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読んで味わう ドイツ語文法

39

接続法第1式

Man nehme irgendeinen Autobus.
            ァゲントアイネン   オトー・ブス
夜のバスのどれかに乗れ。


エーリッヒ・ケストナー
▲エーリヒ・ケストナー *1

1.ケストナー『詩の薬箱(Lyrische Hausapotheke)』(1936)

 ケストナーについては、すでに第14課で取りあげました。彼は、人々の日々の暮らしに寄り添った「実用詩」を詩の理想とし、家庭に常備してある薬箱のように詩集が読まれることを目指しました。

 この考えは、ケストナーのすぐ上の世代の詩人、シュテファン・ゲオルゲ(Stefan George: 1868-1933)やフーゴー・フォン・ホフマンスタール(Hugo von Hofmannsthal: 1874-1929)、あるいはライナー・マリア・リルケ(Rainer Maria Rilke: 1875-1926)などの、芸術の極限を目指して難解になりすぎた詩に対するアンチテーゼでもありました。ケストナーは、日常の言葉で、人々の暮らしに寄り添った分かりやすい詩を書こうとしたのです。

 実際、『詩の薬箱』では、「失恋したときに」「寂しいときに」のように、36の「症状」で詩が分類されています。

 そんな実用詩のひとつ、「都会人のための夜の処方箋(Nächtliches Rezept für Städter)」は、本課の冒頭の文で始まります。第1節4行は次の通りです。

Man nehme irgendeinen Autobus.
          ァゲントアイネン  オトー・ブス
Es kann nicht schaden, einmal umzusteigen.
Wohin, ist gleich. Das wird sich dann schon zeigen.
Doch man beachte, dass es Nacht sein muss.
         ベハテ
夜のバスのどれかに乗れ。
一度乗り換えても、かまわない。
どこへ、は問題じゃない。すぐにわかることだ。
だけど気をつけろ、夜でないといけない。

 この4行のなかで、1行目の man nehme、4行目の man beachte という動詞のかたちを見て、「あれっ」と思った方は、相当ドイツ語に対する感覚が磨かれています。man「人、人々」は3人称単数扱いですから、普通の現在人称変化であれば、man nimmt(nehmenは不規則変化動詞)、man beachtet となるはずです。この man nehme、man beachte は、接続法第1式と呼ばれる動詞の変化形なのです。

2.接続法

 接続法は、英語の仮定法に相当するものです。「~要求する」、「~言っている」、「~願う」のように、別の文に接続する語り方(法)です (ただし、「~と要求する」、「~と言っている」、「~と願う」という部分は、実際には表現されないことが多いです)。

 接続法にはこの課で扱う第1式と、次の課で扱う第2式があります。第1式はおもに要求話法と間接話法で使われます。第2式は主に非現実話法で使われます。

 冒頭の文 man nehme irgendeinen Autobus は、第1式の要求話法で、「人よバスに乗れ」と要求・命令していると考えられるのです。同じように、man beachte ... は、「人よ注意せよ」と要求しています。これらは、英語であれば、"God save the Queen!"「神よ女王を守りたまえ!」の save(普通の文ならば saves)のかたちに相当します。

 第1式の変化表は、課の最後で紹介しますが、基本は動詞不定形の語幹部分をそのまま使い(nehmen であれば nehm-、beachten であれば beacht-)、そこに接続法の人称変化語尾をつけます。3人称単数の変化語尾は -e なので、nehme、beachte というかたちになるのです。なお、sein動詞の場合も、語幹 sei- が基本形となりますが、ich と er/sie/es では -e 語尾がつかず、sei となります。

3.第1式の要求話法

 接続法第1式の要求話法は、例えば、南ドイツやオーストリアで、どの時間帯にも使われるあいさつ、

Grüß Gott!
おはよう・こんにちは・こんばんは!

にも使われています。この文では分かりにくいのですが、似た表現としては、

Grüß Sie Gott! / Grüß dich Gott!

もあって、こちらだと Gott が主語であることが分かりやすくなっています。これをさらに、文法構造が読み取りやすいように書き直すと

Gott grüße Sie/dich!
神があなた/君を祝福しますように!

となって、grüße が接続法第1式であり、これがあいさつ表現では語尾が落ちて grüß となったことが分かります。なお、ここでの grüßen は単に「挨拶する」という普通の意味ではなく、「祝福する」という意味で使われています。つまり"Grüß Gott!"は,だれを祝福するのかを曖昧にして汎用性を持たせた表現なのです。

 ちなみに、文法書を読むと、料理のレシピで man nehme ...「…を用いよ」などの接続法第1式がよく使われると書かれているのを見かけます。しかし、実際にはそれほど多いわけではなく、例えば、日本のクックパッドなどに相当する Chefkoch.de でレシピを見ても、ほとんどが不定形で書かれています。

4.間接話法

 「〜と言った」のように、他者の見解などを紹介しつつ、しかし自分の立場は表明せずに伝えるときに、間接話法が使われます。ドイツ語圏の新聞やニュースでは実によく登場します。

 しかし、19世紀までのドイツ語では、今よりも頻繁に間接話法が用いられていました。間接引用だけでなく、見解や思いの内容を伝えるのにも、接続法第1式が使われていました。例として、音楽家フェリクス・メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn: 1809-1847)の手紙の一節を紹介します。太字部分が接続法第1式です。

Und sind Sie mit mir einer Meinung, daß es die erste Bedingung zu einem Künstler sei, daß er Respekt vor dem Großen habe, und sich davor beuge, und es anerkenne, und nicht die großen Flammen auszupusten versuche, damit das kleine Talglicht ein wenig heller leuchte?
それであなたは私と同じ意見でしょうか。芸術家に必要な第一条件とは、芸術家が偉大なるものに対して敬意を抱き、偉大さを前に頭(こうべ)を垂れてそれを認め、ちっぽけなロウソクのともしびがいくらかでも明るく輝くようにと、大いなる炎を吹き消そうと試みないことだと?(1831年8月27日付ヴィルヘルム・タウバート宛)

フェリクス・メンデルスゾーン
▲フェリクス・メンデルスゾーン

 メンデルスゾーンは作曲家として有名ですが、生前は指揮者や演奏家としても活躍していました。彼は、当時ほとんど忘れ去られていたバロックの音楽家ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(Johann Sebastian Bach: 1685-1750)復活のきっかけを作ってもいます。1829年、まだ20歳のときに、バッハの『マタイ受難曲』のほぼ全曲を、バッハ没後はじめて公開演奏したのです。

 バッハは、宮廷や教会で演奏されることを目的とした曲を、大量に作曲しました。やや大げさに言うと、「消費」してもらうための曲を「大量生産」していたのです。作品番号(BWV = Bachwerkverzeichnis「バッハ作品番号」)も1000番を超えています。没後は、一部の音楽家などが彼を知る程度で、事実上忘れ去られていました。


ヨハン・ゼバスティアン・バッハ
▲ヨハン・ゼバスティアン・バッハ

 手紙の言葉を使えば、メンデルスゾーンは、バッハの偉大さを認めることで、芸術家に必要な第一条件を満たしていたわけです。メンデルスゾーンの音楽は、バッハとはまた違った意味で、非常に豊かな表情とニュアンスを持っています。一時期、彼は、ユダヤ人としての出自ゆえに軽視されていました。しかし現在では、彼の音楽はあらためて評価されるようになっています。個人的には、16歳のときの曲「弦楽八重奏曲(Streichoktett)」や、日本ではあまり知られていないのですが、10代前半で書いた「弦楽交響曲(Streichsymphonien)」が好きです。CD や YouTube で聴くことができますので、よかったらどうぞ。



練習

 次の文を日本語にしてみましょう。

1. Es werde Licht!
【語句】es: 形式主語 werde ← werden: なる、生成する das Licht: 光

 

2. Ich habe von meinem zehnten Jahre angefangen, Verse zu schreiben, und habe geglaubt, sie seien gut. Jetzo in meinem 17ten sehe ich, dass sie schlecht sind, aber ich bin doch 7 Jahre älter und mache sie um 7 Jahre besser.
【語句】von meinem zehnten Jahre: 10歳のときから angefangen ← anfangen: 始める der Vers, -e: 詩行(Verse = 詩) schreiben: 書く geglaubt ← glauben: 信じる sie = Verse jetzo = jetzt: 今や in meinem 17ten [Jahr]: 17歳になって sehen: 見る、わかる schlecht: 悪い、ひどい 7 Jahre älter: 7歳歳を取った(älterはaltの比較級) um 7 Jahre: 7歳分(umは変化の幅を表す) besser: より良く(gutの比較級)

 



まとめ

 接続法は、要求や伝聞、願望などを表現するときに用いられる語り方です。

 接続法第1式は主に要求話法と間接話法、第2式は主に非現実話法で使われます。

 接続法第1式の変化

sein haben werden lernen können wollen
である 持つ なる 学ぶ 〜できる 〜したい
ich sei habe werde lerne könne wolle
du seiest habest werdest lernest könnest wollest
er sei habe werde lerne könne wolle
wir seien haben werden lernen können wollen
ihr seiet habet werdet lernet könnet wollet
sie seien haben werden lernen können wollen
Sie seien haben werden lernen können wollen

 人称変化の語尾は、過去形での人称変化と同じです。つまり、ich と er/sie/es で語尾がなく、他の人称では現在形の人称変化と同じです。これは第2式にも共通します。

 本文で紹介したのは、接続法第1式現在のみです。過去の場合には、<sei/habe ... 過去分詞>という完了形をもととした形を使います。sei と habe の使い分けは、動詞が完了形のときに sein と結びつくか、haben と結びつくかの区別によります。



*1 By Basch, [...] / Opdracht Anefo [CC BY-SA 3.0 nl], via Wikimedia Commons

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矢羽々 崇(やはば・たかし) ■ 執筆者プロフィール

1962年岩手県盛岡市生まれ。ミュンヘン大学マギスター(修士)、上智大学博士(文学)取得。獨協大学外国語学部ドイツ語学科教授。専門は近現代ドイツ文学(主に叙情詩)。著書は、『「歓喜に寄せて」の物語――シラーの詩とベートーヴェンの「第九」』(2007年)ほか多数。2000~2002年度および2007年度に「ラジオドイツ語講座」講師、2008~2010年度「テレビでドイツ語」講師を担当。






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