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読んで味わう ドイツ語文法

23

再帰代名詞、再帰動詞

Vater schieß zu, ich fürcht' mich nicht.
ファーター ース   ー  ヒ フュァヒト  ヒ   ヒト
父さん、撃って、僕は怖くない。


ヴィルヘルム・テルの像を描いた絵画(1896)
▲ヴィルヘルム・テルの像を描いた絵画(1896)

1.伝説上の人物テル

 冒頭の文は、これまで何度か名前の出てきたフリードリヒ・シラー(Friedrich Schiller: 1759-1805)の戯曲『ヴィルヘルム・テル』(1804)の一節です。猟師テルは、代官ゲスラーの悪政に逆らったことで、捕まってしまいます。ゲスラーは、解放の条件として、息子の頭に置いたりんごを射るように命じます。その緊迫した場面での息子の台詞が、冒頭の文です。

 テルはみごとにりんごを射落とします。けれども、二の矢を手にしていたことを咎められたテルは、失敗した場合にはゲスラーを射るつもりであったことを告げ、そのために再び囚われの身に。しかし、移送中の船から脱出して、後にゲスラーを射殺するに至ります。

 ヴィルヘルム・テルは、伝説上の人物だとされています。しかし、15世紀後半には記録に登場し、16世紀には広く知られるようになっていきます。現に、テルにまつわる記念碑は、16世前半には作られ始めているのです。彼は、スイス独立を象徴する人物になりました。

 特に「ドイツ人」シラーの描き出したテルは、スイス人によって熱狂的に受け入れられました。例えば、スイスの都市アルトドルフでは1899年以来、シラーの戯曲『ヴィルヘルム・テル』が毎年夏に上演されています。全世界的に見ても、シラーの作品は、テル、ひいてはスイスのイメージを形作ったと言えるでしょう。

 なお、リンゴを射る場面は、もともとは13世紀前半に成立したデンマークの伝説に基づいていることが確認されています。この伝説でも、射手は二の矢を手にしており、失敗した場合には命令者を射殺す意図があったことが語られています。

2.再帰代名詞

 さて、冒頭の文の前半は、zu・schießen「(狙って)撃つ」という分離動詞を使ったduに対する命令形です。本課の眼目となるのは後半部、

ich fürcht(e) mich nicht
ヒ フュァヒテ    ヒ   ヒト
僕は怖くない

という文です。ich という主語があるのに、さらに mich という ich の4格(Akkusativ)のかたちもあります。このような、主語と同じ人・ものを指す代名詞のことを「再帰代名詞」と言います。英語のoneselfにあたる言葉です。

 1人称 ich と2人称 du/ihr の再帰代名詞は、すでに登場した人称代名詞と同じかたちです。それに対し、3人称の単数 er/sie/es と複数 sie、さらに2人称 Sie(歴史的には3人称複数の sie から生じました)の再帰代名詞は、すべて sich となります(「まとめ」の表を参照してください)。なお、再帰代名詞が辞書で示される場合は、sich のかたちで代表されます。

 この sich というかたちが必要になるのは、3人称の場合には次の2つの場合を区別する必要があるからです。

Die Königin betrachtet sie im Spiegel.
ディ  ーニギン  ベトハテト   ズィー イム シューゲル
女王は(自分とは別の)彼女を鏡の中で眺める。
Die Königin betrachtet sich im Spiegel.
ディ  ーニギン  ベトハテト   ズィヒ イム シューゲル
女王は自分を鏡の中で眺める。

女王は自分を鏡の中で眺める
▲女王は自分を鏡の中で眺める

上の文の sie は「彼女を」を表す人称代名詞で、この場合には主語の女王とは別の女性を指します。一方、下の文の再帰代名詞 sich は、主語と同じ人(=女王)を指しているので、「自分を」という意味になるのです。

3.再帰的な動詞表現

 fürchten という他動詞(4格の目的語を取る動詞)は、もともとは「怖れる、こわがる」という意味です。

ich fürchte es

という文だと、「私はそれを怖れる」という意味になります。これはどちらかというと、客観的な表現です。しかし、冒頭で挙げた ich fürchte mich という文のように、再帰代名詞とセットで使うと、内面的な心の動きがより強調された表現となります。英語では、再帰代名詞とセットになった動詞表現=再帰動詞はそれほど多くないように思います。私が学校で習った表現で覚えているのは、enjoy oneself くらいでしょうか。ところがドイツ語では、この再帰動詞が非常に多いのです。特に感情表現で多いように思います。例えば、

Ich freue mich.
ヒ フイエ  
嬉しい(楽しみだ)。
Wir ärgern uns.
ヴィーァ ァガーン ンス
私たちは怒っている。

のような表現があります。これは、freuen「喜ばせる」、ärgern「怒らせる」といった他動詞が、「自分が自分を〜させる」、すなわち「〜している」という意味で用いられています。

 こうした動詞は、自分を喜ばせたり、怒らせたりするもの、つまり感情を動かすもとになるものを主語に置くこともできます。例えば、次のような表現です。

Ihr Besuch freut mich sehr!
ーァ ベーフ  フイト ヒ   ーァ
あなたの訪問が私をとても喜ばせる → 訪問していただいて、とても嬉しいです!

 以上のように、感情を表す文において、感情のもととなるものが主語になって一種の使役的な表現となったり、あるいは再帰的な表現となったりすることには、おそらくドイツ語を話す人びとの基本的な生き方や考え方の土台が覗いているように思います。私自身、うまく説明できないのですが、ドイツ語には、感情が基本的に受動のものだという発想があるように思えるのです。そして、「自分が自分を〜する」という再帰的表現では、自分の感情や思想を見つめ直そうとする姿勢があるように感じられます。はっきりとしたことが言えないのが忸怩たるところですが、これはさらに考えてみたい問題です。

4.再帰動詞

 上で挙げたような、他動詞としても使える動詞とは別に、再帰動詞としての使い方しかない、本来の意味での再帰動詞もあります。例えば、ゲーテの戯曲『トルクァート・タッソー(Torquato Tasso)』(1790)に次の台詞があります。

Doch ein gekränktes Herz erholt sich schwer.
ホ   イン ゲクンクテス   ァツ エァールト ズィヒ シュヴェーァ
しかし、傷ついた心はなかなか癒やされるものではない。

 この文の erholen という動詞は、必ず sich とセットになって再帰動詞として使われ、「回復する、癒やされる」を意味します。

 『解放されたエルサレム』(1575)などで知られるイタリアの詩人タッソー(1544-1595)は、傷つきやすい敏感な精神の持ち主だったようです。上はそんな詩人の心を描いた文です。同時に、ヴァイマルの宮廷での人間関係に苦しむ、詩人ゲーテの内面の言葉のようにも読めてしまいます。

トルクァート・タッソー
▲トルクァート・タッソー

5.相互代名詞的に

 再帰代名詞は、ときとして「お互いに」という意味で使われる場合があります。日常の会話でいうと、例えば新しく知り合った人との別れの場面で、

Wir mailen uns.
ヴィーァ イレン ンス
メールしあおうね(←私たちはお互いにメールする)。

と言ったりします。また、ドイツには次のような諺があります。

Wenn zwei sich streiten, freut sich der Dritte.
ヴェン  ツヴァズィヒ シュトイテン フイト ズィヒ デァ ド
二人が争うと、三番目の者が喜ぶ。(漁夫の利。)

 wenn は「〜すると」という意味の接続詞です。zwei が主語で「二人が」の意味です。続く sich が「お互いに」を表しています。

 主文では、主語が der Dritte「第三の人物」です。sich freuen は「喜ぶ」という意味でしたね。wenn のような副文、英語でいう従属節の場合、語順が少々複雑になります。これについては、後の第29課で触れる予定です。




練習

 次の文を日本語にしてみましょう。

1. Und sie [= die Erde] bewegt sich doch! (G. Gallilei)
ウント ズィー    ディ  ァデ  ベヴェークト ズィヒ 
【ヒント】die Erde: 地球  sich bewegen: 動く  doch: それでも

 

2. Da streiten sich die Leut' herum,
ー シュトイテン ズィヒ ディ イト ヘ
Oft um den Wert des Glücks. („Hobellied“)
フト ム デン  ヴェーアト デス グリュクス
【ヒント】da: そこで sich streiten:(互いに)争う die Leut" = die Leute: 人々(これが主語) herum: あれこれと oft: しばしば um den Wert des Glücks: 幸福の価値をめぐって

 

3. Man hat nur Angst, wenn man mit sich selber
ン  ト  ーァ ングスト  ヴェン  ン  ト  ズィヒ ルバー
nicht einig ist. (H. Hesse)
ヒト  イニヒ スト
【ヒント】man: 人/人々は Angst haben: 不安だ、怖い nur: ただ wenn: ~ならば mit ...3 einig sein: ~と一致している、折り合いがついている selber: 自身

 




まとめ

 再帰代名詞は、3人称と2人称 Sie で sich となります。

ich
du
er/sie/es
wir
ihr
sie
Sie
4格(Akk.)
mich
dich
sich
uns
euch
sich
sich
3格(Dat.)
mir
dir
sich
uns
euch
sich
sich

 再帰動詞は、ドイツ語で広く使われる表現です。再帰代名詞は省略できないので、忘れずに入れましょう。



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矢羽々 崇(やはば・たかし) ■ 執筆者プロフィール

1962年岩手県盛岡市生まれ。ミュンヘン大学マギスター(修士)、上智大学博士(文学)取得。獨協大学外国語学部ドイツ語学科教授。専門は近現代ドイツ文学(主に叙情詩)。著書は、『「歓喜に寄せて」の物語――シラーの詩とベートーヴェンの「第九」』(2007年)ほか多数。2000~2002年度および2007年度に「ラジオドイツ語講座」講師、2008~2010年度「テレビでドイツ語」講師を担当。






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