過去の連載

私の語学スタイル

第1回
「最初は“ただ日本人であるだけ”の先生だった」

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外国語に詰まった、たくさんの思い

 外国人に日本語を教えるのが先生の仕事だが、自身も韓国語、英語、中国語と、外国語学習経験がとても豊富だ。それぞれの言語に対する先生の思いを聞いてみた。
 「これらの3つの外国語の中では韓国語が一番好きです。理由は、韓国語が一番できないのでまだまだ勉強したいから、というのが大きいんだけど。それに、韓国語は言葉として根底にあるメンタリティが日本語と近いし、そうかと思うとずいぶん違うっていうこともあったりして、そういう発見をしていくのが、学んでいてとても楽しいのね」
 こう語る先生の瞳の輝きからは、“ことば”の世界に対する好奇心、感受性の強さがうかがえる。
 「その次に好きなのは英語かな。外国語大学にいたときは(特に非英語圏出身の)留学生が周りにたくさんいたので、留学生と仲良くなって英語で色々話をする機会に恵まれました」と、泉原先生。それまでは英語にさほど興味もなくあまり話せなかったのだが、留学生と交流してみたい!という気持ちがきっかけとなり、英語を一から勉強し直したのだそう。
 「英語を勉強していく中で、実際に留学生との会話で使ってみたら通じたというのと、自分自身でも上達の実感が得られたというのが結構嬉しかったんだと思います。留学生たちとは『源氏物語』について話したり、日本人学生と合同のパーティーを企画したこともありました。あと、そのころから海外文学にはまり出したんだけど、日本語に訳されていないような黒人文学を原書で読むのもとても面白かった。そういった楽しい思い出が英語には詰まっているので、英語が好きなんです」
 学生時代に旅行してまわったアジア諸国でも、英語をよく使ったのだという。
 「旅をしていて一番面白いのは、やっぱり人間との出会いだよね。誰かに出会いたくて、旅をしているんです。そういった出会いの場で、英語ができたからこんなに面白い体験ができた!ということはたくさんありました。例えば、こちらが英語ができると、現地で英語を学んでいる人が私に興味を持って話しかけてきて、滞在中の2,3日だけでもすごく仲良くなれたりね。アジアを旅行していて、英語ほど通じる言葉はないな、と思いましたよ。パキスタンの宿で、アフガニスタン難民の青年たちの輪に入るきっかけとなったのも英語だったし、インドではBritishの英語で話したおかげで列車の乗車係のおじさんに気に入られたり、香港でオーバーブッキングに遭ったときも、英語でまくしたてたおかげで係の人に負けずに済んだり…。旅先での英語にまつわる思い出は、本当にたくさんあります」
 そして最後は中国語について。「中国には長く住んだおかげで、いいところ、悪いところの両方をかなり深いところまで知ってしまったというのが、単純に『中国語が好き』と言いきれない理由かもしれない(笑)。でももちろん嫌いじゃないし、日本語と比べるとかなりはっきりモノが言える、という点が気に入っています」
 外国語を学んで実際に使ってみることの楽しさを、先生はこんな風に語ってくれた。

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日本語教師に外国語は必要?

 外国語を学んだ経験は、仕事にも生きてくる。
 「日本語を教えるとき、必ずしも学習者の母語ができる必要はないのですが、できることのメリットはかなりあります。例えばある日本語の表現に対して、学生の母語が完全に対応していないようなとき、『あなたの母語ではこういう言い方をするのだけれど、日本語ではこういう2通りの言い方をします』といった説明ができると、学生にも伝わりやすいですよね。そのときに『私は日本語しかわかりませんから』というのでは、相手の母語の言い方とどう違うのか、うまく説明できなくて困ることがあります。そういった意味で、私は中国に赴任する前に大学で中国語をしっかり学んでいたのが、とても役に立ちました」
 相手の母語について考えることで、学習者の目線に一歩近づく。そして、日本語をより客観的に見つめ直すこともできるのだろう。

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