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読んで味わう ドイツ語文法

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「てにをは」のような格と冠詞の変化(1)

Kennst du das Land ...? 君はあの国を知っている?
ンスト      ドゥー  ス ント


ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ
▲ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ

1. ゲーテの詩「ミニョン」

 ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe: 1749~1832)の小説『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』(1796)には、ミニョンという名の謎めいた少女が登場し、要所要所で歌を歌います。そのひとつが、冒頭の文で始まります。

 正確には、„Kennst du das Land, wo die Zitronen blüh[e]n?“「君はレモンの花が咲くその国を知っている?」で、森鷗外の「君よ知るや南の国…」という訳でご存じの方も多いでしょうか。

ミニョン
▲ミニョン(アリ・シェフェール画)

 この文において、das Land は「その/あの国を」という意味で使われています。kennen「知っている」という動詞の直接目的語となっているわけです。ただし、「直接目的語」というのは英語での言い方で、ドイツ語ではこれを Akkusativ[クザティーフ]と呼びます。言語学では「対格」と言いますが、日本のドイツ語教育では、「4格」と呼ぶのが一般的です。

2. 「格」という考え方

 「格」とは、文のなかで名詞や代名詞がどのような働きをしているのかを示すものだとお考えください。日本語では、「てにをは」が名詞や代名詞の後ろについて、主語や目的語を作ります。まったく同じではないのですが、こうした日本語の助詞に相当するのが、格という考え方です。

 皆さんは英語を勉強した際に、主格・所有格・目的格という3つの格を教わったと思います。でも、大昔(中世初期まで)の英語には、4つの格がありました。英語が中世後期に格の考えを単純化したのに対して、英語と兄弟言語であるドイツ語は、そのまま4つの格を維持しています。

 その4つは、次のとおりです。

1格(Nominativ[ミナティーフ])
 日本語の「~は、が」にほぼ相当し、主語などになる「主格」
▶ 第4課で紹介した名詞は、ほぼ全てこの1格でした。

2格(Genitiv[ニティーフ])
 「~の」にほぼ相当し、主に所有を表す「属格」
▶ 英語のmyのような「所有格」は、ドイツ語では格とは考えず、mein「私の」などは冠詞として扱います。

3格(Dativ[ーティフ])
 「~に」にほぼ相当する、いわゆる「間接目的語」の「与格」

4格(Akkusativ[クザティーフ])
 「~を」にほぼ相当する、いわゆる「直接目的語」の「対格」
▶ ミニョンの歌の das Land がそうです。

 格は基本的に、定冠詞などの冠詞類の変化によって表されますが、場合によっては名詞の語尾変化で示されることもあります。これは逆に言えば、定冠詞や不定冠詞などのかたちから、それが何格なのか、文のなかでどういう働きを担っているのかが読みとれるということです。

 本課では、1格(Nominativ)と、「対格」と呼ばれるくらい1格の「対(ペア)」だと言える4格(Akkusativ)のことをお話しして、次の課で3格(Dativ)と2格(Genitiv)に触れます。(なお、「対格」は一般的には「対象となる格」の意味です。)

3. 「1格(Nominativ)」は主語になる

 1格は、主に文の主語となる格です。冒頭のミニョンの歌では、「その/あの国」がどこかは明確に言われていません。でも、それがイタリアであることは、続く「レモンの花咲く」という言葉で分かりますね。つまり、

Das Land heißt Italien. その国はイタリアという名である。
ス    ント   イスト イーリエン

なのです。この das Land が1格で、文の主語を担っています。heißen[イセン]という動詞は「~という名である」という意味です。

4. 1格は、sein動詞などの述語になる

 もうひとつ、1格の重要な働きは、sein[イン]「である」、werden[ヴェァデン]「なる」、bleiben[ブイベン]「あり続ける、とどまる」などの動詞の述語、英語でいう SVC 構文の補語(C)になることです。

 第4課で、

Wir sind das Volk.
Wir sind ein Volk.
私たちが(主権者たる)国民だ。
私たちはひとつの国の民だ。
ヴィーァ ズィント ス フォルク
ヴィーァ ズィント イン フォルク

という文をご紹介しました。主語は wir「私たちは」です。述語の das Volk と ein Volk がともに1格なのです。

 注意してほしいのは、werden の場合です。日本語にすると「〜になる」と「に」があるので、慣れていないと3格(Dativ)と結びつくと勘違いしてしまうことがあります。でも、日本語に引っ張られずに、「werden 動詞は、1格と結びつく」と覚えてください。例えば、「私は先生になる」であれば、

Ich werde Lehrer.
ヒ  ヴェァデ   ーラー

となるのです。職業や国籍を言う場合には、冠詞をつけないのでしたね。

5. 4格(Akkusativ)は、だいたい「~を」

 冒頭の文は、中性名詞の das Land が4格目的語となった場合でした。4格は、だいたい日本語の「~を」に対応します。では、他の性の名詞ではどう変化するのかもチェックしてみましょう。

Der Mann heißt Goethe. Kennen Sie den Mann?
ァ   ン       イスト  ーテ           ネン          ズィー ン 
その男性はゲーテという名です。その男性を知っていますか?
Das Kind heißt Mignon. Kennen Sie das Kind?
ス   ント  イスト  ニョン        ネン           ズィー ス ント
その子はミニョンという名です。その子を知っていますか?
Die Frau heißt von Stein. Kennen Sie die Frau?
ディ フオ  イスト フォン シュイン ネン        ズィー ディ フ
その女性はフォン・シュタインという名です。その女性を知っていますか?

 男性名詞の場合のみ、1格と4格で冠詞が異なっていますが、他の中性・女性名詞では同じかたちですね。さらに、未習ですが複数形の場合でも、1格と4格のかたちは同じです(複数では性の区別はなし)。覚えやすいですね。

 最後の例文に出ているフォン・シュタイン夫人は、1775年にヴァイマルに来たゲーテが、長きにわたって熱い思いを寄せた女性です。例えばゲーテの『イタリア紀行』(滞在: 1786〜1788、成立: 1813〜1817)は、彼がフォン・シュタイン夫人に宛てた手紙などをもとにしています。

フォン・シュタイン夫人
▲フォン・シュタイン夫人

 ゲーテはヴァイマルに招かれてから、公国のためにさまざまな仕事をこなしていきます。しかし一方で、人間関係で苦労することも多く、詩作にあてる時間を削らざるを得なかったと言います。実際、ヴァイマルで暮らしていた約10年間には、例えば「魔王(Erlkönig[ァル・ーニヒ])」などの小品は書かれていても、大作は書かれていません。そうした生活のなか、ゲーテは突然、主人であるカール・アウグスト公にも知らせずに、イタリアへと旅立ったのでした。

 彼は『イタリア紀行』のモットーとして、ラテン語の "Et in Arcadia ego"「私もまたアルカディアに行ってきた」を掲げています。なお、このラテン語は動詞がなく、完全な文ではないので、さまざまな読みができます。例えば、フランスの画家ニコラ・プサン(1594〜1665)は、この題名の絵画を描いていますが、その絵においては「アルカディアにも私(死神)はいる」という意味に解釈されています。これに対して、ゲーテの場合には、イタリアをアルカディア(楽園)と捉えてこのモットーを引用したのでしょう。ミニョンの歌うイタリアも、人の心を引きつける憧れの国として描かれています。

ニコラ・プサン Et in Arcadia ego
▲ニコラ・プサン "Et in Arcadia ego"(1638-40)

6. 1格と4格の変化表

 さて、1格と4格の変化を表にまとめると、次のようになります。未習事項の複数も、参考のために出しておきます。

1格(Nom.)
 男 
 中 
 女 
 複 
男の人
子ども
女の人
子どもたち
定冠詞
der Mann
das Kind
die Frau
die Kinder
(その/あの/この)
ント
ディ
ディ ンダー
不定冠詞
ein Mann
ein Kind
eine Frau
(ある/ひとつの)
イン
イン ント
イネ フ
人称代名詞
er
es
sie
sie
ズィ
ズィ

4格(Akk.)
 男 
 中 
 女 
 複 
男の人
子ども
女の人
子どもたち
定冠詞
den Mann
das Kind
die Frau
die Kinder
(その/あの/この)
ント
ディ
ディ ンダー
不定冠詞
einen Mann
ein Kind
eine Frau
(ある/ひとつの)
イネン
イン ント
イネ フ
人称代名詞
ihn
es
sie
sie
ーン
ズィ
ズィ

7. 「~を」=4格ではないことも…

 4格は日本語の「~を」に対応すると言いましたが、注意していただきたいのは、例外もあるということです。例えば、fragen という動詞は、日本語の「~尋ねる」にあたるので、4格とは結びつかないように思えますが、実際は、

Ich frage den Mann da. あそこにいる男性に尋ねよう。
ヒ  フーゲ  ン   ン       

というように、4格と結びつきます。ちなみに、ドイツ語では、4格と結びつく動詞のことを「他動詞」と言います。

 逆の例もあります。日本語では「~助ける」と言いますが、ドイツ語では、例えば、

Ich helfe dem Kind. 私はその子を助けます。
ヒ  ルフェ  ム    ント

と、次の課で紹介する3格(Dativ)(ここでは中性3格の „dem Kind“)が helfen という動詞と結びつくのです。「~に手助けする」と考えればいいですね。

 このように、ドイツ語の格と日本語の「てにをは」は、完全には対応していません。とはいえ、安心していただきたいのは、こうした例外はそれほど多くはないということです。それでも、辞書で動詞を引くときは、必ず何格と一緒に使うのかを確認するようにしてください。

8. 他にも…

 他にも4格は、 4格と結びつく前置詞と一緒に使われたり、場合によっては副詞的に使われたりと、さまざまな使い方があります。それぞれ、相応しい機会に説明する予定です。


まとめ

 ドイツ語には、日本語の「てにをは」にあたるような4つの格がある。

 1格と4格は、男性名詞以外は同じかたち。男性4格は、冠詞の語尾が-(e)nとなるのが特徴的。




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矢羽々 崇(やはば・たかし) ■ 執筆者プロフィール

1962年岩手県盛岡市生まれ。ミュンヘン大学マギスター(修士)、上智大学博士(文学)取得。獨協大学外国語学部ドイツ語学科教授。専門は近現代ドイツ文学(主に叙情詩)。著書は、『「歓喜に寄せて」の物語――シラーの詩とベートーヴェンの「第九」』(2007年)ほか多数。2000~2002年度および2007年度に「ラジオドイツ語講座」講師、2008~2010年度「テレビでドイツ語」講師を担当。






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