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読んで味わう ドイツ語文法

15

dieser型の冠詞、mein型の冠詞

Mein Vater, mein Vater, und siehst du nicht ...?
イン   ファーター  イン   ファーター ント ズィースト ドゥー   ヒト
お父さん、お父さん、見えないの…?


フランツ・シューベルト
▲フランツ・シューベルト

 冒頭の文は、作家ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ(Johann Wolfgang Goethe: 1749-1832)の詩「魔王(Erlkönig [ァル・ーニヒ])」(1782)の一節です。

 中学校の音楽鑑賞で、フランツ・シューベルト(Franz Schubert: 1797-1828)の作曲になるリート(Lied「歌曲」)を聞いた方も多いと思います。第14課でも、動画を紹介しました。


▲シューベルト「魔王」

 大雑把なあらすじは次の通りです。暗い夜を馬で行く父と息子。魔王が現れ、子を自分の世界へと誘惑します。不安に駆られた子は父に助けを求めますが、父には魔王がわかりません。最後に魔王は力ずくで子を連れ去ります。異変に気づいた父は馬を急がせますが、家に戻ってみると、子は腕の中で死んでいました。

1. 所有冠詞 mein「私の」

 魔王の誘惑に不安になった子は、「お父さん、お父さん」と語りかけます。mein Vater は、直訳すれば「私の父(よ)」という1格(Nominativ)の表現です。この mein は、英語の my に相当する冠詞です。注意してほしいのは、英語の my と違って、ドイツ語の mein は、名詞の性や数、格に応じて語尾変化することです。

 「ああ、また変化か」と思われた方も多いでしょう。ただ安心してほしいのは、それがまったく新しい変化というわけではなく、不定冠詞の ein に準じた変化をするということです。上の例だと、「ひとりの父(は)」は ein Vater なので、「私の父(は)」は mein Vater となるわけです。

 mein をはじめとする、不定冠詞 ein に準じた語尾変化をする冠詞のことを、mein 型冠詞といいます。具体的には、mein 以外の所有冠詞(「まとめ」で一括して紹介します)と、英語の no に相当する否定冠詞 kein [イン]「ひとつも〜ない」がそうです。第9課で、Wir haben keine Zeit.「私たちは暇がない」という文を紹介しましたね。「時間」を表す die Zeit は女性名詞です。4格(Akk.)の女性の不定冠詞は eine ですので、否定冠詞も keine というかたちになっています。

2. meinの変化 — 男性と中性の1格では語尾なしで mein

 それでは、他の性では mein はどのようなかたちになるのでしょうか。好都合なことに、「魔王」では1格(Nominativ)のすべての性と複数形が出てきますので、順に見ていきましょう。

 まず男性は、すでに mein Vater「(私の)お父さん」が出てきました。他にも、mein Sohn[ーン]「わが息子よ」という表現があります(der Sohn「息子」)。

 次は、中性です。「魔王が語りかけてくるのが聞こえないの?」という不安げな子の問いかけに対して、父はこう答えます。

Sei ruhig, bleibe ruhig, mein Kind, ...
イ  ーイヒ  ライベ    ーイヒ    イン   ント
静かにしなさい、静かでいなさい、わが子よ、…

 sei と bleibe は、du に対する命令形です(動詞の命令形については、後の課で扱います)。チェックしてほしいのは、mein Kind「私の子ども(よ)」です。「ひとりの子」は ein Kind なので、これに準じて mein Kind となっていますね。

3. 女性名詞と複数形だと meine

 mein の女性名詞1格のかたちも見てみましょう。

Meine Mutter hat manch' gülden Gewand.
イネ      ター        ト  ンヒ         ギュルデン   ゲヴァント
私の母は黄金の衣装をたくさん持っている。

 meine Mutter は、「私の母は」を意味する主語です。女性名詞なので、-e 語尾がついています。なお、gülden というのは古いかたちで、今のドイツ語の golden[ルデン]に当たります。

 最後に、複数形です。

Meine Töchter führen den nächtlichen Reihn.
イネ      ヒター      フューレン   ン   ヒトリヒェン        イン
私の娘たちは夜の輪舞を踊っている。

 不定冠詞には複数形がないので、mein の複数形での語尾変化は定冠詞の語尾変化に準じます。「その娘たち」は die Töchter ですので、meine Töchter というかたちになります。

 ここでは、mein「私の」の1格(Nom.)だけをご紹介しました。他の所有冠詞と他の格については、「まとめ」で一覧にしていますので、ご覧ください。

4. dieser型冠詞

 mein 型冠詞は、不定冠詞に準じて変化しました。一方で、定冠詞に準じて変化する冠詞類もあります。そのうちの主なものは、次の4つです。

dieser この welcher どの
ディーザー ヴェルヒャー
jeder 各々の aller すべての
イェーダー アラー

 では、実際の例をいくつか見ていきましょう。次の文は、よく知られた童謡の冒頭部です。

Alle Vögel sind schon da.
レ  フェーゲル ズィント ショーン 
あらゆる鳥たちがもう(そこに)来ている。


▲童謡 „Alle Vögel sind schon da“

 ここでは、Vögel「鳥たち」が1格(Nom.)の複数です。この複数形につく定冠詞は die ですので、それに準じて aller は、alle というかたちになるわけです。schon は「すでに」、da は「そこに」という意味です。

 この aller という冠詞は、Vogel / Vögel「鳥」のような数えられる名詞の複数形につくことが多いですが、以下のように、数えられない名詞の単数形につくこともあります。

Aller Anfang ist schwer.
ラー ンファング スト シュヴェーァ
始めはすべて難しい。

 ドイツの諺です。「始まり」を意味する名詞 der Anfang は男性名詞です。そのため、aller Anfang となるわけです。schwer は「難しい」という意味です。

5. jeder「各々の」は,単数だけ

 dieser 型冠詞のうち、「各々の」を意味する jeder は、英語の each と同様に、単数形の名詞とのみ使われます。

Jeder Mensch ist ein Künstler.
イェーダー ンシュ     スト イン キュンストラー
人間だれもが芸術家である。

ヨーゼフ・ボイス
▲ヨーゼフ・ボイス *1

 これは戦後ドイツを代表する芸術家ヨーゼフ・ボイス(Joseph Beuys: 1921-1986)の言葉です。「人間だれもが芸術家」と繰り返し語ったボイスは、単なる芸術作品にとどまらない、社会を造形しようとする彫刻=「社会彫刻」を構想しました。彼にとっては、教育や政治も、「社会彫刻」の一部でした。実際にボイスは、選挙に立候補したり、「自由国際大学」を創設したりしています。社会に働きかけ、社会を変える力は、人間に本来備わっているものです。その人間の可能性を信じ、狭い芸術概念を乗り越えようとする彼の新しい考え方は、次世代の芸術に大きな影響を与えました。

 何よりも、ボイス自身が、彼最大の芸術作品だったように思います。もちろんボイスには、脂肪とフェルトで作られた作品や、カッセルの「ドクメンタ」と呼ばれる現代芸術祭での「都市・行政(Verwaltung[フェァヴァルトゥング])のかわりに都市・森林化(Verwaldung[フェァヴァルドゥング])を(7000本のオーク)」と題されたアクション(1982)など、数多くの有名な「作品」があります。でも、ボイスという名を聞いて真っ先に思い浮かぶのは、何よりも帽子をかぶり、ベストを着た彼の姿そのものなのです。

都市行政のかわりに都市森林化を(7000本のオーク)
▲「都市行政のかわりに都市森林化を」(1982)で植えられたオーク *2



まとめ

1 所有冠詞

私の mein 私たちの unser
イン ンザー
君の dein 君たちの euer
イン イアー
あなた(がた)の Ihr
ーァ
彼の sein
イン
彼女の ihr 彼らの ihr
ーァ ーァ
それの sein
イン


2 mein 型冠詞の格変化

 男 
 中 
 女 
 複 
私の父
私の子ども
私の母
私の子どもたち
1格(Nom.)
mein Vater
mein Kind
meine Mutter
meine Kinder
4格(Akk.)
meinen Vater
mein Kind
meine Mutter
meine Kinder
3格(Dat.)
meinem Vater
meinem Kind
meiner Mutter
meinenKindern
2格(Gen.)
meines Vaters
meines Kindes
meiner Mutter
meiner Kinder

 「君たちの」のeuerは、語尾がつくと、eur- というかたちになります。そのため、「君たちのお父さんは」は euer Vater ですが、「君たちのお母さんは」は eure Mutter となります。

 否定冠詞 kein[イン](英語の no に相当)も mein 型冠詞と同じ変化をします。


3 dieser 型冠詞の格変化

 男 
 中 
 女 
 複 
この男性
この子ども
この女性
この子どもたち
1格(Nom.)
dieser Mann
dieses Kind
diese Frau
diese Kinder
4格(Akk.)
diesen Mann
dieses Kind
diese Frau
diese Kinder
3格(Dat.)
diesem Mann
diesem Kind
dieser Frau
diesen Kindern
2格(Gen.)
dieses Mannes
dieses Kindes
dieser Frau
dieser Kinder



*1 By Ronald Feldman Fine Arts (Ronald Feldman Fine Arts) [GFDL or CC-BY-SA-3.0], via Wikimedia Commons
*2 By Husky (Own work) [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons

第14課
第16課


矢羽々 崇(やはば・たかし) ■ 執筆者プロフィール

1962年岩手県盛岡市生まれ。ミュンヘン大学マギスター(修士)、上智大学博士(文学)取得。獨協大学外国語学部ドイツ語学科教授。専門は近現代ドイツ文学(主に叙情詩)。著書は、『「歓喜に寄せて」の物語――シラーの詩とベートーヴェンの「第九」』(2007年)ほか多数。2000~2002年度および2007年度に「ラジオドイツ語講座」講師、2008~2010年度「テレビでドイツ語」講師を担当。






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