インド英語に関する記事などでは prepone という動詞がよく取り上げられる。国際的に使用される英語には postpone(延期する)という言葉が昔からあるが、その反対の意味、すなわち「早める」を表すために prepone がインドで造語されたということである。
先日、大学のスタッフと話していたときに、彼は They have preponed the conference from November to October. と言った。11月に予定されていた国際会議が10月に変更された、という意味だ。南アジア以外では使用されないが、初めて会話で聞くとなかなか便利な言葉だと思った。
次の日、私の帰国スケジュールに関するメールを同じ人に出すことになった。以前、私が乗るゴアからムンバイのフライトが16:40から15:00に変更されたとその人から聞いていたので、メールでは You mentioned that my flight from Goa to Mumbai has been preponed to 15:00 ... と書いた。
私はインド英語の発音がまだ全然できないが、とりあえず、一つの単語を習得した。
インド滞在期間の折り返し地点を過ぎた。ゴア州南部のマルガオ市とその周辺にしか行っていないが、そこの状況に少し慣れてきた。インド人との会話では私の聞き取り理解度が少し上がった。すなわち、私が「エッ?」と聞き返す頻度が少し減った、と考えたい。
インド・ゴア州マルガオ市に来てから約2週間となった。平日はC大学で過ごし、授業、ワークショップ、会議などに参加している。(明日、秋に日本へホームステイに行く学生たちにお箸の使い方を教えることにもなった。思いがけない依頼だったが、喜んで引き受けた。)用事が入っていないときに、学生支援課内のライティング・センターで机に向かって、パソコンで仕事をしている。
インドの英字新聞を読み始めると意味がわからない記事が少なくない。例えば、8月9日の The Times of India(ゴア版)には次のようなセンテンスがあった。
Margao: Pulling up eight panchayats in Salcete for failing to hold a gram sabha meeting in violation of the Goa Panchaya Raj Act 1994, Salcete the block development officer, Uday Prabhudesai, issued notices to the panchayats on Wednesday and ordered them to hold a gram sabha on Sunday (August 12).
私に主に分からなかったのは panchayat と gram sabha だ。両方とも中心的な単語なので、文全体の意味がわからなかった。そして、文脈からは Salcete は地名、Goa Panchayat Raj Act 1994 は法律名、Uday Prabhudesai は人名、そして pull up は「批判する」を意味する動詞と推測できたが、Salceteはどういうところか、Goa Panchayat Raj Act 1994 はどういう法律か分からなかったので、文全体の意味がますます不明になってしまった。
でも、少し調べてみたら、それぞれの表現の意味が判明する。KODで panchayat を検索すると「村の自治組織として選挙されたおよそ 5 人からなる会議体」(リーダーズ英和)だそうだ。gram sabha をウェブで検索すると Gram Sabha means a body consisting of persons whose names are for the time being entered as electors in the electoral roll for a Panchayat と定義が見つかる。すなわち、「panchayat のために登録されている選挙人で構成される評議会」のようだ。
同様に、Salcete は、私が滞在しているマルガオ市が所属する taluka(自治体)だ。Goa Panchayat Raj Act 1994 の全文は数百ページに及ぶが、最初の部分だけを読むと、二層の自治体体制を作るために制定された法律だとわかる。また、 pull up はイギリス口語で確かに「批判する」を意味することを複数の辞書で確認できた。
このようにして、「Pulling up eight panchayats in Salcete ...」というセンテンスの意味をやっと理解できた。すなわち、「Salceteという自治体の開発担当官は、1994年の法律で義務付けられている評議会を開いていない村会に、評議会を開くように命じた」という意味だ。
この記事には panchayat や gram sabha のような「インド英語」もあるが、最初に意味がわからなかったのは、むしろ「インド知識」が私に不足しているからだ。
なお、pull up の意味について自信がなかったのは、私にはイギリス英語に関する知識も不足しているからである。
追伸:上の記事の「Salcete the block development officer」は「the Salcete block development officer」の間違いのようだ。この the の位置のズレは、インド英語ではなく、新聞の編集ミスだと思う。
インドの新聞記事ですぐ目に付くインド英語は lakh とcrore だ。例えば、今朝、私のホテル部屋に届いた The Times of India には次の用例があった。
The state’s requirement [for milk] is 4.5 lakh litres per day while the state is producing only 36,000 litres per day.
After a delay of well over three months, the Sharad Pawar-led NCP on Monday sacked minister of state for transport Gulabrao Deokar from the ministry for his alleged involvement in the ₹32 crore Jalgaon housing scam. [「₹」はルピーの略字]
研究社Online Dictionaryでもアクセスできる Oxford Advanced Learner’s Dictionary には、それぞれが次のように定義されている。
lakh /læk/
noun (IndE) a hundred thousand
crore /krɔː(r)/
noun (IndE) ten million; one hundred lakhs
ということで、4.5 lakh litres は「45万リトル」で、 ₹32 crore は「3.2億ルピー」の意味。
lakh と crore はまだ会話で聞いていない(と思う)が、ごく普通の言葉のようだ。