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第11回 進化する「方言萌え」:「方言萌えマンガ」の登場とその行方

 

 

 平成最後の年として明けた2019年は、それだけでなく2010年代最後の年でもあります。

 2010年代は、ヴァーチャル方言的視点からは、「方言萌え」が特番や深夜番組帯からゴールデンタイムに進出してきた時代といえます。

 そもそも「方言萌え」コンテンツの多くは、20世紀に蓄積された方言コンテンツによって拡散されたベタなヴァーチャル方言や方言ステレオタイプを下敷きにしたものです。

 「方言萌え」黎明期である2000年代前後に若者の間に広まった「方言をしゃべる女子はカワイイ」は、2010年代に入ると早々にコンテンツ化されていきます。

 早い段階のものとしては、「方言」をしゃべる若い女性との仮想デートコーナーを目玉とするバラエティー番組『方言彼女。』(2010年10月〜12月放送、全12回、東名阪ネット6・是空・ダブ 共同制作、幹事局 テレビ埼玉)を指摘することができます。

 

方言彼女。 方言リレー特別版(nikkanSPA)

 

 この番組は続編に留まらず、ジェンダーを入れ替え、「方言は正義、美男子も正義。」をコンセプトとする『方言彼氏。』(2013年10月〜12月放送。東名阪ネット6・ひかり TV 共同制作、幹事局テレビ埼玉)にスピンアウトします。

 そして、ローカル局番組として出発した「方言萌え」企画は、2014年にはキー局制作で全国放送されたアイドルグループ冠番組の人気コーナーに、あっという間に成長? していきました(『TOKIO カケル』[2012年10月〜2017年9月放送、フジテレビ]の「方言女子と喋ってみよう!!」コーナー)。

 ご当地方言で歌う「訛ドル」(なまドル)が登場してきたのもこの頃ですし、こういった流れを汲んで、従来、「方言」を前面に出さなかったアイドルが敢えての「方言トーク」や「方言キャラ」を身にまとうようになったのもこの頃です。

 この頃から活躍する訛ドルとしては、アニメ主題歌「タッチ」(歌:岩崎良美、作詞:康珍化、作曲:芹澤廣明、1985年、キャニオン・レコード)の山形弁バージョンを歌う朝倉さや(山形市出身歌手)がよく知られる存在でしょう。

 

タッチ【朝倉さや まさかの山形弁カバー】民謡日本一

 

 2014年秋に全国で放送された AKB48 のメンバーが、方言の専門家である篠崎晃一東京女子大学教授の監修の下、それぞれの出身地の濃厚な方言で、ちょっとたどたどしく呼びかけるアサヒ飲料『ワンダ モーニングショット』のテレビ CM「おはよう」編[1] などが、アイドルプラス方言で一層「萌える」の典型例です。

 

AKB48「ワンダ モーニングショット」新 CM
(関東甲信越バージョン)(maidigitv)

 

 方言コンテンツ花盛りの中、従来の方言ステレオタイプを書き換えようとする気運も、当該方言域で生育した新世代クリエーターたちによって高まります。『男おいどん』(松本零士、1971〜1973年『週刊少年マガジン』連載、講談社)などでかつて盛んに用いられた「田舎言葉」「男弁」としての九州弁ステレオタイプを書き換えようとした『チクホー男子☆登校編』(美月うさぎ、2014年『モーニング』連載、講談社)はその一例です。[2]

 2010年代の中頃になると、「方言萌え」コンテンツが目立ちはじめると同時に、次第にその「萌え」の対象は、仮想デート番組のような三次元コンテンツからマンガ・アニメといった二次元コンテンツに移行しはじめました。

 それは、この時期に二次元において多種多様な「方言萌え」キャラやコンテンツが次々に繰り出されたばかりでなく、全国で共通語化が完了したことにより、若年層においては、三次元の「方言キャラ」に対するリアル感が消失したことを、「萌え」対象の三次元から二次元への移行の大きな背景として指摘できるでしょう。[3]

 ネット事典の定義する「方言萌え」は、以下のようなもので、もはや二次元キャラに対する「萌え」に特化されています。

 

方言萌え ほうげんもえ

漫画やアニメのキャラクターなどが方言を使っているとき、そのギャップなどから萌えてしまうという現象のこと。

男性キャラもしくは女性キャラが、思わず標準語とは違う方言を喋ることによってその意外性から不意打ち的に萌えてしまうという萌え方。
純粋に方言で話しているところに対しても萌える事は可能。
関西弁や博多弁などが多く見られる。
タグとしては、キャラが方言を使っているイラストに付けられる。
(『ピクシブ百科事典』https://dic.pixiv.net/a/方言萌え より)

 

 2010年代中頃は、二次元界を中心に各地の方言をしゃべる女子や男子に萌える素朴な「方言萌え」コンテンツが続々登場する傍らで、地元愛こじらせ系の地元をディスる(否定する。侮辱する。disrespect の略)コンテンツも登場します。

 地元愛こじらせ系の地元ディスコンテンツの代表的なものを上げるとするならば、『お前はまだグンマを知らない』(井田ヒロト、2013年〜『くらげバンチ』配信中、バンチコミックス既刊10巻、新潮社)や1982年初出の早すぎたコンテンツとしていったんは忘れられた作品となりながら、2015年に SNS 経由で大ブレイクした『翔んで埼玉』(魔夜峰央、1982〜1983年『花とゆめ』連載、白泉社/2015年『このマンガがすごい! comics 翔んで埼玉』宝島社)でしょう。どちらのコンテンツも県民性や地域文化等に対するディスりがメインですが、当然ながらちょいちょい「方言」もその対象として取り上げられています。

 どちらもメディアミックス作品を生み出しており、『お前はまだグンマを知らない』は、深夜枠ですが2017年にテレビドラマ化(2017年3月、日本テレビ、全4回)、続いて映画化(水野格監督、2017年7月公開、KATSU-do)、さらにはテレビアニメ化(2018年4〜6月放送、群馬テレビ)もされています。

 そして、なななんと! かの『翔んで埼玉』も二階堂ふみ・GACKT 主演&主題歌「埼玉県のうた」(はなわ、2003年リリース)で実写映画化されるということです(武内英樹監督、2019年2月22日公開予定、東映)。

 

映画『翔んで埼玉』予告編(東映映画チャンネル)

 

 こじらせ系といえば、2018年には「方言女子」を茶化(=メタ化)した、アニメ『ポプテピピック』(2018年、TOKYO MX, BS11 などで放送、原作:大川ぶくぶ、2014年〜断続的に無料コミックサイト「まんがライフ WIN」[4] にて連載、竹書房)も出てきています。[5]

 ここまで前置きのつもりで2000年代以降の「方言萌え」の歴史をたどってきましたが、だいぶ長くなってしまいました。

 そんなこんなで、ようやくたどり着いた「2019年の今」。

 「方言萌え」界では、2020年代を前に次のフェーズに向かうべく、ニュータイプが始動しはじめているようです。

 今回は、ストレートな「方言萌え」発、地元ディスり期経由の進化形の「方言萌え」コンテンツの一例として、2010年代後半に続々登場してきた「方言萌えマンガ」を取り上げます。

 「方言萌えマンガ」はジャンルとして確立されてきたばかりでなく、その進化形態のひとつとして、メタ的視点をもつ「地元ディスり愛コンテンツ」という新しいページも加えられつつあり、ヴァーチャル方言筋としては、今後の行方が気になるコンテンツのひとつです。

 改めて「方言萌えマンガ」とは何か、わたしの考えを示します。

 まず、第一に「方言をしゃべるキャラ」が主人公で、テーマが「方言」や「地域文化」の小ネタギャグがメインであり、ストーリーは度外視されることが多い。何より大切なのは「方言をしゃべる主人公」に「萌える」主要キャラ(たいていは方言キャラとジェンダーが入れ替わる)が作中に配置されていることで、もう一つ大事なポイントを加えるならば、作中で取り上げる「方言」や「文化」、さらにはそれらと結びつくステレオタイプを、作者も読者も客体視しているという(前提で)描かれた作品だ、ということです。

 先に上げた特徴のうちどれかを備えたマンガは以前から少なからず存在します。たとえば、「三大九州弁マンガ」[6] のひとつ『博多っ子純情』(長谷川法世、1976〜1983年『漫画アクション』連載、双葉社)は、主人公が方言キャラで、方言・地域文化についてのトピックがたびたび取り上げられ“博多事典”の異名をとるほどの作品ですが、博多を舞台とした若者の成長譚という物語を明確にもち、主人公の方言に萌えるキャラは登場しません。加えていうなら作中に取り上げられる「方言」や「文化」は、作者の「地元」であり作品の舞台でもある「博多」と固く結びつくものとして描かれており、その描写は「客体視」からは遠いものとなっています。一方で、方言や地域ステレオタイプとの結びつきもほとんど見受けられません。そのため、『博多っ子純情』は、「方言マンガ」ではあるものの、ここでいう「方言萌えマンガ」とはいえないのです。

 さて、そんないくつかの特徴を兼ね備えたものを「方言萌えマンガ」と呼びましょう。そのフィルターを通過した作品とキャラを一覧したものが、表1と表2です。

 

〈表 1〉 「方言萌えマンガ」作品一覧



出身地
レーベル

出版社

1巻刊行年月
(奥付の日付)
掲載誌

出版社

掲載
開始年月
2019年2月末現在
巻数

最新
刊行年月
(奥付の日付)
ネット投稿Wikipedia
立項有無
メディアミックス他
博多弁の女の子はかわいいと思いませんか?新島秋一
福岡県出身・在住
チャンピオン RED コミックス
秋田書店
2016年12月
チャンピオンクロス
秋田書店
2016年6月
2巻
2017年4月
Twitter 投稿
八十亀ちゃんかんさつにっき安藤正基
愛知県(尾張方言域)出身
REX コミックス
一迅社
2016年12月
月刊 ComicREX
一迅社
2016年5月
5巻
2018年12月
Twitter 投稿2017年2月〜「八十亀最中」
名古屋市観光文化交流特命大使
2019年4月〜アニメ化
(テレビ愛知/TOKYO MX)
広島妹 おどりゃー!もみじちゃん!!つくしろ夕莉
広島市福山市出身
角川コミックス・エース
KADOKAWA
2018年12月
ヤングエース
KADOKAWA
2018年6月
1巻
2018年12月
方言って素晴らしいっていう漫画にーづま。
出身地不明
ID コミックス
一迅社
2018年12月
Twitter 投稿

 

〈表 2〉 「方言萌えマンガ」主要キャラ一覧

位置づけ名前(よみ)言語変種
博多弁の女の子はかわいいと思いませんか?ヒロイン博多乃 どん子
(はかたの・どんこ)
博多弁高校生
ヒーロー東 京
(あずま・みやこ)
共通語高校生
サブ下 町子
(した・まちこ)
共通語高校生
八十亀ちゃんかんさつにっきヒロイン八十亀 最中
(やとがめ・もなか)
名古屋弁高校生
ヒーロー陣 界斗
(じん・かいと)
共通語高校生
サブ只草 舞衣
(ただくさ・まい)
共通語
ごくまれに岐阜弁
高校生
サブ笹津 やん菜
(ささつ・やんな)
三重弁高校生
サブ陣 繁華
(じん・としか)
共通語高校生
広島 おどりゃー もみじちゃん!!ヒロイン日之丸[秋月]もみじ
(ひのまる[あきづき]・もみじ)
広島弁(安芸弁)中学生
ヒーロー日之丸 一都
(ひのまる・いっと)
共通語高校生
サブ瀬戸内 びんご
(せとうち・びんご)
共通語(お嬢さま語寄り)
備後弁
高校生
サブ染野 カモメ
(そめの・かもめ)
共通語(ギャル語寄り)中学生
サブ染野 千鳥
(そめの・ちどり)
共通語高校生
方言って素晴らしいっていう漫画ヒロイン福原 夢子
(ふくはら・ゆめこ)
共通語
気が緩むと福岡方言
大学生
ヒーロー青山 蒼
(あおやま・あおい)
津軽弁大学生
サブ東 京子
(あづま・きょうこ)
共通語大学生
サブ坂口 大輝
(さかぐち・だいき)
共通語、大阪弁大学生

 

 表1 からは、「方言萌えマンガ」はすべて2010年代後半に描かれたものであることが分かります。そして、タイトルは、『博多弁の女の子はかわいいと思いませんか?』(以下、『博多弁』)や『方言って素晴らしいっていう漫画』(以下、『方言って … 』、ちなみに「方言って素晴らしい」ではなく「っていう漫画」と付け加えずにはいられないあたりが、これらの作品がテーマを客体視している証拠といえましょう!)といったそのものズバリ、または「八十亀(名古屋弁のヤットカメ[お久しぶり]由来)」「広島」「もみじ([もみじ饅頭]由来)」などといった「方言」「地域」を喚起するタイトルになっています。それぞれの単行本表紙カバーにも、主人公+ご当地の名産・名所が「これでもかっ!」と描かれているという「わかりやすい」ご当地アピールがなされています。

 


『博多弁の女の子はかわいいと思いませんか?』1巻
(新島秋一、2016年、
チャンピオン RED コミックス、秋田書店)

 


『八十亀ちゃんかんさつにっき』1巻
(安藤正基、2016年、
REX コミックス、一迅社)

 


『広島妹 おどりゃー! もみじちゃん!!』1巻
(つくしろ夕莉、2018年、
角川コミックス・エース、KADOKAWA)

 


『方言って素晴らしいっていう漫画』
(にーづま。、2018年、
ID コミックス、一迅社)

 作品のテーマとなる「方言」は作者の出身地の「方言」と重なるものがほとんどです。また、作者のネット投稿が連載や単行本刊行のきっかけとなったものが多く、ネット投稿をきっかけに雑誌連載がスタートしたステレオタイプ書き換え欲求作品『チクホー男子☆登校編』との共通性・連続性を感じさせます。

 作者自身による単行本等での「あとがき」や SNS 投稿などからの推測となりますが、これらの作品には、テレビドラマでいうところの「方言指導」は導入されておらず、当該地出身の作者自身と作者の家族等身の回りの人や、場合によっては当該地か近隣地出身の担当編集者らがサポートすることによって、「方言」等の質を担保しようとしているようです。

 一方、「方言女子」に萌える『博多弁』、『八十亀ちゃんかんさつにっき』(以下、『八十亀ちゃん』)、『広島妹 おどりゃー! もみじちゃん!!』(以下、『もみじちゃん』)と、「方言男子」に萌える『方言って … 』には、異なるところが多く認められます。形態からしても異なっており、「方言女子萌えマンガ」の基本形はみな4コマギャグマンガであるのに対し、「方言男子萌えマンガ」はストーリーマンガです。

 以下では、表1に示した「方言萌えマンガ」の多数派を占める若年男子を想定読者とする掲載誌に連載されている「方言女子萌えマンガ」を中心に見ていくことにします。これらには、さまざまな共通点が認められます。

 まずは、「方言女子」がヒロイン、「方言女子」に萌える「共通語男子」がヒーローという構造の主として学園を舞台とするギャグマンガで、ヒーローとヒロインの出会いのきっかけもどちらかの「転校」という設定が大きな共通点です。「転校」という移動による異なる言語変種との接触が物語の発端となるわけです。また、欄外または別ページにご当地のもの・ことについての担当編集者による「解説コラム」が設けられているところも共通しています。

 「ご当地あるある」については、作者も読者も概ね客体視可能な時代を迎えているため、ディスりも辞さないところも「方言萌えマンガ」の特徴です。

 そのスタンスは、以下のような『八十亀ちゃん』第1巻の第1話前に配置された単行本中扉ページにおける「おことわり」と共通語ヒーロー(陣 界斗)の間髪おかぬツッコミから見て取れます。ちなみに、ディスりも辞さないこの女子高生ヒロインは名古屋市から「観光文化交流特命大使」に2017年2月に任命されています(2017年2月27日、日本経済新聞電子版)。

 

※おことわり

この作品では、名古屋およびその周辺の方々への偏見が随所で受けられます。

これらはあくまで各キャラの主観に基づくものであり、事実とは異なる場合がございます。

名古屋愛溢れる4コマをご覧ください。


陣 界斗: 慎重すぎんだろ!!


 

 これら「方言萌えマンガ」のヒロインとヒーローのネーミングは、とても「わかりやすい」作りになっています。「博多」「どん(たく)」「ヤットカメ」「もみじ」と地名またはご当地性の高いものやこと、あるいはご当地の俚言(りげん:共通語とは形の異なる方言語彙)に基づくパーツによる命名の方言女子キャラに、「東京」「都」「都会(都会人:トカイジン ← ジン・カイ・ト)」という「東京」「都会」パーツによる命名の「共通語男子」という具合です。サブキャラの命名にもこの原則は適用されており、方言キャラはご当地パーツが、共通語キャラは東京・都会パーツが組み込まれます。

 少々分かりにくいところでは、東京都の花・ソメイヨシノ由来の「染野」が共通語キャラ兄妹に、都民の鳥であるユリカモメ由来の「カモメ」がギャル語寄り共通語キャラに組み込まれている程度でしょうか。

 「方言男子萌えマンガ」の『方言って … 』のキャラも、出身都府県名が織り込まれた命名法となっており、この点は「方言女子萌えマンガ」と共通しています。

 加えて、「方言ヒロイン」には「萌え属性」が「これでもかっ!」と付与されます。すべてのヒロインに付与される「萌え属性」は「天然」「ドジっ子」。他にも「ツンデレ」(八十亀ちゃん、もみじちゃん)、「ネコ属性(ネコ耳髪型+ネコ的性質・動作)」(八十亀ちゃん)、「血のつながらない妹」に「萌え袖」(もみじちゃん)なども加味され、「萌え」度の高い設定となっています。

 ここで、第1巻における各ヒロインとヒーローの出会いのシーンの台詞をそれぞれ見てみましょう。それぞれの「方言」をピンクでマークします。方言マーカーもりもりなヒロインに対し、ヒーローは驚いたり、早くも「きゅーん」と萌えはじめたりしています。

 

博多乃 どん子うわー!! 京 めっちゃ久しぶりやん!! 全然変わってなかねー 元気しとった!? なつかしかあー!!
東 京(内言):!? 何語!?

 

八十亀 最中(落とし物を捜しながら) にゃあ にゃあ にゃあー にゃあよ〜〜
陣 界斗きゅーん[オノマトペ]

 

日之丸 一都俺は日之丸一都 今日から 君のお兄ちゃんだよ よろしくね もみじちゃん!
もみじ(すぅ … ) おどりゃあ 何気安く呼んどるんじゃあ!!!
一都ヒェッ!?!

 

 主人公格の方言ヒロインに加え、ヒロインを取り巻くサブの「方言女子」の登場も、「方言萌えマンガ」の特徴です。

 「名古屋弁ヒロイン」には近隣の方言認知度としては相対的に低い「岐阜弁女子」と「三重弁女子」が配置され、「広島弁ヒロイン」には同じ広島県内ながら岡山寄りの「福山弁女子」を配置するなどといった特撮戦隊もの的、もといグループアイドル的なフォーメーションとなっています。彼女らは、「方言女子」を多く登場させるだけの目的で設定されているわけでなく、地域内ヒエラルキーというちょっと危険なネタを投入するための装置でもあるのです。

 「方言萌えマンガ」の舞台となる地域が、作者の出身地であるというだけでなく、従来の方言イメージ調査では特定のイメージとの結びつきの弱い地域方言または、従来のイメージ調査では「男弁」地域が選択されていることは偶然ではないでしょう。

 表3は、2010年に全国に居住する16歳以上の男女を無作為抽出のうえで実施した全国方言意識調査における方言とイメージの結びつきを示したものです。左列に地域または都道府県名、右方向に8つのイメージ語が並んでいます。◎・○・△がついているところが当該の地域や都道府県との結びつきが強いイメージです。

 

〈表 3〉 8つのイメージ語にあてはまる「方言」
2010年全国方言意識調査(n=1,347)

〔B〕地域ブロック
都道府県
イメージ
おもしろいかわいい
っこいい
温かい素朴怖い男らしい女らしい
〔B〕東北
青森
秋田
〔B〕首都圏
東京
〔B〕近畿
京都
大阪
〔B〕中国
広島
〔B〕四国
高知
〔B〕九州
福岡
熊本
鹿児島
〔B〕沖縄
沖縄

◎:10%以上
○:5%以上
△:3%以上
白黒反転は選択率1位

 

 「名古屋(愛知県)」は表3には登場していません。これは、この調査において示した8つのイメージ語と「愛知県」は結びつきにくい、すなわち特定の「方言イメージ」を喚起する力が希薄である、ということを意味しています。

 一方、「博多(福岡県)」は「男らしい」、「広島」は「怖い」イメージと結びついています。これらがそのような結びつきをもつのは、1970年代に人気を博した東映・実録ヤクザ映画などでこれらの「方言」が盛んに用いられたことに由来するものです。[7]

 作中でもこのヤクザステレオタイプに対する言及が博多弁・広島弁ヒロインが登場する、どちらの作品にも認められます。

 

どん子後ろにヤクザがおったら相談するね
まってまって ちょっとまって仮定がこわすぎなんだけど
欄外手書き(京の内言):福岡はヤクザがバックはありえるの?
『博多弁の女の子はかわいいと思いませんか?』1
第3話「どうしたらいいとかいな」

 

一都(父に):あの喋り方 … 絶対ヤ○ザじゃん!
もみじ(一都に):広島弁じゃ!! 聞こえとるんじゃけど!!

 

もみじ(内言):初めて新しい家族に会うんじゃけぇ 仲良うせんとって思よーたのに 緊張して心にもないこと言ってしもうた … ただでさえ 広島弁は怖い思われとるんじぇけぇ 方言出さんよう 考えて喋らんと …
『広島妹 おどりゃー! もみじちゃん!!』1
第1話「誰が妹じゃ!」

 

 方言ステレオタイプの観点から見れば、「名古屋弁ヒロイン」はこれまでにないヒロイン像の創出、「博多弁」「広島弁」のヒロインにおいては、従来のステレオタイプを逆手にとったご当地ディスり兼ヒロインに対するギャップ萌え創出の装置となっていることが分かります。

 もはや、「女らしい」「かわいい」イメージとの結びつきが強固な「京都弁ヒロイン」ではものたらなくなっている「今」を感じさせるニュータイプ方言ヒロインの造形が認められるのが「方言萌えマンガ」といえるでしょう。

 もう一つ興味深いのは、ベタな方言をしゃべるヒロインを設定する一方で、「今ドキの普通の若者は、そんなに方言はしゃべらない」という視点が作中にも組み込まれている点です。

 

界斗(男子クラスメイトに):オレ … 名古屋人は もっとアホみたいに皆方言使うのかと …
クラスメイト1方言?
クラスメイト2市長[8] ぐらいしか使わねーよな
『八十亀ちゃんかんさつにっき』1
第1話「ネコじゃにゃあ」

 

 作者自身も、作中の方言はふだん使いの方言とは異なる水準にあることを明確に意識しているようです。以下は、『博多弁』の作者が、作中のどん子の博多弁は不自然だという投稿を受けてのツイートです。

 

@makimaki_beer ああいやいや、方言広めたいなーって事で描いてるので実際きつめの方言にしていて、この話言葉くらい訛ってる人は若い世代ではそうそう見かけな位と思います(´∀`)笑
改めて県外にも県内にも良さ広まって、使う人増えたらいいなーとぽわーっと思ってます!
https://twitter.com/niijimaakiichi/status/696165476854951936
新島秋一 @niijimaakiichi 2016年2月6日)

 

 じつは、「方言でキャラを作る」こと自体を客体視した作品もアンソロジー作品としてすでに登場しています。

 「名古屋弁・京都弁・博多弁 … etc./方言ってカワイイと思いませんか? 地方出身・在住の作家勢による、「方言少女」を観察する局地アンソロジー全国版!!」と帯であおる『方言少女かんさつにっき アンソロジーコミック』REX コミックス(一迅社、2018年7月)に収められた美川べるの「北の国から×2」です。

 この作品は、「北の国からやってきた転校生」「方言少女」としてキャラを生きる女子高校生の高橋栄(札幌市東区出身)と、彼女のクラスに、新たに北海道の富良野から転校してきた佐藤弥生の「方言スタンス」の違いを描いたものです。栄は、方言でキャラ作りしない弥生から「あなたは北海道を愛しているんじゃない! 方言を使う自分が可愛いだけ」と一刀両断され、「わざとらしい方言をやめ」、「作っていないそのままの北海道弁を愛す」キャラに変貌します。「作っていないそのままの北海道弁」は、ほぼほぼ方言アクセントの違いに回収されるため、担任の教師が「 … 方言女子がテーマなのに/紙媒体じゃ伝わりにくい!!」と逆ギレしてこのストーリーは終わります。

 この作品における「方言女子」のビフォア(作り込んだ方言少女キャラ)・アフター(作っていないそのままの北海道弁キャラ)を台詞で確認してみましょう。語彙・文法・発音に関わる部分をピンク、アクセント部分をでハイライトします。

 

【before】 (実際の作品では、以下のわざとらしい北海道弁台詞は丸文字(こちらが似たフォント → https://moji-waku.com/poprumcute/)で、通常の台詞の明朝体とは差別化されています)
高橋栄今日もいちんち なんまら はっちゃきこいてくべさーーー

【after】 (実際の作品では、通常の台詞と同様、ピンクで囲んだ部分も明朝体)
高橋栄おはよー いやー今日 なまら暑っつくなーい?
/ 今日 体育 ジ(↑)ャー(→)ジ(↗) 着るー?
佐藤弥生椅(→)子(↗)んとこにかけといて

 

 ラストの「先生」の台詞の通りです。語彙・文法・発音の違いは分かりやすいが、アクセントは紙媒体では伝わりにくい!(しかも、アクセントは拍単位にかかるのでジとャの間に高低指示が入るなど「→」の位置が謎な上に、「→」自体がどこの高低を意味するのかさえよく伝わりません … 。共通語アクセントとはどこかが「違うらしい」というマーカーとしては機能していますが … )

 20世紀の後半から急速に共通語化が進んだことによって明瞭なリアル方言を話す話者が若年層を中心に減少。このことが「方言」の価値を高め、2000年代以降の「方言萌え」の時代の背景となりました。しかし、前述の通り、さらなるリアル方言話者の減少が、2000年代以降の「方言萌えコンテンツ」を三次元から二次元に移行させた小さくない要因と推測されます。その結果、二次元の「方言萌えマンガ」は、地元愛をこじらせたディスり期を経て、方言ステレオタイプ含めご当地のもの・こと・ことばを客体視することによって、「方言萌えマンガ」という分野の確立をみたわけです(ここが「今」です)。

 しかし、さらなるリアル方言話者の減少は、「方言萌えマンガ」のキャラにさえ、カギ括弧付きの「リアルさ」を感じ取ることができなくなる未来を招くのでしょうか?

 10年後のコンテンツ類を先取りして、その行く末をちょっとのぞき見してきたい気分です。

 

 ご感想、ご質問等ありましたらぜひ nihongo@kenkyusha.co.jp までお寄せください!

 

 


田中 ゆかり(たなか ゆかり)

 1964年生まれ。神奈川県生育。日本大学文理学部教授。博士(文学)。専門は日本語学(方言・社会言語学)。著書に、『首都圏における言語動態の研究』(笠間書院、2010)、『「方言コスプレ」の時代――ニセ関西弁から龍馬語まで』(岩波書店、2011)、『方言学入門』(共著、三省堂、2013)、『ドラマと方言の新しい関係――『カーネーション』から『八重の桜』、そして『あまちゃん』へ』(共著、笠間書院、2014)、『日本のことばシリーズ14 神奈川県のことば』(編著、明治書院、2015)、『方言萌え!?――ヴァーチャル方言を読み解く』(岩波ジュニア新書、2016)など。

 

 


〈注〉

[1] 「『ワンダ モーニングショット』 新 TV-CM> AKB48 メンバーが47都道府県の言葉を披露!? 渡辺麻友さんはじめ AKB48 メンバーが 出身都道府県の言葉で応援!? 9月13日(土)より 『おはよう』編 OA」(PRTIMES, 2014年9月12日、https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000011162.html)。

[2] 『方言萌え!?――ヴァーチャル方言を読み解く』「9章 リアルとヴァーチャルの往還が開く新しい扉」(田中ゆかり、2016年、岩波書店)。

[3] 2016年12月に全国の約2万人を対象に実施した全国方言意識 Web 調査では、20・30代の若年層は、「生育地の方言があると思うか」という質問に対し、「わからない」という回答が目立つ(田中ゆかり、2017年「全国2万人 web アンケート調査に基づく方言・共通語意識の最新動向」『語文』158、日本大学国文学会)。

[4] 「まんがライフ WIN」(http://mangalifewin.takeshobo.co.jp/rensai/popute/)。

[5] 「「方言コスプレ」と「ヴァーチャル方言」――用語・概念・課題」(田中ゆかり、2018年『方言の研究』4、日本方言研究会)。

[6] 「マンガと表現」(吉村和真、2007年、吉村和真・田中聡・表智之著『差別と向き合うマンガたち』臨川書店)。

[7] 『「方言コスプレ」の時代――ニセ関西弁から龍馬語まで』pp. 204-224 参照(田中ゆかり、2011年、岩波書店)。

[8] 欄外の「やとが MEMO」に「現名古屋市長・河村たかし氏。2009年から市長を務めていて、方言を多用する人物としても市民などから広く親しまれている。ちなみに本人の Twitter でのその方言っぷりを伺い知れる。」とある。

 


 

 

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