みなさん、こんにちは。昨年の「これも〈役割語〉です――〈西洋人語〉「おお、ピエール」(1)(2)」(「〈役割語〉トークライブ!」第4回・第5回)に続き、1年ぶりにお目にかかります。今回は、映画『シン・ゴジラ』のセリフについて2回に分けて見ていきます。 映画『シン・ゴジラ』は2016年の7月に公開されました。みなさんはご覧になったでしょうか。アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズで知られる庵野秀明さんが脚本・編集・総監督を務め、未知の生物であるゴジラの出現に混迷する現代日本を描いた作品です。読売新聞の記事(2016年12月16日付)によると、興行収入が80億円を超える大ヒットとなったそうです。同じく2016年に公開された、新海誠監督のアニメ映画『君の名は。』と合わせて記憶に新しい人も多いのではないでしょうか。2017年には地上波(テレビ朝日系列)でも放送されました。 『シン・ゴジラ』の公開時には、本作にちなんだ「蒲田くん」「内閣総辞職ビーム」などのことばが、SNS を中心に巷を賑わしました。また、市川実日子さんの演じるリケジョ(理系女子)尾頭ヒロミの人物像や、石原さとみさんによる米国特使カヨコ・アン・パタースンの、英語交じりの日本語なども話題になりました。
『シン・ゴジラ』東宝 MOVIE チャンネル
映画『シン・ゴジラ』に出てくるセリフの特徴というと、どのようなものが思い浮かぶでしょうか。一つに、話すスピードの速いことが挙げられると思います。本作の舞台は官邸で、登場人物のほとんどが政治家や官僚、自衛隊員です。セリフには普段では聞き慣れないような、政治や軍事関連の専門用語が多く並びます。それを役者さんは息を吸う間もそこそこに、早口で間、髪を容れず、畳みかけるように話します。そのテンポの良さに、見ているこちらも否応なく、気持ちの休まらない、緊迫感・高揚感を覚えます。 たとえば、次のセリフを見てください。これは、巨大不明生物特設災害対策本部(巨災対)のメンバーたちが、長谷川博己さん扮する主人公の矢口蘭堂(内閣官房副長官兼巨災対事務局長)に、ゴジラに関する分析の進捗状況を説明しているときのものです。セリフには生物や原子力などに関わる用語が立て続けに並びます。本作では、この安田から町田まで続く4人のセリフ(下線部)が、24秒で話されます。みなさんも巨災対のメンバーになったつもりで、下線部を声に出して読んでみてください。4人分を何秒で音読し終わるでしょうか。(以下、DVD『シン・ゴジラ』[庵野秀明監督、東宝、2017年]より引用。セリフに付された時間表示は DVD の経過時間を示す。)
安田龍彦(文部科学省研究振興局基礎研究振興課長):
根岸達也(原子力規制庁監視情報課長):
尾頭ヒロミ(環境省自然環境局野生生物課長補佐):
町田一晃(経済産業省製造産業局長): いかがだったでしょうか。24秒以内で読み終わるのはなかなかに忙しいですね。4人のセリフを一続きに読まないことには達成が難しいです。 実際のところ映画では、呼吸をほとんどしていないかのように一気に「早口」で話しているほか、4人のそれぞれが、他の話者が発言し終わったあと、間を置かずに話し始めてい(るように受け取れる編集がなされてい)ます。この、話を開始するまでの間の短さは、話すべき内容を瞬時に用意できる力や、切り替えの速さ、臆することなく発言する姿勢などを印象付けます。なお、安田らは、前の話者が述べた内容をふまえたうえで、自分の専門領域の観点から必要な情報を上乗せする形で話を展開させています。以上のことから、安田らの頭の切れや自信は、専門領域に関する知識や経験に裏打ちされたものだと言えそうです。 一方、早口で話すことは、オタクの人の特徴として取り上げられることがあります。オタクとは、特定の領域について深く、豊富な知識を持ち、没頭している人のことを言います。得意とする領域を表すことばとつなげて、「アニメオタク/アニオタ」、「鉄オタ(鉄道のオタク)」、「みゃおた(AKB48 宮崎美穂さん(みゃおさん)のオタク)」のように呼ぶこともあります。たとえば、次の読売新聞の記事を見てください。これは、2018年1月〜3月にフジテレビ系列で放送されたドラマ『海月姫』でクラゲのオタクである主人公月海(つきみ)を演じた芳根京子さんに、月海の演じ方などについてインタビューしたものです。この記事からは、傾倒している領域について早口で熱弁する点を、芳根さんがオタクらしさだと捉えていることがわかります。
撮影前に水族館を見学し、クラゲの本も買った。「分からない単語を調べておくと、セリフがすらすら出てくる。なんせ、月海はクラゲの説明をする時だけ情熱的に早口になるので、そこでのオタクさをすごく発揮したいんです」 家では役柄同様のメガネ、スエット姿だが、オタク気質とは無縁。でも、「情熱的に話せることがない私からしたら、好きなことに没頭している月海はかっこいい」。マンガ原作のヒロインに全身で共感し、生身の月海像を作り上げている。 (星野誠(2018)「[よみほっと TV]全力でパワーを届けたい 芳根京子」読売新聞 2018年2月11日 東京朝刊 2部10頁)
芳根さんによると、月海は「クラゲの説明」をするときに早口になるそうです。知識がなければ、説明することはできません。しかし、深く掘り下げて理解していれば、また、普段から対象となる領域に触れていれば、説明が次から次へと途切れることなく口をついて出ます。この、豊富な知識のあふれ出る様子が「早口」の一端を担うのでしょう。いかにもオタクの人らしい話し方であるとされる「早口」も、発話者の背景に豊富な知識があることと結びつくと言えます。 これらのことをふまえると、『シン・ゴジラ』の「早口」は、展開にスピード感を与えるだけでなく、発話者に特定の属性を結びつける役割も担っていると考えられます。すなわち、「頭が切れる」、「専門性の高い事柄に精通している」、「私情を交えず、専門領域(仕事)に徹する」といった属性です。 この「早口」な話し方は庵野監督の意図によるものだそうです。庵野監督は次のように述べています。
官僚の方は頭の回転が速いのか、みんな早口なんです。政治家の方はそれなりに普通のスピードなんですが、本作では「御自分の間での芝居はいりませんから」と、あえてそこも早くしゃべってもらいました。スピード感、テンポの良さが欲しかったからです。 (『ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』p. 502) 本作ではセリフのテンポ感が重要だったので、登場人物はほぼ全員を早口にしています。 (p. 513)
また、主人公を演じた長谷川博己さんも、早口なセリフの舞台裏について、ラジオ番組(『澤本・権八のすぐに終わりますから。』2017年8月19日)の中で触れています。
すごいんですよ。東宝のスタジオに長テーブルがたくさん並んでいて、登場人物300人ぐらいがみんな座って、1人ひとりの前にマイクがあるんです。それで1シーン1シーン、録音して、全部タイム計るんです。庵野さんが一言「早口でしゃべってください」とおっしゃって。「はい、もうちょっと早めにしゃべってください。もう1回やります」と何度も繰り返して、そこで尺を決めてらっしゃっているという感じがありましたね。 (「『シン・ゴジラ』制作秘話〜セリフが早口だった意外な理由とは?【前編】3」[『コラム 澤本・権八のすぐに終わりますから。アドタイ出張所』すぐおわアドタイ出張所、2017年9月14日掲載]より)
なお、「早口」が日本語を話す人の間で役割語として共有されているものであるのかについては、みなさんの感じ方もうかがいながら詳しく見ていかないことにはわかりません。それは、まだ役割語研究が始まってから20年弱と日が浅く、マンガや小説などの文字で書かれた発話が研究対象の大半であることによります。ひょっとするとこの先「早口」は、音声を媒体とする作品(アニメ、ドラマ、映画、ラジオドラマなど)では、「官僚らしさ」や「特定の領域に詳しい人物」を担う役割語として広く用いられるようになっていくのかもしれませんね。また、日本の古典作品や、英語や中国語、タイ語などの日本語以外の言語において、「早口」が発話者と特定の属性を結びつけるものであるかどうかということも、気になるところです。
早口であることのほかに、セリフに敬語の一種である「です・ます」(丁寧語)が多用されることもこの作品の特徴と言えます。 フィクションで丁寧語で話す人物というと、みなさんは誰を思い浮かべるでしょうか。その人物はおそらく、「物知り」、「インテリ」、「育ちがよい」、「物腰が丁寧」、あるいは「女性性」、「集団の下っ端」などの属性と結びつくのではないかと思います。たとえば、『名探偵コナン』に登場する小学1年生、「真面目で頭脳派」の円谷光彦が挙げられます。彼は主人公の江戸川コナンを含む同級生4人と少年探偵団を結成しています。少年探偵団の他のメンバーは丁寧語のない、いわゆる「タメ口」で話しますが、光彦のセリフには丁寧語が用いられます。
[同級生である歩美に無人の洋館で一人でトイレに向かうことを心配されて]
なーに、ボクには科学と論理が見方についてますよ!!
(『名探偵コナン ②』p.137)
また、2006年2月〜2007年2月にテレビ朝日系列で放送されたスーパー戦隊シリーズ『轟轟戦隊ボウケンジャー』に登場するボウケンジャーの一員西堀さくらも丁寧語キャラと言えます。次の例のように、彼女は苦闘の末に敵を倒して喜びがあふれ出る場面でも、丁寧語を用いて話します。講談社編(2017)では、資産家西堀財閥の一人娘であり、頭の回転が速く、生真面目で冷静なタイプの人物として紹介されています。(以下、東映提供アマゾンプライムビデオ『轟轟戦隊ボウケンジャー シーズン1 Task. 49 果てなき冒険魂』[八手三郎原作、テレビ朝日・東映・東映エージエンシー製作、テレビ朝日系列 2007年2月11日放送回]より引用。セリフに付された時間表示はアマゾンプライムビデオの経過時間を示す。)
[怪人ガジャドムを倒して独話]
わー、やりましたー!
(『轟轟戦隊ボウケンジャー』16:21)
『シン・ゴジラ』では発話から見たキャラクター分類の「クラス 1」(「〈役割語〉トークライブ!」第10回参照)に属する主人公をはじめ、主人公に近く、話の展開に関与する度合いの高い「クラス 2」の人物も、みな、丁寧語を用います。それは、上司に対して、あるいは国民に向かって、心的な距離を取って(あとで出世に響くことのないように?)発言するという、仕事上の必要性からです。登場人物の大半が、政治家や官僚、自衛隊員であるため、『シン・ゴジラ』では「です・ます」が多く用いられることになります。この丁寧語を使用することによって、発話者には「個」としてではなく、組織の中で働くうちの一人としての一様な属性が付与されていると考えられます。丁寧語を用いて話すことについても、長谷川さんが先に挙げたラジオで触れています。
権八:人物の説得力がすごいですよね。それこそ長谷川さん演じる矢口の市川実日子さんに対する言葉づかいも非常に繊細にやられてましたよね。 長谷川: あそこも台本上では敬語を使わないで、「上陸した場合どうなるんだ!」と、威圧的な感じで政治家然としたしゃべり方だったんですけど、「こういうしゃべり方をすると、足を引っ張られませんか?」という話を庵野監督として、「そうだね。ここは全部敬語に変えよう」と後から変えたり。いろいろ細かくやりましたね。 (「『シン・ゴジラ』制作秘話〜セリフが早口だった意外な理由とは?【前編】4」[『コラム 澤本・権八のすぐに終わりますから。アドタイ出張所』すぐおわアドタイ出張所、2017年9月14日掲載]より)
ただ、みなさんもお察しのとおり、丁寧語を用いたとしても、登場人物の話し方がすべて画一であるということにはなりません。役者さんの演じ方(話すスピード、声の質、抑揚の付け方など)と、セリフに与えられた特徴(用いる語彙、一人称など)が相まって、個々の登場人物の属性を表現しています。キャラクター分類の「クラス 2」のうち、特に主人公に近い登場人物にはときに心情のこぼれ落ちるシーンが見られるのですが、そこで用いられる文末表現などによっても属性が印象付けられています。 たとえば、次の例を見てください。これらはいずれも、高橋一生さん扮する巨災対のメンバー安田龍彦(文部科学省研究振興局基礎研究振興課長)のセリフです。矢口らに説明を行うなど、組織の中の一員として発言するときは文末に丁寧語が用いられます。そこには「群体化」などの学術的な用語も見られます。一方、独話のときは丁寧語のない常体で話し、ぞんざいな文末表現「〜 かよ」や、命令形「〜 くれ」などの男性性を担うもの、また、くだけた言い回しや、「わあっ」という幼さを感じさせる表現も出てきます。つまり、仕事上の発話とそうでない場合の発話に違いが見られるということです。なお、仕事中のやり取りであっても、彼のセリフには稀に「奴」などの俗語が混じります。こうした発話からは、組織に身を置く男性であり、若い世代であること、品格がやや低い人物であることが想起されます。言い換えれば、いつでも「仕事のできる超人」というわけではなく、視聴者に近い一庶民でもあるということです。
[矢口および巨災対メンバーに検証結果を説明している]
各所で起きている事象と筑波からの各種データを合わせて検証した、ゴジラの無生殖による個体増殖の可能性です。世界中へ鼠算式に個体が群体化すると予測しています。
(『シン・ゴジラ』1:16:48)
[巨災対を仕切る森文哉厚生労働省医政局研究開発振興課長に情報提供を求められて]
行動パターンと云っても、奴はただ移動しているだけです。
(32:51)
[放射線空間線量モニターの上昇とゴジラの関係が判明して独話]
わあっ! わあっ! ああ……こんなんありかよ!
(33:58)
[ゴジラへの血液凝固剤投与が予定の分量に達したことを確認して独話]
頼む。計算通りにいってくれ。
(1:47:45)
これまで見てきたように、『シン・ゴジラ』に登場するキャラクター分類「クラス 2」の人物は主として、専門用語を交えながら早口で丁寧に話し、組織の中で仕事に徹する一員として描かれています。その一方で、合間に見られるくだけた表現などによって、個としての人物像が担われていると言えます。このような、組織の中での立場を反映した発話であるかそうでないかによって切り替えを行う描き方は、『風の谷のナウシカ』の登場人物クロトワの場合(金水 2017)と同じですね。それでは、女性若手官僚の尾頭ヒロミの場合はどうでしょうか。 市川実日子さん扮する尾頭ヒロミは環境省自然環境局野生生物課長補佐(大河内内閣が倒れたあとは課長代理)です。ゴジラが初めて姿を現したときに、生物に関する知識を基に、上陸の可能性をいち早く見抜いた人物です。朝日新聞の記事(2016年9月6日付)は、尾頭ヒロミの特徴として顔が無愛想なこと、誰とも目を合わせないこと、「早口」であることを挙げ、映画公開後の人気ぶりを次のように報じています。
仏頂面で誰とも目を合わせず、早口で巨大不明生物に的確な分析を加えていく。映画「シン・ゴジラ」で演じた、そんな理系の女性官僚、尾頭(おがしら)ヒロミが注目されている。ネットには、著名な漫画家やファンが愛情を込めて描いた尾頭の似顔絵が、続々と投稿された。(中略) 東京・新宿で8月24日、「シン・ゴジラ」の女性限定鑑賞会議が開かれ、ゲストとして登場した。客席から「ヒロミー!」「かわいい!」と歓声が上がり、女性人気の高さもうかがわせた。 (山崎聡(2016)「(輝才)市川実日子 38歳 「シン・ゴジラ」、理系の女性官僚役で注目」朝日新聞 2016年9月6日 大阪版夕刊 2面)
彼女が早口で話すことは、先に挙げた安田から根岸・尾頭・町田へと続く4人のセリフで確認したとおりです。 それでは彼女のセリフをいくつか見てみましょう。次のひとつ目と二つ目の例は、閣僚や、矢口、巨災対のメンバーなどと話す場面でのものです。いずれも丁寧語「です・ます」を用いており、そこには「蛇行」「水棲生物」といった学術的な用語が並びます。稀に「ヤバい」という俗語が混じることもあります。一方、彼女の発話には絶望的な事象などを受けてもらす独話が2例あり、いずれも丁寧語のない常体で話されています。下の三つ目に挙げた独話では、名詞のあとに助動詞「だ」を介さずに終助詞「ね」を用いる〈女ことば〉(『〈役割語〉小辞典』「ね」の項参照)が見られます。
[総理執務室で閣僚らに見解を述べる]
この動き。基本は蛇行ですが、補助として歩行も混じっていますね。エラらしき形状から水棲生物と仮定しても、肺魚のような足の存在が推測できます。
(『シン・ゴジラ』1:22:50)
[矢口の指示に対して確認を促す]
しかし、国の最重要機密指定物です。ヤバいですよ。
(1:22:50)
[矢口から、多国籍軍による熱核攻撃が決まったとい聞いて独話]
ゴジラより怖いのは、私たち人間ね。
(1:22:50)
こうした例からは、尾頭ヒロミが、組織の中に身を置く若い女性であること、また、専門分野に精通している一方で、庶民的な感覚も持ち合わせていることがうかがえます。つまり、表現する性別は違いますが、性別以外は先ほど見た安田のセリフと、ことばの特徴や担う人物像が似ています。このことから、『シン・ゴジラ』の中で特に彼女の話し方やセリフが際立っているというわけではないと言えそうです。それではなぜ、彼女は映画を鑑賞した人たちの注目を集めたのでしょうか。 理由の一つとして、尾頭ヒロミが女性であることが考えられます。彼女は、独話では〈女ことば〉を用いていますが、発話の大半は仕事上のものです。官僚として他の男性と同じく早口で、丁寧語を用いて、専門用語を使って、さらには俗っぽい表現も交えて、男性と同様に日本の中枢で仕事に徹しています。深い知識を背景に仕事をこなす有能な女性です。この彼女の人物像は、従来フィクションで〈女ことば〉と結びつけられてきた女性性や人物像と異なっていると言えます。 これまで〈女ことば〉で担われてきた人物像と言えば、政治を扱った作品であれば、妻や愛人など、やさしく、男性を癒す存在、あるいは男性を頼って生きる人物でした。しかし、尾頭ヒロミは、男性に媚びる人物としては描かれていません。また、女性だからこその、特別な技能や知識、神秘的な力も持たされてはいません。女性であることを理由に男性から持ち上げられることもありません。彼女の〈女ことば〉が表すのは、性別が女だということだけであり、これまで結び付けられてきた女性像とは違っています。さらには、彼女の専門は生物であり、いわゆる「リケジョ(理系女子)」に該当します。この理系と女性が結びつくという点も、〈女ことば〉が担う現代女性としてはこれまであまり描かれてこなかったものです。「理系」と聞くと、まず男性を思い浮かべる方もいらっしゃるのではないでしょうか。 これらの、従来のステレオタイプには含まれなかった新しい人物像、言い換えれば、〈役割語〉の範疇からこぼれ落ちていた女性像を描いたことが、視聴者の、あるいはステレオタイプに含められていなかった人たちの支持を得たのだと考えられます。尾頭ヒロミは、〈役割語〉からのずれがインパクトとなって受け取られ、際立つに至ったキャラクターだと言えるでしょう。尾頭ヒロミのような女性像は、独創的な庵野総監督だからこそ描けたのかもしれません。 これまで見てきたように、早口と「です・ます」口調が中心の本作ですが、ただ一人、話す日本語のすべてが「です・ます」のない「タメ口」である人物がいます。石原さとみさん扮する米国特使の日系人カヨコ・アン・パタースンです。彼女の「タメ口」は、『シン・ゴジラ』の登場人物の中で異彩を放っています。これについては、次回にお話ししたいと思います。
ご感想、ご質問等ありましたらぜひ nihongo@kenkyusha.co.jp までお寄せください!
〈注〉 [1] DVD の音声を聞き取り、「そっから」としました。なお、『シン・ゴジラ完成台本』では「そこから」と書かれています。 [2] 「形状変態時」などの表記は『シン・ゴジラ完成台本』を参考にしました。 [3] 引用に付された下線は、いずれも筆者によるものです。以下、同様です。
〈使用テキスト〉
〈使用映像資料〉
〈参考文献〉
金水敏(2017)
「言語――日本語から見たマンガ・アニメ」山田奨治(編著)『マンガ・アニメで論文・レポートを書く――「好き」を学問にする方法』ミネルヴァ書房、pp. 239-262.
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