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読んで味わう ドイツ語文法

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最重要動詞(2) haben「持つ」とwerden「なる」

Hast du Angst? 不安かい?
スト   ドゥー ングスト

1. エンデの『モモ』

 本課では、第6課で学んだ sein「ある」と同様に最重要動詞で、かつ不規則な変化もする haben「持つ」と werden「なる」を覚えましょう。

 皆さんは、ドイツの作家ミヒャエル・エンデ(1929-1995)をご存じでしょうか。彼の『はてしない物語(Die unendliche Geschichte)』(1979)は、 40以上の言語に翻訳され、一説によると世界中で1000万部売れたと言われます。映画『ネバーエンディング・ストーリー』(1984)は、この作品を土台にしています。

 『はてしない物語』に続いて有名なエンデ作品といえば、『モモ(Momo)』(1973年)です。こちらも世界で700万部売れています。古代に起源をもつ円形劇場がある街で、人々がのんびりと暮らしていましたが、そこに「時間貯蓄銀行」の灰色の男たちが現れ、人々の時間を貯めると称して盗んでいきます。人々は、時間がないと言ってあくせく暮らすようになります。そんな中、灰色の男たちと戦うために、少女モモが立ち上がります。けっして子どもだけが楽しむ本ではありません。大人も楽しめること受けあいです。


モモ
▲モモをかたどった銅像 *1

 さて、小説では、モモは灰色の男と遭遇した後、友人のギギとベポにそのことを話します。すると、ベポはモモにこう尋ねます。

Hast du Angst? 不安かい?
スト  ドゥー ングスト

文頭にある hast が、「持つ」を意味する動詞 haben の du に合わせた変化形です。規則変化のきまりに従えば、×habst になるはずですが、そうではないことにご注意ください。また、ドイツ語の「はい」「いいえ」で答える疑問文では、動詞が文頭に置かれます。語順については、次の第10課でお話しします。

 それはさておき、モモの最終的な答えは、

Ich hab schon Angst. もちろん不安よ。
ヒ  ープ ショーン  ングスト

です。日常会話では、ich の場合の人称変化語尾 -e が省略されることが多いために、habe ではなく、hab というかたちになっています。

2. haben の変化

 それでは、haben の変化をチェックしましょう。

ich habe wir haben
イヒ ーベ ヴィーァ ーベン
du hast ihr habt
ドゥー スト イーァ ープト
Sie haben
ズィー ーベン
er
エァ
sie hat sie haben
ズィー ズィー ーベン
es
エス

 前の第7、8課で学んだ規則動詞の変化と違う点がいくつかあります。ich や wir、ihr、sie と Sie では、規則通りに変化しています。しかし、du と er/sie/es では不規則になっていますね。du hast と er/sie/es hat という変化で、語幹の部分が ha- だけになっています。なお、この先の課で不規則に変化する動詞を学んでいきますが、それらでも語幹で音が変わるのは、du と er/sie/es の部分だけだということは、知っておくとよいでしょう。

 また、sein 以外の動詞では、「私たち」の wir と「彼らは」の sie, 「あなた(がた)」の Sie のかたちは不定形と同じです(habenであればhaben)。これはぜひ覚えておいてください。

3. 暇がない!

 『モモ』の他の場面では、モモが訪ねていった夫婦が、あくせくしながら次のように言います。

Wir haben im Moment wahrhaftig keine Zeit für dich.
ヴィーァ ーベン ム モント       ヴァーァハフティヒ イネ ツァイト フューァ ディ
本当に私たちには今、君のための時間/暇なんてないんだ。

 ちょっと文が複雑ですね。なので、核になる部分だけを取り出すと次のようになります。

Wir haben keine Zeit. 私たちには暇/時間がない。
ヴィーァ ーベン   イネ      ツァイト

 Zeit haben は「暇/時間がある」という意味の定型表現です。Zeit の前についた keine は英語の no にあたる言葉です。なお、最初の文の im Moment は「今のところ」、wahrhaftig は「本当に」、für dich は「君のために」という意味です。

4. 神にユーモアがある理由は?

 3人称単数の hat を使った文に、こんな表現があります。

Gott hat Humor. 神にはユーモアがある。
ト       ト  フーァ

続く文は、「なぜなら人間を創ったから」。あくせくしたり、時間を喜んで無駄使いしてのんびりしたり。憎しみ合ったり、愛し合ったり。人間のまわり道ぐあいは、まさに神のユーモアの産物なのかもしれません。

5. 重要動詞 werden

Alle Menschen werden Brüder. すべての人間は兄弟になる。
(シラー「歓喜に寄せて」)
レ    ンシェン          ヴェァデン   ブリューダー

 この文は、これまで何度か登場したシラーの「歓喜に寄せて(An die Freude)」(1786/1803)からの1行です。ベートーヴェンの『第九交響曲』(1824)の合唱部分で繰り返し歌われるので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。

▲『第九交響曲』(合唱は1:30~)

 主語は、alle Menschen「すべての人間は」(単数 der Mensch [ンシュ])なので、3人称複数に当たります。続く werden は、その主語に合わせて動詞が人称変化したかたちです。Brüder は「兄弟」を表す der Bruder [ブーダー]の複数形です。

 しかし、シラーが「歓喜に寄せて」を最初に発表した1786年の版では、この詩行は、

Bettler werden Fürstenbrüder. 乞食は王侯の兄弟となる。
トラー     ヴェァデン  フュァステン・ブリューダー

となっていました。これが後の1803年の版では、ベートーヴェンの『第九交響曲』で歌われるようなかたちに変えられたのです。この詩が最初に発表されたのは1786年で、フランス革命の直前でした。第4課でご紹介したように、この詩は「飲み歌」として広く親しまれていました。しかし、フランス革命の進行に伴い、「乞食は王侯の兄弟となる」という冗談めかした詩行に現実が追いついてしまい、洒落が洒落でなくなってしまいました。そうした経緯から、この箇所は「すべての人間は兄弟になる」という表現に変更されたのだと思われます。

 「あれっ、2つの名詞の複数形が違うぞ(der Mensch – die Menschenとder Bruder – die Brüder)」と気づかれたでしょうか。実はドイツ語の複数形のパターンは、大雑把にみて5種類あるのです。それについては、また第14課でお話しするつもりです。

6. werden の変化表

 では、ここで werden の変化表を見てみましょう。

ich werde wir werden
イヒ ヴェァデ ヴィーァ ヴェァデン
du wirst ihr werdet
ドゥー ヴィァスト イーァ ヴェァデト
Sie werden
ズィー ヴェァデン
er
エァ
sie wird sie werden
ズィー ヴィァト ズィー ヴェァデン
es
エス

 いかがでしょうか。haben と同様に、werden という動詞の語幹 werd- のかたちが変化している箇所があります。du wirst と er/sie/es wird の箇所です。特に後者では、語尾部分も -t ではなく、-d で終わっているのが特徴的です。

 他には、ihr werdet と、語尾が -t ではなく、-et となっています。この -e- は口調を整えるために、語幹が -t や -d などで終わる動詞で入れるのです。ただ注意してほしいのは、自分の都合で勝手に -e- を入れていいわけではなく、決まりがあることです。いずれ機会を設けて、説明します。

7. 「父になる」

 werden を使った格言として、次の言葉も有名です。

Vater werden ist nicht schwer, 父になることは難しくない、
ファーター ヴェァデン スト ヒト シュヴェーァ
Vater sein dagegen schwer. それに対して父であることは難しい。
ファーター イン ダーゲン     シュヴェーァ

 語ったのは、ヴィルヘルム・ブッシュ(Wilhelm Busch: 1832-1908)。マンガ(コミック)の先駆けとなるような子どもも楽しめる絵入りの物語を描いたブッシュは、『マックスとモーリッツ(Max und Moritz)』(1865)が代表作です。二人の男の子の7つのいたずらとその結末が、韻を踏んだリズムの良い文章で語られており、現在でもドイツ人に愛されています。

ヴィルヘルム・ブッシュ
▲ヴィルヘルム・ブッシュ(自画像)

 引用したのは、彼の『絵物語(Bildergeschichten)』(1877)に収録された「ユールヒェン(Julchen)」の最初の2行です。子どもを作ることに比べて、長きにわたってこどもを育てていき、父親としての役割を果たすことがいかに難しいかを、簡潔な韻文にまとめています。

 なお、引用した文では、Vater werden と Vater sein は、いわゆる「不定句」(主語や時制によって動詞のかたちが定まっていない、いわば基本のかたち)で、主語になっています。英語であれば、to become a fatherto be a father でしょうか。ドイツ語では動詞の不定句を作る場合には、英語とは逆に動詞を最後に持ってきます。つまり、日本語の語順に近くなるのです。これも日本人にとってはありがたいですね。語順については、次の課でお話しします。

まとめ

 haben と werden の変化

 ・haben

ich habe wir haben
du hast ihr habt
Sie haben
er hat sie haben

 ・werden

ich werde wir werden
du wirst ihr werdet
Sie werden
er wird sie werden

 動詞の変化では、 wir、複数の sie、「あなた(がた)」の Sie が主語のときの動詞の変化形が同じです。一般的には、不定形と同じになります。




*1 By User ChristianSchd at the German language Wikipedia [GFDL or CC-BY-SA-4.0], via Wikimedia Commons

第8課
第10課


矢羽々 崇(やはば・たかし) ■ 執筆者プロフィール

1962年岩手県盛岡市生まれ。ミュンヘン大学マギスター(修士)、上智大学博士(文学)取得。獨協大学外国語学部ドイツ語学科教授。専門は近現代ドイツ文学(主に叙情詩)。著書は、『「歓喜に寄せて」の物語――シラーの詩とベートーヴェンの「第九」』(2007年)ほか多数。2000~2002年度および2007年度に「ラジオドイツ語講座」講師、2008~2010年度「テレビでドイツ語」講師を担当。






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