sabha だ。両方とも中心的な単語なので、文全体の意味がわからなかった。そして、文脈からは Salcete は地名、Goa Panchayat Raj Act 1994 は法律名、Uday Prabhudesai は人名、そして pull up は「批判する」を意味する動詞と推測できたが、Salceteはどういうところか、Goa Panchayat Raj Act 1994 はどういう法律か分からなかったので、文全体の意味がますます不明になってしまった。

でも、少し調べてみたら、それぞれの表現の意味が判明する。KODで panchayat を検索すると「村の自治組織として選挙されたおよそ 5 人からなる会議体」(リーダーズ英和)だそうだ。gram sabha をウェブで検索すると Gram Sabha means a body consisting of persons whose names are for the time being entered as electors in the electoral roll for a Panchayat と定義が見つかる。すなわち、「panchayat のために登録されている選挙人で構成される評議会」のようだ。

同様に、Salcete は、私が滞在しているマルガオ市が所属する taluka(自治体)だ。Goa Panchayat Raj Act 1994 の全文は数百ページに及ぶが、最初の部分だけを読むと、二層の自治体体制を作るために制定された法律だとわかる。また、 pull up はイギリス口語で確かに「批判する」を意味することを複数の辞書で確認できた。

このようにして、「Pulling up eight panchayats in Salcete ...」というセンテンスの意味をやっと理解できた。すなわち、「Salceteという自治体の開発担当官は、1994年の法律で義務付けられている評議会を開いていない村会に、評議会を開くように命じた」という意味だ。

この記事には panchayat や gram sabha のような「インド英語」もあるが、最初に意味がわからなかったのは、むしろ「インド知識」が私に不足しているからだ。

なお、pull up の意味について自信がなかったのは、私にはイギリス英語に関する知識も不足しているからである。

追伸:上の記事の「Salcete the block development officer」は「the Salcete block development officer」の間違いのようだ。この the の位置のズレは、インド英語ではなく、新聞の編集ミスだと思う。
 

インドの新聞記事ですぐ目に付くインド英語は lakh とcrore だ。例えば、今朝、私のホテル部屋に届いた The Times of India には次の用例があった。

The state’s requirement [for milk] is 4.5 lakh litres per day while the state is producing only 36,000 litres per day.

After a delay of well over three months, the Sharad Pawar-led NCP on Monday sacked minister of state for transport Gulabrao Deokar from the ministry for his alleged involvement in the ₹32 crore Jalgaon housing scam. [「₹」はルピーの略字]

研究社Online Dictionaryでもアクセスできる Oxford Advanced Learner’s Dictionary には、それぞれが次のように定義されている。

lakh /læk/
noun (IndE) a hundred thousand

crore /krɔː(r)/
noun (IndE) ten million; one hundred lakhs

ということで、4.5 lakh litres は「45万リトル」で、 ₹32 crore は「3.2億ルピー」の意味。

lakh と crore はまだ会話で聞いていない(と思う)が、ごく普通の言葉のようだ。


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