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読んで味わう ドイツ語文法

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「てにをは」のような格と冠詞の変化(2)

Die Musik ist die beste Gottesgabe – und dem Satan sehr verhasst.
ディ ムズィーク  スト  ディ ステ     テス・ーベ 
ント ム      ーターン ーア   フェァスト
音楽は最高の神からの贈り物だ。そして悪魔にとってはとても憎らしいものだ。


マルティン・ルター
▲マルティン・ルター

 冒頭の文は、宗教改革の代表者マルティン・ルター(Martin Luther: 1483〜1546)の言葉です。宗教改革は、1517年10月31日、カトリック教会が発行した贖宥状(それを買えば罪が許されるとされた証書)を問題視したルターが、ヴィッテンベルクの教会の扉に「95ヵ条の論題」を掲示したことで始まったとされています。つまり、来年2017年は、宗教改革500周年なのです。

 ヴィッテンベルクでは、「ルターの10年」と銘打って、すでに2008年からさまざまな催しを開催しています(英語版もあり)。

「95ヵ条の論題」が掲示されたヴィッテンベルクの教会
▲「95ヵ条の論題」が掲示されたヴィッテンベルクの教会 *1

 彼の宗教改革運動のなかでは、特に聖書のドイツ語訳が重要だと言えます。というのも、この聖書翻訳を通してルターが作り出したドイツ語が、近代ドイツ語の土台を作ったからです。その意味でも、ルターは、私たちドイツ語を学ぶ者にとっても大きな存在なのです。

 私が教えている獨協大学では、毎年夏に約4週間、このヴィッテンベルクでドイツ語を学ぶ講習が開催され、約20名の学生が参加します。そして人口約4万5千人の街で、ホームステイをしながら、ルターや宗教改革の激動とは無関係に、のんびり落ち着いてドイツ語を学んでいきます。今の学生は恵まれているなあ、と思います。

 さて、冒頭の文の後半部に注目してください。dem Satan「悪魔に(とって)」という言葉があります。これが3格です。まずは3格一般について説明して、その後でこの dem Satan(1格は der Satan と男性名詞)の使い方について触れます。

1. 3格(Dativ)は「〜に」に相当

 動詞との結びつきでいえば、英語の間接目的語(I give a student the book.)が、ドイツ語の3格だと考えればいいかと思います。同じ文をドイツ語で言えば、

Ich gebe einem Schüler das Buch.
ヒ  ーベ   イネム    シューラー    ス   ーフ
私はある生徒にその本を与えます。

となります。einem Schüler「ある生徒に」が3格です。では、3格の変化を見てみましょう。

3格(Dat.)
 男 
 中 
 女 
 複 
男の人
子ども
女の人
子どもたち
定冠詞
dem Mann
dem Kind
der Frau
den Kindern
(その/あの/この)
ント
ァ フ
ンダーン
不定冠詞
einem Mann
einem Kind
einer Frau
(ある/ひとつの)
イネム
イネム
イナー
人称代名詞
ihm
ihm
ihr
ihnen
ーム
ーム
ーア
ーネン

 3格(そして次の2格でも)で特徴的なのは、それぞれの性で語尾変化に一定の型があることです。男性と中性では -(e)m 語尾、女性では -(e)r 語尾です。複数では、名詞そのものにも語尾変化がありますね。これについては、第14課で説明します。

2. 「利害」を表す3格など

 3格の大きな働きとしては、与える、奪うといった動詞の対象となる人物を示すことが挙げられます。そうした意味で3格は、「利害」を表す役割を担うと言えそうです。そこから発展して、「〜にとって」というニュアンスでも使われます。これが、冒頭の文の dem Satan「悪魔にとって」という3格なのです。

 キリスト教と縁の薄い私にとっては、ルターの功績は、聖書のドイツ語訳で近現代ドイツ語の基礎を作ったことの他に、宗教における音楽を重要視して、讃美歌を書いたことでしょうか。そのなかには、後にヨハン・ゼバスティアン・バッハ(Johann Sebastian Bach: 1685〜1750)のコラールになったものもあります。そうした曲を聴くと、音楽はまさに天上の存在からの最高の贈り物という言葉に深く納得できます。例えば、

Aus tiefer Not schrei ich zu dir. 深い困窮から私は汝(神)へと声をあげる。
オス ティーファー ート シュディーァ

と題された讃美歌は、1523年にルターが書いた詩がもとになっています(出版は1524年)。動詞は schrei(e) で、詩の韻律を整えるために、人称変化語尾の -e が省略されています。aus「~から」と zu「~へ」という2つの前置詞は、ともに3格と一緒に使うという決まりがあります。なので、tiefer Not「深い困窮(に)」と dir「君/汝(に)」は、ともに3格です。このように、ドイツ語の前置詞は、何格と一緒に使うのかが、それぞれで決まっているのです。前置詞については、第16、17課でお話しします。

▲バッハ「深き困窮より、われ汝に呼ばわる」

3. 3格と結びつく動詞

 ドイツ語には、3格と結びついて文を作る動詞がいくつかあります。前の課で helfen「~に手助けする、~を助ける」を紹介しましたが、他にも、例えば gehören という動詞は、「物(1格)が人(3格)に属する」というかたちで使われる動詞です。

Der Wagen gehört der Ärztin. その車は女医さんのものだ。
ァ   ヴァーゲン  ゲーァト  ァ  ァツティン

同じ der というかたちの定冠詞でも、男性1格で主語となる der Wagen と、女性3格で間接目的語となっている der Ärztin とを区別する必要がありますね。

4. 2格は所有を表す「〜の」の意味

Der Friede ist das Meisterwerk der Vernunft.
ァ   フーデ  スト ス  イスター・ヴェァク ァ  フェァンフト
平和とは理性の傑作である。

イマヌエル・カント
▲イマヌエル・カント

 これは、ドイツの哲学者イマヌエル・カント(Immanuel Kant: 1724〜1804)の言葉です。der Friede「平和は」が主語で1格、das Meisterwerk「傑作(だ)」は sein 動詞の述語で、これも1格です。この文のポイントは、最後の der Vernunft「理性の」という2格(Genitiv)です(1格は die Vernunft)。

 2格は、主に「~の」という所有を表す格です。特徴的なのは、2格は後ろから名詞を修飾することです。上に挙げた文では、das Meisterwerk を、その後ろの der Vernunft が修飾していて、「理性傑作」という意味になっています。

 英語にもかつては、この2格に相当するような所有格があったのですが、今ではなくなって、所有は of などで表しますね。実はドイツ語でも、特に口語表現においては、次第に2格が使われなくなりつつあります。所有を表すときは、英語の of にほぼ相当する von という前置詞が使われることが増えています。特に2格の人称代名詞は、ほとんど使うことがないので、初級文法では扱わなくなっています。さらに、2格と一緒に使う前置詞が、くだけた表現では3格と使われることが多くなっています。ドイツ語も、時代とともに変化しています。ひょっとして、いつか面倒な格変化もなくなるかもしれません。でも、おそらくは何百年もかかるでしょうね。あきらめて覚えましょう?!

 同じく哲学者ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル(Georg Wilhelm Friedrich Hegel: 1770-1831)の言葉に次のようなものがあります。

Der Weg des Geistes ist der Umweg.
ァ  ヴェーク  ス  イステス  スト ァ ムヴェーク
精神の(歩む)道とは、まわり道である。

ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル
▲G. W. F. ヘーゲル

 ここでの2格は des Geistes「精神の」です。1格は der Geist なのですが、注意してほしいのは、2格では冠詞のかたちが変わることに加えて、男性名詞と中性名詞で -(e)s の語尾がつくことです。ヘーゲルの主著といえる『精神現象学』(1807)のオリジナルのタイトルも、

Die Phänomenologie des Geistes
ィ  フェノメノロー                   ス  イステス

なのです。Phänomenologie という語は「現象学」という意味で、語尾の -logie は学問を表す言葉につきます。-logie で終わる語は、最後の ie にアクセントが来ます。なので、例えば心理学は die Psychologie [プシュヒョロー]となります。英語と違って、律儀に語頭の p も発音します。

5. 2格男性と中性の名詞で語尾!

 最後に、2格の変化表を見てみましょう。

2格(Gen.)
 男 
 中 
 女 
 複 
男の人
子ども
女の人
子どもたち
定冠詞
des Mannes
des Kindes
der Frau
der Kinder
(その/あの/この)
ネス
ンデス
ァ フ
ンダー
不定冠詞
eines Mannes
eines Kindes
einer Frau
(ある/ひとつの)
イネス ネス
イネス ンデス
イナー フ
人称代名詞
(今のドイツ語ではほとんど使わないので省略)

 2格では、男性と中性では冠詞の -es 語尾が特徴的です。そして名詞にも -(e)s 語尾がつきます。女性と複数の冠詞では -er 語尾が特徴的ですね。




まとめ

 変化表を丸暗記しても、ドイツ語は話せるようになりません。まずは眺めて、ドイツ語の規則正しい(?)変化の様子を楽しんでください。そのあと、例文などの実際例から、少しずつ慣れていってくれればいいと思います。

 定冠詞の格変化

 男 
 中 
 女 
 複 
1格(Nom.)
der Mann
das Kind
die Frau
die Kinder
4格(Akk.)
den Mann
das Kind
die Frau
die Kinder
3格(Dat.)
dem Mann
dem Kind
der Frau
den Kindern
2格(Gen.)
des Mannes
des Kindes
der Frau
der Kinder


 不定冠詞の格変化

 男 
 中 
 女 
1格(Nom.)
ein Mann
ein Kind
eine Frau
4格(Akk.)
einen Mann
ein Kind
eine Frau
3格(Dat.)
einem Mann
einem Kind
einer Frau
2格(Gen.)
eines Mannes
eines Kindes
einer Frau




*1 By Gancho (Own work (own photography)) [GFDL, CC-BY-SA-3.0 or CC BY-SA 2.5-2.0-1.0], via Wikimedia Commons

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第13課


矢羽々 崇(やはば・たかし) ■ 執筆者プロフィール

1962年岩手県盛岡市生まれ。ミュンヘン大学マギスター(修士)、上智大学博士(文学)取得。獨協大学外国語学部ドイツ語学科教授。専門は近現代ドイツ文学(主に叙情詩)。著書は、『「歓喜に寄せて」の物語――シラーの詩とベートーヴェンの「第九」』(2007年)ほか多数。2000~2002年度および2007年度に「ラジオドイツ語講座」講師、2008~2010年度「テレビでドイツ語」講師を担当。






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