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くもの笑い (ユーモアに関する考察)カテゴリのエントリ

ジョークの文法(その3)

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くもの笑い (ユーモアに関する考察)
執筆 : 
Tom Gally  投稿日 2010-7-7 22:50

先日、言語学に関する興味深い会議に出席した。テーマは、日本語での「飽和名詞」と「非飽和名詞」に関するものだった。簡単に言うと、「非飽和名詞」とは、文脈などからその所属、またはそれがどういうことに関係しているかがわからないと普通に使わない名詞のこと。「飽和名詞」は、その反対で、特定の文脈がなくても使える名詞である。

例えば、街を歩いているときに、警察に補導されている人をたまたま見かけたら

「彼はたぶん犯罪者だろう。」

と言えるが、

「彼はたぶん犯人だろう。」

とは言わない。その人がどの犯罪を起したかを知らなくても「犯罪者」と呼べるが、「犯人」は特定の事件が指示されていないときに普通は使えない言葉なのだ。そのため、「犯人」は非飽和名詞の類に、「犯罪者」は飽和名詞の類に入るそうだ。

日本語には「社員」「作者」「本場」「原因」など、非飽和名詞が多数あるそうだが、英語はどうだろう。私はまだ深く検討していないが、"Is he a brother?" などは普通言わないから、brother や sister、すなわち多くの場合に所有代名詞などを伴なう名詞は非飽和的と言えるかも知れない。

そして、会議の議論では「容疑者」が非飽和名詞の例として取り上げられたときに、私は映画『カサブランカ』(1942年)の名場面をふっと思い出した。映画の最後のシーンでは、警察署長ルノーは自分の目の前に友人のリックが人を撃ったにも関わらず、自分の部下に

「Major Strasser has been shot! Round up the usual suspects!」(シュトラッサー少佐が撃たれた!いつもの容疑者たちを逮捕しろ!)

と命ずる。suspect は特定の事件の容疑者であるので、the usual suspects、すなわち「いつもの容疑者たち」は存在しないはずだ。この表現は可笑しいから、『カサブランカ』が公開されて以来、the usual suspects というフレーズが様々な場面で使われるようになった。現在はウェブ上だけで200万以上の用例があるほどの定句だ。

私は40年近く Round up the usual suspects! という台詞が可笑しいと思ってきたが、先日まではそれが文法に基づいているジョークだとに気が付かなかった。

文法に基づく、他のユーモアの例についてはここここにも書いた。
 

ジョークの文法(その2)

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くもの笑い (ユーモアに関する考察)
執筆 : 
Tom Gally  投稿日 2009-11-4 21:40
5月に、文法ネタのジョークについて少し書いたが、その後、そこで紹介した The Onion というユーモア雑誌に、先日、また文法に由来する風刺記事が出た。

見出しは、"United Airlines Exploring Viability Of Stacking Them Like Cordwood"(ユナイテッド航空は「あいつら」を薪の束のように積み重ねることの可能性を検討している)だ。記事の写真でもわかるように、見出しの Them は乗客を指すが、本文にはその指示対象がどこにも書かれていない。

最初のパラグラフでも、不明な them が使われている。
CHICAGO—In its ongoing effort to cut transportation costs and boost profits, United Airlines announced Tuesday that it was exploring the feasibility of herding them into planes and stacking them like cordwood from floor to ceiling.
この記事の背景には、米国の航空業界での激しい競争とコスト削減によるサービスの低下がある。米国の国内便を使う人は "The airlines treat passengers like 「luggage [freight, cattle, animals]." などのようにサービスの悪さを嘆くことが多いので、"United Airlines Exploring Viability Of Stacking Passengers Like Cordwood" のように stack の目的語を明示しても冗談が通じるが、指示対象を伏せたことで The Onion の作者が「乗客の物品化」に間接的に言及できてユーモアをワンランクアップできたのだ。このワンランクアップは、英語の文法、すなわち「stack のような他動詞を使用するとき、目的語の名詞か代名詞を省略できない」と「代名詞が使われる場合、その指示対象が文脈から明確でなければならない」というルールに依存している。日本語など、目的語や代名詞の省略が可能な言語では、これらのルールをわざと「違反」することができないので、同様なジョークが成り立ちにくい。

アメリカの俳句(その2)

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くもの笑い (ユーモアに関する考察)
執筆 : 
Tom Gally  投稿日 2009-6-15 17:00
「ことばのくも」が暫くの間沈黙することになってしまい、すみませんでした。8月刊行予定の清水由美氏の『辞書のすきま、すきまの言葉 あんな言葉やこんな言葉、英語では何と言う?』の仕上げ作業を少し手伝っていることを言い訳にする。(これはとても面白い本なので、出版が近づいたらまたここで取り上げたい。)

先日、「米国のユーモア文化の最高峰は The Onion」と書いたので、それについてもう少し説明する。

The Onionが入る news satire というジャンルは近年、英語圏で盛んに成長してきた。新聞やテレビニュースは生真面目な態度や陳腐な文句の多用に陥りやすく、それを諷刺するのが難しくないというのが、その理由の一つ。また、ニュースは毎日更新されるので、ネタが枯渇することはまずない。ニュースに取り上げられるシリアスなテーマを冗談にすると、権力者などを間接的に批判することも可能になる。例えば、 The Daily Show というテレビ番組は、政治家の発言をビデオで再生するだけで、その自己矛盾や嘘をさらけだし、よく話題になってきた。

The Daily Show はどちらかというと「左」の政治的立場を取るが、"Michelle Obama's Arms Meet With Sri Lankan Refugees" (「ミシェル・オバマの腕はスリランカの難民に会う」)という記事が示すように、The Onion のスタンスは不透明だ。もちろん政治関係のテーマをよく取り上げるが、それよりもニュースという媒体を馬鹿にすること、一般の米国市民の愚かさを指摘すること、またシュールな気分に満ちた純粋ユーモアのほうが多い。

The Onion は最近、オンライン・ビデオでテレビニュースを題材にするようにもなったが、元々は米国中西部の地方紙の独特な表現やローカル性をネタとして使ってきた。例えば、現在でも多くの米国新聞にある星占い(horoscope)のコラムは The Onion にもある。普通の新聞星占いなら "Aries (March 21-April 19): . . . You feel fine, and that's good. You're interested and interesting. Leave your checkbook and credit cards at home, however. The best things in life are still free. Practice enjoying them."(Seattle Times)のように、無害なアドバイスや無難な「吉」を出す傾向があるが、 The Onion の Horoscopes は、読者の悪い性格や肥満の指摘、極端な「大凶」の予想が専門。

私は数年前、 The Onion の星占いを最初に見たときにピンと来なかったが、読みつづけるとその悪趣味なウィットが分かるようになった。読者の皆さんはどうだろう。ご参考までに、下記でこれらの「アメリカの俳句」の数例を訳無しで出す。
Virgo Aug 23 - Sep 22
Humiliation will be yours this week when astronomers discover four large satellites orbiting around you.

Taurus Apr 20 - May 20
Only God can judge you. Unfortunately, He's been appearing to all your friends and telling them what an asshole you are.

Virgo Aug 23 - Sep 22
Recent advances in forensic science may sound impressive, but the entire field is still years away from determining what will happen to you.

Scorpio Oct 24 - Nov 21
Beneath your tough exterior lies a sweet and sensitive human being. Beneath that, however, it's pretty much all tumors.

Scorpio Oct 24 - Nov 21
While being replaced by a machine is never easy, losing your job to a common office stapler will prove especially difficult to take.

Taurus Apr 20 - May 20
Police officials will manage to talk you down from the ledge of an overpass this week. Sadly, they'll do so by screaming for you to jump.

Capricorn Dec 22 - Jan 19
Next week will be a time of great financial and emotional rewards. It's just too bad you won't be there to see it.

アメリカの俳句

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くもの笑い (ユーモアに関する考察)
執筆 : 
Tom Gally  投稿日 2009-5-27 15:50
日本生まれの俳句が他の言語でも創られるようになったのはよく知られている。私も、約40年前、カリフォルニアの公立小学校で haiku の創作法を習ったことを覚えている。英語圏の子供には、アクセントの強弱が分かりにくいので伝統的な詩は書きにくいが、音節の数だけで長さが決まる haiku は子供でもすぐできるのだ。小学校で私がどういう haiku を書いたか覚えていないが、ウェブでは小学生の haiku が見つかる。例えば、ペンシルバニア州の小学校5年生 Melissa Folk が次の句で Haiku Poem and Art Contest で三位を取った。
I am a flower
Sitting on a lily pad
Looking at the fish
俳句は米国でよく知られているのだが、多様な気候を持つ北米大陸では一律の季語が成立しにくいこともあり、日本のように文化に浸透しているとは言えない。しかし、俳句と同じようにコンパクトで完成度の高いジャンルがある。それは、芸術作品としてあまり認められていないが、gag や one-liner と呼ばれる短いジョークである。

実際、1993年10月25日の『ニューヨーカー』で、Adam Gopnik という評論家は、 Woody Allen が若いときに創ったジョークを American haiku brought to perfection (完成されたアメリカ俳句)と絶賛した。Gopnik氏が取り上げた Woody Allen の gag には次の例がある。
My grandfather, on his deathbed, sold me this pocket watch.

What a wonderful thing, to be conscious! I wonder what the people in New Jersey do.

I am two with nature.

「けち」というユダヤ人のステレオタイプ、ニューヨーク市民が持つ隣のニュージャージー州への偏見、そして to be one with nature (大自然と一体感を持つ)という表現をもじって自然を嫌うマンハッタン住民の気持ちによって、それぞれの gag が成立する。米国のジョークには季題がないが、日本の俳句を理解するには日本の気候や風景を知る必要があるのと同様に、このような「奇題」を知らないと米国の one-liner が理解しにくい。

Woody Allen が真面目な映画監督になって久しい現在、米国のユーモア文化の最高峰は The Onion という雑誌とウェブサイトだと私は思う。将来の学者が21世紀初頭のアメリカ文学を研究する上で必須の対象になるのであろう。 The Onion の素晴らしさについて、後日でも書きたいと思う。

ジョークの文法

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くもの笑い (ユーモアに関する考察)
執筆 : 
Tom Gally  投稿日 2009-5-21 21:20
数週間前、アフガニスタンからのニュースが少し話題になって、英語では冗談のネタにもなった。あるブログでは、次の見出しで紹介されていた。
Afghanistan's pig quarantined
この見出しが可笑しいところは、読者が知らない事物を表す単数名詞に所有形を使うとそれは一つしかないというニュアンスになることだ。実際、アフガニスタンでは豚肉などが完全に禁止されているので、豚がいるのはカブール動物園の一匹のみ。その一匹が豚インフルのために隔離されているという意外な事実は、所有形と単数名詞のコンビだけで表されているので、読者が笑ってしまう。

英語の授業などで What did you do last weekend? という質問に対して、I went to Odaiba with my friend. と生徒が答えたら、その生徒に一人の友達しかいないというニュアンスになるから、「日本人がよく間違う英語」としてしばしば取り上げられる。(I went to Odaiba with one of my friends. や I went to Odaiba with a friend of mine. が正しい。) Afghanistan's pig quarantined を読んでびっくりするのも同じ文法的な理由による。Afghanistan's only pig quarantined だったら、事実は依然として意外だが、見出しのユーモアが半減する。Afghanistan's pigs quarantined だったら、まったく笑わない。

同じように、複数形の名詞のみが使われるところを単数形にすると、冗談になる場合がある。
The response to my article was great. A few days later, a letter poured in. (私が書いた記事への反応は凄かった。数日後、一通の手紙が殺到して来た。)
冗談を翻訳しにくい理由には、文化の違いがよく指摘されているが、文法もその理由になることがあるのだ。

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