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英英通訳者大募集 (インド英語探検記 11)

英英通訳者大募集 (インド英語探検記 11)

カテゴリ : 
くもの舌 (言葉について気が付いたこと、考えたこと)
執筆 : 
Tom Gally  投稿日 2012-9-3 20:10

先週の木曜日に、インド・ゴアでの一ヶ月におよぶ滞在を終えて、日本へ帰って来た。刺激に溢れた非常に有益な旅であった。

帰る前日、マルガオ市でたまたまアメリカ人の英語教育関係者に会った。彼女は米国の某州立大学の教員だが、今年は米国国務省の派遣プログラムでインドを訪れ、英語の教授法をインド人の英語講師たちに教えていたそうだ。

いろいろ話すうちに、彼女は「インドでセミナーなどをやると、インド人の先生たちには私が喋っている英語がわからないことが多いようだ」と言った。そのインド人の講師たちは流暢に英語が話せるはずだが、彼女のアメリカ英語に慣れていないために、よく理解できないようだ。なぜそのことを察したかというと、セミナーを企画しているインド人が、彼女が言うことを参加者たちによく通訳するからである。その通訳は、ヒンディー語などの現地の言葉へではなく、アメリカ英語からインド英語へだそうだ。

私がゴアのC大学でワークショップをやっていたときも、大学生たちに “Please form small groups, with three or four students per group” や “Get out a piece of paper and write a short paragraph on this topic” などと指示しても、学生たちはときどき、ニコニコする以外は何もしなかった。それで、C大学の先生が同じことを言ったら、学生たちは理解してすぐ指示に従った。この場合も、その先生が喋ったのは英語だった。

英語から英語への通訳という場面に遭遇したのは、外国人とインド人の間だけではない。約一週間前に、ある著名なインド人がゴアに来てC大学で講演した。彼はインド北西部出身で国際的にも活躍する人物で、講演者として人気があるそうだ。彼が講演で使った英語は私だけではなくゴア人たちにもわかりやすかったと思う。しかし、質疑の時間になると、彼に質問者の英語がわからないことがしばしばあった。司会者に通訳を頼む必要があったのだ。この通訳も、英語から英語へだった。

インドの他の州に比べ、ゴアでは英語がよく使われるそうだ。英語で教育を行う学校が多く、ゴア人が日常的に英語を話す機会も少なくない。しかし、私が一ヶ月滞在して、ほぼ毎日英語で一緒に仕事した人たちの中でも、最後までコミュニケーションがスムーズにいかなかったスタッフが1、2人いた。お互いの訛りにすぐ慣れると思っていたが、結局は慣れなかった。

先日紹介した World Englishes の主張のように、世界の中での英語の多様性を積極的に認めるべきだと私は思う。しかし、母語を共有している人たちの間で英語が使われる場合は、その母語のアクセント、語彙、文法などが彼らの英語に特に強い影響を与える。講演後の質疑で明らかなように、ヒンディー語を母語とする英語話者がコンカニ語を母語とする英語話者の英語がわからないとしたら、今後、英語が実際にグローバルな共通語として役に立つかどうか、大いに疑問を持たざるを得ない。

横浜の家に着い日に、榎木薗鉄也氏の新刊『インド英語のリスニング』(研究社)がちょうど郵便で届いていた。著者はインド諸言語の専門家で、その本はリスニングだけではなく、インド英語全般について充実しており、また面白く紹介するつもりなので、このうぶな「インド英語探検記」は今回をもって終了する。ここまで読んでくれた方々に感謝を申し上げます。

追伸:インドに行く前に、ある新聞から「百年後の世界」という特集に予想記事を寄せるように依頼を受けた。私はいろいろ考えたが、インドでの体験がやはり刺激的だったので、記事のテーマを「グローバル英語の今後」にした。新聞に出た後、このブログに転載する予定だ。


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