研究社
研究社 会社案内 採用情報 サイトマップ 書店様向け 教育現場向け

研究社 WEB マガジン Lingua リンガ


読んで味わう ドイツ語文法

10

ドイツ語文の語順

Hier stehe ich. ここに私は立つ。
ーァ  シューエ 

1. 女優マレーネ・ディートリヒ

 皆さんは戦前のドイツ映画『嘆きの天使(Der blaue Engel)』(1930)をご存じでしょうか。主演女優はマレーネ・ディートリヒ(Marlene Dietrich: 1901-1992)。ハスキーな歌声と脚線美で人気を博しました。アメリカに渡り、ハリウッド映画の『モロッコ』(1930)でゲーリー・クーパーと共演もしています。ナチス時代には、反ナチスの立場を明確にし、ドイツからの亡命者を支援したり、戦争が始まってからは連合軍兵士の慰問活動に参加したりしています。そのため、戦後ドイツでは彼女のことをよく思わない人も多く、「裏切り者」と呼ぶ人もいました。


アウシュビッツ収容所 入り口
▲マレーネ・ディートリヒ(『嘆きの天使』より)

 しかし、彼女の芯の通った生き方に共鳴する人のほうが多かったのです。例えば、60年代、ドイツでのあるコンサートで、彼女は卵を投げつけられました。投げつけた男は、他の観客からこてんぱんにされ、劇場の職員が彼を救ってやらざるを得なかったほどでした。1992年にパリで死去した後、彼女はベルリンにある母親の墓のとなりに葬られました。その墓碑銘の最初の1行が冒頭の文です。

 正式には、

Hier steh[e] ich / an den Marken / meiner Tage.
ーァ シューエ      ヒ       ン ン   ァケン             イナー     ーゲ
ここに私は / わが日々の / 印のもとに立つ。

アウシュビッツ収容所 入り口
▲ディートリヒの墓碑銘 *1
(steheの末尾のeは省略されている)

となります。動詞は,文法的には stehe となるはずですが、墓碑銘には、変化語尾を落とした steh と書かれていますね。これは彼女が引用したもとの詩でもそうなっています。リズムを整えるためです。「印(Marken)」は直訳で、いい訳ではないのですが、自分が過ごした人生(meiner Tageは「私の日々の」という意味)で成し遂げた業績は、人々にも気づいてもらえる「印」となり、そしてそのもとに自分は「立っている」というような意味です。

 普通、お墓に入れば、そこで「眠る(schlafen [シューフェン])」とか、「横になっている(liegen [ーゲン])」はずです。つまり、「私」を主語にするのであれば、

Hier schlafe ich. ここで私は眠っている。
ーァ シューフェ 
Hier liege ich. ここで私は横になって(眠って)いる。
ーァ ーゲ    

と表現するところです。ですので、ディートリヒの「立っている」という表現からは、彼女の強烈な自意識が読みとれます。

2. 英語とドイツ語の語順を比較すると…

 ここまで読んで、「あれ、語順が変だぞ」と感じた方もいるのではないでしょうか。普通に「私はここに立つ」と言うのであれば、

Ich stehe hier.
ヒ シューエ ーァ

です。この語順は英語とも同じで違和感はないはずです。

 英語では、文を作るとき、<主語+動詞(SV)>という構成が基本です。例えば、「ここに私は立つ」という文ならば、

I stand here.

あるいは、

Here, I stand.

となるでしょう。<主語+動詞>という順序は基本的に崩れません。

 これと違ってドイツ語では、文において<動詞は2番目(Ⅱ)の位置>というのが大原則なのです。別の例で見てみましょう。「私は今日(heute)5時まで(bis 5 Uhr)授業がある(Unterricht haben)」という文です。不定句では、動詞の不定形が最後に位置するので、

heute bis 5 Uhr Unterricht haben
イテ     ス フュンフ ーァ ンターリヒト ーベン

となります。これをもとに、主語で始まる文を作ると、以下のようになります。主語が動詞のかたちを「定める」文では、定動詞(「不定形」に対し、主語に合わせて語形が変化した動詞を「定動詞」と言います)は2番目の位置(Ⅱ)に来ます。

I II
Ich habe heute bis 5 Uhr Unterricht.
ーベ イテ     ス フュンフ ーァ ンターリヒト

 さて、次からが注意していただきたい点です。ドイツ語の、<動詞は2番目(Ⅱ)の位置>という原則のもとでは、次のような文も可能なのです。

I II
Heute habe ich bis 5 Uhr Unterricht.
Bis 5 Uhr habe ich heute Unterricht.
Unterricht habe ich heute bis 5 Uhr.

 いかがでしょうか。英語の<主語+動詞+目的語(SVO)>構文であれば、目的語にあたるUnterricht「授業(を)」が文頭に来ることは考えられませんね。しかし、ドイツ語では、<動詞は2番目(Ⅱ)の位置>をキープしさえすれば、他の語順は自由で構わないのです。

 そして1番目(Ⅰ)の位置は、話題を提示する部分です。日本語で言えば、「~といえば」というニュアンスでしょうか。ですので、文頭には、その文の話題となるような語、たいていの場合には、「だれが?」にフォーカスを当てるので、主語が来ることが多いです。

3. 語順に関しての他の注意点

 他に注意していただきたい点は、2つあります。

 第1に、上述の例では、最後の文を除いて、Unterrichtという単語が最後に来ています。これは、ドイツ語では動詞とつながる重要な要素は最後に来るからです。不定句ではUnterricht haben(授業がある)と、動詞と重要な要素とが熟語的に密接に繋がっています。しかし、これが文になると、動詞habenが前に移動するので、Unterrichtは文の後ろに残ってしまうのです。このために、英語であれば、<SVO>の後に追加される副詞的な要素(heute「今日」やbis 5 Uhr「5時まで」)が、目的語よりも先に位置することになります。

 他の例を挙げましょう。「4月から(seit April)熱心に(fleißig)ドイツ語を学ぶ(Deutsch lernen)」は、ドイツ語の不定句だと、

seit April fleißig Deutsch lernen
イト アプル フイスィヒ イチュ        レァネン

となります。ごらんのように、lernen「学ぶ」という動詞にとってもっとも重要な情報といえる Deutsch「ドイツ語(を)」が動詞のすぐ前にあって、両者が密接につながっていますね。これが、主語などが決まって動詞のかたちが定まると、次のようになります。

I II
Ich lerne seit April fleißig Deutsch.
レァ イト  アプル  フイスィヒ イチュ

 動詞が2番目(Ⅱ)に移動しても、他の要素の順番はそのままなので、Deutsch が最後に取り残されたようになります。このような理由から、ドイツ語では、文の最後に重要な情報が来ることが多いのです。ですので、日本語と同じで、しっかり最後まで読む・聞くことが大切ですね。

 第2に、英語であれば、副詞などが文頭に来れば、コンマで区切りますが(例: Today, I have classes ...)、ドイツ語ではコンマは入れません。

4. 疑問文では…

 ここまでは、平叙文における語順のルールでした。それでは、<動詞は2番目(Ⅱ)の位置>という原則は、疑問文ではどうなるのでしょうか。

 「はい、いいえ」で答える疑問文は、1番目(Ⅰ)の位置を空けて、動詞から文を始めると考えます。ですので、

I II
Steht Marlene Dietrich dort?
シュート マァーネ      ディートリヒ ァト
マレーネ・ディートリヒはそこに立っていますか?
Haben Sie heute Unterricht?
ーベン ズィー イテ ンターリヒト
あなたは今日授業はありますか?

となります。

 また、「いつ?」「どこ?」などの疑問文では、1番目(Ⅰ)の位置に疑問詞を置いて、後は順番通りです。

I II
Wo steht Marlene Dietrich?
ヴォ シュート マァーネ     ディートリヒ
どこにマレーネ・ディートリヒは立っていますか?
Wann haben Sie bis 5 Uhr Unterricht?
ヴァ ーベン ズィス  フュンフ  ーァ  ンターリヒト
あなたはいつ5時まで授業があるのですか?

5. Sieでの命令文

 続いて、命令文での語順です。Sie に対して、「〜しなさい」、「~してください」と言う場合には、「はい、いいえ」で答える疑問文とかたちのうえでは同じになります。1番目の位置(Ⅰ)を空けて、ただし文末のイントネーションを下げて発音します。

I II
Stehen Sie dort!
シューエン ズィァト
そこに立ちなさい!

 実際には、「お願い」という意味の bitte[テ]を入れて、例えば次のように言います。

I II
Stehen Sie bitte dort!
シューエン ズィテ    ァト

 なお、du「君は」と ihr「君たちは」に対する命令文は、ちょっと複雑なので、別の機会にお話しします。


まとめ

 動詞は2番目の位置に来る、という大原則をしっかり身につけましょう。

I II
平叙文 Ich stehe hier. 私はここに立つ。
Hier stehe ich. ここに私は立つ。
疑問文1 Stehen Sie hier? ここに立ちますか?
疑問文2 Wo stehen Sie? どこに立ちますか?
命令文 Stehen Sie hier! ここに立ちなさい!



ドイツ文化ひとこと

 ディートリヒの墓碑銘には、出典があります。詩人テオドーア・ケルナー(Theodor Körner: 1791-1813)が、対ナポレオン戦争に義勇兵として参加し、1813年6月のある戦闘で頭に重傷を負って死に瀕した際に、いわば辞世の詩として書いたソネット「生からの別れ(Abschied vom Leben)」の第1節にある言葉です(没後出版された詩集『竪琴と剣(Leyer und Schwerdt)』(1814)に収録)。詩は、次のように始まります。

Die Wunde brennt, — die bleichen Lippen beben. —
Ich fühl's an meines Herzens matterm Schlage,
Hier steh ich an den Marken meiner Tage. —
Gott, wie du willst, dir hab' ich mich ergeben. —
傷は燃えるように痛み — 青ざめた唇は震える
心臓の弱々しくなる鼓動に私はそれ(=死)を悟る
ここに私はわが日々の印のもとに立つ
神よ、汝が望むように! 私は汝に身を委ねた。

アウシュビッツ収容所 入り口
▲テオドーア・ケルナー

 この詩のなかでは、ケルナーにとって自由と愛が大切であったことが歌われます。なお、ケルナーは、この負傷をなんとか生き延びたものの、同年8月の戦闘で若い命を散らします。

 自由と独立、そして愛という価値は、反ナチスの姿勢を崩さず、女優としての生涯を貫いたマレーネ・ディートリヒにとっても、かけがえのないものだったはずです。ケルナーに共感し、かつ「立つ」力強さを選んで、ディートリヒは詩人の言葉を墓碑銘にしたのではないでしょうか。



*1 By User Rlbberlin at the English language Wikipedia [GFDL or CC-BY-SA-3.0], via Wikimedia Commons

第9課
第11課


矢羽々 崇(やはば・たかし) ■ 執筆者プロフィール

1962年岩手県盛岡市生まれ。ミュンヘン大学マギスター(修士)、上智大学博士(文学)取得。獨協大学外国語学部ドイツ語学科教授。専門は近現代ドイツ文学(主に叙情詩)。著書は、『「歓喜に寄せて」の物語――シラーの詩とベートーヴェンの「第九」』(2007年)ほか多数。2000~2002年度および2007年度に「ラジオドイツ語講座」講師、2008~2010年度「テレビでドイツ語」講師を担当。






▲ページトップに戻る

複写について プライバシーポリシー お問い合わせ

Copyright(C)Kenkyusha Co., Ltd. All Rights Reserved.