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読んで味わう ドイツ語文法

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前置詞は特定の格と結びつく2

Der Himmel über Berlin ベルリンの上の空
デァ     メル           ーバー  ベァーン


▲『ベルリン、天使の詩』予告編

1.『ベルリン、天使の詩』

 冒頭の文は、1987年に公開されたドイツ映画のタイトルです。日本でも1988年に『ベルリン、天使の詩(うた)』というタイトルで公開され、ロングラン上映となりました。東西ドイツが統一された今からふり返ると、壁崩壊前のベルリンを描いている点でも印象的です。当時の壁の様子、緩衝地帯となっていた壁の内部のありさまも知ることができます。「ベルリンの壁」というのは、1枚の壁である以上に、ところによっては数10メートルの幅を持つ、逃亡や侵入を阻止するための構造物でもありました。


ベルリンの壁の内部
▲ベルリンの壁の内部の様子

2.前置詞 über が3格(Dativ)と結びつく場合

 さて、映画のタイトルにある über は、英語の over にほぼ相当する前置詞で、「〜の上方に」を意味します。英語との違いは、この前置詞が4格(Akkusativ)と結びつくのか、3格と結びつくのかが、意味に応じて変わることです。こうした前置詞は、über を含めて9つあります(第4節を参照)。

 この9つの前置詞が3格と結びつくのは、主に「出来事や運動の起きている場所」を表す場合です。これに対して、4格と結びつくのは、主に「運動の方向」を表す場合です。

 映画タイトルの Der Himmel über Berlin は、「ベルリンの上方にある空」というように「場所」が示されています。なので、この Berlin という名詞は、冠詞がないのでわかりにくいのですが、3格なのです。なお、都市や国名などは、いくつかの例外を除くと、基本的に中性名詞で、無冠詞で使います。

3.前置詞 über が4格(Akkusativ)と結びつく場合

 über が出てくる別の例文を見てみましょう。小説『車輪の下(Unterm Rad)』(1906)などで知られる作家ヘルマン・ヘッセ(Hermann Hesse: 1877-1962)の詩「野の上を越えて(Über die Felder)」の一節です。


ヘルマン・ヘッセ
▲ヘルマン・ヘッセ

Über den Himmel Wolken ziehn,
ーバー デン    メル          ヴォルケン   ツィーエン
空を越えて雲が流れ
Über die Felder geht der Wind [...]
ーバー ディ  フェルダー ート  デァ   ヴィント
野を越えて風が行く

 ここでの über は、ともに4格(Akk.)と結びついています。これは、雲や風が空や野を「越えて」行くという意味の詩行であり、über は運動の方向を示しているからです。なお、最初の文の語順が「間違って」いて、動詞が2番目の位置(Ⅱ)にないのは、詩の韻律と効果のためです。

4.4格と3格を使い分ける前置詞は9つ

 こうした4格と3格を使い分ける前置詞は、次の9つです。

an 〜に接して auf 〜の上(英語のon
オフ
hinter 〜の後ろ in 〜の中
ンター
neben 〜の横 über 〜の上方(英語のover
ーベン ーバー
unter 〜の下 vor 〜の前
ンター フォ
zwischen 〜の間
ヴィシェン

 もう一度、単純な例文で比べてみます。「犬は庭の中へ走っていく」と「犬は庭の中を走っている」をドイツ語にすると次のようになります。「走る」は、rennen ですね。

Der Hund rennt in den Garten.
デァ    ント    ント    ン デン    ァテン
犬は庭の中へ走っていく。
Der Hund rennt in dem Garten.
デァ    ント    ント    ン デム     ァテン
犬は庭の中で走っている。

 最初の文では、犬が庭の「中へ」走っているので、「運動の方向」が示されています。ですので、前置詞 in は4格、ここでは男性名詞 der Garten「庭」の4格 den Garten と結びついています。次の文では、犬が庭の「中で」走っているので、「運動の場所」が示されています。このため、前置詞 in は3格、ここでは男性3格の dem Garten と結びつくのです。

 さきほど名前の出たヘッセの小説『車輪の下』の原題は、

Unterm (= unter dem) Rad
ンターム           (ンター   ム)    ート

でした。これは、主人公が学校などのさまざまな軋轢の「下で」苦しんでいることを比喩的に表現しています。「車輪の下で」という「場所」を示しているので、中性名詞das Rad「車輪」の3格 dem Rad が使われています。

5.君は私の心のなかにいる

 では、別の例で見てみましょう。

Du, du liegst mir im Herzen / Du, du liegst mir im Sinn.
ドゥドゥークスト ーァ ム ヘァツェン    ドゥドゥークスト ーァ ム ズィ
君、君は私の心のなかにいる / 君、君は私の思いのなかにいる

▲Du, du liegst mir im Herzen
 

これはドイツ民謡の一節です。liegen は「(横になって)ある」という意味の動詞、mir は続く「心(das Herz)」や「思い(der Sinn)」の所有者を表す3格の用法で、「私の心」、「私の思い」という意味になります。im は、in dem の融合形です。この定冠詞 dem は、男性と中性の3格のかたちです。「君」は「私の心のなか」や「私の思いのなか」という「場所」にいることを表現している文なので、前置詞 in は3格と結びついているわけです。なお、das Herz は単数で非常に不思議な格変化をする名詞で、1格と4格は das Herz なのですが、3格は dem Herzen、2格は des Herzens というかたちになります。

 続いて、in が「運動の方向」を表して4格と結びつく場合を見ましょう。次の文は、スイス出身の医者・哲学者で、主著『孤独について(Über die Einsamkeit)』(1783/84)で当時広く知られたヨハン・ゲオルク・ツィマーマン(Johann Georg Zimmermann: 1728-1795)の言葉です。

Ruhe, das höchste Glück auf Erden, kommt sehr oft nur durch Einsamkeit in das Herz.
ーエ    ス    ヒステ       グリュク オフ ァデン   ムト         ーァ フト ーァ ドゥァヒ インザームカイト ン ス ァツ
地上で最高の幸福である安らぎは、しばしばただ孤独を通って心のなかへと入ってくる。

 この文では、前置詞 in は4格 das Herz と結びついています。「安らぎ(Ruhe)」が「心のなかへ」入ってくるという「運動」を表現しているからです。

6.4格/3格と結びつく前置詞の注意点

 これまで紹介したのは、上下や前後などのように、空間上の位置を示す目的で使われている前置詞でした。しかし、前置詞にはこれまで説明した以外に、注意すべき点がいくつかあります。

これらの前置詞は、時間を示すために使われることもあり、そうした場合には、基本的に3格と結びつくことが多いです。

vor dem Essen 食事の前に
フォァ ム  セン
in der Nacht 夜に
ン  ァ ハト

空間や時間などの意味で使われている場合とは別に、熟語の一部として使われているような場合には、上述のルール通りではないことがあるので、4格/3格のどちらと結びつくのかをチェックする必要があります。

Ich warte auf einen Bus.
ヒ  ヴァァテ オフ イネン  
私はバスを待っています。(auf ...4 warten: ...4を待つ)
Ich habe Angst vor Prüfungen.
ヒ  ーベ   ングスト フォァ プリューフンゲン
私は試験が怖い。(Angst vor ...3 haben: ...3が不安だ)

 前節で名前の出たツィマーマンの『孤独について』の原題は、

Über die Einsamkeit
ーバー ディ インザームカイト

で、「〜について」の意味で使われるときには、überは4格と結びつきます。

2つの格を使い分けるのは、あくまで前述の9つの前置詞の場合だけです。前の課で紹介した他の前置詞は、特定の1つの格と結びつきます。例えば、「〜へ」を意味する前置詞 zu は、運動の方向を表していますね。しかし、zu はあくまで3格と結びつくのが決まりなのです。

7.前置詞と定冠詞の融合形

 前置詞の後に定冠詞が続いているとき、その定冠詞の指示作用が弱い場合には、前置詞と定冠詞の融合形が使われます。

 まず、主な融合形を紹介します。

am = an dem beim = bei dem im = in dem
ins = in das vom = von dem zum = zu dem
zur = zu der

 この7つが主に使われるものです。『車輪の下』のタイトルにある unterm も、unter dem の融合形ですが、現在のドイツ語ではほとんど目にすることのない形です。

 なお、融合形は勝手に作っていいわけではなく、あくまで特定の前置詞と定冠詞の組み合わせでのみ可能です。

 また、そうした特定の組み合わせでも、定冠詞の指示作用が明確な場合には、融合形は使われません。この場合、定冠詞は強めに発音されます。

Ich gehe jede Woche zum Zahnarzt.
ヒ  ーエ  イェーデ ヴォヘ      ム     ツァーン・ァツト
私は毎週歯医者に行く。
Ich gehe heute zu dem Zahnarzt.
ヒ  ーエ   イテ     ー ーム   ツァーン・ァツト
私は今日はその歯医者へ行く。



練習

 前置詞を意識しながら、次の文を日本語にしてみましょう。

1. Ich komme aus Japan und wohne jetzt in Berlin.
ヒ  メ             オス ーパン  ント ヴォーネ  イェツト ン ベァーン
【ヒント】kommen: 来る  aus: 〜から  wohnen: 〜住む  jetzt: 今

 

2. Ich trinke Kaffee mit Milch, ohne Zucker.
ヒ  トンケ    カフェー  ト   ルヒ      ーネ  カー
【ヒント】trinken: 飲む mit: 〜と die Milch: 牛乳 ohne: 〜なしで der Zucker: 砂糖

 

3. Rotkäppchen geht durch den Wald zu der Großmutter.
ート・プヒェン      ート   ドゥァヒ   ン   ヴァルト ー デァ 
ース・ター
【ヒント】Rotkäppchen: 赤ずきん gehen: 行く durch: 〜を通って der Wald: 森 zu: 〜のところへ die Großmutter: 祖母

 

3. Der Schein regiert die Welt, und die Gerechtigkeit ist nur auf der Bühne. (Friedrich Schiller)
ァ  シャイン    レーァト  ディ ヴェルト   ント ィ ゲヒティヒカイト 
スト ーァ オフ ァ ビューネ
【ヒント】der Schein: 仮象(実体ではない見せかけ) regieren: 支配する die Welt: 世界 die Gerechtigkeit: 正義 nur: ただ、〜だけ auf: 〜の上 die Bühne: 舞台

 




まとめ

 4格と3格を使い分ける前置詞は全部で9つ(のみ)。

 運動の方向を示す場合は4格と、運動の場所を示す場合は3格と。




ドイツ文化ひとこと 『ベルリン、天使の詩』

ヴィム・ヴェンダース
▲ヴィム・ヴェンダース *1

 監督はニュー・ジャーマン・シネマを代表する監督のひとり、ヴィム・ヴェンダース(Wim Wenders: 1945-)。主演のブルーノ・ガンツ(Bruno Ganz: 1941-)は、その後、『ヒトラー〜最期の12日間〜(Der Untergang)』(2004)などに出演しています。彼が演じたヒトラーが実物と非常に似ていたのが印象的でした。あるいは、日本映画『バルトの楽園(がくえん)』(2006年)を観た方もいるのではないでしょうか。この映画は、第一次世界大戦時にドイツ軍捕虜を収容していた板東俘虜収容所で、ベートーヴェンの交響曲第9番が日本で初めて全曲演奏されたという史実をもとにしています。この作品のなかでガンツは、実在しなかった将校の役で登場します。また、日本ではまだ公開されていませんが、2015年のスイスとドイツの映画『ハイジ(Heidi)』で、彼はハイジのおじいさん役を演じています。このようにガンツは、まさしくドイツ語圏を代表する俳優として活躍しています。なお、ドイツ語を学んでいる皆さんには、「ハイジ」ではなく、[イディ]と発音してもらえると嬉しいです。


ブルーノ・ガンツ
▲ブルーノ・ガンツ *2

 さて、『ベルリン、天使の詩』の天使ダミエルは、長らく人間を助けながら暮らしています。そんな彼のすがたは、映像ではモノクロで表現されています。しかしあるとき、ひとりの人間の女性に恋をしたことで、彼は自分もまた人間となることを望みます。そして彼がその願いを叶えて人間になった瞬間、映像はモノクロからカラーに変わります。その後、指に怪我をして、自らの血を舐めた後にこう言います。

Schmeckt! 味がする!
シュクト

 このセリフは、字幕では「これか!」と訳されています。素晴らしい訳だと思いませんか?

 この映画は、文学を研究する私にとっては、ペーター・ハントケ(Peter Handke: 1942-)という、オーストリアを代表する作家が台本を書いている点でも印象深い作品です。この映画は、天使と人間の出会いや恋愛ということのほかに、「語りの意味」というテーマを持っています。詩人ホメロスも登場して、語ること、記録すること、記憶をつないでいくことの意味が考察されているのです。一方、この映画のリメイクである『シティー・オブ・エンジェル』(アメリカ、1998)は、語りのテーマをきれいさっぱりと取り除いた、ハリウッドらしいただの恋愛映画でした。




*1 Georges Biard [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons
*2 By Yasu (Own work) [CC BY-SA 3.0 or GFDL], via Wikimedia Commons

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矢羽々 崇(やはば・たかし) ■ 執筆者プロフィール

1962年岩手県盛岡市生まれ。ミュンヘン大学マギスター(修士)、上智大学博士(文学)取得。獨協大学外国語学部ドイツ語学科教授。専門は近現代ドイツ文学(主に叙情詩)。著書は、『「歓喜に寄せて」の物語――シラーの詩とベートーヴェンの「第九」』(2007年)ほか多数。2000~2002年度および2007年度に「ラジオドイツ語講座」講師、2008~2010年度「テレビでドイツ語」講師を担当。






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