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読んで味わう ドイツ語文法

30

形容詞の語尾変化2

Frühling lässt sein blaues Band
リューリング スト       ブオエス  ント
Wieder flattern durch die Lüfte
        フターン            リュフテ
春は青いリボンを
ふたたび風になびかせる


エドゥアルト・メーリケ
▲エドゥアルト・メーリケ

1.冠詞がある場合の形容詞の語尾変化

 前の課では、形容詞が名詞を修飾する場合に語尾がつくことを取り上げ、特に冠詞がつかない場合、つまり「冠詞+名詞」となる場合の語尾変化を説明しました。本課では、冠詞がある場合を見ていきましょう。

 冠詞がついている場合、冠詞が名詞の性・数・格を明示するので、形容詞の語尾は比較的単純です。3格(Dativ)、2格(Genitiv)および複数のすべての格で、形容詞の語尾は -en となります。冠詞の種類は問いません。

 表にすると、次のようになります(***の箇所は後述)。

 男 
 中 
 女 
 複数 
1格(Nom.)
***
***
***
-en
4格(Akk.)
***
***
***
-en
3格(Dat.)
-en
-en
-en
-en
2格(Gen.)
-en
-en
-en
-en

 例えば、ハインリヒ・ハイネの詩「うるわしの月五月に」は、こう始まります。

Im wunderschönen Monat Mai ...
    ンダー・シェーネン    ナート
とても美しい月五月に…

前置詞 in がここでは3格と使われます。また、im という融合形には dem という定冠詞が隠れています。つまり、これは3格で冠詞がある場合なので、語尾は -en となっています。

2.1格(Nominativ)と4格(Akkusativ)単数の場合

 上の表で***で記した部分は、冠詞の種類が定冠詞(および dieser 型冠詞)か不定冠詞(および mein 型冠詞)かで、語尾が異なります(dieser 型冠詞や mein 型冠詞については、第15課参照)。

(1) 定冠詞類がつく場合

 まず、定冠詞類(定冠詞と、定冠詞に準じた変化をする dieser 型冠詞)の場合は、語尾変化はさらに単純になり、当該の箇所の語尾の基本は -e です。男性4格だけ -en ですが、男性4格の目印は、どんな場合でも -en なのです。冠詞でも den,einen と -en ですよね。

 男 
 中 
 女 
1格(Nom.)
-e
-e
-e
4格(Akk.)
-en
-e
-e

 実際の例で見ると、次のようになります。

1格
der gute Wein
das gute Bier
die gute Milch
4格
der guten Wein
das gute Bier
die gute Milch
そのよいワイン
そのよいビール
そのよい牛乳

 英語の小説にフィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー(The Great Gatsby)』(1925)があります。これをドイツ語にすると、

„Der große Gatsby“
     グーセ
『グレート・ギャツビー』ドイツ語版の初版
▲『グレート・ギャツビー』ドイツ語版の初版 *1

となります。「私は『グレート・ギャツビー』を読んでいる」は、

Ich lese den „großen Gatsby“.
             グーセン

と男性4格の変化語尾 -en がつきます。英語の感覚だと不思議かもしれませんが、ドイツ語では、本のタイトルなどでも格変化させるのです。

(2) 不定冠詞類がつく場合

 次に、不定冠詞類(不定冠詞と、不定冠詞に準じた変化をする mein 型冠詞)の場合には、不定冠詞に語尾がつかない箇所(男性1格と中性1格・4格)で、形容詞の語尾がかわりに名詞の性・数・格を明示します。

 男 
 中 
 女 
1格(Nom.)
-er
-es
-e
4格(Akk.)
-en
-es
-e

 実際の例で見ると、次のようになります。

1格
ein guter Wein
ein gutes Bier
eine gute Milch
4格
einen guten Wein
ein gutes Bier
eine gute Milch
1杯のよいワイン
1杯のよいビール
1杯のよい牛乳

 モーツァルトの小曲「アイネ・クライネ・ナハトムジーク(小さな夜の曲)」は、ドイツ語で書くと次のようになります。

Eine kleine Nachtmusik

セレナーデを意味する Nachtmusik が女性名詞なので、語尾は-eになっています。

3.「春が来た」

 さて、本課の冒頭で紹介したのは、19世紀中葉に活躍した詩人エドゥアルト・メーリケ(Eduard Mörike: 1804-1875)の詩です。ドイツ語の春の詩としては、もっとも有名な作品のひとつです。この詩については、第20課でもすでに触れましたが、ここでは形容詞に着目して読んでみましょう。

▲Barbara Bonney - "Er ist's"
Eduard Mörike: Er ist's
Frühling lässt sein blaues Band
リューリング
Wieder flattern durch die Lüfte;
       フターン
Süße, wohlbekannte Düfte
      ヴォール・ベンテ   デュフテ
Streifen ahnungsvoll das Land.
シュトイフェン ーヌングスフォル
Veilchen träumen schon,
ファイルヒェン トイメン
Wollen balde kommen.
— Horch, von fern ein leiser Harfenton!
   ァヒ                     ァフェン・ーン
Frühling, ja du bist's!
               スツ
Dich hab' ich vernommen!!
             フェァメン
春は青いリボンを
ふたたび風になびかせる
甘いなじみの香りが
予感に満ちて大地をなでる
スミレの花はもう夢を見て
もうじき咲こうとしている
— 聞いて、かなたから小さなハープの響き!
春よ、あなたが来た!
私はあなたを感じ取った!

 さて、この詩のなかで、形容詞が名詞を修飾している箇所が3つあります。どこでしょうか。探してみてください。

 最初の箇所は、1行目の

sein blaues Band

です。sein「彼の」は、mein 型の所有冠詞なので、形容詞の語尾は不定冠詞の場合と同様になります。das Band「リボン」は中性名詞で、ここでは4格なので、-es 語尾がついています。

 次の箇所は、3行目の

Süße, wohlbekannte Düfte

ですね。「香り(die Duft)」の複数形1格 Düfte を形容詞が単独で修飾しているので、-e 語尾がついています。

 最後に、7行目の

ein leiser Harfenton

「小さなハープの響き」では、不定冠詞+形容詞+男性名詞1格ですが、不定冠詞に語尾がないので、形容詞が名詞の性・数・格を明示する役割を担い、-er 語尾がついています。

4.初級のうちは…

 以上の説明を読んで、形容詞の語尾は複雑だなあ、とても覚えられない、と思ったでしょうか。たしかに複雑ではありますが、先述の通りこの語尾変化には一定の規則性があるので、それをもとに段々に覚えていくといいのです。白状しますと、私がこの形容詞の語尾変化のシステムを完全に理解したのは、ドイツ語を教えるようになってからです。学生時代は、もちろんある程度は分かっていたものの、細かいところはけっこういい加減でした。実際、ドイツ人との会話において、語尾の間違いのために意味が通じない場面は、まずありません。間違いを気にして話さないよりも、まずは話したり、書いたりしてみることが大切なのです。

 なので、初級の段階では、いきなり完璧に覚え切ることを目指さずに、とりあえずは、

1.形容詞が名詞を修飾するときには語尾がつく

2.語尾から名詞の性や格などを読みとることができる

の2点を頭の隅に入れてくれれば充分です。

 その後、段階的に、例えば女性1格・4格は冠詞のあるなしにかかわらず -e 語尾、といった覚えやすいところから覚えていくといいと思います。



まとめ

 定冠詞や dieser 型冠詞がある場合の形容詞の語尾

 男 
 中 
 女 
 複数 
1格(Nom.)
-e
-e
-e
-en
4格(Akk.)
-en
-e
-e
-en
3格(Dat.)
-en
-en
-en
-en
2格(Gen.)
-en
-en
-en
-en

 不定冠詞や mein 型冠詞がある場合の形容詞の語尾

 男 
 中 
 女 
 複数 
1格(Nom.)
-er
-es
-e
-en
4格(Akk.)
-en
-es
-e
-en
3格(Dat.)
-en
-en
-en
-en
2格(Gen.)
-en
-en
-en
-en


ドイツ文化ひとこと エドゥアルト・メーリケの「春が来た」

 メーリケの名前を知っている人は、かなり文学や音楽に詳しい人です。彼の作品では、『旅の日のモーツァルト(Mozart auf der Reise nach Prag)』(1856)が岩波文庫に宮下健三訳で収録されていました(今は古書として入手可)。また、歌曲が好きであれば、フーゴー・ヴォルフ(Hugo Wolf: 1860-1903)作のメーリケの詩による歌曲集(1888)を聴いたことがあるでしょう。

フーゴー・ヴォルフ
▲フーゴー・ヴォルフ

 彼のドイツ語のリズム感や美しさ、詩作の技巧性は、オリジナルで読まないと分からないので、日本であまり知られていないのはしかたがないのかもしれません。ここでは、そんな彼のうまさの一端を、「春が来た」で紹介したいと思います。

 まず、この詩が面白いのは、タイトルの „Er ist's“ です(ist's = ist es)。常識的には er を「彼」、つまり人間だと考えて、「彼がそれだ」=「彼が来た」と読みとって、例えば恋人が訪ねてくるのを待つ詩だと考えたくなります。

 読み進んでいくと、er は男性名詞の der Frühling「春」を指していることが分かり、裏切られたような感じがします。とはいえ、この詩では1行目で春のことが冠詞なしで Frühling と呼ばれています。これは Frühling が、一種の固有名詞のように、いわば(冗談めかして言えば)「春男」さんといった呼び名として扱われているかのようです。

 詩の中の「私」は、五感すべてで春を感じ取っています。blau「青い」や flattern「はためく」は視覚、süß「甘い」は味覚、Düfte「かおり」は嗅覚、streifen「なでる」は触覚、horch!「聴いて!」や Harfenton「ハープの響き」は聴覚にかかわります。

 このように体全体で春が感じ取られたとき、タイトルで3人称だった春(というか「春男さん」)は、8行目から du「あなた、君」として2人称で語りかけられます。詩行が進むにつれて春との距離はぐっと近くなり、最後には待ち望んだ恋人を受け入れるかのように喜びが爆発しています。まさにあざやかな転換です。その意味で、タイトルを「彼が来た」と訳しても、あながち間違いではないのです。

 なお、メーリケは、「春に(Im Frühling)」(成立1828)という詩も書いています。まったく違った春が描かれていますし、やはりヴォルフの曲がありますので、比べてみるのも面白いでしょう。

▲Fischer-Dieskau - "Im Frühling"



*1 By Bibmaniac (Own work) [CC BY-SA 4.0], via Wikimedia Commons

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矢羽々 崇(やはば・たかし) ■ 執筆者プロフィール

1962年岩手県盛岡市生まれ。ミュンヘン大学マギスター(修士)、上智大学博士(文学)取得。獨協大学外国語学部ドイツ語学科教授。専門は近現代ドイツ文学(主に叙情詩)。著書は、『「歓喜に寄せて」の物語――シラーの詩とベートーヴェンの「第九」』(2007年)ほか多数。2000~2002年度および2007年度に「ラジオドイツ語講座」講師、2008~2010年度「テレビでドイツ語」講師を担当。






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