研究社
研究社 会社案内 採用情報 サイトマップ 書店様向け 教育現場向け

研究社 WEB マガジン Lingua リンガ


読んで味わう ドイツ語文法

26

過去形

Es war einmal ein Müller, ...
   ヴァーァ インマール    ミュラー
昔むかしあるところに粉屋がいました…


「ルンペルシュティルツヒェン」挿絵
▲「ルンペルシュティルツヒェン」挿絵

1. 過去の表現 — 過去形と現在完了形

 過去のことを表現する場合、英語と同様に、ドイツ語にも過去形と現在完了形があります。しかし、英語とドイツ語では決定的な違いがあります。それは、日常的な会話において過去のことを言う場合には、現在完了形を使う、という点です。

 例えば、「きのうドイツ語を勉強した」と言いたい場合、英語では次のように過去形が用いられます。

I studied German yesterday.

 これに対してドイツ語では、過去形ではなくふつうに現在完了形を用いるのです。なので、英語の完了形が have+過去分詞なのと同様に、完了を表す助動詞である haben と過去分詞(ドイツ語では文末に置かれる。lernen の過去分詞は gelernt)で、

Ich habe gestern Deutsch gelernt.
         スターン  イチュ    ゲァント

と表現するのが、ドイツ語では普通なのです。ただし、過去形を使って同内容を表した文、

Ich lernte gestern Deutsch.

も、「正しい」ドイツ語です。とはいえ、日常会話ではほとんど耳にしません。

2.過去形を使う場面(1)

 それでは、ドイツ語の過去形はどういう場合に使うのでしょうか。ごく大雑把に言えるのは、過去形は小説などのような、モノローグ的な語りで使われるということです。特に、今の自分の視点や考えから切り離して、過ぎ去った完結した出来事として過去を語る場合に、過去形が用いられます。ですので、ドイツ語の小説やメルヒェンなどを読もうと思えば、過去形に馴染んでおく必要があります。

 グリムなどのメルヒェンでは、日本昔話の「昔むかしあるところに…」と同じような、パターン化された表現があります。例えば冒頭の文がそれで、グリム・メルヒェンの「ルンペルシュティルツヒェン(Rumpelstilzchen)」というお話の出だしです。

グリム兄弟
▲グリム兄弟

 この"Es war einmal ..."というパターンは、メルヒェンでよく見られます。文頭の es は、いわゆる形式主語で、実際の主語は ein Müller「ひとりの粉屋」です。war は sein の過去形ですね。過去形を用いることで、この話が今の自分たちには関係のない昔の話だよ、というニュアンスを出しているのです。

 小説でも、過去形はごく一般的に用いられます。例えばフリードリヒ・ニーチェ(Friedrich Nietzsche: 1844-1900)が書いた哲学的小説のタイトルは、

Also sprach Zarathustra.
ルゾー シュプーハ ツァラトゥストゥラ
このようにツァラトゥストラは言った。

です。このタイトルは、よく「ツァラトゥストラかく語りき」「ツァラトゥストラはこう言った」と訳されています。also という副詞は、ここでは so「こんなふうに」と同じ意味です。この文は、タイトルで使われているだけではなく、本文でも繰り返し出てきます。

Also sprach Zarathustra
▲Also sprach Zarathustra(初版扉)

3.過去形を使う場面(2)

 日常会話で過去形が使われる場面もあります。大きく分けて、次の2つです。

a) sein と haben、助動詞については過去形が好まれる

 これは、理由は不明なのですが、「傾向として」sein と haben、助動詞では、過去形の使用が多いのです。そのため、次の文のように、過去形と現在完了形が混じった文もごく普通に使われます。

Ich war müde, aber ich habe Deutsch gelernt.
        ミューデ  ーバー         イチュ   ゲァント
私は疲れていたが、ドイツ語を勉強した。

 ただし地域によっては、これらの動詞でも現在完了形が使われることがあります。

b) 昔と今を対比する表現では、昔のことを過去形で表現する

 「前はこうだった、今はこうだ」といった内容を表現する場合には、前の出来事は過去形で言います。このほうが、現在形と明確な対照をなしますね。「リリー・マルレーン(Lili Marleen)」という、第二次世界大戦中に広く歌われた歌がありますが、次のように始まります。

Vor der Kaserne 兵営の前の
フォァ    カァネ
Vor dem großen Tor 大きな門の前に
                ーァ
Stand eine Laterne 街灯が立っていた
シュント     ラァネ
Und steht sie noch davor. そして今もその前に立っている
シュート        ホ   ダフォ

 以前と今の様子を対比しているので、動詞 stehen が過去形と現在形で使われています。戦場にいる兵士が、恋人リリー・マルレーンのことを思いだしながら、また以前と同じようにそこで会いたいと願う郷愁の歌です。この歌は、ドイツ軍に限らず、連合軍、特に北アフリカのイギリス軍にも親しまれました。この歌については、機会があればぜひ詳しく触れたいと思います。

4.過去形の人称変化

 前の課でちょっと触れたように、ドイツ語の過去形には人称変化語尾があります。ただし、ich と er/sie/es では語尾がありません。ここまでに挙げた例文では、主語が ich か er/sie/es だったので、過去基本形がそのまま使われていました。過去形の人称変化を表にまとめると、次のようになります。規則変化動詞 lernen「学ぶ」の過去形を例に見てみましょう。

語尾 変化形 語尾 変化形
ich lernte wir -[e]n lernten
du -st lerntest ihr -t lerntet
er/sie/es lernte sie -[e]n lernten
Sie -[e]n lernten

 過去形では、ich と er/sie/es で語尾がない、他の人称の語尾は現在形の人称変化語尾と同じ、と覚えてください。このパターンは、実は助動詞の人称変化語尾(そして最後に学ぶ接続法の変化語尾)も同じです。

 ドイツ語で過去形が日常会話であまり使われない理由が、おそらくはこの語尾変化にあるような気がします。というのも、規則変化動詞では、ihr が主語の場合、過去形の語尾 -te にさらに -t を追加するので、発音しにくくなるのです。さらに、語幹が -t で終わる動詞、例えば arbeiten「働く」や leuchten「輝く」の場合、過去形で「君たちは働いた」、「君たちは輝いた」は、

Ihr arbeitetet. / Ihr leuchtetet.
    ァバイテテト        イヒテテト
私は疲れていたが、ドイツ語を勉強した。

と、実に発音しにくい変化形になってしまいます。これにはおそらくドイツ人もヘキエキして、過去形の代わりに完了形を使うようになったのではないか、というのがヤハバの臆見ですが、はてさて…。(どうぞ真に受けないでください。)



練習

 次の過去形の文を日本語にしてみましょう。

1. Ich kam, sah, siegte. (Caesar)
    ーム  ー  ズィークテ
【ヒント】kam ← kommen: 来る sah ← sehen: 見る siegte ← siegen: 勝つ

 

2. Herr: es ist Zeit.
ァ         ツァイト
Der Sommer war sehr groß. (Rainer Maria Rilke)
    マー         ーァ グース
【ヒント】Herr: es ist Zeit.: 主よ、時が来ました。 der Sommer: 夏 sehr: とても groß: 偉大な、大きい

 

3. Ich musste also das Wissen aufheben,
    ステ   ルゾー    ヴィセン  オフ・ヘーベン
um dem Glauben Platz zu machen. (Immanuel Kant)
         グオベン  プツ     ヘン
【ヒント】musste ← müssen: 〜しなければならない  also: それゆえ das Wissen: 知 aufheben: 棚上げにする um ... zu ~: 〜するために dem Glauben ← der Glaube: 信仰の3格 Platz machen: 場所を空ける、譲る

 



まとめ

 日常会話で過去の出来事を表現するときには、主に現在完了形が使われます。ただし、seinとhaben、助動詞については、過去形が好まれます。

 過去形は、主に物語や小説などで使われ、過ぎ去った出来事を自分と切り離して、客観的に描写するスタイルです。

 過去形にも、人称変化があります。



ドイツ文化ひとこと Rumpelstilzchen「ルンペルシュティルツヒェン」

「ルンペルシュティルツヒェン」挿絵
▲「ルンペルシュティルツヒェン」挿絵

 このグリム・メルヒェンでは、粉屋が自分の娘を王様と結婚させようとして、「娘には藁を金に変える力がある」と嘘をつきます。王様は、それが本当なら王妃に迎えようと約束して、娘を藁の部屋に閉じ込めます。藁を前にして娘は途方に暮れますが、そこにこびとが現れます。こびとは、娘が身に付けているネックレスや指輪、しまいにはこのあと産まれてくるであろう子どもを交換条件に、藁を金に換えてみせます。

 王との約束を果たした娘は王妃となり、子どもを出産しますが、そこに例のこびとが現れ、こどもを連れて行こうとします。涙を流して許しを乞う娘に対し、こびとは「3日以内に自分の名前を言い当てることができたら許してやろう」と条件を出します。そして3日後、偶然からこびとの名前を知った王妃は、子どもを連れ去ろうとやってきたこびとに Rumpelstilzchen という名を告げます。すると、こびとは、「悪魔がそれを言ったのだな」と言いながら、怒りのあまり自分の体をひき裂いてしまいます。

 子どもをめぐっての魔的存在との契約(「ラプンツェル」)、魔的存在と金(「ホレおばさん」)、名前の魔力(「大工と鬼六」、『千と千尋の神隠し』)といった、民話らしいモチーフが満載のお話です。




第25課
第27課


矢羽々 崇(やはば・たかし) ■ 執筆者プロフィール

1962年岩手県盛岡市生まれ。ミュンヘン大学マギスター(修士)、上智大学博士(文学)取得。獨協大学外国語学部ドイツ語学科教授。専門は近現代ドイツ文学(主に叙情詩)。著書は、『「歓喜に寄せて」の物語――シラーの詩とベートーヴェンの「第九」』(2007年)ほか多数。2000~2002年度および2007年度に「ラジオドイツ語講座」講師、2008~2010年度「テレビでドイツ語」講師を担当。






▲ページトップに戻る

複写について プライバシーポリシー お問い合わせ

Copyright(C)Kenkyusha Co., Ltd. All Rights Reserved.