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読んで味わう ドイツ語文法

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主語に合わせた動詞の変化(1)

Ich denke, also bin ich. 我思う、故に我あり。
ヒ   ンケ         ルゾー  ン 
(デカルト『方法序説』より)


ルネ・デカルト(フランス・ハルス画)
▲ルネ・デカルト(フランス・ハルス画)

1. 動詞の基本のかたち、不定形

 冒頭の文はオリジナルがドイツ語ではなく、フランス語(もしくはラテン語)なのですが、よく知られた言葉として引用しました。あえてこの文を引用した理由は後で説明します。今日注目していただきたいのは、ich denke「私は考える」という部分です。

 後半部の also は副詞で「そのため」という意味で、bin は「ある」を意味する sein 動詞が主語の ich に合わせて変化したかたちでしたね。語順については、後ほど別の課で説明します。

 さて、ich denke の denke は、denken [ンケン]「考える」という動詞が主語 ich に合わせて変化したかたちです。

 ドイツ語の動詞の不定形(主語や時制などが「定まっていない」、基本のかたち)は、基本的に -en(少数の動詞で-n)で終わります。denken という動詞であれば、

denk + en
語幹   語尾

と分けることができ、enが「語尾」となる部分、denkが本体で「語幹」と言われる部分です。

 動詞が主語に合わせて変化するとはいえ、実際には語尾の部分のみ変化するのが基本です。ですので、動詞の意味を伝える本体の語幹は変わりません(実は例外もあるのですが、またの機会に)。そして ich「私は」が主語の場合には、語幹につける語尾が -e になるわけです。

 もうひとつ、知っておいてほしいことがあります。ドイツ語では、いわゆる現在の動作一般を指して「考える」というのも、英語で言う進行形「考えている」も、単純な未来「(明日)考える(でしょう)」も、すべて現在形一つで表現できます。どうです、英語より便利でしょう?!


練習1

 次の動詞の不定形をもとに、「私は〜する、〜している」という表現を作ってみましょう。

0. denkenンケン]「考える」 ⇒ Ich denke.

1. singenズィンゲン]「歌う」

 

2. malenーレン]「絵を描く」

 

3. träumen [トイメン]「夢を見る」

 

4. philosophieren [フィロゾフィーレン]「哲学する」

 

2. デカルトとドイツ?

 それにしても、フランスの哲学者ルネ・デカルト(René Descartes: 1596-1650)の言葉が、このドイツ語文法の連載で取りあげられているのを不思議に感じた方も多いと思います。実はデカルトは、ドイツと浅からぬ関係を持っているのです。真理の探究方法にまつわる重大な発見をしたとされる1619年秋に、彼は南ドイツにいました。ときは三十年戦争(1618-1648年、ドイツを中心に生じた宗教戦争)、デカルトはバイエルン軍に所属していました。その頃、彼はレーゲンスブルクに行き、天文学者のヨハネス・ケプラー(Johannes Kepler: 1571-1630)を訪ねてもいます。


三十年戦争の一場面(「白山の戦い」ピーテル・スネイエルス画)
▲三十年戦争の一場面(「白山の戦い」ピーテル・スネイエルス画)

 彼は書物などに頼らずに、自らの思索によって真理を追い求めます。その思索の結実が、「我思う、故に我あり」でした。すべてが疑わしいとしても、疑い、考えるという行為そのものは疑うことのできない確実なものだ。考えている限りにおいて、私という存在は確実に「ある」と言える。これが近代哲学の出発点となった言葉です。そこから幾時代かを経て、ドイツではカントやヘーゲルなどに代表される観念論(Idealismus[イデアスムス])の哲学が開花します。その土台のひとつが、デカルトのこの思想なのです。

3. デカルトは何語を話した?

 それにしても、デカルトはドイツで軍務についたり、ケプラーを訪ねたとき、何語を使っていたのでしょうか。上流階級ではフランス語は通用したので、軍務はフランス語で事足りたでしょう。日常生活などで、少しはドイツ語を使ったでしょうか。フランス語訛りの彼のドイツ語は、聞き取りにくかったかもしれません。ケプラーとはラテン語で話したと推測されます。当時の学者はラテン語が共通語でした。まだ話し言葉としても使われていたのです。

 他方で重要なのは、デカルトが『方法序説』(1637年)などにおいて、当時の学術言語であるラテン語ではなく、フランス語という日常の「世俗的な」言葉で哲学を展開したことです。これはルターが聖書をドイツ語に訳したことに匹敵する大きな出来事だったと言えるでしょう。


『方法序説』初版 扉
▲『方法序説』初版 扉

 実は、今から六、七十年前までは、ラテン語がリンガ・フランカ(国際共通語)の地位を保っていたことを表すエピソードがあります。第二次世界大戦が終わって間もないころ、ロマノ・グァルディーニというイタリアの著名な学者がドイツの大学で講義をします。グァルディーニの話す外国語訛りの聞き取りにくいドイツ語に、学生たちは次第に飽きてしまいました。その様子を見て、グァルディーニはラテン語で話しはじめます。その瞬間から学生たちの目の色が変わって、ノートを熱心に取り始めたというのです。ちょっと信じられない話ですね。


ロマノ・グァルディーニ
▲ロマノ・グァルディーニ

4. 今の主要言語は?

 時代はかわって、今のドイツの学生はラテン語やギリシア語をギムナジウム(das Gymnasium[ギュムーズィウム]、ドイツの中等教育機関)で必修科目として相当な時間数を割いて学んだりはしなくなりました。なので、グァルディーニのような逸話はもうあり得ないのでしょう。そのぶん、英語の通用度は非常に高くなり、大学生であればほぼ確実に英語を話せます。ドイツというと医学だと信じている方もいるようですが、今のドイツの医学のみならず理系の学生は、英語の教科書もごく普通に使っているのです。ドイツ医学が世界を牽引したのは第二次世界大戦前までのことでした。やはりユダヤ系の人々が迫害されて亡命したり、殺害されたことが大きかったのです。

 さて、ラテン語はまだまだ死んでいません。例えばラジオ・ブレーメン(Radio Bremen)のネットラジオは、毎週金曜日に重要なニュースをラテン語で放送しています。また、さまざまなラテン語で書かれた記事(ドイツ語訳もあり)なども出ていますので、興味がある方はぜひどうぞ。

 脱線ついでに書くと、フィンランドのYLEというラジオ放送局のラテン語ニュースも非常に充実しています。

5. 1人称複数 wir や2人称の Sie, 3人称複数の sie では?

 さて、ich が主語の場合の動詞の語尾は -e でした。この課では、さらに wir「私たちは」と、2人称であまり親しくない同士で使われる Sie「あなた(がた)は」、さらに sie「彼らは」が主語の場合の動詞の語尾をご紹介します。2人称の du「おまえは」と ihr「おまえたちは」と3人称単数については、次の課で説明します。

 wir と Sie, 「彼らは」の sie では、語尾は -en となります。denken という動詞であれば、次のようになります。

Wir denken. 私たちは考える。
ヴィーァ ンケン
Sie denken auch. あなた(がた)も考える。
ズィー ンケン     オホ
Sie denken auch. 彼らも考える。
ズィー ンケン     オホ

ご覧のとおり、wir と Sie, 「彼らは」の sie が主語のとき、動詞の変化形は不定形と同じなのです。とはいえ、「あなた(がた)は」の Sie は、歴史的に見ると、「彼らは」の sie をもとに作られた人称なので、この2つの変化形が同じなのは当然なのです。

 ここまで出てきた主語と動詞の変化をまとめて表にすると次のようになります。

ich denke wir denken
ンケ ヴィーァ ンケン
du ihr
ドゥ ーァ
Sie denken
ズィ ンケン
er
sie sie denken
ズィ ズィ ンケン
es


練習2

 次の動詞の不定形をもとに、「私たちは〜する。あなた(がた)も〜する」という表現を作ってみましょう。

0. denkenンケン]「考える」 ⇒ Wir denken. Sie denken auch.

1. singenズィンゲン]「歌う」

 

2. malenーレン]「絵を描く」

 

3. träumen [トイメン]「夢を見る」

 

4. philosophieren [フィロゾフィーレン]「哲学する」

 



まとめ

 動詞は「語幹」の部分と「語尾」の部分からできていて、不定形は基本的に -en が語尾です。

 動詞は主語に合わせて変化します。現在形では、ich「私は」では -e 語尾、wir「私たちは」と Sie「あなた(がた)は」と sie「彼らは」では -en 語尾となります。(次の課で残りの主語もチェックします。)




第6課
第8課


矢羽々 崇(やはば・たかし) ■ 執筆者プロフィール

1962年岩手県盛岡市生まれ。ミュンヘン大学マギスター(修士)、上智大学博士(文学)取得。獨協大学外国語学部ドイツ語学科教授。専門は近現代ドイツ文学(主に叙情詩)。著書は、『「歓喜に寄せて」の物語――シラーの詩とベートーヴェンの「第九」』(2007年)ほか多数。2000~2002年度および2007年度に「ラジオドイツ語講座」講師、2008~2010年度「テレビでドイツ語」講師を担当。






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