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第1回 prayer (お祈り)

2018年1月に、アメリカで世論調査などを手掛けるギャラップ社(Gallup, Inc.)が発表した、イデオロギーに関する調査によると、アメリカ人の26%がリベラル、35%が保守、35%が中道という割合になっています。

リベラル(liberal)とは、元々は「自由な」という意味です。ブッシュ政権末期の2008年頃までは、大きな政府が国民を保護する福祉社会、反戦、銃規制強化、環境保護、中絶権強化、マイノリティ保護を望む人々が、「リベラル派」と呼ばれていました。

しかし、オバマ政権誕生をきっかけとして、ここ10年のアメリカの “リベラル” は、極左化が進み、社会主義のイデオロギーに近い、不公平なまでに結果均等な世界を望む傾向を強めています。

現在の“リベラル派”は、“銃規制強化、環境保護、中絶権強化、マイノリティ保護” という思想が激化するあまり、不法移民の全面的な受け容れや、合衆国憲法補正第2条(銃所持権) の撤廃をめざすだけに留まらず、多数派であるキリスト教徒や白人(特に白人男性)を過剰に敵視し、「妊娠8か月でも中絶は女性の権利である」などと主張しています。

また、「3歳の女の子/男の子が『自分は男の子/女の子になりたい』と言ったら、親はその子たちをすぐに性同一性障害と認め、ホルモン治療を始めなければいけない(そうしない親から親権を取り上げるべきだ)」などと声をあげ、環境保護のためなら化石燃料施設の破壊も厭わないような急進左派と化しています。

アメリカの小中学校の教師や大学教授、Google, Facebook, Twitter などのソーシャル・メディア企業、大手メディアの記者や幹部には、特にこうした uber-liberal(超リベラル)な思想の人々が多く、彼らは常に politically correct(PC:差別を排除した、政治的に妥当な)であることを最大の美徳だと信じています。

彼らが推奨する PC な言葉や表現は、保守派や中道派に幅広く受け容れられているわけではありません。しかし、日本人が接するアメリカ人の多くは、NY や LA、ボストンなどの大都会に住む“リベラル派”です。ソーシャル・メディアに英語で書き込んだコメントを厳しい目でチェックしてくるような人々にも“リベラル派”が多いので、彼らが禁句とみなした表現をうっかり使うと、人間関係にヒビが入ったり、Twitter や Facebook でアカウントを停止されるなど、出入り禁止処分になったりすることもあり得ます。

私はアニマル・ライツ(動物の権利)、同性愛者やトランスジェンダーの人々の権利拡大を支持し、環境保護の立場からも中絶権には賛成しているリベラル派のイスラム教徒です。ただ、保守派の総本山と言っても過言ではないテキサス州に住んでいるため、保守派の考え方もよく理解できます。 このコラムでは、近年のアメリカの“リベラル派”が禁句としている表現を、保守派・中道派の視点も交えて検証していきたいと思っています。
リベラルは「お祈り」が大嫌い?

1回目に取り上げる禁句は――prayer(お祈り)です。

アメリカではハリケーンなどの天災、銃乱射事件やテロなどが起きるたびに、政治家や保守派の人々が “My thoughts and prayers go out to the victims.” (犠牲者たちのために、心からお祈りしております)と発言しています。

オバマ前大統領夫妻も、テロや銃乱射事件の後にしばしばこの一言を使っていて、2013年にワシントン海軍基地で起きた乱射事件直後も “We send our thoughts and prayers to all at the Navy Yard who've been touched by this tragedy.” (海軍基地でこの悲劇の影響を受けた人々のために心からお祈りしています)という声明を発表しました。

しかし、“リベラル派”はこのような一言に対して露骨な嫌悪感を示しています。

その理由の一つは、彼らはこうした “常套句” を empty words and empty gestures(空虚な言葉、無意味なジェスチャー)と捉えているからです。

特に銃乱射事件に関しては、“リベラル派”は銃規制強化のみが唯一の解決策だと信じているので、“Enough with thoughts and prayers! We need action!” (祈りなんてもうウンザリ! 実践的対策を取るべきだ!)と思っているわけです。

しかし、彼らがこの言葉を嫌う最大の理由は、“リベラル派”がキリスト教に対して激しい敵意を抱いているからです。彼らは、「キリスト教は十字軍の時代から悪事をはたらき南北アメリカの先住民を虐殺した諸悪の根源で、キリスト教徒は中絶や同性愛に反対している時代錯誤な連中だ」と信じています。そのため、神に祈る、といういかにもキリスト教的な行為を蔑み、小馬鹿にしているのです。

「祈り」はムダで、非科学的?

また、“リベラル派”は、キリスト教と科学は相容れないもので、キリスト教の祈りは現実的に何かを解決するものではないと決めつけています。

2018年2月14日にフロリダの高校で乱射事件が起きた後、多くの人々が Facebook や Twitter で、犠牲者にthoughts and prayersを送ったとき、天体物理学者のニール・ディグラス・タイソン(Neil de Grasse Tyson)氏は、

Evidence collected over many years, obtained from many locations, indicates that the power of Prayer is insufficient to stop bullets from killing school children.
 
(長年にわたって様々な場所で収集された証拠が、祈りだけでは銃弾が生徒を殺すことを止められない、ということを証明している)
 

とツイートして、“リベラル派”から拍手喝采を浴びました。

また、2月26日、『クラークス』『ドグマ』などで知られる映画監督のケヴィン・スミス(Kevin Smith)が心臓発作で倒れた直後、『ガーディアンズ・オヴ・ギャラクシー』のスター、クリス・プラット(Chris Pratt)が祈りを求めたときも、“リベラル派”の「祈りに対する攻撃ツイート」が炸裂しました。

まず、プラットのツイートを見てみましょう。

Kevin we don't know each other too good but I have loved you since Clerks and I’m praying my ass off for you (')cause I believe in the healing power of prayer. Can you please pray with me people!?
 
(ケヴィン、僕たちは知り合いじゃないけど『クラークス』以来、僕は君のファンなんだ。僕は祈りの癒しのパワーを信じてるから、君のために必死に祈ってる。みんなも、一緒に祈ってくれるよね!?)
 

ごく普通の感覚でこのツイートを読めば、「温かいお見舞いと支援の言葉」だと受け止められると思うのですが、キリスト教に対して並々ならぬ憎悪を抱いている“リベラル派”は、「祈り」という言葉を取り上げて、キリスト教をせせら笑い、プラットを侮蔑するツイートで小馬鹿にしました。

特に底意地の悪いツイートを3つご紹介しましょう。

Praying is utterly worthless. Just an easy way to pat yourself on the back while making you warm and fuzzy inside by actually thinking your prayers affect the plan of a divine sky daddy that's supposedly omniscient and omnipotent.
 
(祈りなんて全然役に立たない。自分の祈りが全知全能と思われてる神聖な空の父ちゃん(=神)のプランに影響を及ぼすとマジで信じて、心が温まっていい気持ちになる、という自己満足にすぎない)
 
Doctors and nurses save lives not prayer.
 
(命を救うのは医者と看護婦で、祈りじゃない)
 
Good thing Kevin believed in the power of science, and went to the hospital.
 
(ケヴィンが科学の力を信じて病院に行って良かった)
 
嘲笑される「祈り」と、されない「祈り」

“リベラル派”は、保守派の「祈り」についてまったく理解していないので、こういう嫌みなコメントが書けるのでしょう。保守派は、他力本願で神に祈っているわけではありません。彼らは「祈り」を通じて信仰心を強めることにより精進し、さらに善良な人間になろう、と心がけているのです。

私の保守派の隣人たちは、学校での銃乱射事件が起こるたびにそれぞれの教会で祈り、献血し、犠牲者と死者の遺族のため、シングル・ペアレントの家庭への支援強化、放課後のサークル活動などのおちこぼれ防止対策強化のための慈善活動を行い、募金を集めています。

つまり、保守派の多くの人による祈りと信仰には実質的な行動が伴うのです。“リベラル派”はこうした保守派のライフスタイルをまったく理解していないので、「祈り」=中世の遺物、と嘲笑しがちです。

とはいえ、“リベラル派”はすべての「祈り」を蔑んでいるわけではなく、メキシコからの不法移民が祈る姿は温かい目で見守り、ムスリムが職場で祈る権利を擁護し、ダライ・ラマが平和のために祈ることについては尊敬しています。

また、オバマ政権誕生の立役者と言われている黒人女性司会者、オプラ・ウィンフリー(Oprah Gail Winfrey)の祈りも、“リベラル派”は甘受しています。 オプラは、2020年の大統領選に出馬するかどうかという問題に関して、

I went into prayer, ‘God, if you think I'm supposed to run, you gotta tell me, and it has to be so clear that not even I can miss it.’ And I haven't gotten that.
 
(「神様、私が出馬すべきだと思われるのでしたら、そう言ってください。見逃すことができないハッキリした啓示を下してください」と祈ったんですけど、まだ啓示を受けていません)
 

と発言しました。

これに対して“リベラル派”は「彼女が早く神の啓示を受けて欲しい」と、オプラの「祈り」を歓迎していました。

つまり、リベラル・エリートたちが禁句としている prayer は、白人および保守派のキリスト教の祈りだけ、と言えそうなので、おそらく日本人が “I'm sending you my prayers.” と言っても、バッシングされることはないと思われます。

しかし、大学のキャンパスや NY やボストン、LA などのオフィスで疎外感を味わいたくないと思っている方々は、触らぬ「神」にたたりなし、ということで、「お祈り」関連の言葉は避けたほうがいいでしょう。

次回は、女性のほめ方について取り上げます。

 


〈注〉

合衆国憲法補正第2条(The Second Amendment)

日本のメディアや参考書では、amendment は「修正条項」と訳されていますが、このコラムでは「補正条項」という表現を使わせていただきます。

日本国憲法の修正案は、すでに日本国憲法に記されている条項を修正しようとするものですが、合衆国憲法の amendments は、オリジナルの憲法ではまったく触れられていない事項を補い、付け足した条項なので、「補正条項」という訳語のほうが、より正しいニュアンスを伝えることができるからです。

 

 

〈著者紹介〉

西森 マリー(にしもり・まりー)

 ジャーナリスト。エジプト、カイロ大学で比較言語心理学を専攻。
 1989年〜1994年、テレビ朝日系「CNN モーニング」でアンカーを務めたほか、NHK 教育テレビ「英会話I」の講師、NHK の海外向け英語放送の DJ などを歴任。
 1994年、ヨーロッパに移住し、ドイツ・北欧のロックシーンの取材をしていたが、1998年以降はアメリカ、テキサスに本拠地を移し、選挙現場の取材等に従事。

◇主な著書

『レッド・ステイツの真実――アメリカの知られざる実像に迫る』(研究社)※電子書籍版もあります。
『ドナルド・トランプはなぜ大統領になれたのか?――アメリカを蝕むリベラル・エリートの真実』(星海社)
『ギリシア・ローマ神話を知れば英語はもっと上達する』(講談社)
『世界のエリートがみんな使っているシェイクスピアの英語』(講談社)

 


 

 

関連書籍

レッド・ステイツの真実――アメリカの知られざる実像に迫る
西森マリーの カード、英語で書きましょう!〈完全版〉

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