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読んで味わう ドイツ語文法

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動詞の三基本形

München leuchtete.
ミュンヒェン   イヒテテ
ミュンヘンは輝いていた。


トーマス・マン(1900年頃)
▲トーマス・マン(1900年頃) *1

1.芸術の街ミュンヘン

 トーマス・マン(Thomas Mann: 1875-1955)には、ラテン語のタイトルのついた短編小説「神の剣(Gladius Dei)」(1902)があります。上に挙げた文は、その冒頭にある非常に有名な言葉です。leuchtete は leuchten[イヒテン]という動詞の過去形です。

 19世紀末から20世紀初頭にかけて、ミュンヘンは芸術都市としてドイツ随一と讃えられていました。19世紀にバイエルンの国王であったルートヴィヒ1世(1786-1868)も、ノイシュヴァンシュタイン城で有名なルートヴィヒ2世(1845-1886)も、芸術を奨励しました。その結果、ミュンヘンは「イーザル河畔のアテネ(Athen an der Isar)」となっていったのです。

 脱線ですが、ドイツ語では川や山などの固有名詞にも性があります。イーザル川は die Isar と女性ですし、イーザル川が合流するドナウ川も die Donau と女性で、「母なるドナウ」と呼ばれます。これに対してライン川は der Rhein と男性で、「父なるライン」と呼ばれます。山では、ドイツ最高峰のツークシュピッツェが die Zugspitze と女性、オーストリア最高峰のグロースグロックナーが der Großglockner と男性、スイスの有名なマッターホルンが das Matterhorn と中性です。ああ大変…。なお、日本の川や山を言うときは、普通名詞の川が der Fluss[フス]、山が der Berg[ァク]と、ともに男性なので、富士山なら der (Berg) Fuji、墨田川なら der (Fluss) Sumida と男性にします。

 さて、冒頭の文章は、実際に目や耳にするドイツ語としては、

München leuchtet.
ミュンヒェン  イヒテト
ミュンヘンは輝いている。

と現在形のかたちで引用されることが多いようです。ミュンヘンが独特の魅力を持って、今も輝いているためなのでしょう。この現在形の文を冠したメダルを、市はミュンヘンのために貢献した人物やグループに授与しています。

 トーマス・マンの作品を読むと、ミュンヘンの輝きはイロニー(die Ironie「皮肉、ひねり」)とともに語られています。しかし近年では、上の現在形のかたちで、イロニー抜きでミュンヘンのすばらしさを率直に讃える意味合いで用いられているようです。

 この短編小説の舞台は、Schellingstraße や Odeonsplatz など、ミュンヘン大学の周辺です。Schellingstraße には、近現代ドイツ文学の学科が入っている建物があり、私にとっては通い慣れた道でした。通りにはスーパーや個人商店などはもちろん、人文学系の本を扱う新刊書店や古本屋があったりして、大学からの帰り道にはぶらぶらと道草気味に歩いたものです。

トーマス・マン(1900年頃)
▲Schellingstraße *2

 他にもこの通りには、1872年以来の長い歴史を誇り、詩人ライナー・マリア・リルケ(Rainer Maria Rilke: 1875-1926)や作家ベルトルト・ブレヒト(Bertolt Brecht: 1898-1956)などもお客だったカフェ、Schelling-Salon もあります。店のHPによると、アドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler: 1889-1945)もかつては常連で数年間通っていましたが、ツケを貯めこんで払おうとしなかったために、出入り禁止となったとか。タバコの煙がもうもうと立ちこめた空間で、ビリヤードや卓球を楽しむ人などもいる活気のあるカフェでした。今はどうなっているのでしょうか。また覗いてみたいものです。

トーマス・マン(1900年頃)
▲Schelling-Salon *3

 トーマス・マン自身が暮らした街ミュンヘンを舞台にした作品を読むと、私が1980年代後半に3年間学んで暮らした場所やその雰囲気が、今でも懐かしく思いだされます。なお、「神の剣」は、『トオマス・マン短篇集』(実吉捷郎訳、岩波文庫)で読むことができます。

2.規則変化動詞の三基本形

 昔(もう30年経った!)を思いだして、つい前ふりが長くなりましたが、本題に入りましょう。ドイツ語にしても、英語にしても、ヨーロッパの言語では、動詞の三つの基本のかたち(英語文法では「活用形」、ドイツ語文法では「三基本形」)、すなわち不定形・過去形・過去分詞が、動詞を使いこなすうえで基本となっていきます。

 そして、三基本形には規則変化と不規則変化があり、学習者にとって不規則変化を覚えていくのが大変なのも、ほぼすべてのヨーロッパ系言語で共通しています(さらには、よく使う動詞の多くが不規則変化なのも…)。

 まずは規則変化動詞の場合を見ていきましょう。

不定形 過去形 過去分詞
学ぶ lernen lernte gelernt
住む wohnen wohnte gewohnt

 語幹部分が変わらないのは、現在での人称変化と同じです。不定形の語尾が -en(もしくは-n)なのは、もうお馴染みですね。過去形は、語幹に -te をつけて、過去分詞は、語幹の前に ge- を、後に -t をつけます。

 また、冒頭の文にある leuchten のように、語幹が -d や -t で終わる場合には、口調を整える -e- を入れます。

輝く leuchten leuchtete geleuchtet
働く arbeiten arbeitete gearbeitet

3.注意が必要な三基本形

 三基本形のうち、注意が必要な変化をする動詞があります。それをチェックしましょう。なお、以下の(1)と(2)は不規則変化動詞にも当てはまります。(3)はすべて規則変化動詞です。

(1) 分離動詞の過去形は分離して表記し、過去分詞は ge を間に挟んで1語で表記する

開ける aufmachen machte ... auf aufgemacht
買い物する einkaufen kaufte ... ein eingekauft

(2) 非分離動詞の過去分詞では ge- をつけない

訪ねる besuchen besuchte besucht
発見する entdecken entdeckte entdeckt

(3) -ieren で終わる動詞は過去分詞では ge- をつけない

電話する telefonieren telefonierte telefoniert
起こる passieren passierte passiert

4.不規則変化動詞の三基本形

 不規則変化動詞ももちろんあって、sein「である」、haben「持つ」、werden「なる」や助動詞をはじめ、重要な動詞には不規則変化するものが多数あります。いくつか例を見てみましょう。

不定形 過去形 過去分詞
である sein war gewesen
イン ヴァーァ ヴェーゼン
持つ haben hatte gehabt
ーベン ープト
なる werden wurde geworden
ヴェァデン ァデ ヴォァデン
話す sprechen sprach gesprochen
シュプヒェン シュプ ゲシュプヘン
読む lesen las gelesen
ーゼン ース ーゼン
知っている wissen wusste gewusst
ヴィセン ステ スト
できる können konnte gekonnt
ネン ンテ ント

 全部は紹介できませんので、折を見て辞書などで変化をチェックしてみてください。不規則変化とは言っても、無茶苦茶に不規則というわけではないことは、上の例を見ても確認できるかと思います。例えば sprechen などを見ると分かるように、基本的には語幹のアクセントのある音節の子音は、過去形・過去分詞でも維持される場合が多いのです。ただし、sein では、例外的に語幹の子音も全く違う音に変わっています。それはこの動詞が、似た意味の3つの動詞がまとめられてできたためです。また、過去分詞では原則として ge- がつくのも、不規則変化動詞と共通しています(例外は非分離動詞の場合)。つまり、不規則変化動詞の三基本形で不規則な変化をしているのは、基本的には語幹の母音部分なのです。

5.三基本形の使い方

 「不定形」はこれまでも出てきましたね。例えば助動詞を使う文で文末に置かれたり、zu 不定句のかたちで登場しました。他にも、そのまま名詞化することがあります(中性名詞扱い)。ドイツの諺に、

Der Appetit kommt beim Essen.
    アペティート        イム  セン
食べて湧く食欲(→やって分かる面白さ)。

というのがあります(おおもとはフランスの作家フランソワ・ラブレーによる)。皆さんも経験があるかと思いますが、なんとなく食欲がなくても、食べ物を前にすると、あるいはひとくち口に入れてみると、食欲が出てくることがあります。こうした習性は、ほかのさまざまなことについても言えるわけです。beim は bei「〜のときに」という前置詞と定冠詞 dem(中性3格)の融合形です。das Essen が不定詞の名詞化で、「食事、食べること」を意味しています。

 「過去形」は、英語の場合と同様に、過去時制を作るときに使います。ただし、上に示したような過去形のかたちは、正確には「過去基本形」と言います。実はドイツ語では過去の時制でも人称変化があり、そうした変化の基本となるかたちという意味で、「過去基本形」という言い方になっているのです(ここでは「過去形」で通します)。本課冒頭の文がこの過去の形ですね。

 「過去分詞」は、完了形や受動形を作るときに使います。また過去分詞は、主に「〜された」という受動の意味で(ただし自動詞の場合には、「〜した」という完了の意味で)、形容詞的に使われます。

 ゲーテの悲劇『ファウスト』第1部(1808)では、少女グレートヒェンが、主人公ファウストとの間にできた子どもを殺したかどで捕らえられ、処刑されようとしています。彼女を救おうと、ファウストは悪魔メフィストフェレスとともにグレートヒェンの囚われた牢獄へと赴きます。しかし、グレートヒェンはファウストとともに逃げることを拒み、その様子を見たメフィストは次のように言います。

Sie ist gerichtet!
       ゲヒテト
彼女は裁かれたのだ!

すると、天上から声が聞こえます。

Ist gerettet!
   ゲテト
救われたのだ!

 gerichtet の不定形は richten[ヒテン]「裁く」、gerettet の不定形は retten[テン]「救う」です。文法的に見ると、sein と過去分詞で「状態受動」のかたちですが(受動については第36課で)、ここではシンプルに、過去分詞が受動的な意味の形容詞として使われていると考えてください。

 この場面のグレートヒェンの救済が、第2部での悪魔メフィストからのファウストの救済に繋がっていくのです。




まとめ

 三基本形は、「不定形」「過去形」「過去分詞」からなります。規則変化動詞では、過去形が -te、過去分詞が ge-...-t となります。

 不規則変化はひとつひとつ覚えましょう。これはヨーロッパ系言語を学ぶ際の宿命(?)です。



*1 By © H.-P.Haack (eigenes Foto, Antiquariat Dr. Haack Leipzig [1]) [CC BY 3.0], via Wikimedia Commons
*2 By Maximilian Dörrbecker (Chumwa) (Own work) [GFDL or CC-BY-SA-3.0], via Wikimedia Commons
*3 By Cholo Aleman (Own work) [CC BY-SA 3.0 or GFDL], via Wikimedia Commons

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矢羽々 崇(やはば・たかし) ■ 執筆者プロフィール

1962年岩手県盛岡市生まれ。ミュンヘン大学マギスター(修士)、上智大学博士(文学)取得。獨協大学外国語学部ドイツ語学科教授。専門は近現代ドイツ文学(主に叙情詩)。著書は、『「歓喜に寄せて」の物語――シラーの詩とベートーヴェンの「第九」』(2007年)ほか多数。2000~2002年度および2007年度に「ラジオドイツ語講座」講師、2008~2010年度「テレビでドイツ語」講師を担当。






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