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読んで味わう ドイツ語文法

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最重要動詞(1)sein 

Gott  ist  tot. 神は死んだ。
ット   スト ート


フリードリヒ・ニーチェ
▲フリードリヒ・ニーチェ(1844-1900)

1. 「ある、いる」「である」の sein 動詞

 上で引用したのは、哲学者フリードリヒ・ニーチェ(Friedrich Nietzsche: 1844〜1900年)の有名な言葉です。彼は1882年に『悦ばしき知識(Die fröhliche Wissenschaft)』を出版しますが、この本の中で、「神は死んだ」との主張がなされます。

 それはさておき、私たちが注意したいのは動詞です。2つめの単語 ist は、これまでの1~5課のうちでも何回か登場しました。「ある、いる」や「である」を意味する動詞 sein[イン]の、3人称単数に合わせたかたちです。英語の is, フランス語の est と似ていて、覚えやすいですね。

2. 人称代名詞

 動詞の変化を覚えていく前に、まず、それぞれの人称を表す言葉をチェックしましょう。

私は ich 私たちは wir
ヴィーァ
君は du 君たちは ihr
ドゥ ーァ
あなた(がた)は Sie
ズィ
彼は er
彼女は sie 彼らは sie
ズィ ズィ
それは es

 注意してほしい点がいくつかあります。

1)「私は」を表す ich は、小文字で書き始めます。英語だと "I" と大文字で書くため、これに影響されて、文中でも ×Ich と大文字で書く学習者が多くいます。気をつけましょう。

2)話し相手を指す2人称には2種類あることにご注意ください。「君は」「君たちは」と便宜的に訳した du と ihr は、家族同士や親しい友人に向かって、あるいは神さまや動物に対して使う代名詞です。大人が子どもに話しかけるときも du を使います。

 これに対して、大文字で書き始める Sie は、道を尋ねるために話しかけた相手やビジネス上で会う相手など、あまり親しくない相手に使います。文法用語では、以前「敬称」という言い方をされていました。しかし、Sie には相手を「敬う」というニュアンスはありません。心理的な距離がある場合に使われると覚えてください。

3)3人称の「彼」「彼女」「それ」の区別は、英語などとも共通するので違和感はないと思います。しかし英語と違う点は、モノを表す名詞についても、性に応じて3人称の代名詞が使い分けられることです。具体的には、「女性」を意味する die Frau[フオ]を「彼女」のsie[ズィー]で受けるのですが、これは分かりやすいでしょう。しかし例えば、「スカート」を意味する男性名詞のder Rock[ク]を、「それ(そのスカート)は美しい」と人称代名詞で受けるときには、

Der Rock ist schön. そのスカートは美しい。
デァ    ク    スト シェーン
— Ja, er ist schön. そうだね、それは美しいね。
      ー ァ スト シェーン

と、男性を表す人称代名詞の er で受けるのです。

3. sein 動詞の人称変化

 それでは、本題に戻って、sein がどのように変化するかを見てみましょう。

ich bin wir sind
ヴィーァ ズィント
du bist ihr seid
ドゥ スト ーァ イト
Sie sind
ズィ ズィント
er
sie ist sie sind
ズィ スト ズィ ズィント
es

 いかがですか。ヨーロッパ系の言語では、「である」を表す動詞(ドイツ語の sein,英語の be,フランス語の être など)はどれも不規則な変化をしますので、これが第1関門になっているのです。なので諦めて(?)、覚えていきましょう。

4. 具体例を見てみよう

 とはいえ、ただ „ich bin, du bist ...“ と覚えていくのも退屈でしょうから、いくつか例を見ながら頭に入れていきましょう。

 まずは、イエスの言葉をドイツ語で見てみましょう。

Ich bin der Weinstock, ihr seid die Reben. 私はぶどうの木であり、君たちはぶどうだ。
ヒ ン デァ ヴァイン・シュク ーァ イト ディ ーベン

 ヨハネによる福音書に出ている言葉です。一般的な聖書の訳では、「私はぶどうの木、あなたがたはその枝」などとなっているようです。ここでは、ドイツ語を直訳しました。私はキリスト教徒ではないので、詳しい説明はできませんが、イエスが生命のおおもとにある存在として自らを捉え、人々に生きる力を与える存在として語っているのでしょう。植物の比喩が生きている場面のように思います。

 次に、du の場合には、詩人ハインリヒ・ハイネ(Heinrich Heine: 1797~1856年)の詩の1行がいいでしょうか。

Du bist wie eine Blume. 君は一輪の花のようだ。
ドゥー スト ヴィー イネ   ブーメ

 1827年の詩集『歌の本(Das Buch der Lieder)』に収録されている、この1行がそのままタイトル扱いされている詩です。作曲家ローベルト・シューマン(Robert Schumann: 1810~1856年)による曲(1840年)が最も知られています。



▲R. Schumann - Du bist wie eine Blume(1840)

 詩は2節全8行と短いので、以下で全文をご紹介します。

Heinrich Heine:
Du bist wie eine Blume
ハインリヒ・ハイネ
「君は一輪の花のよう」
Du bist wie eine Blume, 君は一輪の花のよう
ドゥー スト ヴィー イネ   ブーメ
So hold und schön und rein; 優しく美しく清らか
ー ルト ント シェーン  ント  イン
Ich schau dich an, und Wehmut 君を見つめると憂鬱が
ヒ シャオ   ディヒ ン ント ヴェームート
Schleicht mir ins Herz hinein. 私の心に忍び込む
シュイヒト   ーァ ンス ァツ ヒイン
 
Mir ist, als ob ich die Hände 私の思いは まるで君の頭に
ーァ スト ルス プ  ヒ ディ   ンデ
Aufs Haupt dir legen sollt, 手を置いて 祈るかのよう
オフス オプト ディーァ ーゲン ルト
Betend, dass Gott dich erhalte 神よ 清らかに美しく優しく
ーテント     ダス      ト    ディヒ  エァルテ
So rein und schön und hold. 君を保たんことをと
ー イン ント シェーン ント ルト


Heinrich Heine: Du bist wie eine Blume
▲Du bist wie eine Blume(『歌の本』(1827)より)

 女性を花にたとえるというありきたりな比喩で詩の1行目を始めるというのは、凡才ならばともかく、詩人として相当な冒険だと思います。しかし、不定冠詞を使って「一輪の花(eine Blume)」となっているのが重要なように思えます。私なら、ヒマワリのような大輪のしっかりした花のイメージではなく、例えばスミレのような可憐な花が思い浮かびます。そのイメージは人によって違うのでしょうが、それはそれでいいのです。それこそが詩の奥深さでしょうから。

 さて、語り手はその脆さ、儚さにメランコリーを感じ取り、かつ神がその儚い美しさを守ってくれるようにと祈る、と展開していきます。第1節に比べると、第2節は格段に文構造が複雑となり、接続法(英語でいう仮定法)が使われて、語り手の心の揺れが言葉としても再現されています。

 そして2行目と最後の8行目で、3つの形容詞(hold, schön, rein)が、合わせ鏡のように配置されています。語順を変えた理由はおそらく2つあります。1つは脚韻のためです。第1節では rein と4行目の hinein が[イン]という音で、第2節では2行目の sollt と4行目の hold が[ルト]という音で韻を踏んでいます。もう1つは、音のイメージの活用です。2行目では落ち着いた o[オ]の音から中間音といえる ö[エー]をはさんで明るい ei[アイ]の音へと移行して、心の高ぶりを表現しています。最終行では、逆の流れとなり、心を落ち着けるような、祈りの雰囲気が醸し出されます。このようにハイネは、一見すると素朴なだけの印象を与える詩を、非常に技巧的に構成しているのです。

Heinrich Heine ハインリヒ・ハイネ
▲ハインリヒ・ハイネ(1797-1856)

 ちょっとハイネの詩の解説に凝りすぎて、ich と du の例で終わってしまいました。またいずれかの機会に、他の人称の文もご紹介できればと思います。

まとめ

 sein動詞は不規則変化します。

ich bin wir sind
du bist ihr seid
Sie sind
er
sie ist sie sind
es



第5課
第7課


矢羽々 崇(やはば・たかし) ■ 執筆者プロフィール

1962年岩手県盛岡市生まれ。ミュンヘン大学マギスター(修士)、上智大学博士(文学)取得。獨協大学外国語学部ドイツ語学科教授。専門は近現代ドイツ文学(主に叙情詩)。著書は、『「歓喜に寄せて」の物語――シラーの詩とベートーヴェンの「第九」』(2007年)ほか多数。2000~2002年度および2007年度に「ラジオドイツ語講座」講師、2008~2010年度「テレビでドイツ語」講師を担当。






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