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「英語が入試から消える」

「英語が入試から消える」

カテゴリ : 
くもの舌 (言葉について気が付いたこと、考えたこと)
執筆 : 
Tom Gally  投稿日 2012-9-11 14:14

インドに行く前に、東京大学新聞から「百年後特集号」への寄稿を頼まれた。ゴア州マルガオ市のコーヒーショップで次の記事を書いた。

東大入試は新しい世界言語で

トム・ガリー

 2112年2月25日と26日に行う東京大学の入試は二つの言語で実施される。「社会」「歴史」「文芸」の3科目は日本語で、「構造科学」「物化生学」「哲学」の3科目はグロ語で実施される。「英語」などの外国語科目はない。

 その理由は21世紀の前半に遡る。確かに、2040年代の半ばぐらいまでは英語の国際語としての立場がますます強くなる。日本、中国、ロシアなどでは英語での教育も一般的になる。2045年の国連調査によると、全世界では20歳の人々の約9割が「上級の英語能力を持つ」とされる。英語教育者の間では「英語のグローバル化が成功した」との喜びの声があるが、実際には、英語は国際語として役に立たなくなった。

 各国の若者たちが英語で教育を受けると言っても、友達同士や家庭ではあいかわらず母語を使うことがほとんどだからである。そのため、大人になってしゃべる「英語」はそれぞれの母語の影響が定着して、他の母語を持つ人の「英語」との相互理解がほぼ不可能になる。2060年代に入ると、英語のグローバル化が失敗したと認めざるを得なくなる。

 紙面が限られているので2067年から起こる世界的な大混乱の詳細は省略するが、一応、地球の温暖化や海面の上昇による深刻な凶作や大幅な人口移動が発生し、紛争や戦争が世界規模で勃発するとしておく。

 その混乱がどん底まで落ちた2071年には、国連を母体に解決策が真剣に模索されるようになる。その議論は領土、政治、経済などの問題に集中するが、世界の人々の間で相互の理解と連携が不可欠と認識されるので、言語政策に関する新しいアイディアも求められる。英語のような自然言語が有用ではないと分かったので、全世界に統一される人工言語の採用が唯一の解決策だという確信が広くなる。

 最初はエスペラントの採用が検討されるが、20世紀以来の言語学研究を応用して、もっと学びやすい国際語が創られ全世界の人々に教えられるようになる。その共通第2言語は英語では GloLan、日本語では「グロ語」、そしてグロ語では ᑱᓗᕋᘆ と呼ばれる。グロ語の発音や語彙などは、自然言語のように変化して方言に分かれないように国連に厳しく規制される。

 2112年度の東大入試を受ける若者たちは子供の時代から日本語とグロ語の両方で学校教育で受け、また国際コミュニケーションにはグロ語のみが使用されるので、外国語の能力を入試で測る必要はない。駒場の教養教育課程では選択科目として英語を履修することが可能だが「難しすぎる」「役に立たない」「死語に近い」などの理由で人気がなく、英語を教える教員は非常勤講師の一人しかいない。

出典:週間東京大学新聞第2604号(2012年9月4日)


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