二十年以上前に、
Lexicon of Musical Invective (音楽罵詈雑言辞典)という本を覗いたことがある。その著者 Nicolas Slonimsky が『ニューヨーカー』で面白く
プロフィールを紹介されていたので、本の存在は知っていた。大作曲家とされている人々に対する、過去の批評家たちの激しい非難のアンソロジーだ。
私もいつか、時間を見つければ
Lexicon of Linguistic Invective なる本、すなわち言語に対する罵りの大集合を編纂したいと思う。このアイディアが浮かび上がったのは、
“Desultory Notes on Japanese Lexicography” (日本語辞書学に関する漫筆)という、オランダ人中国学者 Gustaaf Schlegel が書いた1893年の論文を
T‘oung Pao というくもジャーナルで読んだからだ。この論文は日本での漢字の使用を紹介するものだが、「中国は正統、日本はデタラメ」が大前提となっているので、日本や日本語を絶えず批判している。例えば、
The Japanese ... have no right to transcribe their chinese loanwords phonetically by the wrong chinese characters as they do now, but will have to reform their system.
(日本人は漢語を間違った当て字で書く権利なぞまったく持っていない。日本語の表記を全面的に改良する必要がある。)(p. 177)
その他にこの論文で、日本語の表記や辞書の記述について ignorance、perversity、sloveliness、confusion、philological blunder、so-called translations、defective、faultive、vulgar、ridiculous、blundering、doubly wrong、erroneously、wrongly transcribed など、罵詈雑言のオンパレードである。Schlegel 氏は気難しい人だったのだろう。
これほど高密度の linguistic invective を他で見つけることは容易ではないが、やはり言語に対する悪罵が面白い。もっと集めてみたい。