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第7回 接尾辞 -ish の歴史的展開

1 接尾辞 -ish の意外な実力

連載の第7回では,普段あまり注目されることのない小さな接尾辞 -ish に焦点を当てます.接尾辞は語より小さい単位であり,文字通り目立たない存在ではありますが,何らかの意味をもっているという点で,語に勝るとも劣らぬ重要な言語的機能を有しています.とりわけ -ish は歴史的に著しい発展を遂げてきた接尾辞の代表格であり,その実力のほどを今回の記事で読者の方々に紹介したいと思います.

現代英語の接尾辞といえば,-ic, -ize, -ly, -ment, -ness など,いくつか主要なものが思い浮かぶのではないかと思います.このうち -ly については,拙著の3.5節「なぜ -ly を付けると副詞になるのか?」で取り上げました.-ly は,典型的に形容詞から副詞を作る接尾辞とみなされていますが,拙著では歴史的な観点から次のように解説しました.-ly は本来,名詞から形容詞を作る接尾辞だったのですが,中英語期にかけて生じた小さな音変化の結果,副詞を作る接尾辞として再解釈されるに至り,近現代にかけて生産性を著しく高めてきたのだと.つまり,-ly は歴史の過程で一種の転身を遂げ,それによって自らの存在感をアピールしてきたと言えます.

-ish も同様に,目立たない接尾辞の1つとしてキャリアを開始しましたが,歴史の過程で転身を遂げ,接尾辞界でメジャー入りを果たすことになりました.今回はその歴史をひもといていきますが,その前に現代英語における -ish の実力のほどを確認しておきたいと思います.接尾辞界のメジャー入りと聞いても理解しにくいかもしれませんが,ある調査によれば,数ある英語の接尾辞のなかで,-ish の生産性は堂々のランキング1位なのです.正確にいえば,-ish には,名詞に付加して対応する形容詞を作る用法 (ex. childish, boyish, hellish) と,形容詞に付加して「ちょっと〜」「〜ぽい」ほどの意味を添えた別の形容詞を作る用法 (ex. reddish, smallish, longish) の2種類がありますが,前者がランキングで1位,後者が4位という結果です(ちなみに,2位は -ness,3位は -ian です).

これまで接尾辞の「生産性」という用語を説明なしで用いてきましたが,これは厳密に言語学的に定義するのが難しい用語です.当面は,なるべく多くの基体(childish でいえば child に相当する部分)に付加しうる潜在的可能性と理解しておいてください.この観点からすると,-ish は,基体の種類をそれほど選り好みせず,とにかく何にでも付加できてしまうという点で,ライバルたちよりも優れているということになります.例えば,「ダイオウイカっぽい」という意味の giant squid-ish は,私の思いつきの造語ですが,それが辞書に記載されているかどうかとは無関係に,英語話者には理解されますし,自然な英語とも認識されるでしょう.この語が誤った単語ではなく臨時的な造語だと解釈されるということは,接尾辞 -ish の生産性の高さゆえなのです.

最近では,基体は名詞や形容詞に限らず,それ以外の語類に付加する howish, offish, uppish や,句に付加する how-d’ye-doish, out-of-the-wayish, jolly-good-fellowish など,自由奔放な -ish 語が作られており,ついには ish が単独で用いられる例も現われました.例えば,I’ve finished preparing the food. Ish. I just need to make the sauce. のような例文に見られる独立用法の ish は,前文の内容をぼかしたり断定を避けるために用いられています.これは,日本語で文末に加えて断言口調をやわらげる「…みたいな.」や「…なんてね.」などと類似した語用論的役割を担っているものと考えられます.-ish は,もはや接尾辞の範疇をはみだすほどまでに成長したのです.

2 第1の展開

前節で見た -ish の生産性の高さや独立用法は,歴史の過程で育まれてきた特徴です.-ish もキャリアの開始時点では,とりわけ目立つこともない1つの接尾辞にすぎませんでした.-ish の語源を探ると,究極的には印欧祖語に遡ります.ゲルマン祖語の段階では *-iskaz という形態が再建されており,ここから英語の -ish (古英語では -isc の綴字で)やドイツ語・オランダ語の -isch などが生じました.

これらのゲルマン諸語では,当該の接尾辞は,文献で確認できる最初の段階から形容詞を作る機能を有していましたが,付加できる基体の種類は限られていました.例えば英語では,民族名や国名を表わす名詞に付加して,その形容詞形(あるいは対応する言語名)を作るという例がほとんどでした.Danish, Finnish, Polish, Turkish のほか,英語と関連の深いところでは British, English, Irish, Scottish もすべてこのタイプです.English は,アングル族を表わす Angle に -ish が付いたものですが,後に第1母音が変化して,English となりました.同様に形態がやや変化していますが,French (< France + -ish) や Welsh (< Wales + -ish) も同じタイプであり,予想以上に多くの語がこのタイプに属していることがわかると思います.ここでは,本来的に -ish が民族形容詞を作る専用の接尾辞だったという点が重要です.

-ish は,当初は民族という固有の人間集団を表わす名詞に付加されるのみでしたが,やがて民族ならずともある種の特徴を備えた人間を表わす名詞であれば,同様に付加されるようになりました.その結果が,foolish, childish, churlish, mannish, womanish, carlish, shrewish, sluttish の類いです.基体の選り好みが少し緩くなり「民族といわず人間であれば OK」となったわけです.

次に,-ish は人間にすらこだわらず動物を表わす名詞へも触手を伸ばしました.12世紀以降,sheepish, swinish, goosish, lambish, coltish, rammish, doggish, wolvish などが生まれました.ある種の性格をもった人間を動物に喩えるということは,どの言語にも見られますので,人間から動物への展開は理解しやすいと思います.同様に,想像上の生き物を含めた「人間・動物らしきもの」に拡大していったことも,驚くべきことではないでしょう.ここから,devilish, fiendish, elfish, dwarfish, nymphish, ghostish, haggish, oafish などが生じました.それぞれ「〜の性質をもった,〜のような,〜らしい」ほどの意味を担っています.

さあ,基体の縛りが本格的に緩和し出しました.ここまでで -ish の基体は生き物(らしきもの)全般に広がってきましたが,次は生き物ではない「モノ」にまで範囲が拡大されます.その結果,snowish, ironish, smokish, clubbish, lumpish, brainish, gravelish, waterish などが出現しました.ここに至って,-ish は高度に汎用的な形容詞接尾辞という地位を獲得したといってよいでしょう.

第1の展開

3 第2の展開

以上の展開により,-ish は基体の名詞を選り好みしない,汎用的な形容詞接尾辞となるに至りました.版図拡大も飽和状態に達したかのように思われますが,この後 -ish はある道を通じて,もう1つの沃野を見出すことになるのです.それは,名詞と形容詞を兼用する色彩語という道でした.green, blue, red などの色彩語は,それぞれ「緑色(の)」「青色(の)」「赤色(の)」のように名詞としても形容詞としても機能します.名詞としての green に「〜の性質をもった」ほどを意味する -ish を付加して greenish とすると,「緑色がかった,緑色ぽい」という意味が生じてきます.ある色彩語でこの過程が可能となれば,他の色彩語に伝播していくのは時間の問題でしょう.こうして bluish, reddish, whitish, blackish, brownish, greyish, purplish などが次々と生み出されました.

色彩語への -ish 付加は,表面上,色彩語の形容詞に -ish が付加したようにも見えるため,これを取っ掛かりにして「形容詞+ -ish」への道が切り開かれることになりました.時期としては14世紀以降のことです.基体となる形容詞に「ちょっと〜」「〜ぽい」ほどの意味を添える,接尾辞 -ish の第2の用法が発展したのです.こうして smallish, fattish, sourish, dullish, fullish, coyish, bravish, thickish などが続々と誕生しました.これらの例から感じられるかもしれませんが,-ish は基体の形容詞の表わす性質の程度を弱めたり,その断定を避けるという機能を有します.例えば,smallish の表わす意味を別の方法で表現しようとすれば,somewhat small や slightly small ほどが適切かと思われますが,これらの表現は,2語を費やしていることから生じる説明的な性質をもっており,1語で完結する smallish のもっている直截簡明な性質とは少々ずれがあります.いずれも意味的には確かに弱めやぼかしが含まれていますが,形式的にいえば smallish には somewhat small にはないきっぱりとしたキレの良さが感じられるのです.-ish 語には,1音節の接尾辞を加えることによる「軽さ」,そしてそれゆえの「口語性」という特徴が備わっているように思われます.

次に,形容詞を基体とする -ish 語のなかでも,latish や earlyish といった時間に関する表現が,時間および数という新領域へ進出する突破口となりました.「〜くらい」「〜辺り」ほどの意味をもって,duskish, winterish, summerish, Mondayish, fortyish, midsummerish, Septemberish, ninetyish などが生み出されました.現在では,辞書に見出し語として登録されていなくとも,Let’s meet at eleven-ish tomorrow. のように,あらゆる数詞に -ish を付加することができます.

一方,基体の品詞の縛りもさらに緩和され,名詞や形容詞でなくとも,ある程度自由に -ish が付加されるようになりました.近現代では複合語や句などを基体とする -ish 語が,その場限りの臨時語として用いられる事例が増えてきています.all-over-ish, at-homeish, devil-may-care-ish, Mark Twainish, out-of-townish, silly-little-me-late-again-ish など,なんでもありという状況です.

最後のステップとして,すでに触れた ish の単独用法が発達しました.文末に付加して文の主張を弱めるという,語用論的な機能を帯びた用法です.あたかも述べ終わった文全体が基体として振る舞い,そこに -ish が添えられて,文意が「軽く」なるかのようです.会話の応答に用いられれば,Are you nervous? に対して Ish. のようにも使われます.語より小さい単位としてキャリアを開始した -ish が,ついに単独の語(副詞)として,しかも談話をつかさどるキーワードとして独り立ちすることになったわけです.このステップは,-ish の第3の展開と呼んでもよいかもしれません.

第2の展開

4 歴史的展開の整理

以上の -ish 語のとる基体の歴史的展開をまとめると,以下のようになります.

-ish 語のとる基体の歴史的展開

隣り合う段階の各々に,両者を橋渡しする何らかの「つなぎの原理」があることがわかると思います.-ish が付加される基体の種類の拡大は,決してランダムではなく,各つなぎポイントを経由しつつ進行していったのです.

以上は,OED による筆者の調査結果に基づいていますが,ここで OED における -ish 語を初出世紀ごとにまとめたグラフを掲載しておきます.基体の品詞によって色分けしているので,展開の傾向もわかるでしょう.

OED における -ish 語を初出世紀ごとにまとめたグラフ

5 軽蔑のニュアンスと基体の選り好み

前節まで,-ish の歴史的展開を,基体の種類を選り好みしなくなってきた過程として描いてきました.このとらえ方は歴史的におおむね正しいと言えますが,もう少し詳しく事例を調べると,実はある種の選り好みがあったことも判明します.また,childish や sheepish など多くの -ish 語にうっすらと感じられる「軽蔑」のニュアンスの発達についても,上で触れてきませんでした.本節では,これらの観点から,-ish の歴史的展開について補足していきます.

前掲のグラフによると,14世紀に -ish 語が本格的に増加し始め,16世紀に大爆発したという全体的な潮流をつかむことができます.14世紀の増加は,基体に形容詞が加わったことによる生産性の向上を示唆しています.一方,16世紀からの大爆発の原因を特定することは容易ではありません.ただ,英語語彙史の観点からいえば,16世紀は英国ルネサンスの潮流にあって,-ish 語のみならず語彙全体が大爆発した時代でもあったことを指摘しておきます.また,先立つ後期中英語期までに,人間でも生き物でもなく「モノ」を表わす名詞に付加できるようになっていたことが,近代英語期の -ish 語の飛躍的な増加に,部分的に貢献している可能性はあります.

もう1つ,16世紀の大爆発の謎について,「軽蔑」のニュアンスの発達という観点から迫ることもできるかもしれません.つまり,中英語期の間に徐々に発達してきた -ish の軽蔑的な含意が,16世紀の英語語彙大爆発の圧力のもとで,一気に開花したのではないか,という考え方です.

古英語の -ish には,現在多くの -ish 語に感じられるような軽蔑のニュアンスは含まれていませんでした.確かに churlish, heathenish などの語は古英語より存在しており,そこに軽蔑的な意味合いが含まれていた可能性はあります.しかし,それは基体の churl や heathen 自体に否定的な意味合いが込められているために,-ish を付加した語にも否定的な響きが乗り移ったと考えるべきであり,-ish という接尾辞自体が軽蔑の意味を内包していたと解釈することはできません.例えば「異教の」を意味する heathenish という形容詞についていえば,キリスト教徒の書き手がこれを用いれば,たいてい軽蔑の意味がこめられていると見なしてよさそうですが,他の -ish 語も同様に軽蔑の含意をもっていたはずであると自動的に考えてよい根拠にはなりません.

別の例を挙げれば,sheepish や childish は現在では「気の弱い」や「幼稚な」という軽蔑の含意を伴っていますが,初期中英語でこの語が現われる文脈では,特に否定的な含意を読み取ることはできません.つまり,古英語や初期中英語の段階では,これらの -ish 語の軽蔑の含意は,たとえあったとしても,文脈から表出するにすぎず,単語それ自体に備わっているとか,ましてや -ish という接尾辞に備わっていると考えることはできません.

ところが,中英語期が進んでくると,最初は文脈上たまたま軽蔑の含意を伴っていたにすぎない -ish 語が,否定的な文脈で繰り返し使われるうちに,語の意味の一部として軽蔑のニュアンスを取り込むということが起こってきました.そのような -ish 語の使用が増え,さらにそのような含意をもつ新たな -ish 語が作られていくにしたがって,やがて -ish という接尾辞自体に軽蔑のニュアンスが宿っているかのように考えられるに至ったのではないでしょうか.

人間には他者を評価する性質があります.そして,しばしば否定的に評価する性癖があります.軽蔑という評価が小さな接尾辞によって簡便に表現できる道が開けたとき,初期近代英語期の語彙大爆発の潮流とあいまって,新しい -ish 語が次々と生み出されたと考えられるかもしれません.各単語にいかに軽蔑のニュアンスが含まれていたかを読み解くには,一つひとつの文脈を精査しなければならないことは言うまでもありませんが,OED の定義や例文から軽蔑的な含意が読み取れるか否かで単語を数えてみると,16世紀以降の各世紀において加わった新たな -ish 語のうち過半数がそのような含意を伴っていることがわかりました.これは15世紀以前にはほとんど見られなかった傾向です.

「軽蔑」の含意と関連して,先に -ish のもつ特徴として「軽さ」や「口語性」という性格に言及しました.この3つの性格が互いに支え合っているだろうことは想像に難くありません.ここにもう2つの性格を付け加えたいと思います.まず,-ish 語の基体を語源によって分類すると,特にラテン語やフランス語などのロマンス系の基体が飛躍的に増加する16世紀より前の時代には,ほとんどの基体が英語本来語だったという事実があります.もう1つは,これと密接に関連していますが,古英語期から現代英語期に至るまで,基体が1音節(したがって形成された -ish 語は2音節)であるものが常に過半数を占めてきたという事実です.英語本来語の基体はたいてい1音節語ですし,ロマンス系の借用語においても -ish の接続する基体は1音節語が多かったことになります.基体がしばしば本来語で1音節語だったという事実は,「軽さ」や「口語性」という特徴にも結びついてくるでしょうし,「軽蔑」のキレの良さとも関連があるように思われます.

6 おわりに

-ish は基体をそれほど選り好みしない,最高の生産性を誇る接尾辞であると論じることは間違いではありません.しかし,「軽さ」「口語性」「軽蔑」という特徴をもった接尾辞として,その特徴に合致するように基体を選んできたという側面もあるように思われます.それでも,簡便に軽さや軽蔑のニュアンスを含ませたいという欲求が常に話者のあいだに存在するからこそ,-ish は主に口語において,今を時めく接尾辞として活躍しているのだと解釈できそうです.時代のニーズに答えられる接尾辞として重宝されている,ということでしょう.

今回の記事では,-ish のような小さな接尾辞にも,興味深い歴史があるということがわかってもらえたかと思います.今後も -ish がどんな新たな展開を見せてくれるのか,見守っていきたいと思います.

この接尾辞の歴史的発達の詳細については,拙論 Hotta, Ryuichi. “The Suffix -ish and Its Derogatory Connotation: An OED Based Historical Study.” Journal of the Faculty of Letters: Language, Literature and Culture 108 (2011): 107-32. をご参照ください.


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