研究社
研究社 会社案内 採用情報 サイトマップ 書店様向け 教育現場向け

研究社 WEB マガジン Lingua リンガ


読んで味わう ドイツ語文法

22

分離動詞・非分離動詞

Ein Gespenst geht um in Europa,
イン ゲシュンスト  ート  ム ン オイーパ
das Gespenst des Kommunismus.
ダス  ゲシュンスト   デス  コムスムス
ある亡霊がヨーロッパを徘徊している、
共産主義という亡霊が。


カール・マルクス
▲カール・マルクス

1.分離動詞とは

 前の課で、カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスの『共産党宣言(Manifest der kommunistischen Partei)』最後の言葉を紹介しました。この課では、その冒頭の言葉を紹介します。

『共産党宣言』初版(1848)扉
▲『共産党宣言』初版(1848)扉

 ここで„geht um“と出ているのが、ドイツ語で「分離動詞」と呼ばれるものです。英語でも、go という動詞が、go ongo out のように、前置詞や副詞などに由来する言葉とセットになって熟語となりますね。これに相当するのが分離動詞です。geht um の不定形(辞書に出ているかたちで、主語や時制によって定まっていない動詞のかたち)は、umgehen です。この不定形は、um という「前つづり」と gehen という動詞本体から成り立っています。アクセントは前つづりにあります。辞書には、前つづりと動詞本体の間に分離線を入れて、um|gehen のように記してあります。

 分離動詞はたくさんあります。例えば wieder|sehen[ヴィーダー・ゼーエン]「再会する」、mit|kommen[ト・コメン]「一緒に来る」などは、前つづりの意味(wieder「再び」、mit「ともに」)と動詞の繋がりがわかりやすいですね。他方で、nach|sehen[ハ・ゼーエン]「調べる」(nach「後で」)や unter|kommen[ンター・コメン]「宿を見つける」(unter「下に」)といった分離動詞のように、前つづりと動詞の意味を単純に足した意味とは異なるものも数多くあります。

2.分離動詞の文

 実は、冒頭の文は、文法的にはちょっと破格な文です。なので、説明が面倒なのですが、やってみましょう。まず、「ヨーロッパを徘徊する(こと)」という不定句は、

in Europa umgehen
ン オイーパ ムゲーエン

です。これに主語 ein Gespenst「ある亡霊が」が入ると、動詞の本体部分である gehen が人称変化して geht となり、Ⅱの位置に入ります。それに対して、前つづりの um は文末に残されたままとなります。冒頭の文を教科書的に書くと次のようになります。

I II 文末
Ein Gespenst geht in Europa um.

 文末に前つづりが残って、他の文要素(ここでは„in Europa“)をサンドイッチにするのが、ドイツ語の分離動詞の大きな特徴です。これは、不定形がやはり文末に残る助動詞の文の場合と同じしくみです。

 しかし、冒頭のオリジナルの文では、in Europa という文要素がサンドイッチの外側に、「枠外配置」されています。これは、umgehen「徘徊する、歩きまわる」を強調するための文学的な修辞と考えてください。

 否定文や疑問文、命令・お願いの文でも、分離動詞の前つづりは文末に位置します。

I II 文末
否定文 Das Gespenst geht nicht im Nordpol um.
ダス ゲシュンスト ート   ニヒト ム ァト・ール
その亡霊は北極では徘徊していない。
決定疑問文 Geht das Gespenst in Asien um?
ーズィエン
その亡霊はアジアで徘徊している?
W疑問文 Wo geht das Gespenst jetzt um?
ヴォ
その亡霊は今どこで徘徊している?

 注意が必要なのは、助動詞と一緒に使う場合です。助動詞は不定形の動詞と使うのが決まりなので、分離していない不定形が文末に位置するのです。

I II 文末
助動詞 Das Gespenst will nicht im Südpol umgehen.
ヴィ ズュート・ール
その亡霊は南極では徘徊しようとはしない。

 なんだかマヌケな例文を並べてしまいましたが、文のかたちは理解してもらえるかと思います。

3.「バタフライ効果」と分離動詞

 助動詞を使った分離動詞の文としては、ドイツでテレビなどのキャンペーンで使われていたフレーズが思い浮かびました。

Ein Schmetterling kann einen Taifun auslösen.
イン シュターリング      アイネン タイーン オス・レーゼン
一匹の蝶が台風を引き起こすことがある。

 これはバタフライ効果と呼ばれる、小さな変化が大きな変動を引き起こす可能性を表現した文です。2005年から翌年にかけて、さまざまなメディアで、„Du bist Deutschland“「君こそドイツだ」というキャンペーンが実施されました。ドイツ人を勇気づけ、意欲を高めることが目的で、そのキャンペーン内で上のフレーズが使われていました。ひょっとすると、分離動詞の前つづりが離れたり、くっついたりするだけで、台風が起きるのかもしれません。となると、台風はドイツ語の分離動詞のせいで起きる?

バタフライ効果
▲バタフライ効果を戯画化したイラスト *1

4.分離動詞の前つづりのさまざま

 分離する前つづりは、主に前置詞や副詞、あるいは名詞や形容詞がもとになっています。いくつか紹介しましょう。前置詞の場合は、すでにいくつか見てきました。um|gehen の um「〜のまわりに」がそうです。

 副詞の場合では、wieder[ヴィーダー]「再び」とならんで、weg[ヴェク]「去って」が代表例でしょうか。weg|gehen「立ち去る」のような分離動詞があります。

Der Freund geht ohne Abschied weg.
ァ  フイント  ート  ーネ  プシート    ヴェ
友は別れの挨拶なしに去って行く。

 名詞の例としては、der Teil[イル]「部分」が前つづり化した teil|nehmen「参加する」という分離動詞が挙げられます。

Im Sommer nehme ich an einem Sprachkurs teil.
ム  マー     ーメ   ヒ  ン イネム  シュプハ・クァス  イル
夏に私は語学講座に参加する。

 形容詞の場合では、fern[フェァン]「遠い」と sehen「見る」がくっついた fern|sehen「テレビを見る」という動詞があります。これは、television のドイツ語への直訳です。tele- はギリシア語を語源としていて、「遠い」を意味しています。また、vision はラテン語の「見る」を意味する動詞 videre の名詞形 visio が語源です。

Meine Kinder sehen jeden Tag fern.
イネ    ンダー   ーエン イェーデン ーク フェァン
私の子どもたちは毎日テレビを見る。

 このように、分離動詞の前つづりは、独立して文の中で使える語です。この点は、6で説明する非分離動詞の前つづりとの大きな違いです。

5.downloaden「ダウンロードする」は分離動詞?

 最近のドイツ語では、グローバル化が進んで外来語の数が増えたためか、元言語をそのままを取り入れることも多くなりました。skypen[スイペン]「スカイプする」、googeln[ーゲルン]「グーグル検索する」などが思い浮かびます。

 コンピュータ用語の動詞 download も同様に、当初は downloaden という、動詞であることを表す語尾 -en がついただけのかたちでドイツ語になっていました。面白かったのは、この動詞について、down を前つづりとする分離動詞とみなすべきか否かの議論があったことです。「私はそれをダウンロードする」は、分離動詞なら、„Ich loade es down.“ですし、そうでないのであれば、„Ich downloade es.“となるわけです(ドイツ語辞書として定評ある Duden の辞書では分離動詞扱い)。いずれにしても、ドイツ語として座りの悪い感じは否めません。英語の down がそのまま「前つづり」というのが、明らかにヘンなのです。

 しかし、まもなく herunter|laden[ヘンター・ラーデン]ときれいにドイツ語になった分離動詞が登場して、広く使われるようになりました。英語の down に対応している herunter は、「(自分のほうに向かって)下へ」を意味しています。unter は「下に」という意味の前置詞でしたね。her- は、「自分に向かって」というニュアンスを伝える副詞に由来しています。動詞 laden は英語の load に対応しており、「積む」という意味です。この動詞を使うと、「私はそのデータ(複数)をダウンロードする」は、

Ich lade die Daten herunter.
ヒ  ーデ  ディ  ーテン  ヘンター

と表現でき、自然なドイツ語です。いくら英語由来の言葉が増えても、ドイツ語らしさは、こうしたかたちで継承されていくのでしょう。

6.非分離動詞

 分離動詞がある一方で、非分離動詞というのも存在します。非分離動詞は、非分離の前つづりがついた動詞で、こちらはどんなことがあっても、動詞本体から絶対に分離しません。

 例えば、第16課で、 Vergissmeinnicht「わすれな草」を紹介しました。ここには、vergessen[フェアセン]「忘れる」という動詞の命令形が含まれていますね。この動詞の ver- が非分離の前つづりなのです。

Ich vergesse dich nicht!
ヒ  フェァセ    ディヒ ヒト
君のことは忘れないよ!

 他の非分離の前つづりをいくつか紹介します。

be- besuchen 「訪ねる」 など
ーヘン
ent- entdecken 「発見する」 など
エントケン
er- erwarten 「期待する」 など
エァヴァァテン
ge- gehören 「属する」 など
ーレン
zer- zerstören 「破壊する」 など
ツェァシューレン

 非分離動詞の特徴は、アクセントが動詞本体にあることです。これに対して分離動詞は、前つづりにアクセントがあります。また、非分離動詞の前つづりは、その大半が、それ自体で文のなかで意味を持って使われる語ではなく、あくまで他の語と結びついたかたちで登場します。一方、分離動詞の前つづりは、前置詞などに由来していて、独立して文に登場することができます。

 つまり、分離動詞か非分離動詞かを見分けるポイントは、第1に、発音で前つづりにアクセントがあるのかどうか、第2に、前つづりが文中で独立して使える語かどうか、の2点となります。

 厳密に言うと、wieder- のように両方のタイプで使われるものもあります。wieder|sehen[ヴィーダー・ゼーエン]「再会する」は分離動詞で、wiederholen[ヴィーダーーレン]「繰り返す」は非分離動詞です。しかし、こうした種類の前つづりは数が限られていますので、中級以上でしっかり区別できればいいでしょう。




練習

 分離動詞を使って、ドイツ語で言ってみましょう。

1. 私は毎日テレビを見る。(ich / jeden Tag / fern|sehen)

 

2. あなたは毎晩テレビを見ますか? (Sie / jeden Abend)

 

3. 彼は(er)あした一緒に来ます。 (er / morgen / mit|kommen)

 

4. 彼女はいつ一緒に来ますか? (sie / wann)

 




まとめ

 分離動詞は、分離可能な「前つづり」と「動詞本体」から成り立っています。アクセントは前つづりにあります。

 平叙文などでは、分離動詞の「前つづり」は文末に位置します。

 非分離動詞では、「前つづり」は常に動詞と一体で分離しません。アクセントは動詞本体にあります。



*1 By Drdpw (Own work) [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons

第21課
第23課


矢羽々 崇(やはば・たかし) ■ 執筆者プロフィール

1962年岩手県盛岡市生まれ。ミュンヘン大学マギスター(修士)、上智大学博士(文学)取得。獨協大学外国語学部ドイツ語学科教授。専門は近現代ドイツ文学(主に叙情詩)。著書は、『「歓喜に寄せて」の物語――シラーの詩とベートーヴェンの「第九」』(2007年)ほか多数。2000~2002年度および2007年度に「ラジオドイツ語講座」講師、2008~2010年度「テレビでドイツ語」講師を担当。






▲ページトップに戻る

複写について プライバシーポリシー お問い合わせ

Copyright(C)Kenkyusha Co., Ltd. All Rights Reserved.