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分綴について

分綴について

カテゴリ : 
くもの舌 (言葉について気が付いたこと、考えたこと)
執筆 : 
Tom Gally  投稿日 2009-4-21 15:00
「分綴」(ぶんてつ)は、『広辞苑』と『大辞林』のそれぞれの最新版に新しく追加された言葉だ。『デジタル大辞泉』にはあるが、『日本国語大辞典』のオンライン版には載っていない。

『大辞林』は次のように定義する。
欧文で,単語のつづりの途中で改行する際,つづりを行末で分けること。また,その分け方。ハイフネーション。
(「ハイフネーション」は『広辞苑』にあるが『大辞林』にはない。『広辞苑』でも、2008年の第6版から立項された。)

「分綴」は新しい言葉ではなかろうから、最近までは辞書編集などの専門的すぎる用語と見なされたか、単に見落とされたのだろう。

先日から英文の分綴法について久しぶりに考えている。理由は、知り合いから syllable(音節)の定義を聞かれたからだ。 sudden のような単語はふつう、/sudn/ のように、 /d/ と /n/ の間に母音がないので、この単語には一つの syllable しかないのではないかという質問だった。いろいろ調べたら、音韻学者の間でも syllable の定義について意見が必ずしも一致しないと分かった。私は音韻学者ではないので、勝手に次の定義を作ってみた。
A syllable is a segment of a spoken word that a native speaker of a language perceives as representing one rhythmic beat.
rhythmic beat とは、cat に一つ、happy に二つ、computer に三つ付けるような「拍子」のこと。 sudden の発音には一つの母音しかないが、英語のネイティブなら必ず二拍子を付けると思う。母語話者の直観に頼る定義は母語話者以外の人にとっては役に立たないが、私はもっと適切な定義を思い付かない。

syllable の区切りで改行することが英文の分綴法の基本だが、英語の綴りが複雑なのと同様に、その分綴法もかなり複雑だ。詳細はここで割愛するが、興味のある読者は次の「くも本」をご覧下さい。
The Practice of Typography (1910)
Dictionary of Typography and Its Accessory Arts (1875)
Proofreading and Punctuation (1907)
figurine(小立像)という単語を行末で分ける必要があったら、一部の辞書では figu-rine または fig-urine と分綴してもいいと書いてあるが、 g と u の間で分綴すると、urine が文頭になってしまうから必ず figu-rine で分けるようにと、大学院生のときに読んだ本に書いてあったと覚えている。その後、校正しているゲラで figurine が行末で分けられているケースをずっと探してきたが、まだこのルールを適用する機会には恵まれない。現在、言葉を分綴しないウェブのために書くことも多くなって、一生そのチャンスに巡り会わないかも知れない。

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