
英語にまつわる素朴な疑問に答える形で、英語の歴史をひもといていく、これまでになかった英語史の入門書。「なぜnameは『ナメ』ではなく『ネイム』と発音されるのか?」「なぜ -ly をつけると副詞になるのか?」「アメリカ英語はイギリス英語よりも『新しい』のか?」といった疑問をきっかけに、英語史の基礎知識を学んでいくことができる。英語という言語について深く学んでいくために最適な1冊。
はじめに
1 いかにして英語は現在の姿になったのか?――英語史入門
1.1 英語史の時代区分
1.2 資料と媒体
1.3 音声と綴字の変化
1.4 文法の変化
1.5 語彙の変化
1.6 英語の多様性
2 発音と綴字に関する素朴な疑問
2.1 なぜ*a appleではなくan appleなのか?――2種類の不定冠詞
2.2 なぜ名詞はrécordなのに動詞はrecórdなのか?――「名前動後」の強勢パターン
2.3 なぜoftenのtを発音する人がいるのか?――発音と綴字の関係
2.4 なぜfiveに対してfifthなのか?――古英語の発音規則
2.5 なぜnameは「ナメ」ではなく「ネイム」と発音されるのか?――音変化とマジックe
2.6 なぜdebt, doubtには発音しない〈b〉があるのか?――ルネサンス期の見栄
3 語形に関する素朴な疑問
3.1 なぜ3単現に-sを付けるのか?――屈折の歴史的性格
3.2 なぜ*foots, *childsではなくfeet, childrenなのか?――規則と不規則(1)
3.3 sometimesの-s語尾は何を表すのか?――古英語の格の痕跡
3.4 なぜ不規則動詞があるのか?――規則と不規則(2)
3.5 なぜ-lyを付けると副詞になるのか?――形容詞と副詞の関係
4 統語に関する素朴な疑問
4.1 なぜ未来を表すのにwillを用いるのか?――未来時制の発達
4.2 なぜ If I were a birdとなるのか?――仮定法の衰退と残存
4.3 なぜ英語には主語が必要なのか?――語順の固定化(1)
4.4 なぜ*I you loveではなくI love youなのか?――語順の固定化(2)
4.5 なぜMay the Queen live long!はこの語順なのか?――祈願のmayの発達
5 語彙と意味に関する素朴な疑問
5.1 なぜHelp me!とは叫ぶがAid me!とは叫ばないのか?――英語語彙の階層性(1)
5.2 なぜAssist me!とはなおさら叫ばないのか?――英語語彙の階層性(2)
5.3 なぜ1つの単語に様々な意味があるのか?――同音異義と多義
5.4 なぜ単語の意味が昔と今で違うのか?――単語の意味変化の日常性
5.5 英語の新語はどのように作られるのか?――混成語の流行
6 方言と社会に関する素朴な疑問
6.1 なぜアメリカ英語ではrをそり舌で発音するのか?――rの発音と移民史
6.2 アメリカ英語はイギリス英語よりも「新しい」のか?――colonial lagの虚実
6.3 なぜ黒人英語は標準英語と異なっているのか?――英語変種と偏見
6.4 なぜ船・国名をsheで受けるのか?――英語におけるジェンダー問題(1)
6.5 なぜ単数のtheyが使われるようになってきたのか?――英語におけるジェンダー問題(2)
付録
英語史年表
読書案内
おわりに――なぜ英語史を学ぶのか?
参考文献
索引
ネット書店で購入
英語の「素朴な疑問」に「英語史」の視点から答えていくことを通じて、英語教員をはじめとする英語にかかわる多くの方々に、英語の「新しい見方」を提案し、「目から鱗が落ちる」体験を味わってもらいたいからです。
具体的には、以下の5つのねらいがあります。
英語学習者が学びのなかで抱く様々な疑問に対して、英語学の立場から回答するという趣旨の本は、すでに数多く出版されています。しかし、この「英語学の立場」と「英語学習者の立場」の間には往々にして距離の開きがあります。発展の著しい英語学の分野では急速に専門化・細分化が進んでおり、英語学の研究者の多くは、その成果を一般の英語学習者に噛み砕いて伝えることが難しいと感じています。学習者の抱く疑問は素朴であるだけに深く本質的であることが多く、英語の先生にとってもうまく答えられず、また英語学の研究者にとっても平易に説明するのが難しいという現状があります。
結果として、疑問に答えるという趣旨の本は、言語理論の理解を前提とした専門的な内容になりがちであるか、あるいは反対に、噛み砕きすぎて、理解の基盤をなす体系的な知識を与えずに、単発的でトリビア的な回答を施すにとどまってしまうケースが多いのです。本書では、できる限り平易に、なおかつ英語史という体系を基盤とした解説を目指しています。
英語史も、言語理論と完全に無縁ではありません。しかし、英語史は、時系列や因果関係といった自然の原理によって体系づけられていますし、一般の社会史とも密接な関係をもつという点で、案外取っつきやすい分野なのです。歴史的に英語を解釈し直すことで、今まで見えなかった英語の世界が必ず見えてくると確信します。
本書は、とりわけ学校などで英語を教える先生方に読んでいただきたいという思いを込めて執筆しました。もちろん、それ以外にも、英語学習者や英語学・英語史を専攻する大学(院)生を含め、英語にかかわっている多くの方々を読者として念頭におきながら書いています。本書は、英語の新しい見方の提案です。本書を通じて、英語史に少しでも興味をもっていただければ幸いです。読者の方々には、本コンパニオン・サイトを通じて、ぜひコメント等をいただければと思います。
平成28年11月3日
著者 堀田隆一
本書のサンプルは以下のリンクよりご覧下さい。