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第8回 リアルな「ヴァーチャル方言」キャラ登場の巻:ヴァーチャル方言とラップは相性がいい?!

 「方言キャラ」は、映画やドラマ、小説やマンガやアニメやゲームのような仮想キャラとしてか存在しないのでしょうか。

 そんなことはありません。今回は、リアルな「ヴァーチャル方言キャラ」を話題にしたいと思います。

 2018年10月、山形県山形市の「遊学館」というところにお邪魔してきました。山形県生涯学習文化財団主催・山形県教育委員会後援の平成30(2018)年度「山形学」講座「どっこい方言は生きている」の5回シリーズの最終回の講師としてお招きを頂戴したためです。[1]

 最終回に先行し、同講座では山形県のリアル方言の実態を中心とする「第1回 方言とわたし」「第2回 方言と最上」「第3回 方言と庄内」、演劇や映画・テレビドラマにおけるヴァーチャル方言についての「第4回 演劇にみる方言」と多彩な内容が展開されており、その締めくくりとして「第5回 方言の未来と進化」というお題を頂戴したというわけです。

 そこでご一緒したのが、1977年・山形県天童市生まれのタレント、ミッチーチェンさんです。

 

ミッチーチェン CM ZEST
(伝説の余興師 ミッチーチェン初の CM)

 

当日は、ミッチーチェンさんのトークと相棒の BANKING さんを交えたラップ・パフォーマンス、講義のあとのミッチーチェンさんとのコラボセッションに、受講者との有意義なやりとりなど大いに盛り上がりましたが(いや、本当に! 楽しかったです)、こちらは財団から全講座の記録が書籍としていずれ刊行されることになっているので、そちらをお楽しみに!

 冒頭述べたリアルな「ヴァーチャル方言キャラ」とは、ミッチーチェンさんその人のことです。

 ミッチーチェンさんは、地元テレビ局のレギュラーを務めていらっしゃるほか、地元企業のテレビ CM などに多く出演されており、山形では広く知られた方です。山形駅でも新幹線の改札を出たところに設置されている電光掲示で、ミッチーチェンさんの登場する CM が派手にお迎えしてくれる、そんな山形に根付いた活動をされている方です。

 ミッチーチェンさんは、2008年3月の「R-1 グランプリ」に出場したことをきっかけに、自ら「伝説の余興師」と名乗り、おかっぱ頭の白タキシード姿でタレント活動を開始。2010年頃から県内メディア、東京キー局の NTV 系列「24時間テレビ 愛は地球を救う」の MC を山形で担当するなどじわじわと人気を拡大させる中、2013年から地元ラジオ局 YBC ラジオ番組「ミッチーチェンの4時バケ」がスタートします(2017年終了)。番組の趣向は、ミッチーチェンさんとご自身が扮するゲストキャラクターの仮想対談で、その設定の中から生まれた人気キャラクターが山形弁ラッパーの MC GATA です。MC GATA は、キャップを被り、トレードマークのグリルをプリントしただぼだぼ T シャツに金のごっついネックレスをじゃらじゃらさせる「わかりやすい B-Boy スタイル」のキャラです。

 …なんてごちゃごちゃ言っているよりも、2015年にリリースされた「帰郷〜これが俺の生き GATA」をご覧いただきましょう!

 

 さあ、MC GATA feat. ミッチーチェンさん、マイクチックからの「帰郷〜これが俺の生き GATA」、ここで一発カマしていただきましょう!

 

【山形弁 ラップ】MC GATA feat.ミッチーチェン
「帰郷〜これが俺の生き GATA〜」
オフィシャルプロモーションビデオ

 

 いかがでしたか?

 なんかこう、東京に出て一発カマそうと思いながらもぐだぐだなロコ男子の気持ちが、痛いように、それでいてコミカルに伝わる楽曲ではなかったでしょうか。

 ミッチーチェンさんは、前述の通り、天童市出身です。天童市の名産品のひとつである将棋の駒を使ったオープニング、山形からの上京を象徴する山形新幹線「つばさ」が歌い込まれており、ご当地感もたっぷりです。

 結構濃いめの「方言」ですが、動画を見ながら聞いているとさほど理解しにくいところはありません。なぜかと言えば、発音が異なるところには将棋の駒などに書かれた共通語形を示し、共通語と形の異なる単語・俚言には動画の画面で共通語の対訳を付けています。山形弁を解さない他方言話者への配慮が随所に示されているために、濃いめにもかかわらず、理解を妨げていないのです。たとえば、それぞれ以下のような形で示されます(カタカナは筆者の聞き取り、字幕は動画の通り)。

 

地獄の果て(ズゴクノハーテー)
(0分・9秒あたり)

【字幕】
 山形弁 すぺたのこぺた
 標準語 なんだかんだ
(1分・15秒あたり)

【字幕】
 山形弁 がすますい!
 標準語 静かにしろ
(1分・22秒あたり)

 

 ミッチーチェンさんはポスト団塊世代(ご自身では「失われた20年」の「就職氷河期世代」、「ロスジェネ(ロストジェネレーション)世代」と自認されていましたが)ですから、素のことばはかなり共通語化した「方言」です。

 歌詞に現れるこの濃いめの「方言」は、素のことばではなく、じつはミッチーチェンさんのお父さん世代に相当する団塊世代の「山形弁」を映したものだそうです。

 「帰郷」の歌詞で使われる濃いめの「方言」は地元キャラを立ちあげるために、一世代上の濃いめの「方言」を編集加工したヴァーチャル方言の一種「ジモ方言」(“ジモティ” の方言の略)であるということです。つまり、MC GATA は、リアルな「ヴァーチャル方言キャラ」である、ということにもなるのです。

 しかし、この濃いめの「ジモ方言」が、イヤーキャッチとなるばかりではなく、リアルに「腹を割った」感を強く立ちあげます。もとより、「方言」は地元の共感を呼ぶ装置です。なぜなら、地元の方言は地元をつなぐ紐帯の機能をもっているからです。一方で、先に確認したように文字や対訳を動画に付すことによって、「地元」を共有しないソトの人の理解の一助となっています。加えて、ミッチーチェンさんの語る「ジモ方言」に対する言語感覚も重要です。

 

「地獄」といった、ちょっと怖いことばも、「ズゴク」と訛ることによって、ちょっとマヌケな感じになる。
(平成30年度「山形学」講座「第5回 方言の未来と進化」[2018年10月]より)

 

共通語で「やって下さい」は、指示されているという感じになるけれども、方言で「これちっと、やってけれべす」ならば、もっちゃりとして柔らかく響く。
(同上)

 

 ミッチーチェンさんは、上記のように「方言」がコミュニケーションの緩衝材となるという効果を指摘しています。強い主張やあけすけな内容も「親密コードの方言で言えば受容可能なレベル」になるということを意識した言語選択を可視化したものがミッチーチェンさんにとっての「方言キャラ」と言えるのです。

 ミッチーチェンさんが「方言キャラ」に目覚めたのは、「自分にとってオリジナリティーって何」と考えながら地元でタレント活動を続けていたところ、方言でしゃべるとウケることに気が付いたことがきっかけなのだそうです。

 

考えてみれば、親父や親父の友だちは訛っている。自分は訛りの英才教育を受けているから訛れるわけだから、じゃあ「方言」を武器にさせてもらおうと … 。
(平成30年度「山形学」講座「第5回 方言の未来と進化」[2018年10月]より)

 

 これが、MC GATA 誕生のいきさつとのことでした。

 時はまさに2000年代。日本語社会全体に「ネット」と「方言」で売る時代がやってきており、「帰郷」のリリースは、そういった時代のムードにもぴったりマッチしたものとなったわけです。ミッチーチェンさんは、1990年代に東京の大学に通っていたそうですが、その折は、山形弁は完全に封印して過ごしたそうです。そんなミッチーチェンさんが、今やリアル「ヴァーチャル方言キャラ」でブレイク。この20年間の日本語社会における「方言」の価値の上昇ぶりがうかがえるエピソードです。

 ちょっと堅苦しいデータですが、2010年に実施した全国方言意識調査に基づく、東北地方生育の人々の方言意識の年齢による変化を見てみましょう。[2] 以下の図は、右が高年層、左が若年層なので、右から左に意識がどのように変化してきたのかをみることになります。

 

 

 「積極的方言話者」というのはたとえば、「いつでもどこでも関西弁を話す関西人」、「共通語話者」は「いつでもどこでも共通語を話す首都圏人」がその典型です。「積極的使い分け派」は方言と共通語どちらも好きで場面による使い分け意識の強いタイプ、「消極的使い分け派」は方言も共通語もあまり好きではなく、といっても方言意識はあるのでやむをえず使い分けるタイプです。東北地方生育者の高年層は「共通語話者」「積極的方言話者」「積極的使い分け派」が混戦状態にあります。ところが2010年調査時の60歳前後(団塊の世代)より若い世代では、ぐいぐいと「積極的方言話者」に所属する確率が高まります。もっとも若い世代では意識としては「積極的方言話者」の所属確率がずんと増えています。つまりは、東北地方生育者のもっとも若い世代は、かつては関西弁話者を典型とした「いつでもどこでも地元方言」という意識をもつタイプが最大グループとなっているのです。

 ミッチーチェンさんは、調査当時30代。図中の真ん中の矢印あたりの世代です。確かに「積極的方言話者」が最大グループですが、「積極的使い分け派」群も多く、まだ「いつでもどこでも地元方言で!」と振り切れる人ばかりではない世代であることがよく分かります。

 ミッチーチェンさんの話にもどりましょう。

 方言ラップとしてリリースされた MC GATA の「帰郷」も、ミッチーチェンとして歌い上げる部分は共通語です。その理由はちょっと分かりませんが(ミッチーチェンさんもそういわれれば、そうだね … ということでした)、本連載「第6回 方言キャラ in 宝塚」でも取り上げたように、宝塚歌劇においても、“台詞は「方言」だが歌部分は「共通語」というパターン”が伝統的なようです(ただし、幕末の日本を舞台とする『幕末太陽傳』の中では長州弁で歌い上げるのですが … 本連載「第7回」参照。これはこれで、エンタメにおけるヴァーチャル方言のあり方としてひとつトピックになりそうです)。

 「山形弁」というとあたかも山形県内すべてに共通する「方言」があるかのように思えますが、本当は、ひとまとめにすることはできません。山形県の方言は東北方言に属するものですが、大きく、北奥方言に属する庄内方言(庄内地方)と、南奥方言に属する内陸方言に分かれます。内陸方言は、さらに細かく新庄方言(最上地方)、村山方言(村山地方)、置賜方言(置賜地方)に分かれます。

 ミッチーチェンさんの生育地である天童市は南奥方言村に属する村山方言域です。一世代上の濃厚な村山方言を資源とした「ジモ方言」ラップ「帰郷」をリリースしたことによって、「庄内からあんまり呼ばれなくなったような気がした」(ミッチーチェンさん談)そうです。

 そのことを踏まえ2016年に配信が開始された続弾「アガスケのススメ」には、新しい仕掛けが組み込まれます。アガスケとは歌詞の中にもあるように「山形弁でとにかく生意気で出たがりの調子こきの人」を指す俚言です。これをもって全山形にアピールすると同時に、ロケ地を庄内映画村にし、歌詞にも「SHOW NIGHT!(庄内)」を取り込み、ばっちり庄内地方にアピールしています。

 改めて、MC GATA ど BANKING さん、「アガスケのススメ」よろしくお願いします!

 

2ND シングル MC GATA ど BANKING 「アガスケのススメ」 MV

 

 もともと、先にみたようにアガスケは「生意気」「お調子者」という意味ですから、肯定的な意味を持たない単語です。しかし、この楽曲では、そんなアガスケが地元を背負っていくという気概が以下のように歌い込まれ、アガスケにポジティブな意味が付与されます(カタカナは筆者の聞き取り)。

 

おしぇわ様! おしぇわ様!
おしぇわ様! に爺様(ジサマ)に婆様(バサマ)!
これからは アガスケが 地元を背負ってイグからな!
おしぇわ様! おしぇわ様!
下世話な話で下世話様!
これからは!
俺様が言いたい(ユタイ)ごど
言(ユ)ていぐからな!

 

 「ジモ方言」ラップで、リアル方言においてネガティブな意味をもつ単語をポジティブな意味の単語に再生させてヴァーチャル方言として流通させる。

 かつてはスティグマだった「方言」が価値をもつものとなった現代を象徴するような楽曲と言えるでしょう。

 ミッチーチェンさん、次はどんな楽曲をカマしてくれるのでしょう。楽しみです♪

 さて、今回はリアルな「ヴァーチャル方言キャラ」として、講座「山形学」で出会ったミッチーチェンさん/MC GATA をみてきました。

 

 しかし、日本語ラップの歴史をたどるとヴァーチャル方言ラップが時代時代を象徴する存在となっていることにも気付きます。

 まず、日本語ラップの元祖とも言われる「俺ら東京さ行ぐだ」(作詞・作曲・歌:吉幾三 1984年、徳間ジャパン ちなみに B 面は「故郷」)は、こんな歌詞でした。

 

テレビも無ェ ラジオも無ェ
自動車もそれほど走って無ェ
ピアノも無ェ バーも無ェ
(中略)
俺らこんな村いやだ 俺らこんな村いやだ
東京へ出るだ 東京へ出だなら
銭コァ貯めで 東京でベコ(牛)飼うだ

 

 この曲は、リリースと同時に「田舎を馬鹿にするな!」というクレームがレコード会社などに寄せられたようですが、1985年度年間21位(オリコン調べ)とかなりのヒット作となっています。また、2013年放送の NHK 連続テレビ小説『あまちゃん』の第1話でも取り上げられたりしたので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。地方の時代・個性の時代の幕開けであった1980年代中頃に登場してきた楽曲である点が興味深いところです。「田舎」をディスっているようでありながら、それなりに受け入れられ、2000年代に入ってからもたびたびネット上で話題になるこの楽曲の「方言」は、どこの方言でもない、すなわちヴァーチャル田舎弁です。それこそが、この楽曲のポイントです。

 1990年代半ばには、EAST END×YURI の「DA.YO.NE」(Epic/Sony Records、1994年)が日本語ラップとしてはじめてのミリオンセラーを記録し、EAST END×YURI は翌年の NHK 紅白歌合戦にも出場します。このヒット(チャート最高順位7位、オリコン調べ)を受けて、大阪バージョンを皮切りに全国の主要都市の方言バージョンが発売され(1995年)、いずれもヒット作となりました。タイトル、チャート最高順位(オリコン調べ)等を以下に示します。

 

大阪弁版「SO.YA.NA」
WEST END×YUKI (from O.P.D)

6位
北海道弁版「DA.BE.SA」
NORTH END×AYUMI (from SAPPORO)

43位
東北弁(仙台)版 「DA.CHA.NE」
NORTH EAST×MAI (from SENDAI)

46位
名古屋弁版「DA.GA.NE」
CHUBU END×SATOMI (from NAGOYA) 

38位
広島弁版「HO.JA.NE」
OYSTER END×YŪKA (from HIROSHIMA)

47位
博多弁版「SO.TA.I」
SOUTH END×YUKA (from FUKUOKA)
41位

 

方言バージョンには首都圏を除く当時の政令指定都市の「ヴァーチャル方言」が選択されています。この現象はラップがポピュラー化していく時代の象徴であったのですが、同時に、以下のように「悪のりだ」と懸念する声もありました。

 

 気をよくしたレコード会社は、ウエストエンド×ユキなるユニットで、歌詞だけ大阪弁にしたバージョン『そやな』を出したところ、こちらも四十万枚と破格の売り上げで大成功を収めた。/柳の下にドジョウは五、六匹いるのが、業界の常識。ついに全国から『だよね』の方言バージョンが四月下旬、一斉に発売される。/商売上手な大人の戦略に、「ま、いっか」と各地の DJ らが乗ったかたちだ。しかしレコード会社の中にさえ、/「こんなことしてるから、いつまでたってもラップはイロモノ扱いから脱することができない」/ と自嘲する声も出ている。
(上井遊、1995年4月10日『週刊アエラ』)

 

 本連載「第1回 「そだねー」と「記憶に残る」方言キャラ」で取り上げた「そだねー」の「DA.YO.NE」替え歌バージョンもネット上には上がっています。確かに拍数といい、ヴァーチャル方言であるところといい、替え歌にはどんぴしゃではありますが … 。

 その後も、ヴァーチャル方言ラップは折に触れて登場し、日本語ラップ界をにぎやかにします。

 横浜生まれ、愛知県常滑市育ちの TOKONA-X(トコナ・エックス)による名古屋弁ラップ「知らざあ言って聞かせや SHOW」(Def Jam Japan、2004年)や、山梨県一宮町(現笛吹市)を活動拠点とする stillichimiya(スティルイチミヤ)がカバーした甲斐弁ラップ「D.N.I(だっちもねぇこんいっちょっし)」(1995年の原田喜照による地元家具店のテレビ CM ソングが原曲、自主版アルバム『One Peach』[2009年]に収録)などです。どちらも地元名の常滑/一宮に由来する名前を持ち、濃いめのヴァーチャル方言が投入されていることが特徴です。

 

バカヤロウ たわけ おみゃあら並べ
お前とお前とお前だ 気を付けして並べ
なにをそんなに怒っとんのって
俺にもわからんで 怒っとんだってこと
(後略)
   (「知らざあ言って聞かせや SHOW」より)

 

 TOKONA-X は、2004年に26歳の若さでこの世を去っているのですが、今でも伝説のラッパーとして人気を集めています。TOKONA-X をリスペクトする次の動画の背景は岐阜県大垣市、この楽曲にも「つまらんもんで」とジモ方言が織り込まれています。

 

過去形ばかりじゃつまらんもんで
進行形書き足して行こうぜ

 

TOKONA-X『OUTRO feat. ILL-BOSSTINO』
【Music Video】Produced by DJ RYOW

 

 中部方言を代表する推量の助動詞「ずら」で始まる stillichimiya の「D.N.I」は少し分かりにくいので[共通語訳・少し意訳シテマス]を付けてみました。がんばってはみたのですが、ラップ感のない共通語訳でごめんなさい … 。

 

ずらっずらっ
だっちもねぇこんいっちょし[つまんねぇこと言うんじゃねぇ]
(中略)
いっちょし やっちょし[言うんじゃねぇ するんじゃねぇ]
ちょびちょびしてると[生意気カマすと]
ぶさらうぞ[ぶん殴るぞ]
(後略)
(「D.N.I(だっちもねぇこんいっちょっし)」より)

 

 stillichimiya メンバーの一人の YOUNG-G は「『これは(内輪すぎて)何言ってるか分かんない』とか、指摘されてきたから、ちょっとはそういう部分は気にしてたのかもしれない。内輪だったり、方言みたいな部分は、良い風に転がる部分もあれば、まったく通用しない部分もあると思うんですよね。だから、良い方向に転がすように、最後にちょっと調整しましたね。でも、ホンのちょっと」と後年インタビューで述べています(Amebreak Representing Hip Hop in Japan 2014年7月9日[インタビュー:高木 “JET” 晋一郎])。

stillichimiya は単に、地元方言由来の「ジモ方言」ばかりでなく、それっぽいニセ方言さえ投入します。その典型例が次の楽曲です。1分45秒ぐらいに出てくる「ずんぶい」が、まさにソレです。[3]

 

stillichimiya【MV】ズンドコ節

 

ずん、ずん、ずん、ずんぶい 感じ
山梨一宮 俺が住んでるとこ

 

 米国ミズーリ州セントルイス出身のラッパー、ネリーが地元の方言で歌うタイトルもそのものズバリ「方言」の「Country Grammar」をリリースしたのが1999年。[4] 「俺ら東京さ行ぐだ」はそれよりずっと早い1984年、「DA.YO.NE」は1994年。ヴァーチャル方言の採用は、本場 US よりも早かったと言えるのかも知れません。

 一方、2010年代の状況としては、「日本語ラップはあまり方言の探求という方向には向かわ」ない、[5] 「アメリカでも、(中略)全土で見れば、地域性よりトレンドの方が年々強くなっていますね」[6] などという声もあります。

 しかし、もともと地元意識の強い音楽であるヒップホップにおける「レペゼン(represent)」意識[7] と、地元ことばを編集加工したヴァーチャル方言はマッチするもので、今後もさまざまなヴァーチャル方言ラップが国内外を問わず現れてくることと思います。

 英国ロンドンでも、移民の言語と地域方言の接触言語であるエスノレクト(Ethnolect)である Jafaican/Jafaikan(Jamaica+fake)が、ラップのことばとして光を浴びているそうです。[8]

 そもそもヴァーチャル方言はリアル方言をリソースとした編集加工を経た再提示(representation)です。ラップとの相性が悪いわけはない。移り変わりの激しいのがラップ音楽の常のようです。これから先、国内外を問わず、どんなタイプのヴァーチャル方言ラップが出てくるか、ますます楽しみです。[9]

 方言ラップについてもいろいろお考えのある方は少なくないと思います。国内外問わず聞くべき楽曲をはじめ、ぜひ、いろいろご教示いただけると幸いです。

 

 ご感想、ご質問等ありましたらぜひ nihongo@kenkyusha.co.jp までお寄せください!

 

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〈著者紹介〉

田中 ゆかり(たなか ゆかり)

 1964年生まれ。神奈川県生育。日本大学文理学部教授。博士(文学)。専門は日本語学(方言・社会言語学)。著書に、『首都圏における言語動態の研究』(笠間書院、2010)、『「方言コスプレ」の時代――ニセ関西弁から龍馬語まで』(岩波書店、2011)、『方言学入門』(共著、三省堂、2013)、『ドラマと方言の新しい関係――『カーネーション』から『八重の桜』、そして『あまちゃん』へ』(共著、笠間書院、2014)、『日本のことばシリーズ14 神奈川県のことば』(編著、明治書院、2015)、『方言萌え!?――ヴァーチャル方言を読み解く』(岩波ジュニア新書、2016)など。

 

 


〈注〉

[1] お招き下さった山形県生涯学習文化財団・講座「山形学」企画委員のみなさま、ミッチーチェンさんに改めてお礼申し上げます。

[2] 田中ゆかり・前田忠彦(2012)「話者分類に基づく地域類型化の試み―全国方言意識調査データを用いた潜在クラス分析による検討―」(『国立国語研究所論集』3, 国立国語研究所)、田中ゆかり・前田忠彦(2013)「方言と共通語に対する意識からみた話者の類型―地域の分類と年代による違い―」(相澤正夫 編『現代日本語の動態研究』おうふう)による。

[3] 「彼らがよく使う「ずんぶい」は造語だったりした、実は虚構性が強いんですよね」(磯部涼の発言[大和田俊之・磯部涼・吉田雅史 2017『ラップは何を映しているのか』毎日新聞出版、p. 178])。造語レベルのヴァーチャル方言も投入しながら「地元」表象をしているらしい。人工方言でここではないどこか(鄙)を表現したものとしては、木下順二の試みがある。本連載「第6回 方言キャラ in 宝塚」参照。

[4] 「田舎言葉が世界を魅了した」(宇多丸・高橋芳朗・DJ YANATAKE・渡辺志保 著/NHK-FM「今日は一日 “Rap” 三昧」制作班 編 2018『ライムスター宇多丸の「ラップ史」入門』NHK 出版、pp. 176-178)

[5] 吉田雅史の発言(大和田俊之・磯部涼・吉田雅史 2017『ラップは何を映しているのか』毎日新聞出版、pp. 180-181)

[6] 磯部涼の発言(大和田俊之・磯部涼・吉田雅史 2017『ラップは何を映しているのか』毎日新聞出版、p. 185)

[7] 「自分の生まれ育った場所、環境や地元の仲間、そうしたもろもろを背負うこと」(「渡辺志保のヒップホップ・スラング辞典①」宇多丸・高橋芳朗・DJ YANATAKE・渡辺志保 著/NHK-FM「今日は一日 “Rap” 三昧」制作班 編 2018『ライムスター宇多丸の「ラップ史」入門』NHK 出版、p. 40)

[8] Kerswill, Paul (2014) “The objectification of ‘Jafaican’: the discoursal embedding of Multicultural London English in the British media” Jannis Androutsopoulos (ed.) Mediatization and Sociolinguistic Change, 428-455. Berlin: De Gruyter.

[9] シェイ・セラーノ[翻訳:小林雅明]2017『ラップ・イヤー・ブック』(DU BOOKS)、長谷川町蔵・大和田俊之 2011『文化系のためのヒップホップ入門』、長谷川町蔵・大和田俊之 2018『文化系のためのヒップホップ入門 2』(いずれもアルテスパブリッシング)、リアルサウンド編集部 編 2016『私たちが熱狂した90年代ジャパニーズヒップホップ』(辰巳出版)も参照した。

 


 

 

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