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読んで味わう ドイツ語文法

19

助動詞

Jetzt kannst du selbst gehen, Klara
イェツト ンスト   ドゥー ルプスト ーエン   クーラ
jetzt kannst du gehen!
イェツト ンスト   ドゥー ーエン
もう自分で歩けるのね、クララ、もう歩けるのね!


ハイディの修業と遍歴時代
▲『ハイディの修業と遍歴時代』(第8版)カバー

1.アルプスの少女

 冒頭の文は、スイスの女性作家ヨハナ・シュピューリ(Johanna Spyri:1827-1901)の小説『ハイディ』(どちらも、一般的にはヨハンナ・シュピリ、ハイジと表記)のセリフです。

ヨハナ・シュピーリ
▲ヨハナ・シュピーリ

 両親をなくした少女ハイディは、スイスの山にひとり住む人嫌いの祖父にいったん預けられます。山での暮らしに馴染んだころ、病気の少女クララの遊び相手として、ハイディはおばによって都会のフランクフルトに連れて行かれます。クララやその祖母との出会いは、彼女にとって嬉しいものでしたが、家庭教師のロッテンマイアー女史の厳しいしつけには苦しめられます。ハイディは故郷を恋しがるあまり夢遊病になり、医者の判断でスイスに送り返されます。スイスの山での生活でかつての元気を取り戻したハイディのもとを、クララが訪ねてきます。クララは、ハイディとその祖父の庇護のもとで歩けるようになるのですが、そのときにハイディが叫んだのが上のセリフです。

『ハイディ』挿画
▲『ハイディ』挿画

 ひょっとして、皆さんはアニメの『アルプスの少女ハイジ』(1974)で、このシーンを見たことがあるのではないでしょうか。原作では、クララの車椅子は、羊飼いのペーターが彼女への嫉妬から壊してしまいます。移動手段がなくなったまさにそのときに、クララは歩こうとして一歩を踏み出すのです。

2.助動詞の文のすがた

 冒頭の文には、助動詞が使われています。英語の助動詞の文では、<助動詞+動詞の原形>が構文の基本ですね。ドイツ語もほぼ同じなのですが、ドイツ語特有のクセもあります。kannst は、「できる」を表す助動詞 können が、主語 du に合わせて人称変化したかたちです。そして、文の最後にある gehen が不定形です。

 つまり、ドイツ語の助動詞の文は、次の点で英語と異なります。

 (1) 助動詞が人称変化する

 (2) 不定形が文末に位置する

 冒頭の文を、主語を最初に置いた一般的な文にして見てみましょう。

Ⅰ   Ⅱ         文末
Du kannst jetzt selbst gehen.
ドゥンスト イェツト ルプスト ーエン
君/あなたは今や自力で歩ける。

 疑問文であれば、次のかたちになります。

Ⅰ  Ⅱ           文末
Kannst du jetzt selbst gehen?

 このように、助動詞と不定形が、他の文要素をサンドイッチにするのです。

3.助動詞の種類と意味

 助動詞には、おおよそ次の7つがあります。主な意味と一緒に紹介します。人称変化のかたちは、本課末尾の「まとめ」に掲載しています。


dürfen 〜してよい;[否定と]〜してはいけない
デュァフェン
Was darf ich hoffen? (Immanuel Kant)
ヴァス ァフ ヒ フェン
私は何を望んでいいのだろう?

 カントにとって哲学とは、「人間とは何か?」という問いを立て、それに答えようとすることでした。そのなかで、人間の美に関する問いとして、上の „Was darf ich hoffen?“ があります。この問いに答えようとする思索が『判断力批判(Kritik der Urteilskraft)』(1790)です。


können 〜できる
ネン
Ich kann versichern, die Politik ist keine
ヒ ン   フェァズィヒャーン ディ  ポリティーク スト イネ
Wissenschaft, [...] sie ist eine Kunst ...
ヴィセンシャフト        ズィー スト イネ ンスト
(Otto von Bismarck)
確言できるのは、政治は学問ではなく、芸術だということだ。

オットー・フォン・ビスマルク
▲オットー・フォン・ビスマルク *1

 ビスマルクはなかなかウィットに富んだ政治家だったようで、他にも「選挙の前と戦争中と狩りの後ほど嘘だらけのときはない」といった名句を残しています。


mögen 〜を好きだ;〜かもしれない
ーゲン
Ein echter deutscher Mann mag keinen Franzen leiden,
イン ヒター イチャー   ン  ーク イネン  フンツェン イデン
Doch ihre Weine trinkt er gern. (Goethe „Faust“)
ホ   ーレ ヴァイネ トンクト ァ ァン
真のドイツの男なら、フランス人には我慢がならぬ
されどヤツらのワインは美味しく飲む

 ゲーテの『ファウスト』第1部(1808)、アウアーバハの酒場における場面での学生の言葉です。この場面の原稿は1770年頃に書かれており、この言葉に19世紀的なナショナリズムをかぎ取る必要はないでしょう。現に、フランスのワインは評価していますね。次の例文も、『ファウスト』からです。


möchte 〜したい(願望)
ヒテ
Zwar weiß ich viel, aber ich möcht(e) alles wissen.
ヴァヴァイス ヒ フィール ーバー ヒ ヒテ     レス  ヴィセン
(Goethe „Faust“)
確かに私は沢山知っていますが、すべてを知りたいのです。

 ファウストは、すべてを知ろうと望んだ結果、何も知らないことに思い至ります。そこから悪魔の力を借りてでも、世界のすべてを知ろうとするわけですが、引用はそんなファウストのカリカチュアとして登場した学徒ヴァーグナーの言葉です。韻を揃えるために、möchte の語尾 -e が省略されています。


müssen 〜しなければならない;[否定と]〜しなくてよい
ミュセン
Man muss die Zukunft abwarten und die Gegenwart
ン  ス   ディ  ークンフト プ・ヴァァテン  ント ディ ーゲンヴァァト
genießen oder ertragen. (Wilhelm von Humboldt)
ーセン   ーダー エァトーゲン
人は未来をじっと待ち、現在を楽しむなり我慢できなければならない。


sollen 〜すべき;〜するよう言われている(他人の意志)
レン
Du sollst nicht stehlen. (Eines der Zehn Gebote)
ドゥルスト ヒト  シューレン
汝、盗むべからず。(十戒のひとつ)

 sollen は他人の意志を表す表現です。ここでは、「汝」に対する「神」の意志が表現されているわけです。


wollen 〜したい(強い意志)
ヴォレン
Wir wollen mehr Demokratie wagen. (Willy Brandt)
ヴィーァ ヴォレン ーァ  デモクラティー   ヴァーゲン
もっと民主主義に挑もう。

 連邦首相も務めた政治家ヴィリー・ブラント(Willy Brandt: 1913-1992)の言葉です(ブラントについては、次の課で)。wagen は、「あえて〜する」、「大胆にも〜する」というニュアンスの動詞です。民主主義はその実現が困難なものだからこそ努力して勝ち取ろう、というメッセージです。

4.möchteとwollenの違い

 上で紹介した助動詞のなかで注意してもらいたいのは、möchte と wollen の違いです。wollen は「強い意志」を表す助動詞です。なので、上の引用のように、政治家の演説などでよく耳にします。一方、日常生活で「〜したい」と願望を表現する場面では、möchte を使います。これは英語の would like to に相当する表現です。英語の仮定法にあたる接続法の言い方で、「もしよければ〜したいのですが」という控えめな願望表現です。ごく日常的に使う助動詞なので、ぜひ覚えてください。

5.助動詞の人称変化

dürfen
können
mögen
möchte
müssen
sollen
wollen
ich
darf
kann
mag
möchte
muss
soll
will
du
darfst
kannst
magst
möchtest
musst
sollst
willst
er
darf
kann
mag
möchte
muss
soll
will
wir
dürfen
können
mögen
möchte
müssen
sollen
wollen
ihr
dürft
könnt
mögt
möchtet
müsst
sollt
wollt
sie
dürfen
können
mögen
möchte
müssen
sollen
wollen
Sie
dürfen
können
mögen
möchte
müssen
sollen
wollen

 上の表を見ると分かるように、助動詞は主語が単数のときに不規則変化をし、かつ ich と3人称単数 er/sie/es のかたちが同じになります。複数では規則変化です。まずは、主語が ich のときの助動詞のかたちをしっかり覚えましょう。




練習

 次の文を日本語にしてみましょう。

1. Können Sie Deutsch sprechen?
ネン    ズィー イチュ   シュプヒェン
【ヒント】Deutsch: ドイツ語 sprechen: 話す

 

2. Ich möchte „Faust“ auf Deutsch lesen.
ヒ  ヒテ    ファオスト オフ イチュ   ーゼン
【ヒント】auf Deutsch: ドイツ語で lesen: 読む

 

3. Er muss einen Brief auf Deutsch schreiben.
ァ ス   イネン ブーフ オフ イチュ   シュイベン
【ヒント】einen Brief: 手紙を1通  schreiben: 書く

 

4. Wollen wir morgen ins Kino gehen? Da läuft „Heidi“.
ヴォレン ヴィーァ ァゲン ンス ーノ ーエン   ー イフト イディ
【ヒント】wollen wir ...?: 〜しようか? morgen: 明日 ins Kino gehen: 映画を見に行く da: そこで läuft ← laufen: 走る、[ここでは]上映される

 




まとめ

 ドイツ語の助動詞の文では、(1) 助動詞が人称変化すること、(2) 不定形が文末に位置することの2点に注意しましょう。

 日常生活で特に活躍するのが、möchte「〜したい」という願望表現です。まずは möchte をしっかり覚えましょう。



ドイツ文化ひとこと

 ヨハナ・シュピューリは多作な作家でしたが、今も知られている作品は、事実上『ハイディ』だけになりました。作家としてのスタートは遅く、40歳を過ぎてからです。結婚と出産の後、しばらく精神の病に苦しんだ時期もありました。そうした豊富な人生経験が、彼女の作品には反映されています。

 『ハイディ』は、もともとは2部構成でした。1880年に第1部『ハイディの修業と遍歴時代(Heidis Lehr- und Wanderjahre)』が出版されました。タイトルは、ゲーテの長編小説『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代(Wilhelm Meisters Lehrjahre)』(1795)と『ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代(Wilhelm Meisters Wanderjahre)』(1821)に依拠したものです。第1部では、ハイディがスイスの祖父のもとに戻り、人嫌いの祖父が神や他の住民たちと和解する場面で終わっています。好評を受けて第2部『ハイディは学んだことを活かすことができる(Heidi kann brauchen, was sie gelernt hat)』が出版されます。こちらでは、ペーターを読み書きするように導いたり、クララを歩けるようにしたりと、まるで奇跡を起こす聖女のようなハイディが描かれています。

 『ハイディ』は幾度となく映像化されています。日本発のアニメ(1974)のほかに、最近では2005年にイギリスで映画化され、さらに2015年には、スイス人の俳優で『ヒトラー―最後の12日間』などで知られるブルーノ・ガンツが祖父役を演じる映画も作られています。


▲『ハイディ』(2015)予告編

 なお、かつて私はこの作品について、鉄道や観光、宗教や病といった観点から論じたことがあります。関心があるかたは、ネット上のリポジトリから読むことができますので、どうぞ



*1 Bundesarchiv, Bild 183-R68588 / P. Loescher & Petsch / CC-BY-SA 3.0 [CC BY-SA 3.0 de], via Wikimedia Commons

第18課
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矢羽々 崇(やはば・たかし) ■ 執筆者プロフィール

1962年岩手県盛岡市生まれ。ミュンヘン大学マギスター(修士)、上智大学博士(文学)取得。獨協大学外国語学部ドイツ語学科教授。専門は近現代ドイツ文学(主に叙情詩)。著書は、『「歓喜に寄せて」の物語――シラーの詩とベートーヴェンの「第九」』(2007年)ほか多数。2000~2002年度および2007年度に「ラジオドイツ語講座」講師、2008~2010年度「テレビでドイツ語」講師を担当。






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