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第12回 「方言キャラ」の明日はどっちだ!?(最終回)

 季節は春。日本の多くの学校では卒業シーズンを迎えています。早いもので本連載も今回で最終回です。第1回から、さまざまなコンテンツに登場する方言キャラを取り上げながら、その背景を読み解いてきました。

 こんにちにおいてわたしたちが日々目にする方言キャラの造形はかなりの程度でパターン化されているということ。また、方言キャラと一口に言っても、そのキャラはどこの方言を、どのようにしゃべるのか。方言によってそれぞれのキャラが作品内においてどのように命名されたり、位置づけられたりするのか。そして見た目や性格等がどのように設定されるのか。これらは、折々の日本語社会の実態と意識を映す鏡であるのと同時に、各種コンテンツ類に蓄積されてきたものによっています。よって、たいていの場合、偶然そのように「なっている」わけではないということは、徐々に理解していただいたと思います。

 最終回は、どこの方言がどのようなコンテンツ類にどの程度投影されてきて、ヴァーチャル方言の「今」があるのかをたどります。

 さて、前回の第11回「進化する「方言萌え」:「方言萌えマンガ」の登場とその行方」の中で取り上げた方言女子キャラは、これまで方言ヒロインとしての蓄積のほとんどない地域や、従来の方言イメージを踏まえつつもそこからのギャップを狙ったヒロインであることを解説しました。

 『八十亀ちゃんかんさつにっき』(安藤正基、月刊 Comic REX、2016年5月〜、一迅社)は、これまでほとんど蓄積のない名古屋弁女子がヒロインですし、

 

【2019年春アニメ】八十亀ちゃんかんさつにっき【番宣 CM 30秒 Ver.】

 

 『博多弁の女の子はかわいいと思いませんか?』(新島秋一、チャンピオンクロス、2016年6月〜、秋田書店)や、『広島妹 おどりゃー!もみじちゃん!!』(つくしろ夕莉、ヤングエース、2018年6月〜、KADOKAWA)は、従来の博多弁や広島弁の、「怖い」「男らしい」という方言ステレオタイプを逆手にとって、そのギャップでもって読者を萌えさせるギャップ萌え方言女子がヒロインです。

 前回取り上げた方言萌えマンガのヒロインたちは、これまでの方言ヒロインの主流派や、それぞれの方言ステレオタイプが日本語社会の中にすでに確立し、広く共有されているという前提があってこそ、ニュータイプヒロインとして成立しています。コンテクストありきのコンテンツとヒロイン造形というわけです。

 わたしたちが受容するコンテンツ類に、どのような方言がどのように再提示されてきたのか。その源流を探ると少なくとも江戸後期あたりまで遡ることが可能と想像しますが、最終回では、そこまではいかずともちょっと大きく構えて、明治=近代以降の方言コンテンツ類を取り上げ、それらの地域分布を読み解いていきたいと思います。

 「方言」のカウンターは「標準語」「共通語」です。「標準語」「共通語」といった概念が共有されるようになったのは近代以降ですし、活字や音声・映像によって広く大衆が同一のコンテンツをコピー文化として共有することが可能になったのも近代以降です。

 源泉を遡る旅は別の機会に譲り、現代のわたしたちの方言キャラ・方言観を形づくるものとして近代以降のコンテンツをたどっていきましょう。

 まずは、近代期以降に書かれた日本文学に登場する方言文学について見ていきます。

 図1は、磯貝英夫(1981)[1] で取り上げられた近代以降に発表された各地の方言文学を47都道府県に分けてその作品数を図化したものです(井上史雄 2007)[2]

 

〈図1〉 方言文学の地域分布(井上史雄 2007、87頁)

 

 標準語文学の基盤方言である首都・東京が飛び抜けて多く、ついで伝統的な都である京都・大阪が多いということが分かります。北海道、広島が続き、九州は熊本・長崎・佐賀・福岡・鹿児島を併せると方言文学としてかなりの勢力をもつことが分かります。一方、東北、中部、四国、広島を除く中国、沖縄、東京以外の首都圏に方言文学が少ないことも読み取れます。

 ちなみに、日本文学は欧州文学などと比較すると「方言文学」は「たいへん活発」であったとの指摘があります。日本語社会では、近代文学において、すでにヴァーチャル方言が大いに用いられていたというわけです。

 その理由として、磯貝英夫(1981)は、以下の4点を指摘しています。

 

・方言自体が多様に分化していること
・近代の作家が、都鄙の別なく、全国にまたがって輩出してきていること
・自然体のリアリズムを重んずること
・漢字を活用することによって方言の分かりやすい記録が可能
(磯貝英夫(1981)「日本近代文学と方言」藤原与一先生古稀御健寿祝賀論集刊行委員会編『方言学論叢II――方言研究の射程』三省堂)

 

 わたしはこれに加え、近代日本社会には、欧米に比して日本語以外を第一言語とする移民が少なく、さまざまな階層差も見えにくい社会であったため、地域差によるバラエティーに目が向きやすかったということも方言文学が「たいへん活発」な背景として指摘することができるのではないか、と考えています。

 方言文学を近代から高度経済成長期までの日本語コンテンツの一例とすると、文学がそれほどの力をもたなくなりつつあった高度経済成長期以降の日本語コンテンツはなんでしょう?

 学生運動が盛んな頃の学生=団塊の世代を表象した「右手にジャーナル、左手にマガジン」ということばがあります。「ジャーナル」とはいまはなき朝日新聞社が刊行していた「報道・解説・評論」を三本柱として刊行された週刊誌『朝日ジャーナル』(1959〜1992年)、「マガジン」とは発行部数はピークアウトしつつも健在の『週刊少年マガジン』(講談社、1959年〜)のことです。当時は、連載中のボクシングマンガ『あしたのジョー』(高森朝雄[梶原一騎]原作、ちばてつや作画、1967〜1973年連載)が大学生らにもたいへんな人気となっていました。当時の学生運動の背景となった左翼的思想の象徴が「ジャーナル」、大学と大学生の大衆化の象徴が「マガジン」、というわけです。

 大衆への流布という観点から、近代文学よりもこんにち的でポピュラーなコンテンツ類である現代マンガに登場する方言キャラの分布をみたものが、図2です。

 ポスト高度経済成長期の1970年代後半から1980年代後半のバブル経済期とその後の失われた20年の中、方言に価値を見出す感覚がいよいよ本格的にせり出してきた2000年代中頃までのコンテンツを対象としています。

 

〈図2〉 現代マンガにあらわれる方言(田中ゆかり 2011、88頁[3]

 

 図2は遠目に見ると図1と似たような分布となっていますが、違いも認められます。

 東京と並んでトップにたつのは、大阪です。近代文学では東京が飛び抜けて多く、ついで京都でした。が、現代マンガでは東京と関西圏の差がなくなったことに加え、関西圏で京阪の立場が逆転します。

 また、首都圏は東京一強でしたが、近隣の神奈川・千葉・埼玉も目立つようになり首都圏化しています。次に多いのは北の大地・北海道、広島というあたりは変わりませんが、近代文学に比べると複数の作品をもつ地域が全体として増加しています。

 近代文学では作品数が少なかった東北、中部、四国も増加していますが、現代マンガでも相対的には少ない状態にあります。沖縄が目立って増えているのは、1972年の本土返還、1990年代の沖縄ブームなどの影響でしょう。一方で、九州は近代文学に比べ、福岡一強化が進んでいるようにも見えます。

 日本語社会で暮らす人々に方言ステレオタイプを打ち込む大きな影響力のある媒体はテレビ、中でも現代を舞台とする女性の一代記を主とする NHK の連続テレビドラマ小説、通称朝ドラであることは、本連載の第1回「「そだねー」と「記憶に残る」方言キャラ」でも述べたところです。

 図3は、1961年放送の第1作『娘と私』から2018年度後期放送の第99作『まんぷく』までの主要舞台の地域分布を示したものです。図4は同じデータを地図に落としたものです。[4]

 

〈図3〉 NHK 連続テレビ小説(第1作から第99作)の主要舞台

 

〈図4〉 NHK 連続テレビ小説(第1作〜第99作の主要舞台)の分布地図

 

 図3も全体としては図1・図2と似たような分布を示していますが、より極端な偏りが見て取れます。飛び抜けて東京が多く、ついで大阪、京都、兵庫。そのあとに北海道・福岡・広島と続きます。地図(図4)を見るとよりはっきりとその傾向が読み取れます。

 この要因ははっきりしていて、朝ドラは1975年前期放送の第15作『水色の時』から放送期間が現行の半年となり、同年後期放送の第16作『おはようさん』から前期は東京、後期は大阪局が交替に制作することになったためです。以降、多くの作品が、前期は東京局のカバーする東日本地域のどこかと首都圏(多くは東京)、後期は大阪局のカバーする西日本地域のどこかと関西圏(多くは大阪)の二都物語の構造をとるようになったためです。

 ちなみに、1970年代前半から中頃は、NHK において放送における方言使用のありかたについて活発な議論のなされた時期で、ドラマ方言ではその質を担保するための手法として「方言指導」を導入することを基本とすることが確認されたのは、その議論を経てのことでした。

 朝ドラでは、1976年前期放送の第17作『雲のじゅうたん』(東京局制作)において、はじめて「方言指導」が導入されましたが、現在のようにオープニングのクレジットロールにそれが示されるようになるのは、NHK テレビ放送開始30周年記念として1983年に一年間放送された『おしん』からです。

 1970年代に NHK で方言ドラマのありかたが議論されたのは、「うちはこんなしゃべり方はしない」とか「どこの方言でもない」といったクレーム対策であったのですが、そもそもは地方を舞台とした番組が制作され、全国放送されるようになったがゆえのことです。しかし、地方を舞台として番組が制作されるようになった背景には、カメラの小型化という技術革新という言語とは別の要因があったということを2016年放送の大河ドラマ第55作『真田丸』の制作統括などを担当した吉川邦夫さん(現 NHK 放送文化研究所メディア研究部副部長)が、以下のように述べています。

 

 テレビドラマが始まった最初の頃は、ほとんどロケができなかったんです。カメラが大きすぎて。東京のスタジオとか大阪のスタジオとか大きな局のスタジオを使って、放送博物館[5] で今も見られる馬鹿でかいテレビカメラを太いケーブルでつないで、マルチカメラ収録をしていたんです。1960年代から70年代にかけて、技術の進歩で次第に機材がコンパクトになって、中継車にビデオデッキを積んでロケ地に行き、中継車で収録ができるようになります。その頃から、各地域局を拠点としつつ、大きな局が手伝って、例えば「銀河テレビ小説」(1972〜89年放送)の地域発のシリーズみたいなものが企画されるようになっていきます。そうなると NHK は全国の都道府県に放送局がありますから、必然的にその地域の題材を使って、ドラマを作っていこうという空気が生まれます。自分たちの地域のドラマを見たい、という全国の視聴者の希望に応えるという意識もありました。
(田中ゆかり・金水敏・児玉竜一編『時代劇・歴史ドラマは台詞で決まる!――世界観を形づくる「ヴァーチャル時代語」』笠間書院、2018年、p. 110)

 

 この吉川さんの指摘はほんとうに目からうろこで、たしかに「方言指導」が試験的に導入された NHK のドラマ作品は「銀河テレビ小説」枠に集中しており、わたしは長らく当該シリーズが意欲的な作品を試みるチャレンジ枠だったからなのだろうか? とぼんやり捉えていたのですが、たしかにそうではあったが、その背景に撮影の技術革新が関係していたとは、思い至りませんでした。

 そもそも共通語運用能力が全国津々浦々で高まったのは、テレビの急速な普及によるものでした。そのことによって共通語が誰でも使えるフツーのことばとなり、それまではスティグマであった方言がトクベツなことばとして脚光を浴びるようになったのが1980年代。

 ヴァーチャル方言が、地域用法から方言ステレオタイプなどを用いるキャラ用法に一般化していく背景は、1990年代後半以降の急速なインターネットの普及によるメイルに代表されるようなキーボードなどで入力する「打ちことば」とそれによる「打ちことばコミュニケーション」が牽引したのでした。

 そう考えると、カメラの小型化が方言ドラマ制作の気運を高めると同時に、全国の視聴者のドラマ方言に対する要求を飛躍的に高め、そのことによってヴァーチャル方言と方言ステレオタイプの最大の拡散装置であったテレビドラマの「方言」水準を変えたということは、「技術革新がわたしたちの言語生活や言語観を変えていく」の一典型でもあったというわけです。

 さて、ここまで近代文学、現代マンガ、NHK の朝ドラを例にどこの「方言」がコンテンツに登場しやすいか、ということを駆け足でたどってきました。

 ここで、ちょっとふり返り。

 本連載第11回「進化する「方言萌え」:「方言萌えマンガ」の登場とその行方」(〈表3〉8つのイメージ語にあてはまる「方言」)でお示しした、イメージと結びつきやすい「方言」の復習をしてください。

 特定のイメージ語と結びつく「方言」は、多くのコンテンツ類で再提示されてきた作品数の多い地域と関連する傾向が極めて強いということが分かります。

 これらが各種コンテンツ類において蓄積され拡散されてきたヴァーチャル方言と方言ステレオタイプの礎というわけです。

 「今」の方言コンテンツの地域分布はどのようになっているのか、興味深い例を2つ紹介したいと思います。

 ひとつは現代の若者の最大のコミュニケーションツールである「打ちことばコミュニケーション」の最新形である LINE の方言スタンプ(林直樹 2018[6])を、もうひとつはあまたいるご当地キャラのうち、方言要素を用いて命名されたキャラと Twitter で「方言おしゃべり」をするキャラの地域分布を見ていきます(村上裕美 2019[7])。

 まずは、2010年代を代表する「打ちことばコミュニケーション」ツールである LINE スタンプの地域分布から見ていきます。

 

【LINE スタンプ】米子の方言 白ネギペンギンのよね子ちゃん
(LINE スタンプチャンネル)

 

都道府県に地域ブロック(図中の[B])を加え、出現点数を示したものが図5、それを地域ブロック単位で地図に落としたものが図6です。

 

〈図5〉 LINE 方言スタンプの地域分布(林直樹 2018)

 

 図5は、近代文学(図1)、現代マンガ(図2)、NHK 朝ドラ(図3)とは、劇的に異なる分布となっています。まず都道府県レベルで見ていくと、もっとも多いのは沖縄、ついで福岡となっています。大阪はそこそこの数があることが分かりますが、東京はわずかです。

 図6のブロック単位での地域分布からも、首都圏・北関東が少なく、現代の都から地理的距離・言語的距離の遠い「方言」を用いた LINE スタンプが多く制作されていることが分かります。ただし、近畿ブロック=関西弁地域は、「言語的距離が離れている方言に多い」とは別の原理が働いていることが分かります。ヴァーチャル関西弁はここでもちょっとした特権的地位にあることを示しています。

 スタンプ以前の「打ちことばコミュニケーション」で、何らかの演出効果や新味を狙ってヨソの方言を用いる場合は、極めて定型化した表現を選択するか、少し手の込んだことをしたければ共通語から方言にことばを変換する変換サイト[8] などを用いるかしかなかったわけです。しかし、方言スタンプは「すでにあるもの」として使えるという点において、言語的距離の遠いものでも手持ちのカードとして所有さえしていれば、いつでも自身のコミュニケーションに投入可能となるわけです。それゆえに、フツーのことばと化した共通語から言語的距離の遠い地域のスタンプの需要が高いのかもしれません。その結果、図5・6は先の図1〜3の分布とは大きく異なる傾向を示したと考えられます。もちろん、沖縄が多いのは現代マンガの項で触れたように1990年代の沖縄ブーム後であることと関連するでしょう。

 ただし、図5・6として集計されたスタンプは、有料か無料か、目的が販売か地域おこしかなど制作の背景が異なるものが混在しているため、これらを腑分けしていくともう少し違う傾向が読み取れるかもしれませんが、これは今後の課題としたいと思います。

 

〈図6〉 LINE 方言スタンプの地域分布地図(林直樹 2018 による:林直樹作図)

 

 最後にゆるキャラを見ていきましょう。

 ゆるキャラは、漫画家・エッセイストのみうらじゅんの考案・命名で、2008年のユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされ、2010年には「ゆるキャラグランプリ」(ゆるキャラ®グランプリ実行委員会)[9] がスタートします。類似概念を表す「ご当地キャラ」は2013年のユーキャン新語・流行語大賞のトップテン入りをしています。

 2018年で第9回を迎えたゆるキャラグランプリランキングの歴代第1位は、「ひこにゃん」(第1回記名投票、滋賀県彦根市)、「くまモン」(第2回、熊本県)、「いまばりバリィさん」(第3回、愛媛県今治市)などなど、多くの人が知るキャラクターで占められており、巷への波及効果の高さがうかがえます。

 

バリィさんが一日郵便局長 東京中央郵便局(KyodoNews)

 

当該自治体の強制的な投票行動など「場外」の話題がにぎやかなのも、その人気の高さの B 面(古い!)といえるでしょう。

 さて、ゆるキャラ®グランプリの公式サイトによれば、以下の三つのテーマを掲げて「ゆるキャラグランプリ」を実施している、ということです。

 

① 「ゆるキャラで地域を元気に!」
② 「ゆるキャラで会社を元気に!」
③ 「ゆるキャラで日本を元気に!」

 

 このテーマからも明らかなように、「ゆるキャラ」「ご当地キャラ」は、ヴァーチャル方言との相性はよさそうです。むしろ活用しないのはもったいないとさえいえるでしょう。一方で、「ゆるキャラ」「ご当地キャラ」と「方言」との結びつきについては、ヨソの方言を使ってみたいユーザー目線である LINE スタンプとは別の、すなわち地元発信側からの視点で選択されるヴァーチャル方言ランキングと読み替えることもできそうです。

 村上裕美(2019)は、さまざまな手を尽くして収集した1,865体の「ゆるキャラ」を「ご当地キャラ」「準ご当地キャラ」「企業キャラ」に分類[10] しています。

 ここでは、ゆるキャラと地域の結びつきについて考えたいので「ご当地キャラ」956体と「準ご当地キャラ」584体、合計1,540体を対象とした分析を紹介します。

 1,540体のうち、「方言」を「名前」の構成要素にもつキャラクターの内訳は表1・2の通りです。なんと、驚くべきことに、たった30体しか「方言」を用いていません。[11] (表1・2のキャラクター名をクリックすると公式サイトなどに飛びます。)

 この30体の地域分布をブロックごとに地図として示したものが図7です。

 

〈表1〉 方言命名ご当地キャラ(村上裕美 2019 データによる)

Noキャラクター名ブロック都道府県
59いくべぇ東北青森県
124きてけろくん山形県
141んだべぇ福島県
316オッサくん関東千葉県
400ゆとっと中部新潟県
762くらすけくん中国鳥取県
779おんすう ふらたろう島根県
800なんしょん?くん岡山県
820ちょるる山口県
824ぶちまろ山口県
857なーしくん四国愛媛県
889こっぽりー九州福岡県
924くまモン熊本県
933ぼんちくん宮崎県


〈表2〉 方言命名準ご当地キャラ(村上裕美 2019 データによる)

Noキャラクター名ブロック都道府県
5チロべし北海道北海道
26ヌクインダー東北秋田県
45べこタン宮城県
54きぼっこちゃん福島県
201ナシテ君中部新潟県
244もったけ姫長野県
291こりん愛知県
424ゴズラくん中国鳥取県
428まめなくん島根県
429ハンザケ島根県
499えやろ四国愛媛県
529ゆっつらくん九州佐賀県
541ばっぺん長崎県
543がんばくん長崎県
544らんばちゃん長崎県
577わっぜかくん鹿児島県

 

〈図7〉 「名前」に方言要素をもつゆるキャラの地域分布地図(村上裕美 2019 データによる)

 

 図7を見ると、中国・九州・東北に方言要素を名前に含むゆるキャラが多く、近畿・沖縄・関東・北海道に少ないということが分かります。現代の共通語基盤方言である首都圏を含む関東に方言要素を取れ入れたゆるキャラが少ないことは予想される結果ですが、従来近畿は井上史雄(2007[12])などをはじめ、方言コンテンツ・グッズなどがもともと多いことが確認されてきた地域にもかかわらず、方言要素を含むゆるキャラが「ない」という結果は少々衝撃的ではないでしょうか。

 北海道に方言ネーミングキャラが少ないのも、もともとが北海道は他地域からの移住者のことばが接触・融合し、早くに「北海道共通語」が成立した地域だからでしょう。独特で「らしい」方言がなかなかないという点において、やはり数の少ない関東との共通点が見い出せます。

 九州・東北の多さは共通語からの言語的距離の遠さということが理由として考えられます。その一方で沖縄には方言命名キャラがいないのは不思議ですが、これは沖縄にはゆるキャラそのものが少ないことに起因しているのかもしれません。中国の方言命名キャラの多さも、共通語との言語的距離からは説明できないところで、これらは要検討案件です。

 村上裕美(2019)では、これらのキャラの発信する公式 Twitter の文末表現に注目し、方言発信キャラがどの地域にどの程度いるのか、ということも調べています。なぜ文末表現に注目したのかといえば、「打ちことば」において方言コスプレをする「場所」は文末表現や人称詞、定型化したあいさつ表現などに多いことが分かっているからです。[13] 役割語と同じです。[14] (表3のキャラクターをクリックすると、公式 Twitter に飛びます。)

 村上裕美(2019)のデータを基に筆者が集計・整理しなおした結果が以下の表3、地図上にその地域ブロックごとの分布を示したものが図8です。

 

〈表3〉 Twitter 方言文末発信キャラ(村上裕美 2019 データによる)

Noキャラクター方言命名ブロック都道府県方言文末表現
9きてけろくん東北山形県っけんだず  
10んだべぇ福島県なぁがぁだぁ 
36メルギューくん×中部富山県まっとっちゃ〜   
45ひやわん×近畿三重県やで   
54トライくん×大阪府やで   
55ちっちゃいおっさん×兵庫県やわでっせへんかで〜
60ちょるる中国山口県ちょる   
64いまばりバリィさん×四国愛媛県けんーね  
65みきゃん×愛媛県やけんけん  
67新居浜まちゅり×愛媛県んよしよるねやね 
69カツオにゃんこ×高知県なんやっけ   
71くるっぱ×九州福岡県ばいかねー  
73くまモン熊本県はいよ〜   

 

〈図8〉 Twitter 方言文末発信キャラの地域分布地図(村上裕美 2019 データによる)

 

 公式 Twitter で方言文末を用いた発信をしている方言キャラは13体、とこれもゆるキャラ総数から見るとけっこうなレア物件であることが分かります。同時に、方言命名キャラと重複するキャラもいますが、方言命名キャラでも SNS 発信には方言文末を使わないキャラや、逆に方言命名されていなくても方言文末を用いた発信をするキャラもいることが分かります。

 方言文末発信キャラが、北海道・関東に少ないのは方言命名キャラの少なさと同じ理由が推測されます。方言命名キャラは少ないのに、SNS 方言文末発信キャラは近畿に3体もいるところは、興味深い結果といえるでしょう。

 ゆるキャラの命名と SNS 発信における方言活用から見えてくるのは、以下のようなことでしょうか。

 

(1)  ゆるキャラ界ではまだまだ方言活用に開拓の余地がある
(2)  九州勢は他のコンテンツだけでなくここでも方言活用が目立つが、その他の地域は他のコンテンツにおける使われるレベルの齟齬が目立つ
(3)  (2)のうち、共通語との言語的距離の遠さやゆるキャラ数という観点から説明がつかないのは、中国における方言命名キャラの多さと四国における SNS 方言文末発信キャラの多さ

 

 この背景には、方言と地域の結びつき、方言と地元意識の結びつき、当該地における名所旧跡・名産・名物といった観光資源の多さ少なさ、地元における方言意識の変化などなどが考えられます。が、これもまた今後の課題として、経過観察を続けたいと思います。

 本連載を通じ、ついつい見逃しがちだけれども、じつはわたしたちの身の回りにはヴァーチャル方言を用いたコンテンツがあふれていること、そしてそれがそこにそのように使われているのは、ある種の必然でもあることを読み解いてきました。

 ヴァーチャル方言のありようの変化には、技術・媒体・手段の改新が密接にかかわってきたこともある程度はご理解いただけたのではないでしょうか。

 日本語社会におけるヴァーチャル方言の蓄積・拡散源にもさまざまなものがあることは見てきた通りですが、その中においても大変に大きな力をもつ NHK の朝ドラは2019年4月からスタートする新シリーズ『なつぞら』で第100作を迎えます。これからどのような新しい方言ヒロインを朝ドラは見せてくれるのでしょうか。

 2019年放送中の大河ドラマ『いだてん』は、その革新的なドラマ構成などによって視聴率では少々苦戦中のようですが、そのオープニングクレジットロールには「明治ことば指導」なる、初のヴァーチャル時代語指導が取り入れられるなど、「ことば指導」のありかたにも新しい風を吹き込んでいます。

 本連載の最終回では小説、マンガ、朝ドラ、「打ちことば」ツールの LINE、ゆるキャラを取り上げ、それらに採用され、わたしたちに再提示されるヴァーチャル方言の地域分布には共通点とそれぞれの特性に基づく差異が観察されることを見てきました。

 ヴァーチャル方言を用いたコンテンツやコミュニケーションは、大変身近なところに存在しています。ぜひ、みなさんも日々の生活の中から、方言キャラやヴァーチャル方言活用事例を見つけ出し、その意味を考えてみてください。

 最後まで読んでくださり、ありがとうございました。そして、機会があったらまたどこかでお目にかかりましょう♪

 「方言キャラ」の明日はどっちだ?!

 

 ご感想、ご質問等ありましたらぜひ nihongo@kenkyusha.co.jp までお寄せください!

 

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田中 ゆかり(たなか ゆかり)

 1964年生まれ。神奈川県生育。日本大学文理学部教授。博士(文学)。専門は日本語学(方言・社会言語学)。著書に、『首都圏における言語動態の研究』(笠間書院、2010)、『「方言コスプレ」の時代――ニセ関西弁から龍馬語まで』(岩波書店、2011)、『方言学入門』(共著、三省堂、2013)、『ドラマと方言の新しい関係――『カーネーション』から『八重の桜』、そして『あまちゃん』へ』(共著、笠間書院、2014)、『日本のことばシリーズ14 神奈川県のことば』(編著、明治書院、2015)、『方言萌え!?――ヴァーチャル方言を読み解く』(岩波ジュニア新書、2016)など。

 

 


〈注〉

[1] 磯貝英夫(1981)「日本近代文学と方言」藤原与一先生古稀御健寿祝賀論集刊行委員会編『方言学論叢II――方言研究の射程』三省堂。

[2] 井上史雄(2007)「方言の経済価値」小林隆編『シリーズ方言学3 方言の機能』(岩波書店)p. 87、図3.8。

[3] 田中ゆかり(2011)『「方言コスプレ」の時代――ニセ関西弁から龍馬語まで』(岩波書店)p. 88、図3-2。

[4] 今回使用している4枚の地図は林直樹さん(日本大学経済学部)の作図によるものです。記して感謝申し上げます。

[5] NHK 放送博物館(http://www.nhk.or.jp/museum/)のこと。

[6] 林直樹(2018)「方言スタンプからみる方言コンテンツの全国分布」『語文』160、日本大学国文学会。

[7] 村上裕美(2019)『ゆるキャラのネーミングと Twitter 分析』(日本大学文理学部国文学科、平成30年度卒業論文)。

[8] 「ことば変換『もんじろう』」(http://monjiro.net/

[9] 「ゆるキャラグランプリ オフィシャルウェブサイト」(http://www.yurugp.jp/

[10] 「ご当地キャラ」は都道府県・市区町村全体、商店街・商工会を PR するキャラクター、「準ご当地キャラ」は特定地域に所属する施設や特産品・イベントを PR するキャラクター。いずれも村上裕美(2019)による定義。

[11] 村上裕美(2019)の結果に従っている。「方言要素」の有無については、それぞれのキャラの公式サイト等による解説などに基づき村上自身が判定した。ただし、村上裕美(2019)は、筆者のゼミの所属する学生の卒業論文であるため、ご本人のご好意によって原データの提供を受けた(表化、地図化もそのデータに基づく)。原データを見るともう少し方言要素をもつキャラ数は増えそうだが、これはまた別機会があれば精査したい。

[12] 井上史雄(2007)「方言の経済価値」小林隆編『シリーズ方言学3 方言の機能』(岩波書店)。

[13] 田中ゆかり(2001)「ケータイ・メイルの「おてまみ」性」『國文学 解釈と教材の研究』46(12)、pp. 48-54、學燈社。

[14] 金水敏(2003)『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』(岩波書店)pp. 205-207。

 


 

 

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