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言葉の伝染病

言葉の伝染病

カテゴリ : 
くもの舌 (言葉について気が付いたこと、考えたこと)
執筆 : 
Tom Gally  投稿日 2010-4-27 21:10

言葉を病気として考えたら、言語学習がどのように変わるのだろう。

娘たちが3、4歳ぐらいのときに、カリフォルニアに住んでいる、私の姉のところに数日間泊まったことがある。同年齢の従兄弟エリックとよく遊んでいた。娘たちは日本語で、エリックは英語で話していたが、仲良く家の中を走り回ったりかくれんぼしたりしていた。2、3日経ったら、それまで日本語を聞いたことがなかったエリックは、従姉妹が持っているおもちゃを欲しくなったら “Kashite!” と言うようになった。エリックは「貸して」とは日本語だと気が付かなかったようだが、幼稚園児の間で風邪がすぐうつるのと同じように、彼はその言葉に感染したのだ。

横浜・野毛町には、「三陽」というラーメン屋がある。「毛沢東定食」(餃子定食)や「バクダン」(揚げニンニク)などの珍名メニューで地元で少し有名な所でもある。店主は日本人だが、従業員の多くは中国か台湾の出身だ。私は8、9年ぐらい前から月数回のペースで食べに行っているのだが、従業員同士の会話で「言葉の感染症」に気付いたのは最近のことだ。同じものの注文が二つ入ったら「二つ」や「二個」ではなく「ニガ」と言うときがある。本人たちには確認していないが、「ニガ」とは中国語の「二个」(ni ge)に違いない。三陽の日本人従業員同士でも「ニガ」と言っているのだ。同じ職場で働く人たちが同じ「病気」になってしまったようだ。(もちろん、日本国内の店なので、中国人の従業員たちはもっと重く日本語に感染している。)

言語の習得を「教える」や「学ぶ」などのような健全な動詞で描写することが多いが、言葉を病気と同じように人間の意思に関係なく「うつる」ものとして見たら、言語教育はどうなるのだろうか。


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