▲フリードリヒ・シラー(Ludovike Simanowizによる肖像画)
前回の母音に続いて、今回は子音をチェックしましょう。基本的にはローマ字読みに近いのですが、そこから逸脱する部分を中心にチェックしていきます。 1. アルファベートまず最初に、ドイツ語の das Alphabet[アルファベート]を確認しましょう。26音の綴りは英語のアルファベットと同じです。
いかがですか。英語の発音と同じようなものもありますし、まったく違うものもありますね。次はドイツ語特有の文字です。
ウムラウトについては、前回ご説明しましたので省略します。ß は小文字しかなく、ss と同じだと考えていただいてかまいません。発音は[ス]の音になります。 アルファベートを覚えると、ドイツ語の略号もドイツ語で発音できるようになりますね。では、ちょっと練習してみましょう。
2. 基本はローマ字を読む感じでOKドイツ語の子音の発音は、ローマ字読みのつもりでだいたい大丈夫です。ただし、例外(とはいえ規則的)もありますので、それを中心にチェックしていきましょう。 以下、ドイツ語の単語がいくつか出てきますが、アクセントは基本的に第1音節にあるということを頭に入れて、発音してみましょう。強弱のメリハリをしっかりとつけることで、よりドイツ語らしい発音になります。くれぐれもお経読みにならないように気をつけましょう。 3. s 関連の発音
なお、ss と ß の使い分けは、前の音が短母音であれば ss,それ以外は ß となります。なので、ワルツで有名な Strauß[シュトラオス]は、au が複母音なので ß で書きます。 4. ch の発音
5. j や z,v,w は英語に引っ張られないように!
vとwの発音を覚えると、Volkswagen[フォルクス・ヴァーゲン]が正しく発音できますね。この言葉は、「民衆」や「国民」などを意味するVolk[フォルク]と「車」を意味する Wagen が s でつながれた複合語です。ドイツ語では、複合語を作るのが比較的簡単なのですが、発音で注意してほしいのは、それぞれの語を区別して発音して、音を連続させないことです。例えば「かかりつけの医者」を意味する Hausarzt は、「家」を意味する Haus[ハオス]と「医者」の Arzt[アァツト]が複合してできた語なので、[ハオス・アァツト]と別々に発音するわけです。 6. 音節末(主に語末)で注意が必要な発音
7. r の母音化と速くなる発音r は子音ですが、ときとして母音のように発音されることがあります。この r の母音化は、人々のドイツ語を話すスピードが速くなるにつれて生じた現象だと言えます。例えば、私は50代ですが、r の母音化を普通に習いましたし、今も当然のこととしてそう発音しています。しかし、私が教わった年配の先生方、現在80代以上の方は、例えば「彼」の er は[エァ]ではなく[エル]と、定冠詞の der だと[デル]と発音します。また、山を意味する Berg をカタカナ表記すると「ベルク」(Heidelberg[ハイデル・ベァク]「ハイデルベルク」)、砦や山城を意味する Burg は「ブルク」(Salzburg[ザルツ・ブァク]「ザルツブルク」)となるのは、かつての発音がカタカナ書きとして定着したためです。 日本語でも、アナウンサーが1分間に発する語数は、テレビの創成期(1960年代)だと300語程度でしたが、今では500語以上発するアナウンサーもいるのだそうです(加藤昌男『テレビの日本語』岩波新書、2012年参照)。日本と同じように、ドイツでも会話スピードはどんどん上がっていて、私が教わった先生は、当時ドイツに留学していた私を訪ねて来たとき、ドイツ人の話すスピードが速くなったことに驚いていました。 他にも、詩人の Schiller を例に挙げると、明治期の表記は「シルレル」でした (太宰治の「走れメロス」の最後にも、「シルレルの詩から」という言葉があります)が、今では[シラー]が普通になっているのも、やはり速く話すようになったことが一因かと思います。そのシラーが書いた詩で、後にベートーヴェンが『交響曲第九番』(1824年)で合唱部分に取り入れた「歓喜に寄せて(An die Freude[アン ディ フロイデ])」の冒頭部は、今課の最初に紹介した1行です。
▲『交響曲第九番』(合唱は1:28~)
「あれ、合唱で教わった発音の表記と違うぞ」と思った方もいると思います。ここで紹介したカタカナ表記は、現代の日常会話での発音をもとにしています。これも r を母音化しないと、後半部は[シェーネル ゲッテル・フンケン]となります。この発音方式は廃れたわけではありません。オペラや歌曲の世界では、今でも音節末などの r を母音化せずに、巻き舌の[ル]として発音します。コンサートホールなどで音をていねいに響かせるためには、母音化しないほうがいいわけです。
▶ アクセント(強弱)のメリハリをしっかりつけると、ドイツ語らしい発音になります。 ▶ 基本的には、単語の第1音節にアクセントがあります。 ドイツ文化ひとことシラーの詩「歓喜に寄せて」は、1786年に発表されました。発表された雑誌には友人ケルナーが作曲した楽譜が付され、はじめから歌われることが想定された作品だったのです。発表直後から多くの作曲家がこの詩に曲をつけ、広く歌われるようになりました。19世紀には「集いの歌」、「飲み会の歌」として親しまれていたのです。 ベートーヴェンも、10代ですでに曲をつけようとしたことが知られています。ただし、その段階では「リート(Lied)」、つまり歌曲(独唱の声楽曲)などだったと思われます。
矢羽々 崇(やはば・たかし) ■ 執筆者プロフィール 1962年岩手県盛岡市生まれ。ミュンヘン大学マギスター(修士)、上智大学博士(文学)取得。獨協大学外国語学部ドイツ語学科教授。専門は近現代ドイツ文学(主に叙情詩)。著書は、『「歓喜に寄せて」の物語――シラーの詩とベートーヴェンの「第九」』(2007年)ほか多数。2000~2002年度および2007年度に「ラジオドイツ語講座」講師、2008~2010年度「テレビでドイツ語」講師を担当。
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