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読んで味わう ドイツ語文法

16

人称代名詞

Ich breche dich! 君を折るぞ!
ヒ   ブヒェ      ディ
Ich steche dich! あなたを刺すわ!
ヒ  シュヒェ    ディ


ゲーテ
▲ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ

1. ゲーテの詩「野ばら」

 前の課に引き続いて、やはりシューベルトの曲で有名なゲーテの詩「野ばら(Heidenröslein[イデン・ースライン])(1770年頃成立)の言葉を紹介します(対訳)。

 ひとりの男の子が荒野に咲く野ばらを見つけ、駆け寄ります(第1節)。男の子は野ばらと会話(第2節)した後、抵抗する野ばらを折り取ってしまいます(第3節)。


▲シューベルト「野ばら」

 冒頭で紹介した文は、第2節で登場します。最初の Ich breche dich! は男の子が野ばらに対して言う台詞で、次の Ich steche dich! は、それに対する野ばらの答えです。ともに dich という語が出ています。これは、親しい間で使われる人称代名詞 du の、4格(Akkusativ、日本語の「~を」にほぼ相当)のかたちなのです。

 一般的に、ドイツ語というと、

Ich liebe dich. 私はあなたを愛しています。
ヒ  ーベ   ディ

というフレーズを思い浮かべる人も多いようですが、この dich がまさに4格「君を」なのです。なお、前の課で扱った「魔王」でも、魔王が子どもに向かって、„Ich liebe dich“と言っています。

 さて、逆に、「あなたは私を愛している?」と尋ねるとすればどう言うのでしょうか?動詞 lieben を du に合わせて語尾変化させると、-st がついて du liebst となります。また、「私を」は mich です。「はい、いいえ」で答える疑問文では、動詞がはじめに来ますから、

Liebst du mich?
ープスト  ドゥ

と言えばいいのです。ドイツ人の恋人ができたら、ぜひ使ってみてください。

2. 1人称 ich と wir、2人称 du と ihr の変化

 続いて、du の3格のかたちを紹介します。第12課では、宗教改革で知られるマルティン・ルター(Martin Luther: 1483-1546)の讃美歌のタイトルを紹介しました。

Aus tiefer Not schrei ich zu dir.
オス ティーファー ート シュイ ヒ ー ディーァ
深い困窮から私は汝(神)へと声を上げる。

 この最後の dir がduの3格なのです。というのも、zu「〜へ」という前置詞は、3格と結びつくという決まりがあるからです。この文の「私」と「汝」を入れ替えて、(僭越にも?)神の視点から見た文に変えると次のようになります。

Aus tiefer Not schreist du zu mir.
オス ティーファー ート シュイスト ドゥミィーァ
深い困窮から汝(人間)は私(神)へと声を上げる。

 最後の mir が ich の3格です。こうしてみると、ich と du の人称代名詞は、次の表のように、4格で -ich、3格で -ir と、同じような形になっていることがわかると思います。ついでに、wir「私たち」と ihr「君たち」の格変化もまとめておきます。

私たち
君たち
1格
ich
du
wir
ihr
4格
mich
dich
uns
euch
ディ
ンス
イヒ
3格
mir
dir
uns
euch
ーァ
ディーァ
ンス
イヒ

3. 2格の人称代名詞は?

 上の表を見て、2格はどうなっているの? と思った方に朗報があります。現代ドイツ語では、2格の人称代名詞はほとんど使われることがありません。そのため、覚える必要がほぼないので、表では省略しています。

 2格の人称代名詞の ich のかたちだけ紹介すると、meiner がそれです。日本語で「わすれな草」という植物は、ドイツ語で

Vergiss・mein・nicht
フェァス・イン・ヒト

わすれな草
▲わすれな草 *1

と言います(区分のための黒丸は矢羽々による)。vergiss は「忘れる」を意味する vergessen[フェァセン]のduに対する命令形です。nicht は否定ですね。中央の mein が、実は ich の2格の人称代名詞 meiner の短縮形なのです。今のドイツ語では、vergessen は4格と使われるのですが、かつては2格を取る構文もありました。ですので、Vergissmeinnicht は、「私を忘れないで」という意味になります。

4. 3人称では、定冠詞の語尾との類比に注意

 最後に、3人称の人称代名詞をざっとまとめました。

彼女
それ
彼ら
あなた(がた)
1格
er
sie
es
sie
Sie
4格
ihn
sie
es
sie
Sie
ーン
3格
ihm
ihr
ihm
ihnen
Ihnen
ーム
ーァ
ーム
ーネン
ーネン

 ここで注意してほしいのは、定冠詞の語尾との対応関係です。例えば、男性名詞の定冠詞は1、4、3格の順に、der - den - dem でしたね。この語尾に対応するように、「彼」の人称代名詞は、er - ihn - ihm となります。他の場合でも同様です。

 なお、「あなた(がた)」を意味する大文字で書き始める Sie は、歴史的には3人称複数の sie から生まれたものなので、変化は sie と同じになります。


 第14課で紹介した「魔王」の一節でも、er「彼」の4格の人称代名詞が登場していました。

Er fasst ihn sicher, er hält ihn warm.
ファスト ーン ズィヒャー ァ ルト ーン ヴァァム
父は子をしっかり掴み、父は子を暖かく保つ。

 ここでの「子」は der Knabe「男の子」という古い男性名詞を指しているので、ihn で受けるわけです。

5. 「白雪姫」は es で受ける?

 脱線になりますが、 das Rotkäppchen[ート・プヒェン]「赤ずきん」や das Sneewittchen[スー・ヴィトヒェン]「白雪姫」のように、意味的には女性(女の子)を表していても、名詞の性としては中性となる語があります。実際の性と名詞の性が一致していないのは、-chen という「小さい、かわいい」を意味する縮小辞がつくと、その名詞は中性扱いになるというルールのためです。このような名詞では、人称代名詞は es で受けることになります。

 グリム・メルヒェンの「白雪姫」は、白雪姫が妃の美しさを越えたときの様子を次のように描写しています。過去形など、未習事項が多いのですが、人称代名詞だけに注目してください。

Sneewittchen aber wuchs heran, und als es sieben Jahr[e] alt war, war es so schön, dass es selbst die Königin an Schönheit übertraf [...]
一方、白雪姫[中性名詞]は成長し、それ(es)が7歳になったとき、それ(es)は女王さえも美しさにおいて凌駕するほど、それ(es)は美しくなったのでした[...]。

 ドイツ語では、このように実際の性ではなく、名詞の性に従って人称代名詞が使われることがありますので、グリム・メルヒェンなどを読むときには気をつけてください。とはいえ、訳すときには、「彼女」で構いません。

6. 白雪姫って7歳?

 この箇所を読んで、「えっ、白雪姫って7歳で女王よりも美しくなったの?!」と驚いた人も多いのではないでしょうか。しかし、この数字はあくまで象徴的なものです。「白雪姫」というメルヒェン全体が、「7」という数字でまとめられたお話なのです。

 こびとの数は7人、こびとの家は城から7つの山の向こうにあると設定されています。もしグリム・メルヒェンのオリジナルか、あるいはその翻訳を持っている人は、妃が鏡に向かって「国中で一番美しいのはだれ?」と訊く回数を数えてみてください。そう、7回なのです。

 また、メルヒェンや民話では、時間が自由に伸び縮みします。日本であれば、竜宮城に行って戻ってくる浦島太郎の話がそうですね。それと同様に、こびとの住む「森」という異界に入った段階で、白雪姫は現実の時間を離れてしまったのです。なので、白雪姫が王子と結婚したのは、彼女が7歳のときではなく、結婚するのにふさわしい年齢に成長した後だと考えるべきでしょう。




まとめ

人称代名詞

1格
ich
du
er
sie
es
wir
ihr
sie
Sie
4格
mich
dich
ihn
sie
es
uns
euch
sie
Sie
3格
mir
dir
ihm
ihr
ihm
uns
euch
ihnen
Ihnen

 2格の人称代名詞は、現代ドイツ語ではほとんど使いませんので、省略します。

 ich/mich/mir と du/dich/dir が対応していること、3人称では定冠詞の変化に準じたかたちになっていること(例: er/ihn/ihm ← der/den/dem)をチェックしましょう。




ドイツ文化ひとこと

 ゲーテは1770年、シュトラースブルク大学で法学の勉強をしていました(現在のフランスのストラスブール)。「野ばら」はこのシュトラースブルク滞在中に執筆されましたが、詩の背景には、その近郊の村ゼーゼンハイムで知り合ったフリーデリケ・ブリオン(Friederike Brion: 1752-1813)との、短いが情熱的な恋愛経験があると言われています。二人が出会った当時、彼女は18歳、ゲーテは21歳でした。手紙などがほとんど残されていないため、詳しいことは分からないのですが、翌1771年の夏、ゲーテがシュトラースブルクを去ったことで、二人の関係には終止符が打たれたと言います。

フリーデリケ・ブリオン
▲フリーデリケ・ブリオン

 この恋愛から、ゲーテは数多くの詩を生み出します。とはいえ、そこに反映されているのは、彼の恋愛経験だけではありませんでした。ゲーテは、年配の友人ヨハン・ゴットフリート・ヘルダー(Johann Gottfried Herder: 1744-1803)の「民衆詩(Volkspoesie)」の考えに影響を受けました。そのため、同時代において一般的だった、技巧を凝らし、神話的な要素を盛り込もうとする衒学的な詩のスタイルを拒否し、民衆の間で自然に生まれたかのような、素朴で単純な歌い方を目指したのです。

 「野ばら」という詩では、男の子をゲーテ、野ばらをフリーデリケと読むことが可能なのは確かです。しかし、この詩は、二人の別れの前に書き始められています。かつ、素朴な民謡風の歌い方が意識的に取り入れられています。その意味では、この詩を伝記に重ねるように読んでしまうのは、必ずしも適切ではないように思います。とはいうものの、二人の恋愛の結末を歌ったように読めてしまうのも事実なのですが…。多様な読みが可能であるがゆえに、この詩は長く愛されているのだとも言えます。





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矢羽々 崇(やはば・たかし) ■ 執筆者プロフィール

1962年岩手県盛岡市生まれ。ミュンヘン大学マギスター(修士)、上智大学博士(文学)取得。獨協大学外国語学部ドイツ語学科教授。専門は近現代ドイツ文学(主に叙情詩)。著書は、『「歓喜に寄せて」の物語――シラーの詩とベートーヴェンの「第九」』(2007年)ほか多数。2000~2002年度および2007年度に「ラジオドイツ語講座」講師、2008~2010年度「テレビでドイツ語」講師を担当。






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