研究社
研究社 会社案内 採用情報 サイトマップ 書店様向け 教育現場向け

研究社 WEB マガジン Lingua リンガ


読んで味わう ドイツ語文法

8

主語に合わせた動詞の変化(2)

Stadtluft macht frei. 都市の空気は自由にする。
シュト・フト ハト       フ

 今回は動詞が主語に合わせて変化する様子を、3人称(er「彼は」、sie「彼女は」、es「それは」)と、親しい間で使う2人称(du「君は、おまえは」、ihr「君たちは、おまえたちは」)で見ていきましょう。

1. 3人称単数の語尾は -t

 皆さんは世界史の教科書の中などで、ドイツ中世の都市に関する上の表現を見たことはないでしょうか。主語 die Stadtluft[シュト・フト]は die Stadt「都市」と die Luft「空気」(ここではより正確には「場、空間」)との複合名詞です。

 machen[ヘン]という動詞は、英語の make と語源が同じで、「作る」「する」という意味があります。主語が3人称単数なので、語幹の mach- に3人称単数を表す -t がついて macht となります。frei[フイ]も英語の free と語源が同じで、「自由な」を意味する形容詞です。中世の農奴は、都市に逃げ込んで1年と1日たてば、農奴の身分から解放されるという法慣習があり、それを表現したものが冒頭の文です。

 ただし、Stadtluft macht frei. という文言は、実は19世紀になってからできたものです。とはいえ、当時の決まりごとを伝える表現であることも確かです。中世の時代に使われていた決まり文句は、

Luft macht eigen. 空気(場)は自分のものにする。
フト  ハト      イゲン

で、「その場の空気を呼吸し、その場の支配者の下に入った人は、その支配者に属する」ということを意味します。これを転倒させるかたちで、自治権を持つ都市を表した „Luft macht frei.“ は、ヤーコプ・グリムの『ドイツ法故事』(1828)で確認でき、かつ19世紀中葉の研究書でも見られるようになります。

2. 映画のタイトルで

 主語が3人称単数の場合に動詞の語尾が-tとなるのは、第2課で登場した映画『会議は踊る』の原題もそうです。

Der Kongress tanzt. 会議は踊る
ァ   コングス        ンツト

動詞の不定形は tanzen [タンツェン]「踊る」です。主語が3人称単数なので、語幹 tanz- に3人称単数の -t 語尾がついたわけです。

 映画つながりで言えば、1998年に公開されたドイツ映画、邦題『ラン・ローラ・ラン』の原題は、

Lola rennt. ローラは走る
ーラ  ント

でした。主語は女性名の Lola。動詞は rennen[ネン]「走る」です。3人称単数の語尾は -t なので、語幹の renn- に -t をつけた rennt というかたちになるのです。

 ローラの恋人マニはチンピラ稼業。彼はボスのところに運ぶ大金の入った袋をなくし、ローラに電話して助けを求めます。恋人を救おうと、ローラはベルリンの街(統一後でベルリンの壁がない街)を文字どおり走りまわります。DVDも発売されていますので、興味のある方はぜひどうぞ。

3. 「~は自由にする(... macht frei)」

 話を戻すと、Stadtluft macht frei. の系譜は、20世紀にまで続きます。ぞっとしない例文としては、

Arbeit macht frei. 労働は自由にする。
ァバイト ハト      フ
(小文字の[ァ]は母音化した r です。なので、すっかり口を開いた「あ」ではなく、r を意識してのどの奥で出す音です。)

という、ナチ(Nazi)がアウシュヴィッツなどの強制収容所の入口に掲げたモットーがあります。ナチは、「国家社会主義ドイツ労働者党」の略称で、

die Nationalsozialistische Deutsche Arbeiterpartei
ディ  ナツィオール・ゾツィアスティシェ イチェ           ァバイター・パァ

が正式名称です。このナチがユダヤ人などを大量に殺害したアウシュヴィッツの入口に、皮肉のように「労働は自由にする」、つまり「働けば自由になる」と記したのです。


アウシュビッツ収容所 入り口
▲アウシュビッツ収容所 入り口 *1

 そもそもこの言葉は、ハインリヒ・ベータ(Heinrich Beta: 1813-1876)が著書『金銭と精神(Geld und Geist)』(1845)のなかで用いた表現でした。

 中世キリスト教世界において労働の価値が貶められたのに対して、ルターが労働の価値を高めたとベータは論じます。彼は金銭に縛られない、自由な世界を夢見ていました。

4. 自由の価値

 面白いことに、ベータとほぼ同時期に似たような表現が、とある出版社のモットーとして使われていました。19世紀に文庫本や百科事典を出版して成功していたヨーゼフ・マイアー(Joseph Meyer: 1796-1856)は、1840~50年代に全365巻の廉価版文庫を出版しています。その際に宣伝で用い、かつ各巻にモットーとして掲げたのが次の文です。

Bildung macht frei. 教養は自由にする。
ルドゥング ハト       フ

ヨーゼフ・マイアー
▲ヨーゼフ・マイアー

 マイアーは、自分の出版業が人々の知識獲得と人間形成につながり、それが彼らに自由をもたらすと確信していました。

 しかし20世紀のナチは、上記のようなベータとマイアーのリベラルな言説を抑圧と死の言説へと変換したのでした。モットーとは裏腹に、収容者の労働の先に待っていたのは、自由ではなく死だったのです。

 こうした「〜は自由にする」という表現は、中世の言葉の

Pilgerfahrt macht frei. 巡礼の旅は自由にする。
ルガー・ファーァト ハト フ

などまでさかのぼるそうです。巡礼に出ることで世俗的なしがらみから自由になり、天国がより近くなることを意味することばです。die Freiheit [フイハイト]「自由」は、ドイツ人にとって非常に重要な価値であることがわかると思います。

5. du rennst「君は走る」と ihr rennt「君たちは走る」

 親しい同士で使う du「君は、おまえは」が主語の場合の動詞の語尾は、-st です。なので、「君は走る」であれば、

du rennst 君は走る
ドゥー ンスト

となります。同じように träumen[トイメン]「夢を見る」ならば、

du träumst 君は夢を見る
ドゥー トイムスト

となるわけです。この表現、文脈によっては、「(夢ばかり見ていないで)目を覚ませよ!」という意味で使ったりします。

 du の複数形にあたる ihr「君たちは」の場合の動詞の語尾は -t です。つまり、3人称単数の場合と同じなのです。なので、「君たちは走る」は、

ihr rennt 君たちは走る
ーァ ント

となりますし、「君たちは夢を見る」ならば、

ihr träumt 君たちは夢を見る
ーァ トイムト

ですね。

 最後は駆け足("Ich renne!")の説明で失礼しました。とりあえず今回は、er/sie/es で語尾が-tになることを覚えていただければと思います。



練習1

 動詞 trinken[トンケン]「飲む」をそれぞれの主語に合わせて変化させましょう。

ich trinke   wir trinken
 
du trinkst   ihr trinkt   
 
Sie trinken
 
er
sie trinkt   sie trinken
es

 



練習2

 次の文をヒントを参考にドイツ語にしてみましょう。

1. 彼は夢を見ている。(er / träumen)

 

2. 彼女はゆっくり走る。(sie / rennen / langsam[ングザーム])

 

3. 君は考えるだけだ。(du / denken / nur[ーァ])

 

4. 君たちは明日遊ぶ。(ihr / spielen / morgen[ァゲン])

 



まとめ

 現在形での動詞の主語に合わせた変化は次のとおりです。

ich denke wir denken
ンケ ヴィーァ ンケン
du denkst ihr denkt
ドゥ ンクスト ーァ ンクト
Sie denken
ズィ ンケン
er
sie denkt sie denken
ズィ ンクト ズィ ンケン
es



*1 By User Neil at the English language Wikipedia [GFDL or CC-BY-SA-3.0], via Wikimedia Commons

第7課
第9課


矢羽々 崇(やはば・たかし) ■ 執筆者プロフィール

1962年岩手県盛岡市生まれ。ミュンヘン大学マギスター(修士)、上智大学博士(文学)取得。獨協大学外国語学部ドイツ語学科教授。専門は近現代ドイツ文学(主に叙情詩)。著書は、『「歓喜に寄せて」の物語――シラーの詩とベートーヴェンの「第九」』(2007年)ほか多数。2000~2002年度および2007年度に「ラジオドイツ語講座」講師、2008~2010年度「テレビでドイツ語」講師を担当。






▲ページトップに戻る

複写について プライバシーポリシー お問い合わせ

Copyright(C)Kenkyusha Co., Ltd. All Rights Reserved.