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読んで味わう ドイツ語文法

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命令

Komm, lieber Mai, und mache
ム      ーバー  イ   ント  
Die Bäume wieder grün!
ディ  イメ    ヴィーダー  グリューン
愛しい五月よ、来て
木々をまた緑にしてくれ!


▲モーツァルト「春への憧れ(Sehnsucht nach dem Frühlinge)」

1.Sie に対する命令やお願いの表現

 第10課で、「あなた(がた)」の Sie に対する命令の表現はすでに紹介しました。次の文のように、Sie に対する命令では、かたちのうえでは疑問文と同じ語順でいいのです。発音するときは、語尾を下げます。

Geben Sie Gedankenfreiheit!
ーベン  ズィー ゲンケン・フイハイト
思想の自由をお与えください。

 これはフリードリヒ・シラー(Friedrich Schiller: 1759-1805)の戯曲『ドン・カルロス(Don Karlos)』(1787)にある有名な台詞です。主人公の友であるポーザ侯爵が、スペイン王フェリペ2世に向かって、人民に寛容であれという願いを込めて言う台詞です。この戯曲をもとに、後にジュゼッペ・ヴェルディがオペラ『ドン・カルロ』(1867)を作曲しています。


▲オペラ『ドン・カルロ』

 なお、Sie に対する命令形では、sein 動詞は例外的なかたちをとります。これは後で du や ihr の場合と一緒にまとめて説明します。

2.du に対する命令やお願いの表現

 Sie に対する命令文は疑問文と同じなので覚えやすいのですが、注意が必要なのは du に対する命令やお願いの場合です。冒頭の文で、„komm“と„mache“という言葉が動詞であることに気づいたでしょうか。kommen「来る」と machen「する、作る」の語幹部分(machen では -e がついていますが)ですね。そして du という主語がありません。そう、duに対する命令やお願いの表現では、主語を省略して、動詞を文頭に置くのです。これは文法的には、一種の強調として文のはじめの位置(Ⅰ)を空ける、と考えます。

I II
Komm !
Mache die Bäume wieder grün!

 語尾に -e を付けるのは、主に arbeiten や finden のように、主語が du のときに口調を整える -e- を入れる動詞の場合(du arbeitest、 du findest)です。

 ひとつ例を紹介します。中世から続く修道会のベネディクト派のモットー「祈り、そして働け」は、もとのラテン語では„Ora et labora!“です。これをドイツ語にすると、次のようになります。

Bete und arbeite!
ーテ  ント ァバイテ

ドイツの教会の紋章 Bete und arbeite
▲ドイツのある教会の紋章 *1

 動詞は beten「祈る」と arbeiten「働く」です。語幹がともに -t で終わっているため、du が主語のときに口調を整える -e- を入れるタイプの動詞ですね。そのため、du への命令の表現では、どちらにも -e 語尾がついています。

 なお、冒頭の詩「五月よ、来い」では、規則変化する動詞 machen が mache! というかたちになっています。machen が du machst という語尾変化をすることから考えると、-e は不要なはずです。しかし、古いドイツ語では、規則変化動詞の du に対する命令形には基本的に -e がつくことになっていました。ご紹介した歌詞は18世紀に書かれたものなので、mache! となっているのです。現代ドイツ語では mach! が普通になっています。

3.du の場合での例外―― e → i/ie 型の動詞(第14課参照)

 さて、du に対する命令やお願い表現において、気をつけたい動詞があります。それは、helfen「手伝う、手助けする」などのように、du hilfst, er/sie/es hilft と変音する動詞(e → i 型)、そして sehen「見る」などのように、du siehst, er/sie/es sieht と変音する動詞(e → ie 型)です。これらの動詞では、du に対する命令やお願いの表現でも、„hilf!“や„sieh!“のように、やはり変音するのです。なお、ihr や Sie に対する文では変音しません。

 ドイツの諺に次のようなものがあります。

Hilf dir selbst, so hilft dir Gott.
ルフ ディーア ゼルプスト ゾー ルフト ディーア 
汝自らを助けよ、さすれば汝を神が助ける(天は自ら助くる者を助く)。

 不規則変化動詞には、他に a → ä 型の動詞もあります。例えば schlafen「眠る」などがそうです。こちらのタイプの動詞は、du への命令では変音しません。シューベルトの子守歌(「眠れ、眠れ、母の胸に」)は、次のように始まります。

Schlafe, schlafe, holder süßer Knabe [...]
シューフェ  シューフェ  ルダー  ズューサー クーベ
眠れ、眠れ、愛しいかわいい男の子よ

4.ihr に対する命令やお願いの表現

 「君たち」を意味する ihr に対しての命令やお願いの表現は、du の場合と同じく主語は省略し、動詞の語幹に -t をつけて作ります。前述の表現を、ihr に対する命令文に言い換えると、

I II
Kommt !
Macht die Bäume wieder grün!

となります。

 ihr に対する命令やお願い表現で有名なのは、次のフレーズです。

Proletarier aller Länder, vereinigt euch! (Marx/Engels)
プロレーリアー  ラー ンダー   フェァイニヒト イヒ
万国のプロレタリアよ、ひとつになれ!

1901年のドイツのポスター
▲1901年のドイツのポスター

 カール・マルクス(Karl Marx: 1818-1883)とフリードリヒ・エンゲルス(Friedrich Engels: 1820-1895)の共著とされる『共産党宣言(Manifest der Kommunistischen Partei)』(1848)の全文を締める最後の言葉です。

 このフレーズの前半、der Proletarier「プロレタリア(無産階級の労働者)」は、複数も同じかたちですので、ここは「プロレタリアたちよ」という意味です。aller Länder が「すべての国々の」という2格(Genitiv)です。2格は後ろから名詞を修飾するのでしたね。

 動詞 vereinigen は、「ひとつにする、まとめる」という意味です。ここでは、英語の oneself に相当する再帰代名詞(主語と同じ人/ものを指す代名詞)の euch と使われて、「(君たち自らを)ひとつにせよ、ひとつになれ」という意味になっています。

5.sein 動詞の場合

 命令やお願いの表現のなかで、例外的な変化をするのが sein 動詞です。

[duに対して] Sei ruhig! 落ち着きなさい!
ーイヒ
[ihrに対して] Seid ruhig!
イト
[Sieに対して] Seien Sie ruhig!
イエン

 例外的な変化をするとはいえ、このように sein 動詞でも、語幹部分と言える sei が基本となっていることがわかります。実は du に対する上の文は、第15課で取り上げたゲーテの「魔王」で、父親が不安がっている息子に対して言う言葉でもあります。

Sei ruhig, bleibe ruhig, mein Kind, [...]
イ ーイヒ  ブイベ  ーイヒ  イン  ント
落ち着いて、落ち着いたままでいるのだ、わが子よ[…]

 また、やはり以前登場したシラーの「歓喜に寄せて」の一節にも、sein 動詞の ihr に対する命令やお願いのかたちが使われています。それが以下です。

Seid umschlungen, Millionen,
イト ウムシュンゲン     ミリーネン
Diesen Kuss der ganzen Welt!
ディーゼン ス   デァ  ンツェン  ヴェルト
抱かれてあれ、幾百万の人々よ、
この口づけを世界全体に!

 umschlungen は、動詞 umschlingen「抱く」の過去分詞で、「抱かれた」という受動を意味しています。「抱かれてあれ」という日本語は据わりが悪く、とりあえず「抱き合おう」と訳せばいくらか分かりやすくなります。ただし、「抱く」主体に「幾百万の人々」以外の、例えば神的な存在も含まれていると考えると、「抱き合おう」は不正確な訳ということになります。翻訳というのは、いつでも悩ましいものです…。

6.「聞け!」という名の自動車

 最後に、命令形が語源の自動車メーカーを紹介します。皆さんは、アウディ(Audi)というドイツ車を知っているかと思います。このアウディ社を創業したのは、アウグスト・ホルヒ(August Horch: 1868-1951)です。この Horch という名前は、horchen[ァヒェン]「耳を澄ます」という動詞の du に対する命令形„Horch!“と同じかたちですね。実は、これをラテン語に訳したのが„Audi“なのです。


アウディのロゴ
▲アウディのロゴ

 ラテン語に audire「聞く」という動詞があります。この audire の2人称単数に対する命令形が„audi!“です。脱線すると、この動詞を使った「私は聞く」が„audio“で、英語から入って日本語にもなっている「オーディオ」の語源です。さらに脱線すると、video はラテン語 videre の1人称現在のかたちで、「私は見る」を意味するのです。それはさておき、ホルヒさんは、自分の名前を外国語にして、会社と自動車の名前にしたのです。そういえば、日本にも、創業者の姓を英語にしたタイヤメーカーがありますね。




練習

 次の文を日本語にしてみましょう。

1. Bilde, Künstler, Rede nicht!
ルデ   キュンストラー  ーデ  ヒト
【ヒント】bilden: 形作る der Künstler: 芸術家 reden: 語る nicht: 〜ない

 

2. Stirb und werde!
シュティァプ ント ヴェァデ
【ヒント】sterben: 死ぬ werden: なる

 

3. Lebt wohl, Genossen!
ープト ヴォール ゲセン
【ヒント】wohl leben: 元気で暮らす der Genosse, -n: 同志

 

4. Seien Sie unser Gast! (ホテルのパンフレットなどで)
イエン ズィー ンザー スト
【ヒント】unser: 私たちの der Gast: 客

 




まとめ

 一般的な命令・お願いのかたち

[duに対して] Lern Deutsch! ドイツ語を学べ!
ァン イチュ
[ihrに対して] Lernt Deutsch!
ァント
[Sieに対して] Lernen Sie Deutsch!
ァネン


ドイツ文化ひとこと

 モーツァルトの歌曲として有名な「五月よ、来い」の詩を書いたのは、北ドイツ、ハンザ都市として知られるリューベックの市長を務めた経験をもつ詩人クリスティアン・アドルフ・オーファーベック(Christian Adolph Overbeck: 1755-1821)です。初出は1776年で、「五月を思うフリッツヒェン(Fritzchen an den May)」というタイトルでした。当初から人気が高く、5年のあいだに3曲ほど曲が付けられています。冬のあいだ、部屋で母親に勉強をさせられる小さな男の子フリッツくんが、遊び友だちの女の子と遊びたいと思いながら春を待つ、というのが当初の歌詞でした。


クリスティアン・アドルフ・オーファーベック Christian Adolph Overbeck
▲クリスティアン・アドルフ・オーファーベック

 しかし、勉強させる親を悪く言うことや(die Mama ist strenge「ママは厳しい」)、異性に思いを寄せることが、当時の教育思想にはそぐわなかったようで、1781年に作曲されたライヒャルト(Johann Friedrich Reichardt: 1752-1814)の曲の歌詞では、そうした要素が削除されています。フリッツくんが狭い部屋のなかで退屈しているユーモラスな感じはなくなって、純粋に春を待つ歌になりました。タイトルもお上品な「春への憧れ(Sehnsucht nach dem Frühlinge)」に変わります。

 そして同じタイトルを持つモーツァルトの曲は、彼の死の年である1791年に出版されました(KV 596)。これが広く歌われるようになり、「民謡(Volkslied)」とまでみなされるようになります。歌詞は、ライヒャルトが使ったものとほぼ同じです。この曲の旋律は、同時期に書かれた最後のピアノ協奏曲(いわゆる第27番、KV 595)の最終楽章でも使われています。最晩年の澄み切ったメロディーには心慰められます。

▲モーツァルト「ピアノ協奏曲第27番」

 なお、ローベルト・シューマン(Robert Schumann: 1810-1856)も、この詩を題材に「五月の歌(Mailied)」(1849)を作曲しています。これはこれでいい曲なのですが、残念ながらこちらはそれほど知られていません。よかったら、D・フィッシャー=ディースカウとP・シュライアーのデュエットを聴いてみてください。

▲シューマン「五月の歌(Mailied)」



*1 By Manfred Kuzel (Own work) [CC BY-SA 3.0 at], via Wikimedia Commons

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矢羽々 崇(やはば・たかし) ■ 執筆者プロフィール

1962年岩手県盛岡市生まれ。ミュンヘン大学マギスター(修士)、上智大学博士(文学)取得。獨協大学外国語学部ドイツ語学科教授。専門は近現代ドイツ文学(主に叙情詩)。著書は、『「歓喜に寄せて」の物語――シラーの詩とベートーヴェンの「第九」』(2007年)ほか多数。2000~2002年度および2007年度に「ラジオドイツ語講座」講師、2008~2010年度「テレビでドイツ語」講師を担当。






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