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読んで味わう ドイツ語文法

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形容詞の語尾変化1

Stille Nacht, heilige Nacht!
シュティレ ハト   イリゲ
静かな夜、聖なる夜よ!


ヨーゼフ・モーア
▲ヨーゼフ・モーア *1

1.「きよしこの夜」

 „Stille Nacht, heilige Nacht“ はクリスマスの歌で、日本でも「きよしこの夜」のタイトルで広く知られています。読者のみなさんは、この歌がオーストリアで誕生したことを知っていましたか? 実はこの歌は、モーツァルト生誕の地であるザルツブルクの近郊で、1818年頃に作られました。詳しくは「ドイツ文化ひとこと」で触れますが、ドイツ語の歌詞がオリジナルなのです。

▲Stille Nacht, heilige Nacht

 もともとの歌詞は全部で6つの節(6番)から成ります。現在歌われているのはそのなかの3つの節で、ここではその第1節を紹介します。以下に示すのは、現在広く歌われている歌詞です。

Stille Nacht, heilige Nacht!
シュティレ ハト  イリゲ
Alles schläft, einsam wacht
レス  シューフト インザーム ヴァハト
Nur das traute hochheilige Paar;
        トオテ   ーホハイリゲ
Holder Knabe im lockigen Haar,
ルダー   クーベ      キゲン
Schlaf in himmlischer Ruh!
         ムリシャー     
静かな夜、聖なる夜よ!
すべてが眠り、ひとり動いているのは
ただ睦まじいとても清らかな夫妻
巻き髪の優しい男の子よ
天国のような安らぎのなかで眠れ!

2.形容詞の今の意味と当時の意味

 この詩は19世紀初頭に書かれました。今から200年ほど前の言葉遣いで書かれた歌詞なので、現代とは意味がずれている言葉がいくつかあります。例えば、einsam は今では「孤独な、寂しい」という少々否定的なニュアンスで使われますが、ここでは単に「他からは切り離されて、別に」という中立的な意味です。また、wachen も「目覚めている」という現代の意味からは少しずれていて、「生き生きとしている、生命力に溢れている」という意味です。さらに、hold も、今ではほとんど使われることのない語であり、使われたとしても「愛らしい、かわいい」という意味ですが、この時代には「好意的な、好意や恩恵を示す」という意味で使われていました。

3.形容詞が名詞を修飾するときには語尾がつく

 本課の眼目は、形容詞の変化語尾です。1行目を見てください。

Stille Nacht, heilige Nacht!

形容詞の still「静かな」 heilig「聖なる、厳かな」に -e の語尾がついていますね。

 これまでの課で出てきた形容詞は、述語的に使われていました。例えば、次の文がそうです。

In der Nacht ist es still.
夜は静かだ(主語は漠然とした状態を表すes)。

このように述語的に使われる場合、形容詞は特に変化しません。しかし、形容詞が名詞を付加語的に修飾する場合には、形容詞に語尾がつくのです。

 ドイツ語って面倒ですね。でも、ヨーロッパの言語には、述語的に使う場合にも語尾が変化する言語はいくつもあります。例えば、クラシックのコンサートで、すばらしい演奏をした人に対して、"Bravo!" と言いますね。これはイタリア語で、ひとりの男性の演奏者に対して使うのが、文法的に正しいのだそうです。だから、もし女性歌手が素晴らしい演奏をしたら、正式には "Brava!" と言わなければならないとか。なので、付加語的に使われる場合にのみ形容詞に語尾がつくドイツ語は、実はいくらか簡単かもしれませんので、ご安心を。

4.変化パターンと大原則

 「ドイツ語はまだマシ」と言った舌の根も乾かないうちに付け加えるのもなんですが、形容詞の語尾変化は、名詞の性・数・格や、冠詞の有無・種類などによってパターンが異なります。変化のパターンは、大きく分けて以下の3つがあります。本課では、このうちのAについてお話しします。BとCは次の課で扱います。

A. 冠詞がつかない場合(形容詞+名詞 例:stille Nacht)
B. 定冠詞類(der/die/das や dieser型冠詞)がつく場合(定冠詞類+形容詞+名詞 例:die stille Nacht)
C. 不定冠詞類(ein/eine や mein型冠詞)がつく場合(不定冠詞類+形容詞+名詞 例:eine stille Nacht)
(dieser型冠詞と mein型冠詞については、第15課を参照)

 複雑そうだとはいえ、全体を貫く原則があります。それは、基本的に冠詞、もしくは形容詞語尾のいずれかが、名詞の性・数・格を明示する、というものです。このため、冠詞がないAの場合には、形容詞の語尾のみが名詞の性・数・格を示す役割を担うため、語尾変化は明確なかたちをとります。一方、Bの場合には、定冠詞類が名詞の性・数・格を明示してくれるので、形容詞の語尾変化は比較的簡単なものになります。Cの場合も同様に、不定冠詞自体に語尾があるので、それが名詞の性・数・格を示します。しかし、不定冠詞には語尾がつかないかたち(ein)もあり、その場合には形容詞の語尾が代役となってAの冠詞がない場合と同じ語尾変化をします。

5.冠詞がつかない場合

 冠詞がつかない場合、形容詞の語尾が名詞の性・数・格を明示する役割を担うことになります。そのため、形容詞の語尾は原則として、定冠詞類 dieser「この」の語尾変化と同じになります。ここでは、dieser の格変化のうち1格(Nominativ)を確認しましょう。

 男 
 中 
 女 
 複数 
この男性
この子ども
この女性
この子どもたち
1格(Nom.)
dieser Mann
dieses Kind
diese Frau
diese Kinder

なんとなく思い出したでしょうか。

 それでは、「きよしこの夜」の原題で考えて見ましょう。「夜」は女性名詞なので、1格(Nominativ)は die/diese Nacht です。形容詞の語尾も、これと同じく -e となるので、

Stille Nacht, heilige Nacht!

となっているのです。

 同様に、古い表現の「男の子」の1格は、der/dieser Knabe です。なので、歌詞の4行目の呼びかけでは、

Holder Knabe

と、男性1格を示す -er 語尾がついています。

 最終行では、

Schlaf in himmlischer Ruh[e]!

と歌っています。「安らぎ(die Ruhe)」は女性名詞で、3格(Dativ)では der/dieser Ruh[e] ですので、形容詞の語尾は -er となっています。

6.あいさつ表現で見ると

 これが理解できると、本連載のはじめ(第1課)に登場したあいさつ表現の文法的しくみがわかるようになります。

 「おはよう」「こんにちは」「こんばんは」は、それぞれ、

Guten Morgen! Guten Tag! Guten Abend!

ですね。Morgen「朝」も Tag「昼」も Abend「夕」も男性名詞です。あいさつは、話し相手に「あなたがよい〜を持つように」と願う表現であるため、4格(Akkusativ)が使われます。男性名詞4格では、定冠詞類の語尾は den/diesen のように -en なので、上のような „Guten ...!“ という表現となるわけです。

 「お休みなさい」は、「よい夜を!」と言います。「夜(die Nacht)」は女性名詞なので、4格では

Gute Nacht!

となります。

 次に「楽しい(schön)週末を!」は、中性名詞の「週末(das Wochenende)」の中性4格の定冠詞(類)が das/dieses なので、

Schönes Wochenende!
        ヴォヘン・エンデ

です。「楽しい休暇を!」は、複数名詞の「休暇(Ferien)」を使います。複数4格の定冠詞(類)は die/diese ですから、

Schöne Ferien!
       フェーリエン

と言えるわけです。



練習

 形容詞の語尾部分に下線を引きながら、日本語にしてみましょう。

1. Freude, schöner Götterfunken [...](呼びかけとして)
【語句】die Freude: 喜び schön: 美しい der Götterfunken: 神々の火花

 

2. Architektur ist erstarrte Musik.
【語句】die Architektur: 建築 erstarrt: 凍りついた die Musik: 音楽

 

3. Brave, herrliche junge Leute!(呼びかけとして)
Ihr seid nicht umsonst gestorben,
sollt nicht vergessen sein.
【語句】brav: 勇敢な herrlich: 素晴らしい jung: 若い die Leute: 人々(複数) umsonst: 無駄に seid ... gestorben (← sterben): 死んだ(現在完了形) vergessen sein: 忘れられた

 



まとめ

 形容詞が名詞を修飾するときには、語尾がつきます。

 冠詞がない場合には、dieser 型冠詞の語尾に準じて、次のようになります。

 男 
 中 
 女 
 複数 
1格(Nom.)
-er
-es
-e
-e
4格(Akk.)
-en
-es
-e
-e
3格(Dat.)
-em
-em
-er
-en
2格(Gen.)
-en
-en
-er
-er

 初級の段階では、聞いたり目にしたりすることがほとんどないため、本文中では説明しませんでしたが、2格(Genitiv)の男性と中性で、例外的に-enとなります。



ドイツ文化ひとこと

 「きよしこの夜」の詩を書いたのは,ヨーゼフ・モーア(Joseph Mohr: 1792-1848)という助祭で,1816年のことでした。作者とその執筆年が分かったのは,実は今からほんの20年ほど前の1995年、自筆稿が見つかったことがきっかけでした。そして1818年に曲をつけたのは,学校の先生でもあり,ザルツブルク近郊のオーバーンドルフのオルガニストでもあったフランツ・クサーヴァー・グルーバー(Franz Xaver Gruber: 1787-1863)でした。合唱と2声の独唱,そしてギター伴奏から成るこの曲は,モーアがテノールとギター伴奏を,グルーバーがバリトンを担当して初演されました。

フランツ・クサーヴァー・グルーバー
▲フランツ・クサーヴァー・グルーバー

 この詩が書かれた1816年は、ナポレオン戦争が終わったばかりの、まだヨーロッパが安定していない時代、いまだに戦争の影に怯えていた時代でした。それは、現在は歌われることのない第4節の言葉にも表れています。

静かな夜 聖なる夜 / 父なる神の愛の / すべての力が注がれ /
同胞として世界中の民を / 慈しみとともにイエスが抱いた

 このアルプス地方の歌が全世界に広まるまでには、いくつかの紆余曲折がありました。この歌の楽譜を写したのが、オルガンを修理したマウラッハーという人で、その楽譜をもとにチロルの複数の家庭合唱団がドイツ語圏の各地へと広めていきました。そうした家庭合唱団のひとつであったライナー合唱団は、1839年からアメリカでもツアーを行い、「きよしこの夜」はさらに知られることになりました。この世紀の中葉には、すでに訳が作られ、英語でも歌われるようになりました。その後世界中に広まったこの曲は、現在300以上もの言語に訳されて歌われているそうです。「きよしこの夜」は今でこそ世界中の人に歌われる歌となっていますが、その出発点はとてもささやかなものだったのです。




*1 By Werner100359 (Own work) [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons

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矢羽々 崇(やはば・たかし) ■ 執筆者プロフィール

1962年岩手県盛岡市生まれ。ミュンヘン大学マギスター(修士)、上智大学博士(文学)取得。獨協大学外国語学部ドイツ語学科教授。専門は近現代ドイツ文学(主に叙情詩)。著書は、『「歓喜に寄せて」の物語――シラーの詩とベートーヴェンの「第九」』(2007年)ほか多数。2000~2002年度および2007年度に「ラジオドイツ語講座」講師、2008~2010年度「テレビでドイツ語」講師を担当。






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